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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年08月22日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第194回(2版)


人は、なぜ。


 床に転がった。縛り付けられた椅子ごと。前のめりに。警戒心を高めた〈ナンバーズ〉が、それぞれ手にした武器で、慶慎の視界を遮った。皆、装備しているのは、銃ではなかった。突いたり、打ち据えたりするための、長い得物。もし銃を使えば、弾は慶慎よりも、味方に当たる可能性の方が、高い。彼らの武器が背中を突き、慶慎の体を床に押し付けていた。邪魔だ。はねのけようと、慶慎は体を揺らした。半端な抵抗。〈ナンバーズ〉の何人かが、体の上に乗った。息が詰まる。

「そんなこと」のしかかる者たちのお陰で、慶慎は満足に顔を上げることができなかった。ステージの上が見えない。「許されない」

「誰にも許されなくて結構」リタが言った。

「僕を殺したいんじゃなかったのか」

「それはもう、殺したいわ。狂おしいほどに。けれど同時に、肉体的な死にはこだわらないわたしもいるの。困ったものね」

「彼女たちは、関係ない」

「既に聞いたわ」

「関係ないんだ。僕を殺せ。命を奪え。それでいいじゃないか。終わりじゃないか」

「何が?」

「僕が、松戸孝信を殺したこと。だから、こんなことをしてるんだろう? 僕が、憎いんだろう?」

「自分が死ねば、彼を殺した罪が、帳消しになる?」

「それは」

 リタは椅子から立ち上がり、ステージ脇の階段を下りた。慶慎の前に行き、ドレスの裾の行方に注意しながら、片膝を突く。

「顔を上げなさい、坊や」

 リタが目で合図をした。〈ナンバーズ〉が、慶慎の背中から下りる。代わりにまた、得物の先端を、慶慎に押し付けた。慶慎は、リタに言われた通りにした。

「あなたは、あたしに言ったのよ? “僕を殺せ”と。あなたは、命を捨てたの。あたしはもちろん、あなたの命が欲しかった。でもそれは、あなたに必要で、大切なものであったから。あなたがいらないなら、あたしもいらない」

「なら」

「人は、なぜ自ら死を選ぶのか、考えたことがある?」

 慶慎は何も言わなかった。

「あたしはこう考える。A。その人が持っている知識と想像力を用いた計算が弾き出す、死が与え得ると予測される肉体的苦痛を、その人が受けている、あるいは受けることを回避できないであろう肉体的苦痛が凌駕しているため。つまり、その人の肉体的なものを守るため。B。その人が予測する、死が与え得る肉体的苦痛を、その人が受けている、あるいは受けることを回避できないであろう精神的苦痛が凌駕するため。つまり、その人の精神的なものを守るため。さらに要約すると、心ってことね」

「何を言ってるのか、僕には分からないよ、リタ・オルパート」

「あたしは、あなたはBに該当すると考える。あたしは、あなたの心が欲しい」

「心に形はない。体と違って、壊すことはできない」

「そうかしら? 例えば、あなたの思い出の場所を写した写真がある。あなたはその写真を見ると、感情を動かされる。良い方向、悪い方向、どちらでもいい。喜怒哀楽のどれか、あるいはそれらが混じり合ったものでもいい。その写真を破り、焼き捨てることは、あなたの心を傷付けることには?」

「写真がなくたって、思い出すことができる」慶慎は言った。「お前の御託には、もううんざりだ、リタ・オルパート」

 リタは微笑んだ。

「残念ね。無理にでも付き合ってもらうわよ」彼女は言った。「そう、人は思い出すことができる。それに、その写真には、フィルムが残っているかもしれない。その上、思い出の場所は失われたわけではない。そこに行けば、あなたはまた、思い出に浸ることができる」

