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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年02月27日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第155回(2版)


ただのネコにはなりません。


「筒本のことで、話がある。ネコ」

「あら。今日はずいぶん、決まってるじゃない。言葉遣いも、服装も。誰かとデートなのかしら?」鈴乃は言った。

 桧垣は、黒いカシミアのトレンチコートを着ていた。その中に、少し光沢のある黒いスーツ。白いシャツ。シャツのボタンは、上までぴったりと閉められていて、その体に刻まれた刺青を見ることはできない。代わりに彼の胸元を彩るのは、白いピンドットの入った、バーガンディカラーのネクタイ。履いている靴は、黒革のストレートチップ。黒革の手袋をはめた手で、グラデーションのかかったグレイのレンズのサングラスを外して、桧垣は笑った。

「そうですよ。<ツガ>組の四天王、青龍・今春(こんばる)とね」桧垣は言った。「こちとら、<カザギワ>でつい最近、情報管理部のトップに抜擢されたばかりの、若造ですからね。取ってつけたような服装で、威厳を高めようとしてるんですよ。おかしけりゃ、笑っていいですよ」

 鈴乃は、肩をすくめた。
「笑わないわ」

 このみは桧垣の手から、サングラスを奪い、自分の顔にかけた。灰色のレンズ越しに世界を見て、ほおお、と満足げな溜め息を漏らす。運転席から後部座席を振り返って、いくみが言った。

「大変そうね。桧垣君」

 ええ。そりゃあ、もう。言ったあとに、桧垣は軽く舌打ちをした。金製のシガレットケースの中身が、空だったからだ。桧垣はコートのポケットから取り出した、新しいパッケージを開封すると、ケースへと煙草の補充を始めた。

「ところで、筒本のことなんですが」
「話すことなんてないわよ」鈴乃は言った。

「覚えてないんですか」桧垣はそう言って、コートの内ポケットから、一枚の写真を取り出した。「筒本ってのは、この左端に写ってる男のことですよ。<クツマサ・ビル>で一度、会ってるはずですが」

 鈴乃は、桧垣の手から写真を取り上げた。
「知ってはいるわ。話すことがないってだけよ。<クツマサ・ビル>で会ったって言っても、
顔をチラッと見ただけなのよ。ビルに行ってすぐ、<サジマル>組が襲撃してきたしね。けど」

 鈴乃は顔をしかめた。このみも、このみも。体と腕を目一杯伸ばして、写真を見たがるこのみを無視して、鈴乃は写真を桧垣に示した。
「何なの? この写真は」

 写真には筒本の他に、井織誠、そして羽継正智が写っていた。それぞれ、サブマシンガン、ライフル、そしてトカレフで武装していた。三人の後ろには、ボロボロに破壊された酒場があった。<chaser cat>と刻まれた金色のプレートが、弾痕で歪んで、三人の足下に転がっていた。筒本の右太腿の止血帯には、布が縛りつけられていた。そのすぐ下には、銃創。歩くのもやっとの状態らしく、井織誠に肩を支えられていた。

「以前<カザギワ>にいた殺し屋、霜信(そうしん)が起こした事件のときの写真ですよ。後ろに写ってるのは、霜信が寝返った組織<クリムゾン・タイ>って言う、アメリカ生まれの殺し屋集団がアジトに使っていたビルです」
「霜信に、<クリムゾン・タイ>ね」
鈴乃は言った。ふたつとも、耳にしたことのない名前だった。

 運転席のいくみが、鈴乃の手から写真を取った。筒本たちの姿を眺めて、記憶を探るかのように目を細める。

「あのときは確か、鈴乃はまだ<カザギワ>に入ったばかりだったんじゃないかしら。知らないのも、無理はないわよ」
「俺もですよ、いくみさん。俺もまだ、<カザギワ>に入ったばかりで、右も左も分からない新人だった」
「懐かしいわね」いくみは言った。「右も左も分からないくせに、威勢だけは一人前だったわ」

 桧垣は苦笑した。
「こいつは、ヤブヘビだったかな」

「霜信は、コードネームよ。本名は阿藤浩二(あとうこうじ)。実力は申し分ないものを持っていたんだけど、なにぶん、神経が細くてね。人を殺して罪の意識を背負いすぎて、精神を病んでいた。誠が説得して、やっとのことで組織にとどまっている状態だった。でも、それが裏目に出た。“魂が腐っていた”のね」
「魂の腐敗、ね」鈴乃は言った。

