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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年01月23日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第146回(8版)


星空の下で。


 カナコ・ローディンから話を聞いただけでは、足りなかった。彼女が把握している情報は、あくまでも<カザギワ>に関係のあるものが中心だ。<SKUNK>と<ロメオ>の抗争に関して、別の立場にいる人間からも、話を聞きたかった。カナコとも、アンバーとも異なる視点を持つ人間。約束は既に、取りつけていた。
 街に群れをなす建物が描く、いびつな線の向こうに日が落ちる頃。鈴乃は鶴見と会った。
「<SKUNK>も<ロメオ>も、もう存在しないチームだ。そんな連中のことを調べて、いったいどうするつもりなんだ?」
 コルベットの助手席で、鶴見は言った。鶴見は、赤銅色のトレンチコートのポケットに両手を突っ込み、フロントガラスの向こう側を見つめていた。積雪を待つのにくたびれて、闇色に染まっている道路を。まるで、車内には彼ひとりしか存在しないかのように。
「ただ、好奇心を満たしたいだけよ」鈴乃は言った。
 車体が小さく揺れた。浦口だ。鶴見とコンビを組んでいる、若い私服刑事。ボンネットに腰かけ、寒さに体を小さくしていた。手には、近くの自動販売機で買ってきたばかりの、煙草のパッケージ。ベッドで女の衣服を脱がすかのように、フィルムを剥がしている。鶴見は、浦口のことを眺めながら、言った。
「感心しない趣味だな」
「あなたに感心されても、全然嬉しくないけれど」鈴乃は言った。「それで?」
 抗争に関して、警察にある情報を調べてくるように、鶴見にはあらかじめ言ってあった。鶴見は横目で鈴乃を見る。
「仮にも、<カザギワ>で殺し屋をやってるんだ。分かってるだろう。ガキの喧嘩に首を突っ込むなんて、よっぽどのことがない限り、しないはずだ。違うか?」
「その、裏づけをしてほしいのよ。<カザギワ>の外部の人間にね」
 鶴見は、溜め息混じりに頷いた。フレームレスの眼鏡を外し、ペイズリー柄のハンカチで、そのレンズを拭く。
「抗争が起きたのは、大伏(おおふし)通り。通称、<クラウン・ストリート>。昔、<王冠(クラウン)>って呼ばれてたギャングが縄張りにしてた通りだ。当時はなかったが、今はその通りの上にある交差点のひとつが、<宇宙(ザ・スペース)>って呼ばれて、ガキの遊び場になってる」
「知ってるわ」
「<クラウン・ストリート>には、<ゴールデン・ハイドラント(黄金消火栓)>というのがあってな。生前、クラウンが大事にしてた消火栓だ」
「生前」
「ああ。今はもう、死んでるんだ。享年二十六歳。まあ、ギャングにすれば、妥当な寿命さ」鶴見は言った。「クラウンは自分が、その消火栓の前を縄張りにしてたこととか、他のギャングと喧嘩をしたときに投げ飛ばされて、その消火栓に頭をぶつけて大怪我をしたこととか。その消火栓で頭をかち割ってから、急に運気がよくなったこととか。運の話はまあ、本人の解釈次第なんだが。色々縁があって、クラウンはその消火栓を金色に塗って、お守り代わりにしてた。<SKUNK>は、そのクラウンの世話になったヤツらが、中心になって作ったチームだった。だから、<SKUNK>の連中は、クラウンが死んだあとも、<ゴールデン・ハイドラント>を守ってた」
「守る?」
「警察が見つけたり、この街じゃ化石だと言ってもいい、良識ある市民が、警察や消防に通報すれば、塗装を剥がされたり、上から元の色に塗りなおされたりする。そうなったとき、ヤツらがまた、金色に塗るのさ」
「ギャングにしては、神経の細かいことをするのね」
「それだけ、クラウンのことを尊敬してたんだろうさ。けどある日、当時<SKUNK>と敵対関係にあったチームが、<ゴールデン・ハイドラント>を落書きだらけにした。それが、<ロメオ>だ。<SKUNK>にしてみれば、顔に泥を塗られたのと同じだった」
「それで、抗争が始まった」
「そうだ。<ゴールデン・ハイドラント>のある、<クラウン・ストリート>一ブロック分は、それはもうお祭状態さ。通りに面した建物の大部分は、無事では済まなかった。一階部分にあった、窓及びガラス製のものは、ほとんど全てが割れ、破損した。二階より上の部分も、もちろん無傷じゃないがな。道路はガラスの破片だらけ、壁は弾痕だらけ」
「まるで、見てきたみたい」
「現場の片づけをした連中と、話をしたんだ。感謝してくれ」
「それはどうも」
「死者十四名。うち、どちらのチームにも属していなかったと思われる死体が、ひとつ」
「死体の名前は?」
「平気な顔して、クソ細かいところまで突っ込みやがるな」鶴見は眼鏡をかけなおして、顔をしかめながら、そう言った。濃いグレイのスーツの内ポケットから、手帳を取り出して、開く。「田村李代(たむらりよ)。女。当時十五歳。家族や友人に話を聞いたが、やはり、どちらのチームにも属していないようだった。ただし、彼氏が<SKUNK>の中心メンバーだった。名前は、成釜幸太(なるかまこうた)。通称、アンバー。そのことを考えれば、田村李代も<SKUNK>の関係者だったと言えるが」
「田村李代の死因は」
「心の蔵に、ズドンと一発。即死」鈴乃が口を開く前に、鶴見は先回りをして答えた。「使われた銃弾は、44マグナム」
「田村李代以外で、どちらのチームにも属さない、部外者らしき人物を目撃した人間は?」
