Gusuku LABELへようこそ!
最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年06月09日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第183回(7版)


そう遠くないうちに、必ず。


 ログハウスを出、乗り込んだ車の中で、慶慎は目隠しと手錠をされた。しばらく車に揺られたのち、どこかの建物に入り、背もたれのある椅子に座らせられた。視界は遮られたままだったが、扉が閉まった音、そしてその響き具合で、自分のいる場所が小さな部屋だということが分かった。

 時間が経過し、ドアが開く音を聞き、目隠しを外された。目の前に、リタ・オルパートがいた。

「ごきげんよう、坊や」

 開けた視界に映ったのは、想像した通り、小ぢんまりとした部屋だった。コンクリート打ちっぱなしの壁。そして、床と天井。天井からは裸電球が一つ、ぶら下がっていた。壁にくっつけるようにして、安物で使い古されたスプリングベッドがあった。その上に、薄汚れた敷布団と掛け布団。そして、枕。部屋の隅では、膝の高さの電気ヒーターが、赤く燃えていた。どこかから聞こえる、遠い騒音が響き、部屋全体がわずかに震動しているように感じた。灰色に塗られた、鉄製の扉が一つ。その脇に、リタ・オルパートが腕を組み、寄りかかっていた。長い髪を首の後ろで束ね、チョコレート色のパンツスーツに身を包んでいた。ジャケットの下に、白い、薄手のタートルネックのセーター。スーツと同色の靴。踵には、低いヒールが付いていた。

 足下では、アイザック・ライクンが、椅子に座る慶慎の両足首に、手錠をはめていた。手首にしてあるものよりも、輪と輪を繋ぐ鎖が長い。リタに手を出したら、彼女が何と言おうと、お前を殺す。耳元にそう囁き、アイザックは部屋を出ていった。

 慶慎は言った。

「ここは、どこですか?」

「僕を殺してくれ≠ニ言った子が、自分の居場所を気にするの?」

「生きる意志があろうが、なかろうが。目隠しを外されたら、そう聞きたくなるのが、人間の心理ってものじゃないですか?」

 リタはくすりと笑った。

「それもそうね。でも、教えられないわ」

「そうですか」

「何か、欲しいものはある?」

「死」

 リタは微笑を浮かべた。

「それは、もう少しあとにしましょう。お腹は、減っていない?」

「なぜ、そんなことを聞くんですか? 僕は、あなたの客じゃない。あなたは、殺したくて、僕のことを探していたんでしょう? 招待して、もてなすためにじゃなく」

「もちろん、そうよ」

「なら、どうしてそれを、すぐに実行に移さないんですか」

「時間をかけて、じっくり愉しみたいからよ」リタはそう言うと、慶慎に歩み寄り、その頬を撫でた。「そう焦らないで、ベイビ。そう遠くないうちに、必ず殺してあげるから」

「そうしてください」

 リタは頷くと、慶慎から離れた。元いた壁際に戻り、元の姿勢で寄りかかる。

「見張り役も兼ねて、あなたに一人付けるわ。お腹が減ったり、トイレへ行きたくなったり、シャワーを浴びたくなったりしたら、何なりと言いつけてちょうだい。何か、欲しいものがあるときでも。ただし」リタは片目をつむり、ウインクをした。「死以外のものにしてね」

「これから殺す人間に対する扱いとは思えない」

「かもね。でも、いずれあなたにあげるものが、肉体及び精神的疲労や苦痛で、曖昧になったり、軽減されてしまったりしては、台無しでしょう?」

「あげるもの」慶慎は、確認するように自分で呟いた。

「さ、眠ったらどう? 疲れたでしょう」

「そう言われて、はい、分かりました≠ネんてすぐに眠れるほど、神経は図太くないですよ」

「睡眠導入剤でもあげましょうか?」

「それで殺してもいいですよ」

 リタは、また微笑を浮かべた。

「そんなことはしないわ」

「何にせよ、試してみてもいいですか?」

「もちろん」

 リタは一際大きく頷き、そう言った。

つづく




続きを読む
前回の話を読む
ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第1回から読む
ブログ小説 焔-HOMURA- scene1から読む
posted by 城 一 at 05:09| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。