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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2007年12月26日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第139回(14版)


その不格好なピアスは。


 水牢部屋のドアを、蹴り開けた。
 桧垣が、銃を構えていた。側にあるテーブルの上の内線電話から、受話器が外れたままになっていた。誰と話していたのかは、桧垣の反応を見れば分かる。
 鈴乃は言った。
「いくみから、連絡があったのね」
「あなたが、永倉帝明を殺しに来るかもしれない、と」
「理由は」
「聞きました」
「それでも、あたしの行動に、同調する気はないわけね」
「ええ」
「人づてに聞いただけだから、そんなことが言えるのよ。自分の目で、確かめてみなさい」
 鈴乃は、パンツのポケットにねじ込んであった<Z city>の五十八号を、桧垣の胸に投げつけた。
 桧垣は、鈴乃に銃口を向けたまま、微動だにしなかった。<Z city>は、床に落ちて、乾いた音を立てた。
<Z city>五十八号。二度も、誌面を開く必要はなかった。内容は、見た瞬間に、鈴乃の脳裏に焼きついた。思い出すことよりも、忘れることの方が難しい。
『スクープ! 街の害虫、カザギワの殺し屋の最期!』。そう名づけられた特集記事が、巻頭から、フルカラーで三十二ページに渡り、掲載されていた。タイトルの通り、カザギワの殺し屋が痛めつけられ、死に至り、そしてその死体が腐敗していく様子を、記事にしたものだった。殺し屋を写した写真には、一切、加工処理が施されていなかった。グロテスクな死体にも、モザイクはない。
 鈴乃は、カザギワの殺し屋のことを、全員知っているわけではない。だが、その殺し屋が誰なのかは、即座に分かった。見たことがあった。死体の全身に、打ち込まれた釘。同じ光景を目にしたのは、ごく最近のことだ。間違えようがなかった。
<Z city>の誌面で取り上げられている殺し屋は、他でもない。羽継正智(はねつぐ まさとも)だった。
「それは、断ります。俺まで、あなたと一緒に、頭に血ぃ昇らせるわけにゃいかない」
「そう」
 鈴乃は松葉杖を振った。桧垣の手から、銃が弾け飛んで行った。
 銃の行方を横目で追い、歯を軋らせる桧垣を尻目に、鈴乃は、シャッターに閉ざされた、水牢の前に立った。ショットガンの、筒型弾倉と連結した、松葉杖の持ち手をスライドさせる。黒色、鉄製の檻のような形の松葉杖に守られたショットガンは、散弾の装填を受けて、武器へと変わる。
「それは」
「松葉杖型ショットガン、レミントンM八七〇ツヅラ・カスタム」鈴乃は言いながら、既に引き金を引いていた。「“クレッシェンド”、“デクレッシェンド”」
 桧垣が、何ごとか叫んでいた。銃声と、シャッターがひしゃげ、歪む音にかき消されて、鈴乃には聞こえなかった。
 弾を撃ち尽くし、鈴乃は舌打ちした。分かっていたことだが、頑強な鉄製のシャッターは、散弾に撃たれて変形はしたものの、水牢へと繋がる道を開けようとはしなかった。歩み寄り、直接手をかけて開けようとしたが、びくりともしない。シャッターが変形したせいかもしれないし、単に、開閉のための操作を経ていないからかもしれない。どちらなのか、あるいは、そのどちらでもない理由からなのか。鈴乃には分からなかった。
 見下ろすと、床に、水が薄膜を張り始めていた。水牢から、水が流れ出しているのだ。シャッターを破壊した散弾のいくつかが、その向こうの、強化ガラスにも穴を開けたのだろう。
 鈴乃は桧垣を見た。
「諦める気は、ないんですね」桧垣は言った。
「そうね。ないわ。微塵も」
 桧垣は、金製のシガレットケースから、煙草を取り出した。フィルターにかじりつくようにして、それを口にくわえる。火はつけない。手の上で、シガレットケースのふたを、閉じたり開けたりしていた。
「くそっ」
 桧垣は、見えない何かに向かって、短く悪態をついた。シガレットケースを叩きつけるようにして、テーブルの上に置き、ノートパソコンのキーボードに指を走らせる。
 シャッターが動いた。が、十数センチの高さで、止まる。やはり、形を歪ませたことが裏目に出た。
 鈴乃は再び、シャッターに手をかけた。今度は、手応えがあった。シャッターは音を立てて開き、上方へと収納された。
 桧垣が言った。
「永倉の言ったことを、あなたに直接伝えた時点で。<Z city>の中身を、あなたに直接、確認させた時点で。俺の“負け”は確定していたんでしょうね」
「そうかもしれないわね」鈴乃は言った。
 桧垣は部屋を出て行った。外から、鍵をかける音がした。桧垣の気遣い。これで、誰にも邪魔をされることはない。
 鈴乃は、永倉を見た。
 永倉は水牢の中、床に腰を下ろしていた。ガラスに空いた穴から水が流れ出すお陰で、水位が下がっていた。首から上が出るのが、やっとの高さだったが、それでも、立ったままでいるよりはマシなのだろう。天井に向けられた顔に浮かぶ表情は空虚で、どことなく惚けた感じだった。
 相変わらず全裸だったが、その体は、前に見たときよりも、ひと回りもふた回りも小さくなっていた。眼窩は落ちくぼみ、頬はこけていた。髪や、伸びたひげには、白いものが増えていた。高田を挑発し、殺したときの、不敵で尊大な永倉帝明は、どこにもいない。
 鈴乃は、ロブ&ロイを抜き、引き金を引いた。強化ガラスの中央に、十字架を描くように、穴を開ける。そして、クレッシェンド、デクレッシェンドで叩く。人がひとり通れるだけの穴を開けるのに、さして時間はかからなかった。
 鈴乃は、部屋にあったパイプ椅子を小脇に抱え、穴を通り、水牢の中へと入った。
 高田の件がある。永倉は、惚けたふりをして、こちらに隙ができるのを待っているのかもしれない。鈴乃はそう思っていたが、その心配もなさそうだった。永倉に近づいても、何も感じないし、永倉自身、動こうともしない。会話ができるのかどうか。そちらの方が、心配になるくらいだった。
「ヘイ」鈴乃は永倉に声をかけ、パイプ椅子を開いた。今では、座る部分が出るまで、水位が下がっていた。「座らない? 永倉帝明」
 永倉は、パイプ椅子を一瞥し、首を振った。
「そう」鈴乃は言って、パイプ椅子を、後ろに投げた。「それで? あれを見せて、どうするつもりだったの?」
「分かってて、来たんじゃないのか?」永倉は、鈴乃と目を合わせずに言った。声は、ひどくしわがれていた。「お前に、殺してもらうつもりだったんだ」
「あんたの望みが分かってるのに、あたしが、それを選択すると思う?」
「思う」
「なぜ?」
「自分が一番、分かってるんじゃないか? 鏑木鈴乃。仮にも、幼少の頃から“兄”と慕っていた男の死にゆくさまを写真に残し、誌面では、そこに言葉も加えて、辱めた。そのことに対する怒りは、理性では、とてもコントロールできるものじゃない。俺は、そう考える」
「なるほどね」
「違うか?」
 鈴乃は、永倉のこめかみに蹴りを入れた。
「難しい問題ね」
 永倉は、壁に手をかけて立ち上がった。倒れたときに、飲んでしまったのだろう。血の混じった、水を吐き捨てる。そして、言った。
「そうだろうな」
「こういう風に、いたぶられるとは、思わなかったの?」