 車内で自分だけ、写真が見れないことが不満なのだろう。このみは、ほんのりピンク色に染まった頬を、ぷっくりと膨らませていた。鈴乃はその肩を撫でながら、風際秀二郎と高田清一の死について話したときのことを思い出していた。

「当時、組織と阿藤浩二の仲介役を担っていたのが、筒本君。でもあるとき、阿藤浩二に殺しの命令を持っていったきり、連絡がつかなくなった。何日か経っても、帰ってこない。誠は、部下を阿藤浩二の自宅に行かせたんだけど、もぬけの殻。誠は、阿藤浩二が精神的に不安定になっていたことを知っていたからね。何か、トラブルがあったんだと考えた。そして、実際にその通りだった。いつも阿藤浩二に<カザギワ>からの命令を持ってきていた筒本君を逆恨みして、我を失った阿藤浩二は、筒本君に暴行を働いた。けど、すぐに冷静になって、今度は怖くてたまらなくなった。このまま筒本君を返せば、自分の頭の中が破綻をきたしていることを、<カザギワ>に知られてしまう。下手をすれば、筒本君へ危害を加えたことに対する、罰を与えられる。阿藤浩二は筒本君を監禁した」

 このみは諦めずに、いくみが眺める写真に向かって、手を伸ばし続けていた。いくみは前後左右に手を動かして、それから逃れていたが、面倒くさくなったのか、写真をこのみに渡した。男三人が武装して、破壊した酒場を背に立っている姿が写っているだけの写真を、このみはまるで、宝物でも手に入れたかのように喜びながら、受け取った。
 いくみは続けた。

「誠は、阿藤浩二と筒本君の捜索のために部下を動かしていたんだけど、ふたりが見つかるどころか、部下が姿を消した。誰がどう考えても、トラブルが起きていることは明らかだった。誠はその件に関して、もっと人員の数が必要だと考えて、上司に申告した。けど、当時の誠の上司は組織を裏切っててね。<クリムゾン・タイ>と繋がっていたの。さっき桧垣君が言った、アメリカからやって来た、<カザギワ>と敵対していた殺し屋集団よ。誠の上司だった矢追和隆(やおいかずたか)は、実力で劣っていた<クリムゾン・タイ>に、<カザギワ>から有望な殺し屋を引き抜くという命令を受けていた。矢追は、阿藤浩二がそれにうってつけの人物だと考えた。だからね。矢追は秘密裏に阿藤浩二と接触を持ち、<クリムゾン・タイ>へと寝返るように働きかけていたの」

「でも、阿藤浩二はもう、殺し屋稼業に嫌気が差していたんでしょう?」鈴乃は言った。

「ネックだったのは、罪の意識よ。けど、それを<カザギワ>のせいにすれば、楽になれる。<カザギワ>が無理やり、自分にやらせていたんだと考えればね。要するに阿藤浩二は、殺した者の命を、背負いたくなかったのよ。そういう考え方に至った時点で、殺し屋失格なんだけど、阿藤浩二は理解していなかったみたいね。矢追は、それを見抜いていた。組織を裏切るような人間なのにも関わらず、矢追が<カザギワ>で幹部格の人間になれたのは、人心掌握術が優れていたからなのよ。で。そういうとき、どうすればいいか分かる? 鈴乃」

「責任転嫁」

「そう。矢追も、同じ考えだった。だから、<カザギワ>を徹底的に悪者にした。悪いのはお前じゃない。あいつら<カザギワ>が悪いんだ、とね。そして、その<カザギワ>に追われる阿藤浩二を守ってやれるのが」

「<クリムゾン・タイ>だと」

「誠の部下が消えていたのは、阿藤浩二が殺していたからなんだけど、その死体が出なかったのは、矢追が陰でフォローをしていたからよ。部下とともに、死体の処理をしていた。誠はふたりの捜索を続けた結果、自分の上司が、裏で怪しい動きをしていることに気づいて、矢追に直接聞いたのよ。馬鹿な話よね。組織を裏切ってるかもしれない上司に向かって、直接“裏切ってるのか”って聞くのよ? 正直者は馬鹿を見る。誠は、矢追とその部下に消されそうになった」