「いない。そもそも、目撃者自体、皆無だ。自分の命を賭けてまで、野次馬したいものではないだろう? ギャングの抗争なんていうのは」
「そうね」鈴乃は言った。「あなたの見解を聞かせてくれる?」
「田村李代を除いて、十三人が死んだわけだが、<SKUNK>も<ロメオ>も、全滅したわけじゃない。怪我をしてたヤツらはいただろうが、半数以上生き残った。<カザギワ>の殺し屋が、その抗争に介在していたとしたら、そんなことにはならない」
「どちらかのチームが、壊滅的なダメージを受けていなければならない。死者のうち、<SKUNK>のメンバーだと思われる人数は?」
「ふたり。もちろん、田村李代を除いて」
 鈴乃は頷いた。アンバーの話が間違っている可能性が、高くなってきた。<カザギワ>が<ロメオ>の人間に雇われたと言うには、<SKUNK>の死者が少なすぎる。<カザギワ>の殺し屋と言えども人間で、ときに失敗があることを考慮をしても。たとえ、何らかのトラブルが発生し、その場の標的を全滅させることができなかったのだと、仮定しても。
「ただ、抗争が終わったあとも、両チームのメンバーが、ぽつぽつと殺されてる。それが、だらだらとひと月ほど続いた。<SKUNK>はそれで、抗争で生き残ったヤツらの半分を失った。<ロメオ>は、全滅。最終的に、メンバーは全員殺された」
<SKUNK>が、<ロメオ>を潰すために<カザギワ>の殺し屋を雇ったという絵図の方が、まだ信憑性があった。殺し屋が、失敗はしたものの抗争後も動き、最終的には依頼内容を満たしたという、話の方が。<SKUNK>が全滅していないのでは、逆は成り立たない。アンバーの話にはやはり、嘘が混じっている。それは確かなようだった。アンバーが作ったものであれ、誰か他の人間が作ったものであれ。
「好奇心は満たされたかい? ミス・殺し屋」鶴見は言った。
「まあまあ」
 鈴乃はそう言って、懐から封筒を取り出した。中には、十万が入っていた。が、鶴見は手のひらを上げて、鈴乃がそれを渡そうとするのを制した。
「礼はいい。その代わり、頼みがあるんだ」鶴見は言った。「これで最後にしてほしい」
 鶴見とのセックスを収めたディスクを破棄したことは、まだ教えていない。鈴乃は依然として、鶴見の弱味を握ったまま。鶴見の頭の中では、そうなっているはずだった。
「何かあったの?」
「俺に決定権がないのは、分かってる。けど、面倒なものが出てきたもんでね」
「何?」
「<ミカド>」
「それなら今、あたしたちが潰して回ってるわ」
「俺たち、警察の中に発生したものもか?」
 鈴乃は、鶴見を見た。鶴見は続けた。
「<カザギワ>と昔から繋がってた刑事が、ふたり殺された。犯人は、仲間のはずの警察官。制服だがな。自宅を調べると、本棚は雑誌やらミニコミ誌やらで埋まってた。<Z city>、<ピースメーカー>、<赤と黒>、<Black List>、<エイジ>。全部、<ミカド>を名乗る人間が作ったものだ。犯人自身も、<鉄槌>なんてミニコミを作っていやがった」
「それはそれは」
「それに、本人は頑として吐かないが、明らかに警察内部に仲間がいる。<ミカド>がな。もしそいつらに、俺が<カザギワ>に便宜を図ってることが知れれば、俺も殺されるかもしれない。お前に会えば会うほど、その危険が高くなる」
「そう」
 鶴見が、横目で表情をうかがうのが、鈴乃には分かった。鈴乃は、思案するふりをした。鶴見は言った。
「俺だって、命が惜しい」
「でしょうね」
「駄目か?」
「あたしに、“うま味”がないわね」
「そうだな」鶴見は指先で、自分の顎を撫でた。「なら、こう考えるのはどうだ? これを最後にしなくてもいい。ただ、しばらく間を置く。俺たちだって、仲間内に<ミカド>がいると、何かとやりづらい。いずれ、何らかの対処をする。それで警察内部の<ミカド>が、おとなしくなるまで、時間を置いてくれ。そうしてくれれば、また俺はお前に、便宜を図ってやれる」
「いつ頃?」
「それは、まだ分からん」
「そうね」鈴乃は、ドアの肘かけに肘を突いた。運転席側の窓から、外を見る。鶴見に、ディスクはもう存在しないことを教えようかとも思ったが、やめた。「それでいいわ」
「感謝する」
 そう言いながらも、鶴見は小さく溜め息をついた。不満なのだ。できることなら、これを機会に鈴乃と縁を切りたかったのだろう。鈴乃は何も言わず、放っておいた。鶴見はシートにもたれて、上を向いた。その眉間に、皺が寄る。
「何だ? こいつは」鶴見は言った。
 鈴乃は舌打ちした。コルベットの天井には、たくさんの画鋲が刺さっていた。難しいとは分かっていたが、あまり人に見つかりたくないものだった。手をポンと合わせて、ごまかした。
「話は終わり。早く帰った方がいいんじゃない? あたしと会ってるところ、<ミカド>に目撃されたくないんでしょう?」
「ああ、そうだな」
 なおも天井の画鋲群をちらちらと見ながら、鶴見は頷いた。そして、コルベットを出て行った。浦口とともに去っていく鶴見の背中を見送ってから、鈴乃は煙草に火をつけた。紫煙を追いかけて、視線を天井にやる。天井に画鋲が描いているのは、星座。おおぐま座と、こぐま座だった。

つづく




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posted by 城 一 at 20:29| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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