「かわいいものさ。何かの目的に行われる拷問とは、似ているようで、全く異なる。復讐の一環だ。感情があり、自己満足のために行われるものだ」
「そう」
 永倉の喉下に掌底を入れた。そのまま喉を掴み、永倉の後頭部を、壁に打ちつける。
 鈴乃は言った。
「飛燕は。羽継正智は、アイザック・ライクンとリタ・オルパートに殺されたはずよ。死後の、腐敗した姿だけならともかく。なぜ、羽継が死に至るまでの様子も、写真に収めることができたの?」
「何も、無理しなくていいんだぜ。羽継のことを“お兄ちゃん”と呼んでも、俺は気にしない」
 鈴乃は、永倉に微笑みかけた。
 みぞおちを拳で突き上げた。永倉は、体をくの字に折り曲げ、震わせた。鈴乃は、その頬を蹴り飛ばし、顔の向きを変えた。永倉は、自分の体を絞るようにして、胃液を吐いた。
 鈴乃は言った。
「何でも、ご承知のようね。さすがはミカド」
「どういたしまして」永倉は言った。
「それで? さっきの質問への答えが、まだよ」
「簡単なことだ。リタは、<Z city>の愛読者だった。彼女は、俺たちの間に共通していたミカドの人間を探し出し、そいつを通じて、俺に連絡を取ってきた。“面白いネタがある”と言って。“面白いネタ”なんて表現じゃあ、曖昧だ。俺は、突っ込んで質問をしまくった。すると、あいつは言った。“カザギワの殺し屋の死にざまが拝める”と。そう聞いて、行かない理由はなかった」
「あんたが行った時点では、まだ、羽継は生きていた」
「そう」
「だから、アイザックが、羽継をいたぶるところから、写真に収めることができた」
「そう。そして、ときどき、参加した」
 銃を、抜いた。鈴乃は銃口を、永倉の顎の下に潜り込ませた。
「今、何て?」
「長時間、拷問され続けた人間に、同じ言葉を繰り返すことができるほど、余分な体力は残っちゃいない」
 永倉は言い終えるが早いか、呻き声を上げた。鈴乃が、ブーツの踵で、永倉の何も履いていない足を、踏みつけたのだ。
「もう一度言うわ。何て言ったの? 今」
「お前の愛しのお兄ちゃん。その死体に打ち込まれた釘のいくつかは、俺がやったものだ」
 鈴乃は、銃底で、永倉の頬を殴った。永倉は続けた。
「その不恰好なピアス。羽継の形見なんだろ? 羽継の死体に刺さってた釘のひとつなんだろう? それも、俺がやったモンかもしれないって言ってるのさ」
 また、マカロフを振った。血が飛び、永倉は、未だ足下に残る水の中へと、倒れ込んだ。
 酸素を求めて、荒々しく上下する肩とは裏腹に、永倉の動きは鈍くなっている。体を起こしたところに、蹴りを叩き込んだ。永倉は言った。
「なぜ、ひと息に殺さない。その手に持ってる銃の引き金を引きゃ、済む話なんだぞ」
「どうしてかしらね」
「俺を、殺したくないのか」
「違うわ」
「俺から情報を引き出すために、生かしておくつもりなのか。羽継のことは、そのためなら、耐えられると」
「そうかもしれない」
 今の自分の感情を言葉で説明するのは、難しい。鈴乃は、足下に視線を落とした。
 それを、隙と判断したのだろう。永倉が、鈴乃の手にあるマカロフ目がけて、飛びついて来た。
 確かに、隙だったのかもしれない。だが、それを有効に活用できるほど、永倉に体力は残っていなかった。水に足を取られ、永倉はよろめいた。鈴乃は、その胸を膝で蹴り上げた。
 永倉が、何か言った。が、勢いよく開いたドアの音に、かき消されて聞こえなかった。
 来訪者は、桧垣だった。そして、その部下。
「タイムアップです、飛猫。いいですね?」桧垣が言った。
「なぜ」鈴乃は言いかけて、やめた。「いや、何でもないわ」
 桧垣の部下二人が、水牢の中へと足を踏み入れた。永倉は、抵抗したものの、容易く組み敷かれた。
 これ以上、水牢にいると、気が変わってしまいそうだった。永倉の顔は、羽継のことを思い出させる。殺意は、消えたわけではない。息を潜めただけだ。
 桧垣の部下は武装しており、その銃口は容赦なく、鈴乃にも向けられた。むしろ、そのために用意したのかもしれない。鈴乃は思った。永倉は、その身柄を拘束するのに、武器が必要ないほど、衰弱しているのだ。
 桧垣は、煙草をかじりながら、強化ガラス越しに言った。
「少し早いが、拷問役を交代することにしたよ。“半身浴”にも、飽きただろう? 永倉」
「殺せ」
 永倉は、血走った目で、桧垣を睨みながら、そう言った。
「殺してやるから、吐けよ。DEXビルの一件を実現した、お前のコネクション。パソコンに入った、プロテクトのかかったファイルを見るのに必要な、パスワード。<Z city>が配られている主な人物の名前。その他、お前と繋がりのある、ミカドの人間たち。<Z city>に類する、ミカドのメディア。それを作る者たち」
「カザギワのクズ野郎が」
 桧垣は、鼻を鳴らした。
「言葉の質が、下がってるぜ、ミカド。強情なやつだ。情報は吐きたくないが、キツい拷問も受けたくない、か。敵の手に落ちた分際で、自分にはまだ、複数の選択が可能だと思っている。それに加え、死を選択するには、誰かの手を借りなきゃならない、甘ったれ。この拷問で、お前が負ける原因だよ。底が知れるな。ミカド」
「それで、高田清一の復讐を遂げたつもりか?」
「違うか? この先、お前は、言葉にするのもキツい拷問を受け、俺たちが欲しがってる情報を吐き、くたばる。クソみたいな敗北感に、まみれながら」
「そんなことには、ならない」
「ああ、そうかい。ま、俺にゃ興味のないことだがね。せいぜい、ひとりで頑張りな」
「嘘だ。そう言って、お前は」
「俺は忙しいんだ」桧垣は、永倉を両脇から抱えていた部下に言った。「連れてけ」
 桧垣の部下たちは、無言で頷くと、命令された通りにした。桧垣は、そのついでにと言って、鈴乃に銃を向けていた者たちも、部屋の外へと出した。
 部屋の中は、鈴乃と桧垣の二人だけになった。
 桧垣が言った。
「なぜ、永倉を殺さなかったんです?」
「さあ、分からないわ」鈴乃は言った。
 本心だった。昔の自分なら、迷わず殺していただろう。桧垣すら、手にかけていたかもしれない。
 自分の中で起きている、変化。少し、怖かった。感情の喪失に繋がるものなのではないかと、鈴乃は思っていたからだ。
 だが、違うようだった。感情の喪失とか、そんなおおげさなものではない。ただ、優先順位が変わっただけだ。“兄”に関することを、最優先にできなくなった。ただ、それだけだ。
「なぜ、ドンピシャのタイミングで現われることができたのかしら?」鈴乃は言った。
「何のタイミングでしょう?」
「あたしの気持ちが、永倉を殺さないところで区切りがついた。そのタイミングに、ドンピシャだったわ」
 桧垣は肩をすくめた。
「カメラを見てりゃ、誰にでもできる」
 桧垣が視線で示した天井の隅には、監視カメラが設置されていた。
「あら、残念」鈴乃は言った。「褒めるほどのことでもなかったのね」
 桧垣は、一度笑ったあと、表情を引き締めた。
「申し訳ありませんが、飛猫。少しの間、独房で頭を冷やしてもらわなきゃなりません」
「でしょうね」
 鈴乃は言った。分かっていたことだった。むしろ、独房に入るだけで済むのが、不思議なくらいだった。それだけのことをした。
「けど、とりあえず。これだけは言わせてください」桧垣は言った。「永倉を殺さないでくれて、ありがとう。飛猫」
 鈴乃は、履いてもいないスカートの裾を、指でつまむふりをして、頭を下げた。
「どういたしまして、ミスタ・桧垣」

