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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年01月03日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第140回(2版)


なかなか、オツな暗闇だこと。


 モスコミュールを、流し込む。ここ最近飲んだ中で、一番まずい酒だった。カウンターの向こう側で、いやらしい笑みを浮かべる、このバーのマスター、勝谷の腕が悪いだけでは、決して、ない。
 鈴乃は、バー<スージー>にいた。ライブハウス<アンバランス701>の、階上にある店だ。
 マリにまた、誘われたのだ。ライブとセットになった、クリスマス・パーティがあると。日付は、十二月二十四日。クリスマス・イヴだ。
 今回も、誘いは断るつもりだった。それなのに。鈴乃は、空になったグラスを、指先で叩いた。チン。軽やかな音に、勝谷がやって来る。
「今度は、何をお作りしましょうか、お嬢さん?」勝谷は言った。
「何でもいいわよ」
「じゃあ、同じので?」
「それは嫌。おいしくなかったもの。今日、まだ飲んでないのがいいわ」
「わがままな、お客さんだ」
「わがままを言うから、客なのよ。それとも、レシピが底を突いたのかしら?」
「そんなことはないさ」
 勝谷は、棚からリキュールとスピリッツを取り、カウンターの上に並べた。カクテルに詳しいわけではないが、自分の知っているものでないことは、分かった。わざわざ、口に出して注文するつもりはないのだが、何となく、ソルティ・ドッグ・コリンズを待っていた。よく知っている、馴染みの酒を。
 グラスの割れる音に、鈴乃は振り返った。
 何のことはない。テーブルの上で、男と女が、セックスを始めただけだった。男がピストン運動をする度に、テーブルから、ものが落ちる。
「好みじゃないなら来るなって、俺は言ったよな?」勝谷が言った。
「そうね」
 勝谷は、テーブルの上で性交渉に及んでいる男女を、咎めたりしなかった。今、この<スージー>の中にいる者たちは皆、そのために集まっているのだ。束の間の、性的な快楽を貪るために。
 マリも、例外ではなかった。窓際に設置された、緑色のビニール製のソファの上で、恋人でもない男のペニスに、むしゃぶりついていた。
 クリスマスとは名ばかりの、乱交パーティだった。主催は、<フォスター>。ライブのあとで、興奮冷めやらぬ女たちを連れ込んで、好き放題やっていた。
 店内に流れるBGMをかき消すほどの、嬌声。雄と雌の、汗のにおい。酒がまずいのは、そのせいでもある。
「ヘイ」勝谷が、鈴乃の前にグラスを置いた。カクテルは、柔らかい赤色をしていた。「ドライ・ジンと、キルシュ、ベルモットをシェイクした」
「あら。この店じゃあ、カクテルは全部、ステアかビルドで作るものなんだと思ってたわ」
 鈴乃は言った。
 ドライ・ジンの入った瓶の隣に、今し方、仕事を終えたばかりの、シェイカーが並んでいた。バーでは本来、珍しくもない光景だが、この<スージー>に限って言えば、違った。勝谷は、シェイクすべきカクテルでも、シェイカーを使おうとしなかったからだ。
 勝谷は言った。
「いや、そうさ。どうも、性に合わなくてね。シェイカーってやつは。久々に今日は、本気を出した」
「名前は?」
 グラスに伸ばした手を、勝谷が掴んだ。性欲を、抑えきれなくなったのか。そう思ったが、違った。
「最後の忠告だ、ベイビ。帰るなら、今だ。ヤらずに、この場にいようって神経が、いまいち俺には理解できないが、言っとく。ヤらずに、ここにい続けるのは、無理だ。そんなんじゃあ、最後には、無理やり輪姦(まわ)されることになる。そんなのは、嫌だろうが。ええ?」
「そうね。ごめんだわ」
「俺だって、こういう場所で、バーをやってる人間だ。頭ん中は、小汚(こぎたね)ぇ願望で真っ黒さ。今、考えてることを言ってやろうか。俺は、今すぐにでも、あんたにチンポを突っ込みたい。腰が抜けるほど、ファックしたい」
「どうして、試しに交渉してみないの? それが、実現できるかもしれないのに」
「あんたが何を考えてるのか、気になるからだ。ファックするよりも、そっちを聞き出したい自分がいる。初めてなのさ、あんたみたいなのは。ここに来るのは、セックス狂いか、騙されて来た間抜けがほとんどだ」