 リタは慶慎の頬を一撫ですると、ステージを振り返った。

「その、思い出の場所を破壊したいところだけど、“場所”というのは少々、曖昧なものだからね。破壊は難しいかもしれない。でも、その“場所”が“人”の場合は?」

「お前」

「死を与えれば、人は壊れる。あなたがその人に抱いた感情、その人と築いた思い出は壊れる」

 慶慎は拘束から逃れようとした。また、体の上に〈ナンバーズ〉が飛び乗った。

「記憶がある」慶慎は言った。「僕は思い出すことができる。人を壊そうが、何をしようが。僕を殺す以外に、お前に方法はないんだ、リタ・オルパート」

「そうかしら?」リタは〈ナンバーズ〉を見た。「誰か、市間安希の小指の爪を剥がしてくれないかしら?」

 誰も動かなかった。リタは、群集の後ろに目をやった。所々、塗料の剥がれた、エメラルドグリーンのベンチに腰掛け、肩から提げたベースを爪弾いている少年がいた。靴紐を結ばず、緩めきった状態で履いた、くたびれたバスケットシューズ。両膝に穴の開いた、色の薄いジーパン。ホットパンツ一つ身に付けただけの半裸の女――ポールに体を押し付け、舌を突き出している――の写真が白黒で印刷された、黒いTシャツ。アンバーだった。リタは彼の名を呼んだ。アンバーは顔を上げなかった。返事もせず、頷きもしない。ただ、言った。

「彼女がいなければ、俺は真実を知らない、ただの間抜けだった。俺の意に反しない限り、彼女の言葉は、俺の言葉だ。何度も言わせるな」アンバーは、口角をわずかに上げた。「それとも、俺の歌にはもう、飽きちまったかな?」

〈ナンバーズ〉は、ざわざわと否定の言葉を呟き、首を横に振った。そのうちの一人が前に出て、言った。

「そんなわけはない。悲しいことを言わないでくれ、ヘッド。ただ俺たちは、彼女が、まるで自分のものみたいに、俺たちに命令するから」

「お前たちは、ミス・オルパートから、銃をもらった」

「ああ。山ほど」

「ミスタ・ライクンから、銃の扱いについて訓練を受けた」

「かなり厳しく」

「それに、麻薬(ドラッグ)をもらった。麻薬は嫌いか?」

「いや」

「それに、この街の真実を教えてもらった」

「殺し屋集団〈カザギワ〉を筆頭に、反社会的組織のごみどもが今までやってきた、吐き気のするような犯罪の数々を」

「彼女たちがいなければ、俺はただのバンドマンで、お前らはただの、悪く言うつもりはないが、ファンに過ぎなかった」

「俺もヘッドのことを悪く言うつもりはないが、確かにそうだった」

「俺たち、彼女たちには借りがある」

「ああ、そうだな」〈ナンバーズ〉の一人――銀色に染めた頭を、坊主にしていた――は頷いた。「その通りだ」

 銀色の坊主頭は、部屋の隅で工具箱を開けた。ペンチを取り出し、ステージに上がる。リタを見て、頷く。リタは言った。

「ありがとう」

 銀色の坊主頭は、安希の左手の小指から、爪を剥ぎ取った。

つづく




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posted by 城 一 at 13:27| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月14日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第193回


次の問いに答えなさい。


 眠り、食事をした。洗浄はされたとは言え、人が死んだ部屋で。嗅覚を澄ませれば、血のにおいを嗅ぎとることができる。人の死に対する、慣れを感じた。

 新しい見張り役は、アイザックが“狂信者”と称した者たちだった。茶系のミリタリールックに、身を包んでいる。慶慎に対する扱いは、この上なく丁寧だった。まるで、ホテルにいるようだった。

 医者が来て、リンチによって受けた傷の治療も行われた。綺麗に禿げ上がった頭。メタルフレームの、丸縁眼鏡。白衣の下にスーツ。治療の様子を見守る〈ナンバーズ〉を目で示し、慶慎は医者に訊いた。

「彼らが何なのか、分かってるんですか?」

 医者は、レンズの向こう側から、訝しげな視線を送ってきた。下睫毛の長い、爬虫類のような目。彼は表情を変えず、もちろんだ、と答えた。

「なら、どうしてこんな所で、こんなことをしてるんですか」

 医者は、口許を歪めた。

「てっきり君は、知ってるのだと思っていたよ」

〈ナンバーズ〉の一人――最初に会ったときに既に、“41”と刻まれた刺青を見せられていた――は言った。

「食の対象として知られている魚たちは、自分たちがたどり着く可能性のある終着点の一つに、まな板の上があることを知らない」

 医者は、医療器具で膨らんだ鞄から、プラスチックケースに入った塗り薬を取り出し、慶慎の体に塗った。そして言った。

「それは、魚に限ったことじゃないな」

「もちろん」

 41番は言った。

 医者が帰ると、41番が、体力の回復のため、眠るように、と言った。拒否したが、相手も譲らなかった。そう時間が経過しないうちに、強烈な睡魔に襲われた。慶慎は舌打ちした。睡魔に襲われる直前、水を飲んだことを思い出したのだ。中に、睡眠導入剤を溶かされたに違いなかった。