 独房は、拷問部屋が設置されている所と、同じ階層にあった。鈴乃はそこに、半日、収容されることになった。
 たいした不都合はなかった。骨折した部位に無頓着なお陰で、近頃、左脚がよく痛むようになっていた。睡眠時間も、足りていない。
 狭く、暗い独房。何もすることのない空間は、体を休ませるのに打ってつけの場所だった。鈴乃は、ひたすら眠った。
 目を覚まし、独房を出る許可を得たときには、永倉への拷問は終わっていた。
 永倉帝明は、凄惨な拷問の末、桧垣の欲した情報を、全て白状した。そして、間もなく死んだ。永倉が最期を迎えるとき、敗北感にまみれていたのかどうか、鈴乃は知らない。そのことについて、桧垣に答えを求めることもしなかった。

つづく




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posted by 城 一 at 08:24| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月19日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第138回(9版)


Z city 58


 視界の端でちらつく極彩色に、黙っていることができなくなった。
 鈴乃は、作業の手を止めて、言った。
「顔が真っ青よ、その子。病院に連れて行った方がいいわ」
「ナナコは元気だもん!」
 幼女が、口を尖らせながら言った。怒ったように、顔をぷいとそらし、拳で握ったクレヨンを、また動かし始める。幼女は、塗り絵をしていた。開かれたページでは、小から中学生くらいの少女が、フリルのついた服を着て、柄がハート型のステッキを振り回していた。その少女が、ナナコと言うらしかった。ナナコは、顔をマリンブルーに塗りたくられながらも、気丈に微笑んでいた。髪の毛はビリジアン、服は黒、手のひらは紫。
 幼女の名前は、常沢このみ。いくみの一人娘だった。頭の上に集めた髪を、ピンク色のヘアゴムで束ねていた。角のようだった。雪の結晶の模様が、胸の部分に帯状に入った、ニット製の赤いブルゾンを着ている。ベージュのコーデュロイのズボン。白いスニーカー。
 朝の五時を過ぎたところだった。このみは、鈴乃がこの倉庫にやって来た頃から、周囲を好き勝手に走り回っていた。いつ眠ったのかは分からないが、エネルギーは、その小さな体から、溢れている。
 クレヨンを持っていない方の手には、ぬいぐるみを抱き締めていた。丸い黒レンズのサングラスをかけた、意地の悪そうなうさぎの形をした、ぬいぐるみ。体を彩る、白と黒の、ぎざぎざの縞模様が、サングラスとともに、かわいらしさを減退させていた。が、このみには愛用の品らしい。うさぎは垢染みて、くたびれていた。
 このみは、鈴乃と同じテーブルについていた。遅れてやって来た睡魔と、意識の主導権を奪い合っているうちに、場所を取られたのだ。彼女が使っている所にあった資料は、床に散らばり、いつか、誰かに拾われる日を夢見ている。
「夜行性は、まずいんじゃない?」いくみに言った。
「仕方ないじゃない。ベビーシッターを雇うほど、お金に余裕がないんだもの。家にひとりぼっちにさせておいた方が、いいと思うの?」
 いくみは、シングルマザーだった。数年前に、離婚している。詳しくは知らないが、彼女の元夫は、普通のサラリーマンだったと聞いている。生きる世界の違いが、二人の間に軋轢を生んだ。安い想像力を働かせると、そうなる。わざわざ、口にする気はなかった。
 鈴乃は、肩をすくめた。
 このみはたいてい、カザギワ・ビルの中で、いくみと一緒にいた。あまり、外出することはないらしい。カザギワの上層部から、制限を受けていることもある。まだ判断能力の低い、幼児だ。誰かに聞かれれば、組織の内情に関することを、漏らしかねない。それを危惧してのことだった。漏らすと言っても、高が知れてはいるのだが。
 そうやって育っていき、判断能力が十分に備わる頃には、カザギワを離れることはできなくなっている。彼女はそのとき、母親を恨むのだろうか。だとしたら、どうする?
 鈴乃は、自分で自分に、首を振った。
 いや、何もしない。関係のないことだ。
 このみは、新しいページを開いて、塗り絵を続けていた。相変わらず、現実離れした色使いをしている。
「子どもがいるって、どんな気分なの?」
 いくみはパソコンから顔を上げ、驚いた表情をした。
「どうして?」
 いくみの反応も、無理のないことだった。今まで、尋ねたことのない類の質問だ。尋ねようと思ったことも、なかった。
 椿の、風際秀二郎の言葉が、脳裏に浮かんだ。思えば、シドまでもが、クツマサ・ビルで、似たようなことを言っていた。自分の中の一部が、変質し始めているのだ。
 鈴乃は、場をとりなすように笑った。
「いいの、ごめんなさい。忘れて」
「え? どうして。あたしは全然、気にしてなんかないのに。何、あなた。恥ずかしがってるの? 別に、女が、子どもを産むことについて考えるのは、珍しいことじゃないわ」
「そんなんじゃないの」
 いくみから、視線をそらした。聞いたことを、後悔していた。いくみが、声を立てて笑った。
「仏頂面のあなたしか知らなかったけど、そういう顔もするのね? なんだか、新鮮だわ」
「怒るわよ」
 いくみは、肩をすくめておどけた。そして、パソコンにデータを入力する作業に戻った。
 塗り絵に飽きたらしい。このみは、段ボールの搬入をしている構成員の男に、自分も手伝うと言った。男は、とても助かるよと笑い、このみを連れて倉庫を出て行った。
「一人じゃない」キーボードを打ちながら、いくみはおもむろに言った。「このみの顔を見たときね、そう思ったわ。もちろん、あの子が生まれてきたときには、まだ旦那がいた。別れてなかったし、お互い愛し合ってた。一人じゃなかった。でもね。やっぱり、それとは少し違うのよ。愛する人がいて、一人じゃないっていうのは、根元にあるのは、ロマンティックなものだと、あたしは思うのね? でも、あの子との関係は、根本的に違う気がする。もっと動物的で、物質的で。どこか、身もふたもない感じ。これが血の繋がりなのかなって、そう思ったわ」
「愛情が、ないということ?」
「ううん、違うわ。あの子のことは、愛してる。あたしの全てよ。けど、人と人との繋がりって、目に見えない、もっと曖昧なものだと、あたしは思ってた。その域を出ることは、あり得ないって。でも、あるんだってことが分かった。あの子が生まれたことで。あの子との繋がりは、目に見えないけど。手で触れることも、できないけど。でも、いつでも感じることができる。それこそ、人の持ってる感覚器官五つを使って感じるみたいに、リアルにね。きっと、母親と子どもの間には、切ったあとにも、残ってるのよ。見えない、へその緒が」いくみは、パソコンの画面から顔を上げて、微笑んだ。「どう? 参考になった?」
「多少」
 いくみは頷いた。
「そう。それだけなれば、十分よ」
 いくみは、さらに言葉を続けようと、口を開いた。が、閉じなければならなかった。テーブルに設置されたばかりの、内線電話が鳴っていた。いくみは、受話器を取った。
 電話の相手と、少し話をしたあとで、いくみは鈴乃に視線を向けた。
「桧垣君から。あなたに用があるって」
 鈴乃は、受話器を受け取った。
「ネコよ」
「どうして、あなたがそこに?」
「休日出勤と言うやつよ。感謝して」
「今のあなたは、怪我を治すのが仕事だと思いますがね、俺は」桧垣は言った。「まあ、いいでしょう。永倉が“歌い”ました。鏑木鈴乃に、<Z city>の最新号、五十八号を読め、と」
「あたしじゃなくちゃ、だめなの?」
「あなたにしか、正確に読み取れないそうです。そこに書いてある情報は」
「くさいわね。その“歌”は」
「拷問を始めて、もうすぐ八十時間。永倉も、限界に近い状況で、“歌った”歌です。少なくとも、無意味なものではないはずだ。確認してくれますか? 万全を期したければ、最初に読むのは、あなたじゃなくてもいい」
「やめてよ。殺し屋が、たかだか一冊の雑誌に、及び腰になるはずがないでしょう」鈴乃は言った。「少しだけ、待っていて」
 鈴乃は、電話を保留にした。
 永倉の事務所にあったものは、ちょうど、今ついているテーブルの前にあった。分類作業の途中だったのだ。側にこのみがいないことを確認してから、積み上がった段ボールを、蹴り倒した。
 鈴乃は、それらを一つずつ、開けていった。
 最新号ならば、見当がついていた。事務所で、まだ梱包のビニールバンドが解かれていない、<Z city>の束を、見た覚えがあった。いくつか、箱を開けたところで、それを見つけた。予想通り、表紙には、五十八と打たれていた。
 鈴乃は電話に戻った。
「あったわ」
「よかった。どんな内容なのか、教えてもらえますか?」
 鈴乃は、受話器を、首と肩の間に挟んだ。<Z city>に目を落とす。
 白抜きで、右上に、雑誌の名前が印刷された、表紙。使われている写真は、夜の団地の広場を写したものだった。街灯の下で、サンタクロースの格好をした若い女が、地面にしゃがみ込んでいる。担いでいる白い布袋から落ちたものを、拾おうとしているところのようだった。彼女が伸ばした指先にあるのは、手榴弾。
 鈴乃は、表紙をめくった。
 瞬間、頭が沸騰していた。忘れかけていたものが、鮮明に蘇る。みぞおちが震えていた。奥歯が軋んだ。無意識のうちに食いしばり、力を込めていた。
「鈴乃?」
 いくみが言った。鈴乃は、返事をしなかった。
 引きちぎるようにして、ページを繰った。記事を、詳しく読む必要はなかった。印刷された写真を見るだけで、どんな内容なのか分かる。
 鈴乃は受話器越し、桧垣に言った。
「そっちへ行って、直接、説明するわ」
 声に憤怒が滲まないようにするのに、苦労した。
 いくみが言った。
「どうしたの、鈴乃。その雑誌は、なんなの?」
 鈴乃は、いくみの問いに答えず、倉庫を出た。

つづく




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posted by 城 一 at 10:35| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月14日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第137回(9版)


