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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2007年12月08日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第134回(4版)


髪の色も、目の色も違うけど。


 兄弟がいた。リヴァは、自分を拾い、育てた、ジーン・レイクウッドというごろつきに、そう教えられた。川辺に、無造作に捨てられた段ボール箱。そこに、まだ生後間もないリヴァと一緒に、入っていたらしい。だが、ジーンが見つけたときにはもう、リヴァの兄弟に息はなかった。年は、分からなかった。自分のも、正確に把握しているわけではなかった。ジーンが適当に数えたのを、間に受けているだけだ。だからリヴァは、失ったのが兄だったのか、弟だったのかも、知らない。
 何かが、欠落している。よく、そう言われた。リヴァ自身、そう思うことがある。死んだ兄弟が、逝くときに、自分から奪っていってしまったのだろう。リヴァは何となく、そう考えていた。
 自分の中にある空洞。埋めることは、無理だと思っていた。自分は、このまま生きていくしかないのだと。あるとき、その考えが変わった。慶慎に会ったときのことだ。こいつといれば、もしかしたら。空洞を埋めることができるかもしれない。そう思った。
 だから、慶慎を失うわけにはいかないのだ。
「携帯灰皿はあるのかい? ここ、きっと灰皿はないよ、リヴァ」
 バーバーの言葉に、リヴァは我に返った。
「ああ」無意識のうちに手にしていた、煙草のパッケージを、元に戻す。「そうだったな」
 リヴァたちは、慶慎の部屋にいた。鍵は、大家から借りた。話をつけるのは、簡単だった。長い間、部屋に帰らない慶慎のことを、大家も心配していた。
 リヴィングに、肌色の木材でできた、ローテーブルがあった。空になったコンビニ弁当のケースが、割り箸とともに、そのままになっていた。元が何だったのか分からない残飯は、乾ききっていた。飲みかけのミネラルウォーターが入った、ペットボトル。白い錠剤の入ったアルミニウムのフィルム。まだ、中身は半分以上、残っていた。
「喘息の薬だろうね」バーバーが言った。
「ああ」
 慶慎は、姿を消していた。DEXビルの一件の、直後の話だ。理由は、分かっていた。人を、殺しすぎたのだ。そして、罪の意識を背負いすぎた。
 慶慎の手首に刻まれた傷を、思い出した。そこを彩っていた、鮮やかな赤色を。慶慎はもう、戻らないかもしれない。リヴァは思った。
 慶慎に背を向けたこと。そのことが、悔やまれて仕方がなかった。ツガ組のことなど、他の者のことなど、どうでもよかったのだ。どうして、表面的なものではなく、もっと奥の、慶慎の深い所にあるものを、汲み取ってやれなかったのか。
 いや。リヴァは思った。あのとき既に、本当は分かっていた。慶慎が、助けを求めていることは。
 ただ、怖かっただけだ。傷ついた慶慎を、受け止めることが。自分がただ、臆病だっただけだ。
 床に、衣服が投げ出されていた。タートルネックのセーター、チノパンツ。ミカドの人間たちを殺したときに浴びた、大量の返り血を吸い込み、赤黒く変色していた。バーバーが片膝を突き、それに触れた。その指先に、血は付着しなかった。血は、乾いていた。
 リヴァは言った。
「Kが、最期のときに着てた服だ」
「うん」バーバーは頷いた。「着替えて、またすぐに出かけた。銃も持たずに」
 衣服の側に、銃が収まったままのホルスターがあった。
「市間安希か」
 リヴァは呟いた。その夜の慶慎の行動は、掴んでいる。
「市間安希を訪ね、そこにいた男と一悶着起こしたあと、サニー・フゥの所へ行った。以降、消息不明、か」バーバーは立ち上がった。「Kは、何をしたかったんだろう」
「さあな」
「セックス?」
 慶慎が最後に行ったのは、サニー・フゥの働いている娼館だった。
「かもしれねぇ。けど、あいつが本当に求めてたのは、そんなことじゃないはずだ。一発やれば、一段落するほど、あいつの中身はシンプルにはできちゃいないさ」
「なら」
「自分がその時々に、求めてるもの。それが手に入る場所。与えてくれる人間。理解、把握。してるやつの方が、希少さ。違うか?」
「そうかもしれないね」
 リヴァは、床のホルスターから銃を取り出し、中身を確かめた。替えたばかりなのか、弾倉の中身は減っていなかった。リヴァは銃を、履いていたジーパンの前に差した。
「別に、Kのことが気に入らないわけじゃないんだけど」バーバーが言った。「どうして、そこまでKにこだわるんだい?」
「俺には、兄弟がいた。話したこと、あるよな?」
「ああ。君が拾われたときにはもう、死んでたって話だろ?」
「あいつは、その兄弟の生まれ変わりさ」
「髪の色も、目の色も違うけど」
「ああ」
「輪廻ってやつ、信じてたんだ」
「いや、信じてなかったさ。あいつに会うまではな」リヴァは鼻を鳴らした。「笑っていいぜ」
「笑わないよ」バーバーは言った。
 外で、足音がした。二つ。慶慎の部屋の前で止まる。リヴァは、バーバーと目を合わせ、唇に人差し指を当てた。ドアがノックされる。
「部屋に電気がついていたわ。いるの? 慶慎君」
 女の声だった。リヴァは足音を忍ばせ、玄関まで行った。ドア越しに、問いかける。
「誰だ、あんた」
「誰でもいいじゃないの。ねえ、慶慎君なの?」
 何か、感じるものがあった。リヴァはとっさに、ドアの鍵を閉めた。外で舌打ちが聞こえた。無理やりドアを開けようと、ノブが回される。今にも動物が飛び出そうとでもしているかのように、ドアノブが揺れた。
 リヴァは言った。
「知らないやつの相手は、しない主義でね」
 ドアには覗き窓がついていた。それを覗き込んだ。魚眼レンズの向こう側に釘の先端が見えた。リヴァは頭を横にずらした。バランスが崩れる。三和土を転がり、後退した。
「リヴァ?」
 バーバーが来た。リヴァは何も言わず、手で“止まれ”と合図した。目尻の横に、鋭い痛みがあった。傷口を指で触れると、血で濡れた。傷が深くないことだけが、救いだ。
「帰ってくれないか、ミス・招かれざる客。あんたの探してるやつは、ここにはいない」
「リヴァ、と呼ばれたわね。あなた」ドアの向こうで、女が言った。「C・C・リヴァも、あたしたちの探している人のリストにある名前の一つなの」
 リヴァは、慶慎のものだった銃を、ドアに向けて構えた。
「そいつは、喜んだ方がいいのかな?」
「いいえ。不運だと、嘆いた方がいいわ」
 ドアが吹っ飛んだ。それに巻き込まれ、リヴァはリヴィングまで転がった。乱れる視界の中で、手から銃が離れていった。追う暇はなかった。バーバーとともに受け身を取り、起き上がる。客が、玄関に足を踏み入れていた。赤みがかった長髪の女と、金髪の、整った顔立ちの男。
 リヴァは言った。
「リタ・オルパートと、アイザック・ライクン」
 リタは小首を傾げ、微笑した。
「泣いてもいいわよ、坊やたち」


つづく






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posted by 城 一 at 19:02| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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