「それを助けたのが、飛燕。羽継さんなんですよね」桧垣が言った。

「矢追が組織に対して背信行為を働いているという嫌疑は、前々からあってね。それを洗うために動いていたのが、あたしなの。誠が、矢追と直接、背信行為について話し合いを持とうとしていると聞いて、羽継を送り込んだのよ。彼は誠を助けて、矢追を殺したけど、阿藤浩二と筒本君の身柄は既に、<クリムゾン・タイ>に渡ったあとだった。阿藤浩二は、有望な殺し屋として。筒本君は、有望な情報源として。つまり、阿藤浩二は<クリムゾン・タイ>に歓迎されたけど、筒本君は拷問を受けることになった。あたしたちは筒本君を助け、<クリムゾン・タイ>を殲滅するためのチームを編成、ヤツらがアジトとして使っているという<ショアズ・ビル>に送り込んだ。写真はね、誠たちが筒本君を助け出し、<クリムゾン・タイ>を潰したあとに撮ったものなのよ」

「なるほどね」
 鈴乃は再び写真を手に取り、懐かしい羽継の姿に視線を落とした。このみは既に写真に飽き、双眼鏡で遊び始めており、写真を取り上げるのは簡単だった。

「矢追和隆の裏切りについては、あたしも確信を持てずにいた。誠が筒本君のために、必死になって動いてくれたお陰よ。そのお陰で、息を潜めてた矢追や<クリムゾン・タイ>が、活発に動き始めた。その事件を知ってるから、きっと筒本君は信じられなかったでしょうね。誠が、<カザギワ>を裏切ったと聞いたときは。あたしも、すぐには信じられなかったもの」

「その筒本から、<デイライト>掃討作戦開始直前に、ビル内に爆弾が仕掛けられているという情報が入りました。そして、ビルの一階部分が爆発。彼の情報は、裏づけられた。しかし」

「<カザギワ>も<ツガ>も、ビル内に踏み込んでいないのに、爆弾を使う理由がない。爆弾があるのなら、敵を殺すために使うのが普通だわ。敵がビル内に踏み込んだときを、見計らってね。筒本君からの情報も、そういった内容だったのにも関わらず、爆弾は有効に使われなかった。矛盾ね」いくみは言った。

「いくみさんなら、どう考えます?」

「自分の命を救ってくれた人が、尊敬していた人が、組織を裏切った。あたしなら、そうね。その理由が知りたいと思うわ。組織の作戦を妨害してまで、そうするかは分からないけれど」

「俺も、そう考えました」桧垣は言った。「あくまでも」
 桧垣の言葉が、遮られた。双眼鏡を覗き込んでいたこのみが、叫んだのだ。「写真のおじさんがいたよ!」と。

 鈴乃はこのみの手から双眼鏡を奪い取り、<ミタライ・ビル>を見た。五階に、ひとりライフルを構えて、<デイライト>と銃撃戦を繰り広げている、筒本の姿があった。

「決まりね」鈴乃は言った。

「<カザギワ>が<ツガ>と共同で取り組んでる、<デイライト>掃討作戦。それを妨害してまで、かつての上司へと歩み寄りたいのか」桧垣は呟いた。

 銃声が続く中、筒本の姿が消えた。鈴乃は双眼鏡を覗いたまま、言った。
「裏切ったのなら、こんなことはしないわ」

「分かってますよ。けど、裏切りに値する行為だ。今起きてるトラブルの原因が、<カザギワ>の構成員であることが<ツガ>に知れれば、合併時におけるパワーバランスが、あちらさんに傾くことになるかもしれない」

 お気に入りの玩具を取り上げられて、今にも泣きそうになっているこのみに、鈴乃は双眼鏡を返してやった。
「なら、どうするの?」

 桧垣は、煙草を詰め終わったシガレットケースから、早速一本取り上げ、プレッツェルように、それに歯を立てた。
「いくみさんなら、どうします?」

 いくみは首を振った。
「この作戦の指揮を取っているのは、あなたよ。桧垣君。それは、あなたが決めなさい」

「ですよね」桧垣は言い、煙草のフィルターを噛みちぎった。溜め息混じりに言う。「爆弾の情報を流したのが筒本だということは、幸い<カザギワ>側の人間しか知りません。情報規制を敷き、筒本を消せば、今回のトラブルの原因が<カザギワ>の構成員だということは、<ツガ>側には伝わらない」
「やるのね」