可能性の話よ、あくまでもね。


 神経が高ぶっていた。
 原因には見当がついた。ライブを見たせいに、違いなかった。慣れない文化に触れるものではない。家までは徒歩で、遠回りして帰った。あの、息が詰まりそうなほど狭い空間で、受け取った熱を冷ますためだ。それは、表面的にはうまくいった。家に着く頃には、体は、震えるほど、冷えていた。熱いシャワーを浴びて、体温を取り戻さなくてはならないほどに。だが、ベッドに入っても、眠れなかった。体の内側は、頑なに、眠ることを拒んでいた。それでも、鈴乃は粘った。布団にくるまり、睡魔を待ち続けた。枕元の、デジタルの目覚まし時計は、時刻を確認する度に、夜が長くなっていっていることを、教えていた。日付が変わった辺りで、睡眠に固執している自分が、ばかばかしく思えてきた。腹も立った。鈴乃は、睡魔に見切りをつけて、家を出た。
 睡眠時間の分だけ、繰り上がって始まった一日。そう考えることにした。鈴乃は、カザギワ・ビルへ行った。眠らない建物だ。常に人がいて、常に仕事に身を投じている。太陽が空にあるとき以外に、ビル内の明かりが全て消えることはない。その性質は、以前よりも強くなっていた。DEXビルの一件の影響だ。人手不足は、しばらく解消されそうになかった。たとえ怪我人でも、できる仕事はあるに違いない。そう思った。そして、実際にそうだった。
 案内された木製の、安っぽい、折りたたみ式の長いテーブルの上には、資料が山積していた。全て、ミカド。アンチ・カザギワの文化、もしくは組織に関するものだった。既に一度、資料の山は崩れていた。テーブルの上に、使えるスペースはなかった。コーヒーの入ったマグカップが置けるくらいだった。それも、鈴乃が、一口飲むためにマグカップを取った瞬間、雪崩のように資料が滑り、消え失せた。
「早退しても、いいかしら」鈴乃は言った。
「“今日”が始まってから、まだ三時間しか経ってないわよ。それに、手伝うことがないかって言ってきたのは、そっちでしょう」
 常沢いくみ(つねさわ いくみ)が言った。元は、高田清一(たかだ せいいち)の部下だった女だ。今は、桧垣行人(ひがき ゆくひと)の部下になっている。情報管理部の人間だった。ダークブラウンに染めた長髪。右側に一つだけ、細い三つ編みを作っていた。縁のない、楕円のレンズの眼鏡をかけていた。キャミソールの上に、長いニットのカーディガンを着ていた。色は黒に揃っていた。細身のジーパン。ヒールの低い、暗赤色の靴。胸元に、ネックレスが輝いていた。シルバーのチェーン。ジャック・オー・ランタンをモチーフにした、金のペンダントヘッド。眉が、濃かった。強い黒色の線を、顔に描き出している。それが、気の強そうな印象を与えていた。高い鼻。薄い唇。化粧は、ほとんどしていなかった。気にはならなかった。顔のパーツ、一つ一つが整っている。
「キャンセルしたいのよ、その言葉」鈴乃は言った。
「残念。もう、こちらで受理してしまったので、無理なのです」
 いくみは、顔も上げずに言った。彼女は、キーボードを叩いていた。資料の内容を、パソコンに入力し、整理する。それが、彼女の仕事だった。いくみがついているテーブルにも、資料が山積みになっていた。だが、いくみは、それを見てひるむどころか、逆に仕事のペースを上げていた。
 部屋に男が入って来て、鈴乃のついているテーブルの前に、段ボール箱を置いて行った。箱の中には、テーブルの上にあるのと同等以上の量の、資料が入っている。それすらも、うず高く積み上がっていた。今にも倒れそうだった。いくみが言った。
「ほらほら。手を休めてても、事態は改善しないわよ」
「あたし、銃を使う方が得意なの。この段ボールの山、蜂の巣にしてもいい?」
「あとで、元通りにしてくれるなら」
 鈴乃たちがいるのは、元は倉庫として使われていた部屋だった。それが今や、ミカドの資料を集め、整理する、専用の空間になっている。それほど、資料は多かった。
 ミカドは、次から次へと湧いてきた。永倉帝明が捕えられたことも、お構いなしだった。悪い兆候だった。ミカドが既に、永倉の手を離れていることを示していた。街に拡散し、蔓延している。各組織が、比較的小規模なこと。互いに繋がっておらず、また、それを望む傾向が、あまり見られないこと。それだけが、救いだった。DEXビルで、ミカドが一丸となって、カザギワを襲撃したこと。それはやはり、永倉の手腕によるものだったのだ。
 高田の死は、無駄ではなかった。そう感じることができて、鈴乃は少し、安心した。
 倉庫に足を踏み入れては、平然と段ボール箱を積み上げていく構成員の一人に、鈴乃は話しかけた。
「リタ・オルパートとアイザック・ライクンについて、その後、新しい情報は入って来ていないの?」
 構成員は、入っていないと言い、倉庫を出て行った。
 リタ・オルパートと、アイザック・ライクン。ツガ組の少年三人組が、二人に接触したという情報が入って来ていた。場所は、風際慶慎の住む部屋があるアパートメント、<ウエムラ・ハイツ>。できることならば、鈴乃は、そこに行きたかった。アイザック・ライクン。どんな手を使ってでも、殺さなければならない男だ。だが、今は難しそうだった。辺り一帯を警察が封鎖し、付近にいる者には、手当たり次第に職務質問をしているらしい。
 少年三人組は、風際慶慎を探していると言う。友だちなのだ。そう聞いた。そんなものが、慶慎にいることを知って、鈴乃は思わず笑ってしまった。だが、大事なものだ。
 慶慎は見つかっていない。いや。誰も、探してすらいない。組織の中で、まだ、その存在価値を確立させていない、ただの子どもだ。行方を探すのに労力を割く、理由がないのだ。風際秀二郎にも、動く気配はなかった。父親である文永の方は知らない。だが、息子が死に瀕するまで虐待をするような親だ。たかが知れていた。ツガ組の少年たちがいることだけが、救いだった。
 ただ、同時に、慶慎にとって凶報もある。リタ・オルパートとアイザック・ライクンの存在だ。リタは、慶慎に殺された、松戸孝信の仇討ちのために動いていると考えていいだろう。そうでなければ、慶慎のアパートメントに現われる理由がない。松戸孝信を介してしか、風際慶慎とリタ・オルパートは、繋がらないのだ。元は、ミカドのために利用していた、松戸孝信。その男に、気がつかないうちに、情が移っていたのだろう。
「気になるの? リタ・オルパートのことが」いくみが言った。
 鈴乃が殺したいのは、アイザック・ライクンの方だ。リタ・オルパートのことなど、どうでもいいと言ってもいい。気にならないと言えば、嘘になるが。鈴乃は、いくみを見た。何も言わなかった。いくみは、片方の眉だけを上下させて、言った。
「リタ・オルパートが長期間、一つの組織に留まっていた記録はないわ。ミカドの組織と組織を好き勝手に飛び回る尻軽よ。一番、厄介なタイプね」
「どういうこと?」鈴乃は言った。
「だって、そうでしょう? たくさんの、ミカドと呼ばれるものを、目にしていることになるわ。リタ・オルパートは。自然、それぞれの共通点、相違点が見えてくる。個人的な感情、あるいは、世間一般において正義と呼ばれるものによって肉づけされた要素が、削ぎ落とされる。より洗練された、ミカド像が見えるようになる」
「ミカドに関する事物を、大局的に見ることができるようになるということ?」
「そう」
「それは」
「そう。ミカドを、メディア単位、組織単位で見ることができるようになるということ。場合によっては、それらを束ねることができるということ」
「場合によっては、束ねたものを、自分の意図した方向に、導くことができるということ」
「永倉帝明が、DEXビルで見せたように」
 鈴乃は、コーヒーを飲んだ。第二の、永倉帝明になる。リタ・オルパートには、そのつもりがあるのだろうか。DEXビルの一件の再現を、するつもりが。
 いや。鈴乃は首を振った。
「リタ・オルパートは、永倉帝明になるつもりは、ないと思う」
「どうして?」いくみが言った。
「そのつもりなら、風際慶慎にはこだわらない」
「あらあら、応用が利かないわね、鈴乃ちゃん。少し、考えてもみなさいよ。組織も、姿を消した坊やも。同じ、カザギワじゃない」
「そんなの、言葉遊びでしょう。ただ、彼の祖父が組織のボスだから、たまたま名字が、組織の名前と同じだけで。あくまでも、組織と、子ども一人。全く違うわ」
「いいんだけどね、そういう考え方で。あなたは、殺し屋なんだもの。自らの手で、殺しを行う人」いくみは、パソコンの画面から顔を上げ、鈴乃のことを諭すように、微笑んだ。「でも、違うのはサイズだけよ。永倉帝明は、カザギワという組織にこだわり、ミカドを束ね、DEXビルの一件を企てた。だから。リタ・オルパートは、風際慶慎にこだわり、ミカドを束ね、何かを企てるかもしれない」
「相手は、たった一人の子どもなのに」
「可能性の話よ」いくみは言った。「あくまでもね」
「もしそうなれば、風際慶慎は、ひとたまりもないわね」鈴乃は言った。
「たとえそうだとしても、カザギワは、彼一人を守るために、動いたりはしない」
「リタ・オルパートや、アイザック・ライクンが関係しているとしても」
「可能性を無限に秘めている、ミカド。今や、憤怒、復讐、正義と言ったものの具現化を可能にしたメディア、あるいは、その結果として発生した組織及び集団と比べて、どちらの方が、優先順位が、より高いと思う?」
「考えるまでもないわね」
「そんなに気になるのなら、あなたが彼を助ける、という手もあるわ。カザギワは今、“猫の手も借りたいほど”多忙を極めているけれど。でも、怪我のお陰で、殺し屋の本分を果たせないあなたなら、彼のために時間を割くことは、可能でしょう?」
 鈴乃は首を振った。
「あたしだって、忙しいのよ。“猫の手も借りたいほど”ね。でも、あたしの道と、風際慶慎の道は、交わるかもしれない」
「アイザック・ライクンという点で」
「そう」
「あなたの復讐が、彼への助力になるかもしれない?」
「もちろん、可能性の話よ」鈴乃はそう言って、肩をすくめた。「あくまでもね」
「なんにせよ、可能な限り、その資料の山を片づけてからにしてほしいわね」
「早退しては、だめかしら」
「“今日”が始まってから、まだ三時間半しか経ってないわよ」いくみは言った。

つづく




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2007年12月13日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第136回(3版)