 暗くなる視界の中で、慶慎は言った。

「なぜなんだ。どうして、すぐに殺さない。こんな回りくどいやり方を」

 41番は、もう一人の〈ナンバーズ〉と協力して慶慎をベッドに運び、そっと布団を掛けた。意識が途切れる直前、彼が何事か呟いていた。聞き取ることはできなかった。



 取り戻した視界は、光で満ちていた。目が眩んだ。スポットライトで照らされたステージが、自分の前にあるのだと気付くまでに、十数秒かかった。

 ステージの上には、体つきで女だと分かる者たちが、三人いた。紙袋を頭にかぶせられ、背もたれと肘掛けのある椅子に、手足を固定されていた。慶慎も似たような状態だったが、椅子はキャスター付きで、肘掛けはなかった。両手は背もたれ越しに組まされ、手錠を掛けられていた。

 ステージ上には、女たちの他に、三人。リタ・オルパート、アイザック・ライクン。もう一人は、容姿すら、確認することができなかった。黒いジーパンに、黒いTシャツ、黒いトラックトップ。黒い、フルフェイスのヘルメットをかぶっていた。

 リタは、ゆったりとした動作で、脚を組んだ。彼女は、女たちと同じ椅子に座っていた。もちろん、拘束はされていない。強い光を受けて、鈍い赤色に輝く長髪を、後頭部のわずか上方でまとめていた。いつもより丁寧に施された化粧。真紅の口紅。真紅のロングドレス。深く入った切れ込み(スリット)から覗く太腿。赤いピンヒール。同色で塗られた爪を瞳の隣に添え、肘掛けを利用して、頬杖を突いていた。

 アイザックは、リタの傍らに、静かに佇んでいた。真っ白なタキシード。真っ白なシャツ、そしてネクタイ。同色の手袋。靴。真っ赤な薔薇を一輪、タキシードの胸ポケットに挿していた。金髪は整髪料で後方へ撫でつけ、オールバックにしていた。相変わらず、その左腕は失われたままで、袖が、所在なさげに垂れ下がっていた。顔の右側を、醜い傷が縦に走っていた。傷は右目の上も通過しており、潰れていた。ゴムで固定されたガーゼと、白いプラスチックのシートが、アイザックの右目を覆っていた。

 ステージの下にいる慶慎は、囲まれていた。三脚で、慶慎の顔がフレームの中に収まる位置に固定された、ビデオカメラに。そして、一目では数えきれないほどの、〈ナンバーズ〉に。彼らはほとんど口を利かなかったが、彼らの発する気配は、窒息しそうなほど、慶慎を圧迫していた。

 慶慎は、眩しい光の中でうなだれる、三人の女たちを見ていた。顔は分からないが、彼女たちのことを知っている気がした。声を上げようとする記憶を、強すぎる光と、緊張感が邪魔した。

 リタ・オルパートが、金製のシガレットケースから取り出した煙草をくわえた。アイザックが、火をつける。リタはそれが、さも当たり前であるかのような表情を浮かべていた。一服してから、彼女が言った。

「お待たせ、坊や。約束通り、殺してあげる」

「たかがそれだけのために、これだけの人を集め、こんなステージを用意したんですか。酔狂なことだ」

「そう?」

「やろうと思えば、一瞬で終わることだ」

「なら、なぜ、あたしの手に頼ったの?」

「さあ。なぜなんでしょうね」

「考えたくない?」

「考える必要もないでしょう」

「意気地のない子だこと」

「何とでも」慶慎はおおげさに肩をすくめ、力なく笑った。「さ、殺してください。銃でずどんとやるんですか? それとも、〈ナンバーズ〉にリンチさせて、撲殺する? あるいは、もっと凝った方法を?」

