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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2007年12月10日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第135回(2版)


そのリストには掲載されています。


 アイコンタクトは、必要なかった。バーバーは既に銃を撃っていた。銃弾は、宙に舞うドアに着弾した。アイザックが蹴り上げたのだ。その向こうに、アイザックの姿が消えた。リタもいなかった。リヴァは飛び前蹴りでドアを弾き飛ばした。視界を遮るものがなくなっても、二人がいないことに変わりはなかった。床に転がっている、慶慎の銃を見つけた。CZ75。リヴァはそれを手に取ろうとしたが、できなかった。トリガーの部分に、引っかかるものがあった。釘だ。
「上だ! リヴァ!」
 後頭部に衝撃。バーバーの声に、リヴァは返事をすることができなかった。回転する視界の中に、禍々しい笑みを浮かべているアイザックを見た。蹴り伸ばした足を戻しながら、天井の方から下りて来る。バーバーが銃弾を連ねた。アイザックには一発も当たらなかった。その姿は目視すらできなかった。淡い色になり、空中に線を描く。バーバーの銃が弾を撃ち尽くした。装填のために空の弾倉を落とす。それよりも先にバーバーが膝を突いた。アイザックの拳がみぞおちに入っていた。リヴァは自分の銃を抜いた。リボルバー。撃鉄を上げ、床を蹴る。アイザックは飛ぼうとしたが、できなかった。バーバーに足を掴まれていた。リヴァは銃を構えた。引き金は引けなかった。蹴り飛ばされたバーバーの体が視界をふさいでいた。バーバーは白目を剥いていた。気にかける暇はなかった。バーバーの体を踏み台にして、リヴァは飛んだ。一息で銃弾を撃ち尽くした。アイザックには当たらなかった。その腰が回る。蹴り。こめかみに決まっていた。リヴァは吹っ飛び、テレビ台に背をぶつけた。反撃の余地はもうなかった。目を開くと、アイザックがいた。その手に握られたリボルバーの銃口が、左胸にめり込んでいた。
「なかなか、歯ごたえがあるな。君たちは」
 アイザックが言った。
 突きつけられた銃口の下で、心臓がうるさいくらいに、鼓動を速めている。リヴァは溜め息をついた。
 勝てないことは、分かっていた。カザギワの殺し屋でさえ、敵わない男なのだ。しかし、それでも。バーバーと二人なら、逃げることはできる。そう思っていた。考えが、甘かった。そのための隙を、一瞬でも、作ることができなかった。
「二分十八秒。かかった方ね。さすがは、ツガ組と言ったところかしら」
 腕時計に目を落としながら、リタがリヴィングにやって来た。この女を使えば、勝機はある。リタとアイザックの二人と相対したとき、リヴァはそうも思った。それを、アイザックに摘まれた。ドアが宙に舞った辺りに違いない。アイザックは、リタを安全な場所へと避難させたのだ。
「この前の中国人は、三分オーバーだったかしら」
「彼は、君をうまく使ったからね。人質として。この子たちとは、正確には比べられないよ」
 アイザックが言った。
 うかつだったかもしれない。いずれ、ぶつかるのは明白だったのだ。リタ・オルパートとアイザック・ライクン。慶慎を見つけるために話を聞いた者たちの多くが、同じように慶慎を探している若い男女二人組を見たと言っていたのだ。
 リヴァは、二人を見た。時間を稼ぐ。それ以外に、この状況を変える可能性のある方法は、思いつかなかった。
「一つ、聞きたいことがある」リヴァは言った。「リストと言ったな。何のリストだ?」
 左胸を突く銃口に、力が込められた。警告だ。勝手に喋るな。アイザックの青い瞳が、そう言っていた。リヴァは、リタを見た。
「知ってどうするの?」リタが言った。
「天国、あるいは地獄で、相棒に教えてやるのさ」リヴァは首を傾げて、床で気を失っているバーバーを示した。「俺らが殺られた理由をな」
「殊勝なことね」
「どうなんだ?」
「当ててみなさいな」リタは微笑して、言った。「ヒント一。これは、さっき言ったわね。そのリストには、あなたの名前が載っています。及び、そこに転がってるバーバー、ここにはいない、ダンクの名前が」
「勉強熱心なんだな。俺たちが、三人組だってこと、知ってるとは」
「もちろん。ヒント二。カザギワにいる殺し屋の中で、最強と言われる、越智彰治。コードネーム“銀雹(ぎんひょう)”は、一度そのリストの中に入りましたが、あとで除外されました」
 越智彰治。慶慎が、父親である風際文永の虐待から逃れるために、殺し屋の道へと導いたとされる男だ。慶慎は、無力な幼少の頃から、誰にも守られたことがなかった。彼を守るべき父親は、その代わりに暴力を振るった。慶慎は、自分で自分の身を守るしかなかった。文永が逆らえない、祖父が組織する殺し屋集団、カザギワの中で、自分の地位を確立することで。殺し屋になることで。そのための訓練を施したのが、越智彰治だった。