腹の足しにならないものは。


 ダンクは、帽子をかぶっていた。頭にぴったりとした、黒いニットキャップ。白いタンクトップの上に、小豆色のベストを着ていた。たくましい黒腕を、剥き出しにしていた。その表情に、寒がっている様子は微塵もない。色の薄いジーパン。膝の部分が擦れて、穴が開きかけていた。傷だらけのエンジニアブーツ。
 ダンクというのは、あだ名だった。彼がバスケットボールを得意とすることから、つけられた。
 リヴァとバーバー、それにダンク。元は、三人組だった。それが、ツガ組に入ったときに、解体されてしまった。リヴァたちの直接の上司で、組の上級幹部、“白虎”と呼ばれる男、狩内蓮(かりうち れん)の命令だった。リヴァとバーバーは、すぐに、組んで行動することを許されたが、ダンクは違った。“こいつには、まだまだ伸びる余地がある”。そう言って、狩内蓮に引き取られたきりになっていた。
 いつも、一緒に行動していた三人だ。最初は、蓮の言葉に反発した。
 ダンクが、首を傾げた。
「なんだ? 俺の急成長ぶりに、惚れたのか?」
 最後に見たときよりも、ダンクの体格は、一回りも二回りも大きくなっていた。リヴァは笑って、ダンクの胸を拳で小突いた。
「うるせえよ、馬鹿」
 今は、蓮の言葉の意味が分かる。ダンクは、友情という名の鎖で、知らない間に自らを縛り、その肉体の可能性を眠らせていたのだ。
「それにしても」リヴァは、壁にかかっている、アナログの時計を見て言った。「徒歩五分のコンビニで買いものを済ませるのに、三十分以上もかかったのか?」
 リタ・オルパートとアイザック・ライクン。二人とぶつかるかもしれないことを考えると、ともに行動する仲間が、バーバーだけでは足りなかった。だが、狩内蓮から、組の構成員を借りることはできなかった。時期が悪い。ミカド組を潰す代わりに、半分の組員を失った直後なのだ。組の幹部は皆、人員不足で喘いでいた。それに。リヴァのやっていることは、あくまでも個人的なことだった。探しているのは、慶慎なのだ。カザギワの人間とは言え、まだ、たいした実績も上げていない。その辺にいる、普通の少年と、なんら変わりないと言ってもいい。ただ、友だちを探しているだけのこと。第三者の目には、そう映るだろう。リヴァには、それを否定できない。
 そこで思いついたのが、ダンクだった。借りるよりも、返してもらう。しかも、人数は一人だ。蓮も頷きやすいのではないか。そう考えた。そして、許可が下りた。
「口から入るものを選ぶのに、時間は惜しまないたちなんだ」ダンクが言った。
「仲間の命が、危険にさらされているときでも」
「メールしてくれればよかったんだ」
 おどけて言うダンクの顔に、反省の色はない。
 せっかくの戦力が、肝心なときにいなかった。理由は、単純だ。空腹。ダンクの、それへの耐性の低さは、蓮に引き取られる前から、変わっていない。
「やめときな」リヴァは言った。「その細腕、ダンクに殴られりゃ、ぽっきりいくぜ」
 リタに向けた言葉だった。リタは、小さく肩をすくめた。
「何を言ってるのか、分からないわ」
「なら、いいんだけどな」リヴァは言った。
 リタのことは、視界の中から外していなかった。よく抑えてはいるが、殺気が滲み出ている。指先が、隙を伺っていた。体のどこかに、銃でも隠し持っているのだろう。
 ダンクが玄関へ行った。杏色のコンビニ袋が置かれていた。ダンクはかがみ、その中を覗き込む。そして、言った。
「『お肉たっぷり牛丼弁当』は、俺のだからな。『夏バテ撃退辛口焼肉重』と『コクのデミグラ! オムライス』を、バーバーと分けろ。でも、バーバーがいつまでも目ぇ覚まさないなら、俺がもう一つ食べる」
 物音がした。窓の方からだった。分かっていたことだ。リヴァは言った。
「ダンク」
「ちなみに、おにぎりは全部、俺のものだ」
「飯の時間は、あとだ」
「なんで。その女を連れて帰って、めでたし、めでたしだろ。遅く来たのが、そんなにむかついてるのか? お前、いつからそんなに気が短く」
 ダンクの言葉を遮り、リヴァは言った。
「気が短いのは、俺じゃない。やつだ」
 アイザックが、そこにいた。まだ、ガラスの破片が残る、窓枠を乗り越えて、部屋の中に戻って来る。手の甲で頬を拭った。ガラスで切ったのか、ぱっくりと開いた傷口から、血が流れ出していた。アイザックは、拭った血を舌で舐め、すすった。
「先に謝っておくよ。ねえ、リタ。彼らの名前、リストから消すことになるかもしれない」床が、振動していた。一歩ずつ、怒りを込め、床を叩くようにして、アイザックが歩を進めているせいだった。その足跡は、打ち込まれた釘とひびになって、フローリングの床板に刻まれていた。アイザックは言った。「非常に暴力的な手段で」
 ダンクが、リヴィングに戻って来た。リヴァは目で合図したが、無視された。
「なんだ、そいつは」ダンクは、床の釘を見て、言った。「何か、足に仕かけでもあるのか?」
「もちろん、ある。種も、仕かけも。教えてほしいかい? ただじゃないが」
「いくらだ?」
 アイザックは、口許に冷笑を浮かべた。
「高いよ。お前の命だ」
 風が唸った。アイザックとダンク。派手に床を踏み鳴らしながら馳せ違った。二人が交差した場所にあったローテーブルが真上に飛び上がる。
 駆け抜けた先で、ダンクが舌打ちをした。右腕に、釘が刺さっていた。血が、赤い線を描き、滴る。
「種の多い野郎だぜ。腕にも何か、仕かけてやがるな。アイなんとか」
 ローテーブルが、引っくり返った状態で、落ちた。脚の一つが折れていた。喉の奥で笑いながら、アイザックは、ゆっくりと振り返った。
「アイザックだ。アイザック・ライクン。お前の人生の幕を引く男だ。名前くらい、覚えておいた方がいい」
「残念ながら、腹の足しにならないものは、覚えが悪いんだ」
 アイザックは、腕をだらんと垂らし、前傾姿勢を取った。限りなく静止に近い中で、つま先へ、体重が移動していくのが分かる。体重移動が終わった。そう思った瞬間、アイザックの体が弾けていた。
 突進。ダンクの表情が歪む。アイザックの肘が腹に入っていた。息を詰まらせながら、ダンクは右フックを繰り出した。動きが淀んでいた。上体をそらしたアイザックには届かなかった。振り子のように体を戻すアイザック。反動を利用したワン・ツー。体勢を崩したダンクに防ぐ手立てはなかった。二つとも入った。ダンクの頭が揺れる。
 リヴァは、気絶しているバーバーに駆け寄った。声をかけ、頬を叩く。目を覚ます気配はない。
「くそっ」
 視界の中に、銃が見えた。先ほど釘に引っかかり、撮り損ねた、慶慎の銃だった。それに伸ばした手が、茶色いブーツに踏みつけにされた。頭上で撃鉄の上がる音がする。見ると、リタが銃を構えていた。
「こんな場面が、前にもあったわね。懐かしいわ。そのときは、立場は逆だったけれど」リタが言った。「そろそろ、限界でしょう? いいのよ、涙腺を緩めても。とっくに、許可は出しているんだから」
「そっちこそ、緩んでるんじゃないか? 緊張の糸がさ」リヴァは言った。「後方にご注意」
 リタの手元で銃口が弾んだ。アイザックの蹴りを食らったダンクの体を、背中に受けたのだ。はずみで放たれた弾道はそれていた。崩れたバランスを立て直そうとする腕を取り、リタを投げ飛ばした。
 壁に衝突しそうになったリタの体を、アイザックが受け止めた。
「紳士だねぇ」
 言いながら、リヴァは床のCZ75を拾った。唸るような声に振り向くと、バーバーが起き上がっていた。耳を手のひらで押さえ、顔をしかめていた。リタの撃った弾が、バーバーの耳元に着弾したらしい。手荒い目覚ましというわけだ。
「おはよう、ベイビ」リヴァは言った。
「ねえ、リヴァ。僕、鼓膜が破れたんじゃないかな」
「肝心なときに気を失ってる仲間は、可燃ゴミの日に出せばいいのか? それとも、不燃ゴミの日?」
 バーバーは、リヴァを睨んだ。
「優秀な人材は、気を失ってても、ゴミの日に出すべきじゃないよ」
「鼓膜は無事みたいだな」言いながら、リヴァはCZ75の銃口をアイザックたちに向けた。引き金を引く。リタを抱えていても、アイザックには当たらない。だが、牽制にはなる。リヴァは言った。「頃合だ。逃げるぞ」
「弁当は」床に転がったまま、ダンクが言った。
「コンビニ弁当は、心中するに見合う価値のある食いものなのか?」
 ダンクは立ち上がり、リヴァとバーバーを見て言った。
「頃合だ。逃げるぞ」
「二度も言わなくていいよ」バーバーが言った。
 窓の外。バーバーとダンクが、先に出た。
 慶慎の部屋があるのは、三階だったが、心配はなかった。部屋の中からでも、隣接する民家の屋根が見える。それを、足場に使えばいい。
 リヴァは、窓枠に足をかけたところで、部屋の中に再び銃を向けた。アイザックの、鋭い殺気を感じたのだ。が、それもすぐに止んだ。リタが、アイザックの腕の中で、呻き声を上げたせいだった。リタは、右肩の辺りを、痛そうに手で押さえていた。
 さっき、投げたときのことだろう。リヴァは思った。確かに、手応えがあった。肩が外れたか、靭帯を痛めたか。骨までは、いっていないはずだ。
「あたしのことはいいから、やつらを」リタが言った。
 アイザックの表情が、殺気を放っていたときとは打って変わって、情けなく、弱々しいものになっていた。今にも、泣き出しそうだった。
 リヴァは、その様子を見て、目を細めた。やはり、リタ・オルパートが、アイザック・ライクンのウィークポイントだ。
 アイザックは言った。
「そうはいかないよ、リタ。治療が必要だ」
「そうそう。いい男ってのは、傷ついた女を、放っといちゃあいけない」
 リヴァの言葉に、アイザックは目を剥いた。
「必ず殺してやるからな。風際慶慎(かざぎわ けいしん)ともども」
「させねぇよ、そいつだけは。絶対にな」リヴァは銃を撃ち続けた。一度も、標的を捉えられないまま、弾倉が空になる。リヴァは、自嘲的な笑みを浮かべながら、呟いた。「嫌になるね、まったく」
 これ以上、この場で講じられる策は、思いつかなかった。引きどきだった。リヴァは、窓から飛んだ。
 民家の屋根を、足場に使う。いざやってみると、そう簡単なことではなかった。リヴァは、一つずつ、慎重に高さを測りながら、屋根から屋根へと飛び移り、下りて行った。地面にたどり着いたときにはもう、バーバーが、スカイラインで乗りつけていた。ダンクも中にいた。
 ここに来るときに、使った車だった。近くに停めておいたのだ。リヴァは、空いていた後部座席に乗り込んだ。
 後方を、何度も振り返りながら、スカイラインを発進させようとするバーバーに、リヴァは言った。
「焦らなくても、大丈夫だ。やつは、追って来ない。彼女の治療にご執心さ」
「そう」
「あれだけ運動したあとだ。みんな、腹が減ったんじゃないか?」ダンクが言った。
「バーバー。食事ができるところがあったら、入ってやんな。二十四時間営業のファミレスくらい、どっかにあるだろ」
「うん」
 スカイラインが走り出した。リヴァは窓を全開にし、枠に肘をかけた。空を見たかった。そのはずだった。なのに、いつの間にか、慶慎のことを考えていた。顔も知らない、兄弟のことを考えていた。
「何をやってる、慶慎」
 リヴァは呟いた。ダンクが、なんと言ったのかと、聞いてきた。適当にあしらった。
 空に星はなかった。雲に埋められ、重々しい黒色に染まっていた。