 リタが、煙草を下に向けた状態で、横に突き出した。アイザックが、硝子製の灰皿を差し出す。リタは、煙草を揉み消した。

「まずはその前に、解いてほしい問題があるの」

 リタが、煙草を挟んでいた指先を振った。フルフェイスのヘルメットをかぶった少年――彼は、この空間にいる者たちの中で、最も背が低かった――が、頷いた。リタの側を離れ、自由を奪われた三人の女たちの頭から、紙袋を外す。

「馬鹿な」

 慶慎は、目を見開いた。

 背筋に走った悪寒に、全身が震える。開いた毛穴から噴き出す脂汗。椅子ごと立ち上がろうとして、〈ナンバーズ〉の一人に制された。ブラックジャックの先端を、喉にあてがわれていた。

「いい反応ね」リタが言った。

「これは、何の冗談だ」

 ステージの上で拘束された三人の女は、慶慎の知っている者たちだった。岸田海恵子、市間安希。そして、サニー・フゥ。彼女たちは、口にギャグボールをはめ込まれており、喋ることができなかった。ただ、疲労と困惑の表情で、自分たちのいる場所、そこにいる者たち、そしてその中で唯一よく知っている、慶慎の顔を見ていた。

 リタが言った。

「冗談で、こんなことはできないわ」

「何にせよ、彼女たちを解放しろ。彼女たちは、関係ないだろう」

 リタは、下唇の裏側を、舌で舐めた。

「もちろん、あるわ」

「ふざけるな」

「あたしは、大真面目よ、坊や」リタは、顔中に笑みを広げながら、言った。「さて、問題です。次の問いに答えなさい」

 ふざけるな! 慶慎は叫んだ。リタは、それが聞こえなかったかのように、続けた。

「岸田海恵子、市間安希、サニー・フゥ。次の三人のうち、あなたにとって、優先順位の“低い”者から順に選びなさい」

 呼吸が乱れていた。慶慎は、深呼吸をするように努めた。そして、言った。

「そんなものを選ばせて、どうする」

「坊やにとって優先順位の低い者から、順に」リタは言った。「殺すわ」

つづく




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posted by 城 一 at 07:14| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月11日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第192回


ただの戯れ。


 時間の感覚が、曖昧になっていた。リタ・オルパートからもらった睡眠導入剤で、無理矢理眠ったせいだ。空腹のサインも、便意も。あてにはならない。日の光がない空間で、体力だけが余っていた。生を見限ったことが、思考回路にブレーキをかけていた。ごく自然なことだ。いくら考えようとも、この先自分に待っているのは、ただ一つ。死なのだから。変わるのは、その終着点と、そこへ至るまでに自分がたどった道程(プロセス)の、解釈の仕方だけだ。

 慶慎に付いた見張り役は皆、ティーンエイジャー、あるいは十代を過ぎたばかりの者たちだった。総じて、若い。安っぽい、暴力的な態度。敵意ある視線。見張り役たちに見られる共通点だった。理由を垣間見たのは、見覚えのある顔を、見張り役の中に見つけたときだ。その少年の視線に込められた敵意は、他の者よりも濃度が高かった。

「覚えてるか、俺を?」

 少年は言った。思い出したわけではない。ただ、彼の声が、一つの名詞を浮き上がらせた。慶慎はそれを口にした。

「〈アンバー・ワールド〉?」

 返事は拳で返ってきた。内蔵が跳ね上がる。慶慎は、胃液混じりの唾を吐いた。

 抵抗はできなかった。事前に、手錠を手足にはめなおされ、背もたれと肘掛けのある木製の椅子に、体を固定されていた。

 攻撃は、一定のリズムで続いた。痛みに耐えるため、意識を体の内側に集中させる間に、部屋の中にいる人数は、一人から三人に増えていた。

〈アンバー・ワールド〉。夜の街で、市間安希に絡んでいた、不良グループだった。安希を助けようとすると、暴力的な手段に出てきた。だから、同じように、暴力的な手段で退けた。だが。