 桧垣は、ボロボロになった煙草を、手のひらの中で握り潰した。そして、口許を歪める。

「実はね。既に、<ミタライ・ビル>の一階部分が爆発したあとに開いた、今春との会議で、了解を取ってあるんですよ。うちの殺し屋を送り込むことをね。爆弾が仕掛けられているのなら、フットワークの軽い少数精鋭でビルに突入した方が、爆発を避けられる可能性は高い。たとえ避けられなかったとしても、失う人数は少ない方がいいだろうと、言ってね。まあ、それはあちらさんを納得させるためだけに言ったことですがね」

「さすが、高田の選んだ男ね。頭の回転が速いわ」
「そりゃ、どうも」

 鈴乃はSUVのドアを開けて、外に出た。冷たい空気で、肺を満たす。遠くに聞こえていた、筒本と<デイライト>の奏でる銃声が、少し近くなる。いくみに言って開けてもらい、トランクから松葉杖の形をしたショットガンを出した。スペアのマカロフ用の弾倉や、散弾、手榴弾が詰まったリュックサックを背負う。

 鈴乃を追うようにして、桧垣もSUVの外に出てくる。
「どこへ行くんですか? ネコ」

「ビルに送り込む殺し屋。決まっていないんでしょう?」マカロフの弾倉の中身を確認して、装填しなおしてから、鈴乃は言った。「なら、あたしが行くわ」

「なぜ」

「井織と話をしたいと考えているのは、筒本だけじゃないってことよ」

「足の具合は、大丈夫なんですか? “失敗した”じゃ済まされませんよ」

「少なくとも」鈴乃は微笑んだ。「怪我を理由に、飛べない“ただのネコ”になるつもりはないわ」

つづく




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ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第154回


堂々巡り。


 宙を舞ったマウンテンバイクが道路でバウンドし、向かい側の縁石にぶつかって止まった。爆風で吹っ飛んだのだ。星が落ちてきたかのように道路がきらきらと輝いているのは、入口に鎮座していた自動ドアの欠片が辺り一帯に降り注いだから。牢獄としての機能を失った刑務所から逃げ出した囚人たちのように、ビルの入口から出てきた、濃密なまでの灰色の煙が、夜空を濁していた。

<カザギワ>は、混乱していた。SUVのフロントガラスのすぐ下に設置された、車載型の無線機が、休む間もなくいくみに状況の確認を行っている様子で、それが分かる。何度も同じことを聞かれるので、既にいくみは飽きているようだった。運転席側のドアの肘掛けに肘を置き、頬杖を突きながら、マイクに向かって気のない返事を繰り返している。

「ちゃんと、仕事したら?」
 鈴乃の言葉に、いくみは欠伸混じりで答えた。
「してるわよ。ちゃんと、状況の確認に答えてるでしょ。“異常なし”ってね。それとも、何?“うちの娘が、厄介という言葉を教えました、どうぞ!”とでも言う?」
「あなたが必要だと思うんなら、やれば?」
「必要だとは思わないから、やらないわ」いくみは言った。「桧垣君も、初っ端から面倒なことになったわね」

<カザギワ>と<ツガ>の共同で行われている(あるいは、その予定だった)、この<デイライト>掃討作戦。<カザギワ>側の責任者は、桧垣だった。<カザギワ・ビル>という本拠地の中で仕事をするだけだった彼が、初めて外に出た初陣だ。鈴乃は、同情を禁じえなかった。

「当の本人は、何て言ってるの?」
「無線には出てこないわよ。そんな場合じゃないもの。部下から集まる情報を整理して、そこから今、どういった状況にあるのかという答えを出すのに、必死に頭を回転させているはずよ。かわいそうに。あの<ミタライ・ビル>みたいに、彼の頭がそのうちに、オーバーヒートで煙を吹き始めても、不思議じゃないわ」

 白黒のぎざぎざの縞模様のお陰でかわいさが減退している、丸い黒レンズのサングラスをかけた、うさぎのぬいぐるみに、鈴乃が教えた「厄介なことになったわね」の台詞を繰り返していたこのみが、顔を上げて鈴乃を見た。