つづく




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2007年12月10日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第135回(2版)


そのリストには掲載されています。


 アイコンタクトは、必要なかった。バーバーは既に銃を撃っていた。銃弾は、宙に舞うドアに着弾した。アイザックが蹴り上げたのだ。その向こうに、アイザックの姿が消えた。リタもいなかった。リヴァは飛び前蹴りでドアを弾き飛ばした。視界を遮るものがなくなっても、二人がいないことに変わりはなかった。床に転がっている、慶慎の銃を見つけた。CZ75。リヴァはそれを手に取ろうとしたが、できなかった。トリガーの部分に、引っかかるものがあった。釘だ。
「上だ! リヴァ!」
 後頭部に衝撃。バーバーの声に、リヴァは返事をすることができなかった。回転する視界の中に、禍々しい笑みを浮かべているアイザックを見た。蹴り伸ばした足を戻しながら、天井の方から下りて来る。バーバーが銃弾を連ねた。アイザックには一発も当たらなかった。その姿は目視すらできなかった。淡い色になり、空中に線を描く。バーバーの銃が弾を撃ち尽くした。装填のために空の弾倉を落とす。それよりも先にバーバーが膝を突いた。アイザックの拳がみぞおちに入っていた。リヴァは自分の銃を抜いた。リボルバー。撃鉄を上げ、床を蹴る。アイザックは飛ぼうとしたが、できなかった。バーバーに足を掴まれていた。リヴァは銃を構えた。引き金は引けなかった。蹴り飛ばされたバーバーの体が視界をふさいでいた。バーバーは白目を剥いていた。気にかける暇はなかった。バーバーの体を踏み台にして、リヴァは飛んだ。一息で銃弾を撃ち尽くした。アイザックには当たらなかった。その腰が回る。蹴り。こめかみに決まっていた。リヴァは吹っ飛び、テレビ台に背をぶつけた。反撃の余地はもうなかった。目を開くと、アイザックがいた。その手に握られたリボルバーの銃口が、左胸にめり込んでいた。
「なかなか、歯ごたえがあるな。君たちは」
 アイザックが言った。
 突きつけられた銃口の下で、心臓がうるさいくらいに、鼓動を速めている。リヴァは溜め息をついた。
 勝てないことは、分かっていた。カザギワの殺し屋でさえ、敵わない男なのだ。しかし、それでも。バーバーと二人なら、逃げることはできる。そう思っていた。考えが、甘かった。そのための隙を、一瞬でも、作ることができなかった。
「二分十八秒。かかった方ね。さすがは、ツガ組と言ったところかしら」
 腕時計に目を落としながら、リタがリヴィングにやって来た。この女を使えば、勝機はある。リタとアイザックの二人と相対したとき、リヴァはそうも思った。それを、アイザックに摘まれた。ドアが宙に舞った辺りに違いない。アイザックは、リタを安全な場所へと避難させたのだ。
「この前の中国人は、三分オーバーだったかしら」
「彼は、君をうまく使ったからね。人質として。この子たちとは、正確には比べられないよ」
 アイザックが言った。
 うかつだったかもしれない。いずれ、ぶつかるのは明白だったのだ。リタ・オルパートとアイザック・ライクン。慶慎を見つけるために話を聞いた者たちの多くが、同じように慶慎を探している若い男女二人組を見たと言っていたのだ。
 リヴァは、二人を見た。時間を稼ぐ。それ以外に、この状況を変える可能性のある方法は、思いつかなかった。
「一つ、聞きたいことがある」リヴァは言った。「リストと言ったな。何のリストだ?」
 左胸を突く銃口に、力が込められた。警告だ。勝手に喋るな。アイザックの青い瞳が、そう言っていた。リヴァは、リタを見た。
「知ってどうするの?」リタが言った。
「天国、あるいは地獄で、相棒に教えてやるのさ」リヴァは首を傾げて、床で気を失っているバーバーを示した。「俺らが殺られた理由をな」
「殊勝なことね」
「どうなんだ?」
「当ててみなさいな」リタは微笑して、言った。「ヒント一。これは、さっき言ったわね。そのリストには、あなたの名前が載っています。及び、そこに転がってるバーバー、ここにはいない、ダンクの名前が」
「勉強熱心なんだな。俺たちが、三人組だってこと、知ってるとは」
「もちろん。ヒント二。カザギワにいる殺し屋の中で、最強と言われる、越智彰治。コードネーム“銀雹(ぎんひょう)”は、一度そのリストの中に入りましたが、あとで除外されました」
 越智彰治。慶慎が、父親である風際文永の虐待から逃れるために、殺し屋の道へと導いたとされる男だ。慶慎は、無力な幼少の頃から、誰にも守られたことがなかった。彼を守るべき父親は、その代わりに暴力を振るった。慶慎は、自分で自分の身を守るしかなかった。文永が逆らえない、祖父が組織する殺し屋集団、カザギワの中で、自分の地位を確立することで。殺し屋になることで。そのための訓練を施したのが、越智彰治だった。
「ヒント三。風際文永も、越智彰治と同じく、一度載ったあとで、除外されました」
 父親としての能力のない、男だった。にも関わらず、父親であることを忘れられない。文永は、母親に捨てられ、サーカスに拾われていた慶慎を、わざわざ引き取りに行っているのだ。その上で、慶慎を虐待した。ときには、死の際まで。息子を愛せないだけならば、話は単純なのだ。だが、文永の中には、息子への執着があった。一度、息子をかくまった内科医の女を銃で撃っている。そんな男の下で、普通に育つことができるわけがない。文永がいなければ、慶慎は殺し屋になることもなかったかもしれない。
 銃口に込める力。アイザックは、一向に緩める気配を見せなかった。話しているのは、あくまでもリタなのだ。会話で気をそらせるのは、難しそうだった。
「まだ、分からない?」リタが言った。
「申し訳ないね。頭の回転が鈍いんだ」
「謙遜するヤクザというのも、新鮮で魅力的だけれど」リタは言った。「とぼけられるのは、あまり気持ちのいいことではないわね。そうは見えないわ」
「どう?」
「頭の回転が、鈍いようには」
「あんたが、俺のことを買いかぶりすぎてるだけさ」
「その若さで、ツガ組の白虎に認められたのに。よく言うわね」
「狩内蓮のことか。ただの、とぼけた兄ちゃんだよ。あいつは。それに、肩書きは、あくまでも肩書きさ。ただ、それだけだ。ツガ組の構成員だってことが、必ずしも、能力の高さを保証するとは、限らないんだぜ」
「肩書きしかない人間は、そんな言葉は吐かないものよ」リタは言った。「まあ、いいわ。ヒント四。岸田海恵子の名前が、そのリストには掲載されています」
 岸田海恵子は、慶慎の主治医とも言える女だった。慶慎がまだ、文永の下で生活していた頃から、二人の関係は始まっている。海恵子は、文永の虐待を受ける慶慎を、肉体的、精神的に支え続けた。彼女の存在がなければ、慶慎は生き延びることができていなかったかもしれない。文永に撃たれた内科医というのが、この岸田海恵子だった。患者と医者。それを越えた絆が、二人の間にあることは、確かだった。
 リタが、目を細めた。
「“沈黙は金”というやつかしら? そうやって、あたしにばかり喋らせて、情報を引き出すつもりね」
 岸田海恵子の名前を聞いたとき、引っかかったことがあった。リヴァは言った。
「あんたは、岸田海恵子に会ったのか?」
 意地の悪い笑みを浮かべて、リタは肩をすくめた。
「さあ?」
「俺とバーバーは、昨日、岸田海恵子の診療所を訪ねた。誰もいなかった。もっと言えば、数日前から、岸田海恵子と連絡を取ろうとしているが、どうしてもできない。その理由を、あんたは知ってるのか?」
「どう思うの?」
「それとも。その理由が、あんたなのか?」
 リタは微笑んだ。
「頭の回転が鈍いなんて、よく言ったものね。そろそろ、答えが見えてきたんじゃない?」リタは言った。「ヒント五。市間安希の名前が」
 もう、リタの言葉の続きは分かった。
「そのリストには、掲載されています」リヴァは言った。「二日前。市間安希の住むアパートの近くにあるゴミ・ステーションで、異臭騒ぎがあった。原因は、そこに捨てられていたゴミ袋。中には、ばらばらにされた死体が入っていた。中国人の男。本名は不明だが、死体を確認したやつらの中に、その男の呼び名を知ってるやつがいた。死体の男の呼び名は、ジェイ。さっき、あんたは“この前の中国人”と言ったな」
「回転数が上がってきたじゃない、ギャングスタ。そうよ。その男が、ミスタ“三分オーバー”よ」
「市間安希をどうした」リヴァは言った。「サニー・フゥもそうだ。慶慎と縁のあるやつが、全員消えてる。連絡が取れない。どこに行った。どこにやった」
「すぐに分かるわ。あなたも、彼女たちと同じ所に行くんだから」
 リヴァは、リヴィングの入口を一瞥し、首を振った。
「そいつは不正解だ。リタ・オルパート。俺は、あんたたちとは行かない」リヴァは言った。「遅いぜ、ダンク」
 音はなかった。ただ、振り上げたその黒い腕で、筋肉が唸りを上げているのは、目に見えた。アイザックが銃をリヴァから離した。遅かった。アイザックの体は吹っ飛び、窓を割り、その向こうに消えた。
「遅刻するのは、いい男の証だ」
 痛むのか、アイザックを殴った方の拳を開いて、ぷらぷらとさせながら、ダンクは言った。
 リヴァは、改めて自分の左胸に手を当てて、無事を確認した。立ち上がり、ダンクと拳を合わせる。
「蓮の野郎に、文句を言っておかないといけないな」リヴァは言った。「口が達者になったのは、余計だ」