「どうして君たちが、ここにいる? ここは、リタやアイザックの根城じゃないのか?」

 脇腹に蹴り。返事を待っていた体は、ことさら無防備だった。倒れてしまいたかったが、椅子がそれを妨げる。少年は言った。

「簡単なことだ。なぜなら、俺たちは、ミス・オルパートと、行動をともにしてるからだ」

「なぜ」

「なぜだと?」

 喉。絞めるようにして摑み、力を込められ、椅子ごと床に倒れた。腹を踏みつけにされる。

「お前らは、アンバーの恋人を殺したからだ」

「ら? 〈カザギワ〉のことを言ってるのか?」

「そうだ」

「アンバーの恋人は、〈DEXビル〉の一件のとき、その現場にいた?」

「いや。その件は、関係ない」

「なら、僕は、アンバーの恋人の死には、関わっていない」

「だから? お前は、〈カザギワ〉の殺し屋だろう? 組織の一員、組織の一部だ。〈カザギワ〉の一人として、罪を背負うべきじゃないのか?」

「その通りだ」

 少年にそう言った一方で、違和感を感じた。〈アンバー・ワールド〉は、街にごまんといる、ちんぴらの一部に過ぎない。それが、罪などという言葉を使うだろうか。

 しかし、それがどうした?

 思考回路を止めた。自分は、何のためにここにいる? 彼らがどうしてここにいるのかを突き止めるためではない。ただ、死ぬためだ。彼らがここにいる理由も、自分に暴力を振るう理由も、どちらもどうでもいいことだ。その性質や正誤が、自分の命を左右するわけでもない。

 それに。もしかすると、これが、リタ・オルパートの用意した結末なのかもしれない。

 痛みの数を数えるのをやめ、少年たちが攻撃するのに任せた。胸の内で、鼻歌を歌った。父の下で暴力を受ける生活の中で覚えた方法。心を眠らせる子守唄。

 暴力の雨が止んだ。

 目を開くと、部屋の入口に、アイザック・ライクンが立っていた。戸枠に寄りかかり、りんごをかじっていた。

「リタの許可は、もらっているのか?」

 アイザックは、ロングコートを、襟を立てて着ていた。色は黒。左の袖は、義手がないため、だらりと垂れ下がっている。

 少年の一人が、アイザックに詰め寄った。身長が低い。下から、アイザックの顔を、ねめつける。

「邪魔するなよ、アイザック」

 アイザックは、片方の眉を、ぴくりと動かした。

「僕とリタには、“ミスタ”、“ミス”を付けるように言われなかったのか?」

「くそくらえだ」

 少年は、あとから加わった一人で、先ほどリタのことを“ミス・オルパート”と呼んだ少年ではなかった。野球帽を斜めにかぶった下に、さらにバンダナを巻いていた。だぶだぶの、NBAのユニフォームのレプリカ。幅の太すぎるジーパンを、尻の辺りまでずり下げて履いていた。アクセサリだらけの手、そして首元。

 アイザックは、またりんごをひとかじりした。獣じみた微笑を浮かべる。

「これはこれは」アイザックは言った。「今後また、こんなことがないよう、“釘を刺しておく”必要があるな」

 蹴り。予備動作もなしに繰り出した一撃は、NBAの少年を、部屋の反対側まで吹っ飛ばした。さらにその少年に歩み寄ろうとしたアイザックに、他の二人の少年が飛び掛かった。りんごをかじる音。ふわりと浮き上がる、ロングコートの裾。笑みをたたえたままの口許。二人は吹っ飛び、壁に衝突した。二人とも白目を剥いていた。釘で輝く、二人の腹には、血が滲んでいる。

「悪い気分じゃないよ」NBAのレプリカを着た少年の無防備な背中に飛び乗り、アイザックはステップを踏んだ。タップダンスでも踊るかのように。ステップに応じて、打ち込まれる釘。血が飛び散る。「リタには、しばらくの間、おとなしくしてるようにって言われてたんだけどさ」

 アイザックの足で、踏み鳴らされるNBAの少年の体。レプリカのユニフォームも、体も。血で真っ赤に染まっていた。骨が折れる音。肉が潰れる音。アイザックは、唇に付いたりんごの果汁を、舌で舐めた。