「それは、褒め言葉なのかしら?」
「さあな。でも、あんたがこいつを飲むんなら、そんなこたぁどうでもいい。俺は、あんたを押し倒す」
「できるかしら。あたし、これでも、護身術には自信があるの」
 勝谷は首を振った。挑むような目つきで、上唇を舌で舐める。
「盛りのついた男の腕力を、馬鹿にしちゃいけねぇ」
「もし、あたしが、このカクテルに口をつけなかったら?」
「話をしようじゃないか。乱交パーティに参加しといて、ファックしないなんてのは、まったく、イカれた話だがな」勝谷は笑った。「この奥に、俺の事務所がある。コーヒーくらい、出してやるよ」
「密室で、男と女が二人きり。それで、話?」
「したく(・・・)なったら、いつでも相手してやるよ」
「結局、話はそこに行く、と」鈴乃は言った。
 勝谷は、鈴乃の手を離した。眉を寄せ、腹を掻く。
「じゃあ、どうしたいんだよ、あんたは。面倒くさい女だぜ」
 鈴乃は、カクテルを見つめた。その縁では、いくつかの微細な水泡が、窮屈そうに、肩を寄せ合っている。
 マリは、フェラチオをしていた少年と、セックスを始めていた。髪が、彼女の体の揺れに呼応して、乱れていた。彼女の感じている快感の変動を表すグラフが、マニキュアの塗られた爪で、少年の背中に描かれていた。
 マリの相手をしているのは、この前、勝谷に教えてもらった少年だった。<フォスター>のボーカルを務めている、アンバーだ。アンバーは、マリとセックスをしながら、瓶ビールを飲んでいた。まるで、浴びるように。
 シドはなぜ、マリがいいのだろう。鈴乃は思った。シドは、どのようにして、マリを抱くのか。マリの、こんな姿を目にしても、笑っていられるのだろうか。
 アンバーは、マリに口移しで、オレンジ色の錠剤を飲ませた。ドラッグだ。少し間を置いたあと、マリは体を震わせ、奇声を上げた。
 視線の先にあるものを、勝谷に気づかれた。
「マリか。あんた、あいつに連れて来られたんだったな」勝谷が言った。「<フォスター>の、こういうパーティにゃ、必ず現われる、尻軽のあばずれだ。アンバーたちにしてみりゃ、いい玩具さ」
「そう」鈴乃は言った。
 アンバーの体が、一瞬硬直し、そしてマリの上に倒れた。果てたのだ。二人は、呼吸に大きく胸を上下させながら、抱き合っていた。
「あいつが、理由(・・)なのか?」勝谷が言った。
「理由? 何のよ」
「あんたが、このパーティに来て、そして、とどまる理由だ」
 鈴乃は、顎をしゃくって、グラスを示した。
「あたしが、その話をするかどうかは、このカクテルに託したんじゃなかったの?」
 勝谷は、肩をすくめた。
「いい加減、待つのにも、飽きたさ」
「そうかもしれない。そうじゃないかもしれない」鈴乃は、カクテルを一気に飲み干した。「そんなの、どっちでもいい。くそくらえよ。そう、思わない?」
 勝谷は、口角を上げた。
「そうだな」
 カウンターの向こうから、身を乗り出した勝谷に、うなじを掴むようにして、引き寄せられた。ドライ・ジンの瓶が、シェイカーが倒れた。勝谷に、唇を奪われていた。口内に滑り込んでくる、舌。抵抗する気はなかった。唾液と舌で、応じた。
「カクテルの名前を聞いてたな」唇を離して、勝谷は言った。「キス・イン・ザ・ダークだ」
「暗闇(・・)なんて、ないじゃない」
 鈴乃は笑った。バーの中は、どこも、照明で照らされているのだ。
 ひょい、とスツールから、体を持ち上げられた。余計な脂肪はつけていないとは言え、人ひとり分の体重は有している。重たくないわけはないのだが、勝谷は、全くそんな素振りを見せなかった。カウンターと壁の間に、そっと下ろされる。
 勝谷の体が、上に覆いかぶさってきた。
 明かりが遮られ、暗闇ができた。左右は、カウンターの裏側と、壁に挟まれている。体ひとつ分しかない、狭い個室にも似たものができていた。
「こうすれば、暗闇ができる」
「なかなか、オツな暗闇だこと」
 勝谷と、唇を重ねた。欠点を挙げるとすれば、狭すぎて、服が脱ぎづらいということだった。

つづく




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posted by 城 一 at 16:55| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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