つづく




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2007年12月08日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第134回(4版)


髪の色も、目の色も違うけど。


 兄弟がいた。リヴァは、自分を拾い、育てた、ジーン・レイクウッドというごろつきに、そう教えられた。川辺に、無造作に捨てられた段ボール箱。そこに、まだ生後間もないリヴァと一緒に、入っていたらしい。だが、ジーンが見つけたときにはもう、リヴァの兄弟に息はなかった。年は、分からなかった。自分のも、正確に把握しているわけではなかった。ジーンが適当に数えたのを、間に受けているだけだ。だからリヴァは、失ったのが兄だったのか、弟だったのかも、知らない。
 何かが、欠落している。よく、そう言われた。リヴァ自身、そう思うことがある。死んだ兄弟が、逝くときに、自分から奪っていってしまったのだろう。リヴァは何となく、そう考えていた。
 自分の中にある空洞。埋めることは、無理だと思っていた。自分は、このまま生きていくしかないのだと。あるとき、その考えが変わった。慶慎に会ったときのことだ。こいつといれば、もしかしたら。空洞を埋めることができるかもしれない。そう思った。
 だから、慶慎を失うわけにはいかないのだ。
「携帯灰皿はあるのかい? ここ、きっと灰皿はないよ、リヴァ」
 バーバーの言葉に、リヴァは我に返った。
「ああ」無意識のうちに手にしていた、煙草のパッケージを、元に戻す。「そうだったな」
 リヴァたちは、慶慎の部屋にいた。鍵は、大家から借りた。話をつけるのは、簡単だった。長い間、部屋に帰らない慶慎のことを、大家も心配していた。
 リヴィングに、肌色の木材でできた、ローテーブルがあった。空になったコンビニ弁当のケースが、割り箸とともに、そのままになっていた。元が何だったのか分からない残飯は、乾ききっていた。飲みかけのミネラルウォーターが入った、ペットボトル。白い錠剤の入ったアルミニウムのフィルム。まだ、中身は半分以上、残っていた。
「喘息の薬だろうね」バーバーが言った。
「ああ」
 慶慎は、姿を消していた。DEXビルの一件の、直後の話だ。理由は、分かっていた。人を、殺しすぎたのだ。そして、罪の意識を背負いすぎた。
 慶慎の手首に刻まれた傷を、思い出した。そこを彩っていた、鮮やかな赤色を。慶慎はもう、戻らないかもしれない。リヴァは思った。
 慶慎に背を向けたこと。そのことが、悔やまれて仕方がなかった。ツガ組のことなど、他の者のことなど、どうでもよかったのだ。どうして、表面的なものではなく、もっと奥の、慶慎の深い所にあるものを、汲み取ってやれなかったのか。
 いや。リヴァは思った。あのとき既に、本当は分かっていた。慶慎が、助けを求めていることは。
 ただ、怖かっただけだ。傷ついた慶慎を、受け止めることが。自分がただ、臆病だっただけだ。
 床に、衣服が投げ出されていた。タートルネックのセーター、チノパンツ。ミカドの人間たちを殺したときに浴びた、大量の返り血を吸い込み、赤黒く変色していた。バーバーが片膝を突き、それに触れた。その指先に、血は付着しなかった。血は、乾いていた。
 リヴァは言った。
「Kが、最期のときに着てた服だ」
「うん」バーバーは頷いた。「着替えて、またすぐに出かけた。銃も持たずに」
 衣服の側に、銃が収まったままのホルスターがあった。
「市間安希か」
 リヴァは呟いた。その夜の慶慎の行動は、掴んでいる。
「市間安希を訪ね、そこにいた男と一悶着起こしたあと、サニー・フゥの所へ行った。以降、消息不明、か」バーバーは立ち上がった。「Kは、何をしたかったんだろう」
「さあな」
「セックス?」
 慶慎が最後に行ったのは、サニー・フゥの働いている娼館だった。
「かもしれねぇ。けど、あいつが本当に求めてたのは、そんなことじゃないはずだ。一発やれば、一段落するほど、あいつの中身はシンプルにはできちゃいないさ」
「なら」
「自分がその時々に、求めてるもの。それが手に入る場所。与えてくれる人間。理解、把握。してるやつの方が、希少さ。違うか?」
「そうかもしれないね」
 リヴァは、床のホルスターから銃を取り出し、中身を確かめた。替えたばかりなのか、弾倉の中身は減っていなかった。リヴァは銃を、履いていたジーパンの前に差した。
「別に、Kのことが気に入らないわけじゃないんだけど」バーバーが言った。「どうして、そこまでKにこだわるんだい?」
「俺には、兄弟がいた。話したこと、あるよな?」
「ああ。君が拾われたときにはもう、死んでたって話だろ?」
「あいつは、その兄弟の生まれ変わりさ」
「髪の色も、目の色も違うけど」
「ああ」
「輪廻ってやつ、信じてたんだ」
「いや、信じてなかったさ。あいつに会うまではな」リヴァは鼻を鳴らした。「笑っていいぜ」
「笑わないよ」バーバーは言った。
 外で、足音がした。二つ。慶慎の部屋の前で止まる。リヴァは、バーバーと目を合わせ、唇に人差し指を当てた。ドアがノックされる。
「部屋に電気がついていたわ。いるの? 慶慎君」
 女の声だった。リヴァは足音を忍ばせ、玄関まで行った。ドア越しに、問いかける。
「誰だ、あんた」
「誰でもいいじゃないの。ねえ、慶慎君なの?」
 何か、感じるものがあった。リヴァはとっさに、ドアの鍵を閉めた。外で舌打ちが聞こえた。無理やりドアを開けようと、ノブが回される。今にも動物が飛び出そうとでもしているかのように、ドアノブが揺れた。
 リヴァは言った。
「知らないやつの相手は、しない主義でね」
 ドアには覗き窓がついていた。それを覗き込んだ。魚眼レンズの向こう側に釘の先端が見えた。リヴァは頭を横にずらした。バランスが崩れる。三和土を転がり、後退した。
「リヴァ?」
 バーバーが来た。リヴァは何も言わず、手で“止まれ”と合図した。目尻の横に、鋭い痛みがあった。傷口を指で触れると、血で濡れた。傷が深くないことだけが、救いだ。
「帰ってくれないか、ミス・招かれざる客。あんたの探してるやつは、ここにはいない」
「リヴァ、と呼ばれたわね。あなた」ドアの向こうで、女が言った。「C・C・リヴァも、あたしたちの探している人のリストにある名前の一つなの」
 リヴァは、慶慎のものだった銃を、ドアに向けて構えた。
「そいつは、喜んだ方がいいのかな?」
「いいえ。不運だと、嘆いた方がいいわ」
 ドアが吹っ飛んだ。それに巻き込まれ、リヴァはリヴィングまで転がった。乱れる視界の中で、手から銃が離れていった。追う暇はなかった。バーバーとともに受け身を取り、起き上がる。客が、玄関に足を踏み入れていた。赤みがかった長髪の女と、金髪の、整った顔立ちの男。
 リヴァは言った。
「リタ・オルパートと、アイザック・ライクン」
 リタは小首を傾げ、微笑した。
「泣いてもいいわよ、坊やたち」