「“やっかい”って、どんな貝?」

 冗談ではなかった。まだ情報の蓄積が足りない脳で、彼女なりに必死に考え、“やっかい”という言葉を吟味した結果の質問だった。純粋な好奇心で輝く目を見れば、それは分かった。鈴乃は言った。

「黒くて、ぬめぬめした粘液にまみれた貝でね。直径二メートル。下側の貝殻に、鼻孔を持ってるの」鼻孔という言葉を聞いて、このみは首を傾げた。鈴乃は頷いた。「鼻の穴よ。そこは普段は閉じてるんだけど、ときどき呼吸をするのに使うの。で、鼻息を吐くとすごい勢いだから、上空何千メートルもの高さまで飛び上がるのよ。ときどき、UFOを見たって言う人がいるでしょう? でも、それは本当はUFOなんじゃなくて、“やっ貝”なの。ちなみに、“やっ貝”の吐く鼻息は、鯨の潮吹きと同じメカニズムだって言われてるわ」

ふーん。理解しているのか、いないのか。不明瞭な表情で相槌を打ったのこのみは、縞模様のうさぎのぬいぐるみに「すごいね」と言った。実に簡潔な解釈だ。

「こっちも、情報が錯綜してるわね。あまり、変なことを教えないでよ」
 いくみの言葉に、鈴乃は頷いた。
「アー・ハ」

 無線機のマイクを操作しながら、いくみはフロントガラス越しに、<ミタライ・ビル>を見つめていた。入口から上る煙は細くなっているものの、まだ止まっていない。いくみは言った。

「どう思う?」
「どうもこうも」鈴乃は言った。「こっちの状況は、どうなってるの?」
「<ツガ>も<カザギワ>も、動いてないわ。少なくとも、今現在、無線から入る情報だとそうなってるわね。にも関わらず、<ミタライ・ビル>の一階が爆発した。ただ、直前に<カザギワ>に情報が入ってたみたい。筒本君から。知ってるわよね、あなたは確か」

 筒本。聞き覚えのある名前だったが、いまいちぴんと来なかった。鈴乃は、ちょっと、と言葉を濁した。

「井織誠の部下だった男よ」いくみは言った。「<クツマサ・ビル>で、一度会ってるはずだわ」
「ああ」

 映像ははっきりとしなかったが、会ったことがあるというのは、いくみの言葉で分かった。だが、本当に“会っただけ”だ。筒本に関して、何の思い出もともなってこない。

「その筒本君が、作戦開始直前に<ミタライ・ビル>に爆弾が仕掛けられてるという報告をしてたみたいなの。<デイライト>は、<カザギワ>及び<ツガ>がビルに突入したのを見計らって、ビルごと自爆するつもりだってね。作戦の開始が遅れたのは、そのせいよ」
「筒本は、今どこにいるの?」
「報告が入る少し前から、姿を消しているわ」
「筒本が、どうやってその情報を手に入れたのかは」
「不明」
「まあ、爆発は実際にしたんだから、爆弾はあったんでしょうけど」鈴乃は言った。「自爆するつもりだったんなら、あたしたちが突入する前に爆発した説明がつかないわ」
「<デイライト>のお馬鹿さんが、扱いを間違えて爆発させた」
「だと、いいんだけど。敵の人員が減ったことになるから。けど、何にせよ。爆発を理由に作戦の開始を、長々と遅延させていたら、警察に与えた賄賂の効用にも限界が来る」
「ええ」
「だからと言って、爆弾の存在を無視することはできない。お互い、合併を控えた組織同士。判断を間違って、相手側に無駄な死傷者を出せば、パワーバランスが相手側に傾くかもしれない」
「判断に時間がかかる。総合すると?」
「厄介なことになったわね」
「堂々巡り」

 知らないおじさんが来たよ。うさぎと戯れていた、このみが言った。窓の外を見ると、桧垣がいた。鈴乃と視線を交わすと、後部座席に滑り込んでくる。せまーい。鈴乃と桧垣に挟まれる形になったこのみは言った。愚痴をこぼす幼女の頭を撫で、桧垣は言った。

「筒本のことで、話がある。ネコ」

つづく




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posted by 城 一 at 21:42| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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