「ヒント三。風際文永も、越智彰治と同じく、一度載ったあとで、除外されました」
 父親としての能力のない、男だった。にも関わらず、父親であることを忘れられない。文永は、母親に捨てられ、サーカスに拾われていた慶慎を、わざわざ引き取りに行っているのだ。その上で、慶慎を虐待した。ときには、死の際まで。息子を愛せないだけならば、話は単純なのだ。だが、文永の中には、息子への執着があった。一度、息子をかくまった内科医の女を銃で撃っている。そんな男の下で、普通に育つことができるわけがない。文永がいなければ、慶慎は殺し屋になることもなかったかもしれない。
 銃口に込める力。アイザックは、一向に緩める気配を見せなかった。話しているのは、あくまでもリタなのだ。会話で気をそらせるのは、難しそうだった。
「まだ、分からない?」リタが言った。
「申し訳ないね。頭の回転が鈍いんだ」
「謙遜するヤクザというのも、新鮮で魅力的だけれど」リタは言った。「とぼけられるのは、あまり気持ちのいいことではないわね。そうは見えないわ」
「どう?」
「頭の回転が、鈍いようには」
「あんたが、俺のことを買いかぶりすぎてるだけさ」
「その若さで、ツガ組の白虎に認められたのに。よく言うわね」
「狩内蓮のことか。ただの、とぼけた兄ちゃんだよ。あいつは。それに、肩書きは、あくまでも肩書きさ。ただ、それだけだ。ツガ組の構成員だってことが、必ずしも、能力の高さを保証するとは、限らないんだぜ」
「肩書きしかない人間は、そんな言葉は吐かないものよ」リタは言った。「まあ、いいわ。ヒント四。岸田海恵子の名前が、そのリストには掲載されています」
 岸田海恵子は、慶慎の主治医とも言える女だった。慶慎がまだ、文永の下で生活していた頃から、二人の関係は始まっている。海恵子は、文永の虐待を受ける慶慎を、肉体的、精神的に支え続けた。彼女の存在がなければ、慶慎は生き延びることができていなかったかもしれない。文永に撃たれた内科医というのが、この岸田海恵子だった。患者と医者。それを越えた絆が、二人の間にあることは、確かだった。
 リタが、目を細めた。
「“沈黙は金”というやつかしら? そうやって、あたしにばかり喋らせて、情報を引き出すつもりね」
 岸田海恵子の名前を聞いたとき、引っかかったことがあった。リヴァは言った。
「あんたは、岸田海恵子に会ったのか?」
 意地の悪い笑みを浮かべて、リタは肩をすくめた。
「さあ?」
「俺とバーバーは、昨日、岸田海恵子の診療所を訪ねた。誰もいなかった。もっと言えば、数日前から、岸田海恵子と連絡を取ろうとしているが、どうしてもできない。その理由を、あんたは知ってるのか?」
「どう思うの?」
「それとも。その理由が、あんたなのか?」
 リタは微笑んだ。
「頭の回転が鈍いなんて、よく言ったものね。そろそろ、答えが見えてきたんじゃない?」リタは言った。「ヒント五。市間安希の名前が」
 もう、リタの言葉の続きは分かった。
「そのリストには、掲載されています」リヴァは言った。「二日前。市間安希の住むアパートの近くにあるゴミ・ステーションで、異臭騒ぎがあった。原因は、そこに捨てられていたゴミ袋。中には、ばらばらにされた死体が入っていた。中国人の男。本名は不明だが、死体を確認したやつらの中に、その男の呼び名を知ってるやつがいた。死体の男の呼び名は、ジェイ。さっき、あんたは“この前の中国人”と言ったな」
「回転数が上がってきたじゃない、ギャングスタ。そうよ。その男が、ミスタ“三分オーバー”よ」
「市間安希をどうした」リヴァは言った。「サニー・フゥもそうだ。慶慎と縁のあるやつが、全員消えてる。連絡が取れない。どこに行った。どこにやった」
「すぐに分かるわ。あなたも、彼女たちと同じ所に行くんだから」
 リヴァは、リヴィングの入口を一瞥し、首を振った。
「そいつは不正解だ。リタ・オルパート。俺は、あんたたちとは行かない」リヴァは言った。「遅いぜ、ダンク」
 音はなかった。ただ、振り上げたその黒い腕で、筋肉が唸りを上げているのは、目に見えた。アイザックが銃をリヴァから離した。遅かった。アイザックの体は吹っ飛び、窓を割り、その向こうに消えた。
「遅刻するのは、いい男の証だ」
 痛むのか、アイザックを殴った方の拳を開いて、ぷらぷらとさせながら、ダンクは言った。
 リヴァは、改めて自分の左胸に手を当てて、無事を確認した。立ち上がり、ダンクと拳を合わせる。
「蓮の野郎に、文句を言っておかないといけないな」リヴァは言った。「口が達者になったのは、余計だ」

つづく




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posted by 城 一 at 05:59| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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