つづく






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posted by 城 一 at 19:02| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月05日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第133回(3版)


彼がこの背中を知らんことを。


 ステージの上。マイクを握る少年は、汗だくだった。着ている黄色いポロシャツは、濡れて体に張りついていた。足下にあったペットボトルから、ミネラルウォーターを飲み、残りを体にかける。ボトルが空になると、曲に合わせて飛び跳ねながら、客に向かって投げた。ブーイングどころか、歓喜の声を上げながら、客はそれに群がる。鈴乃には、理解できないことだった。
 鈴乃は、ライブハウスに来ていた。名前は、<アンバランス701>。街では、名の知られたライブハウスだという話だった。鈴乃は、初めて聞いた。もっとも、今まで、ライブハウスという場所自体に、縁がなかったのだが。
 シドの見舞いに行った先で、またマリと顔を合わせた。一言、二言交わしただけで、終わると思っていたものが、気づくと長い立ち話になっていた。ほとんど一方的に、マリが話しているだけだったのにも関わらず、だ。鈴乃は、適当に相槌を打っていただけだった。
 いつの間にか、マリの好きなバンドの話になっていた。★を四つ並べて<FOSTER(フォスター)>と読む、名前のバンド。鈴乃には、興味のない話だった。そのことを、気のない返事で、示していたつもりだった。が、マリには伝わらなかったらしい。気づいたときには、熱を帯びた口調で、ライブに誘われていた。断れば、一日中でも、説得のために、話を聞かされることになりそうだった。首を縦に振る方が、簡単に済みそうだった。だから、そうした。が、やはり。さらなる長話につき合わされたかもしれないことを考えても、首を横に振るべきだったのではないか。鈴乃は、そう思い始めていた。
 チケットの半券とともに受け取った、ペットボトル入りのレモンスカッシュ。一口飲んで、テーブルに置いた。ホール内にこもる熱気で、温くなってしまっていた。それ以上、口をつける気にはなれなかった。
 当のマリは、もういなかった。ひしめく客の群れから離れ、後ろに設置されたテーブル席で、静かにライブを観賞するというのが、性に合わなかったらしい。ライブが始まって、二、三曲で、鈴乃に謝罪の言葉を残して、行ってしまった。今は、最前列で、思う存分、縦に体を揺らしている。マリの細い体は、テーブル席からでも、容易に見つけられた。いつ折れても不思議ではないように見える、マリの細い腕。蛍光塗料で、★が四つ、描かれていた。それが、曲に合わせて踊り、宙に明るい緑色の線を引いていた。
「楽しんでるかい?」
 少し前まで、マリがいた席に座り、男が言った。鈴乃が、男を見ようとした瞬間、フラッシュが光った。おもむろに取り出した携帯電話で、写真を撮られていた。鈴乃は、舌打ちを隠さなかった。
「なんのつもり?」
 男はおどけて、肩をすくめた。知らない男だ。その顔に、反省の色はない。
「いい女を見かけたら、写真に残しておくことにしてるんだ」
 男が、敵の可能性もあった。鈴乃の写真を撮り、仲間に送ろうとしている可能性も。カザギワに牙を剥こうとする人間は、どこにでも存在し得る。先のDEXビルの一件で、証明されたことだ。しかも、それでいて、敵意のない者との見分けは、つかない。
 鈴乃は、男の目の奥を見つめた。ブラウンがかった黒目の向こうに、何が潜んでいるのか。殺し屋稼業に身を投じるたまものなのか、少し時間をかければ、殺意の有無は、分かる。
 男は、鈴乃から目をそらし、頬を掻いた。
「よしてくれ。そんな目で、真っ直ぐ見つめるのは。照れる」男が言った。
 男の言う通りにしてやった。殺意は感じなかった。やはり、ただのナンパらしい
 男の年齢は、三十代後半から、四十代。太ってはいたが、筋肉質な印象を受けた。出っ張った腹も、固そうだった。髭が生えていた。整った感じではない。剃るのを、怠っているだけだろう。つばを後ろ向きにして、紺色のベースボールキャップをかぶっていた。赤いTシャツ。鎖に繋がれ、今にも噛みつきそうな顔をしている、骨だけの体をした犬の絵が、大きくプリントされていた。首下から胸の辺りまで、大きな汗染みができていた。腰から下に、薄汚れたエプロンをしていた。
 鈴乃は言った。
「何か、用なの?」
「勝谷紀彦(かつや のりひこ)だ」そう言って、勝谷は鈴乃に向かって、手を差し出した。握手。鈴乃は応じなかった。勝谷は、肩をすくめて、続けた。「上にある、バーをやってる。<スージー>って店だ。俺のことは、マスターと呼んでくれ」
 ライブハウスの入っている建物は、二階建てになっていた。階上に、バーがあることは、外から見たときに、なんとなく分かっていた。バーのものと分かる、店の名を示すネオンサインが、窓の辺りに下がっていた。
「そう」
 興味はなかった。隠さず、態度に出した。勝谷は、傷ついた表情をした。
「あんたの名前は?」
「あなたがマスターなら」鈴乃は言った。「あたしは、客よ」
「手厳しいな」勝谷はそう言って、壁に立てかけてあった、松葉杖を見た。見るからに重々しい、黒い鉄製のそれに、目を細める。「こりゃあ、また。ずいぶん立派な松葉杖だな。あんたのかい?」
「それ以外に、誰のだと思うの?」
「さあな。しかし、それにしても。わざわざ、松葉杖突いてまで見に来るたぁ、かなりのファンだな。お目当ては、アンバーかい?」
「アンバー?」
「なんだ、違うのか?」
「ええ、違うわ。あたしは、無理やり連れて来られただけよ」
 勝谷は、喉の奥でかすれた笑い声を立てた。
「道理で、浮かない顔をしてるわけだな」
「アンバーって、誰?」
「あいつさ」
 勝谷は、ステージの中央で、マイクを前にしてエレクトリック・ベースを弾く少年を指差した。
 勝谷にアンバーと呼ばれた少年は、ステージの際を、右へ左へ、ひっきりなしに駆け回っていた。止まったかと思えば上に飛び、ときには客の頭上へダイブする。固めて立たせた褐色の髪と、同色のベースを振り回していた。左腕に、黒色の蔦が絡まっていた。トライバルのタトゥーだ。首下に、何かで切りつけられたような、傷跡があった。左手の薬指に、シンプルなシルバーのリングが二つ。黒地に、白いラインの入ったスニーカー。黒いジーパンの裾を、膝下までまくり上げて履いていた。アンバーがステージの上で跳ねる度に、その体から、汗や水の滴が散る。
 勝谷は言った。
「知らないのかい? <フォスター>は、まあ、ここにいるやつらのためにやってる、お遊びのバンドだけど、本気でやってる<アンダーワールド>の方じゃあ、CDだって出してる。カナジョウのティーンは、首ったけさ」
「知らないわね」
「<アンバー・ワールド>は? アンバーが中心になって作ったチームだが」
「全く」
「そうかい。気をつけな。やつらに目ぇつけられた女は、たいてい食われちまうからな。ま、ここにいる女たちは、それを承知で来てるからいいんだが。好みじゃないなら、ここには来ない方が、身のためだ」
 勝谷の言う通りだった。ここには、来るべきではなかった。鈴乃の許容量を越えた音量の音楽、人の熱量。色々なものが入り混じり、ドラッグのように鼻孔を刺激する、におい。この、ライブハウスという空間にあるもの全てが、鈴乃の肌に合わないものだった。それは、来る前から、分かっていたことだ。なのに、なぜ。マリについて来たのか。
 アンバーの足下で、マリは着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。黒いブラジャーだけになった彼女に、周囲の客が歓声を上げる。
 マリが、シドの恋人だからなのだろうか。鈴乃は思った。シドの好きな女が、どんな女なのか。磐井の言っていたことが、本当なのか。自分の目で、確かめたかったのかもしれない。
 しかし、それで、どうするつもりなのだろう。マリのことを知って、マリになるつもりなのだろうか。それとも、彼女を越える?
 鈴乃は、首を振った。馬鹿げた話だ。
 鈴乃は席を立ち、松葉杖を取った。勝谷が言った。
「行くのかい?」
 返事はしなかった。鈴乃は、ライブハウスをあとにした。上半身をさらけ出し、狂ったように騒ぐマリの姿が、瞼の裏に焼きついて、いつまでも消えなかった。


つづく






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posted by 城 一 at 23:14| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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