「でも、ほら。そういうのって、性分じゃないからさ。禁断症状が出るんだよ。代わりになるものもないし。相変わらず、リタは僕とセックスしてくれないし」

 新たに、少年が現われた。茶系の色が使われた、迷彩柄のパンツ。同系の単色のTシャツ。ベスト。バンダナ。バンダナははちまきのように、頭に巻いていた。ベストにある複数のポケットは、スペアの弾倉やナイフで膨らんでいた。肩に担ぐようにして、アサルトライフルを持っていた。少年は、部屋の様子を見て、眉間に軽く皺を寄せたが、声も上げずに中に入り、ドアを閉めた。

 アイザックが言った。

「やあ、“狂信者(ファナティック)”」

 少年は、眉間の皺を深くした。

「その呼び方は好きじゃありません、ミスタ・ライクン。〈ナンバーズ〉あるいは、〈ナンバー・オブ・アンバー〉と」

 アイザックは、NBAの少年の頭を、最後に大きく踏みつけ、彼の体から下りた。彼の体だったものから。明らかに、既に命を失っていた。“狂信者”と呼ばれた少年は、ライフルの先端で、NBAの少年の死体の頭を突いた。転がし、顔を確認する。

「ああ」“狂信者”は言った。「〈アンバー・ワールド〉の中でも、底辺に近い連中の一人だ。安心しました」

 アイザックは、食べかけのりんごを、“狂信者”に投げ渡した。

「クールだね。優先順位で、躊躇なく命を区別する。嫌いじゃないよ、そういうやつは」

「それはどうも」

「“何番”だ?」

“狂信者”は、Tシャツの袖をめくった。上腕に、刺青で数字が彫られていた。“25”。アイザックは言った。

「番号で覚えた方がいいかな? それとも、それと合わせて、名前を?」

「〈ナンバーズ〉は、自分の番号に、誇りを持ってます」

「なるほど。じゃあ、覚えておくよ。“25番”」

「光栄です」25番は、気絶している二人の少年を見た。「彼らは、どうしますか?」

「処分だ」

 25番は頷き、二人の頭に、ライフルで銃弾を撃ち込んだ。彼が、携帯電話をかけると、間もなく、25番と同じ格好をした者たちがやって来た。彼らは、死体を部屋から運び出し、死体が汚した床を洗浄し、去っていった。

「何をしようとしてるんだ、お前たちは」

 慶慎は言った。

 アイザックは、手錠をしたまま、椅子ごと、慶慎を起こした。ティッシュを丸めて、出血していた鼻に、栓をする。アイザックは言った。

「蟻の行列を見つけて、思うままに蹴散らしたことはないかい?」

 慶慎は黙って、アイザックを見つめた。

「飴玉や砂糖菓子を使って、蟻の行列を、思うままに操作(コントロール)してみたことは?」

 答えなかった。アイザックは微笑を浮かべたままだった。

「僕とリタがやってるのは、ただの戯れ。お遊びなのさ、風際慶慎君」

つづく




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posted by 城 一 at 07:02| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第191回(2版)


俺たち、仲間だろう?


 リヴァは、車に乗り込んだ。全ての窓に、フルスモークを施した、黒いセダン。後部座席には既に、磐井が座っていた。ドアを閉めると、運転席にいた磐井の部下が、車を発進させた。

 磐井が、リヴァの出てきた建物を、一瞥した。

「〈アンバランス701〉か。〈アンバー・ワールド〉及び、アンバー率いるバンドグループ〈FOSTER〉の根城だ」磐井が言った。

「ああ」

「収穫は?」

「ライブハウスの上にあるバー〈スージー〉のマスターは、〈ミカド〉に関わっている」

「それで?」

「それだけだ」リヴァは言った。「今のところ」

「今のところ」

 言葉を吟味するかのように、磐井は呟いた。

「途中で抜けてきた。続きは、バーバーとダンクがやってる」

「なるほど」

「リタ・オルパートに関する資料は?」

「こいつだ」

 磐井から、膨らんだマニラ封筒を受け取った。口を開け、中身を取り出す。

 写真が数枚。全て、リタ・オルパートを写したものだった。表情や仕草、服装から、多少、リタの年齢に差があることが分かる。若く見える頃の方が、明るく見えた。あるいは、明るい雰囲気が、彼女を若く見せているのか。写真の他に、紙と文字による資料。縦書き、横書き。紙の質と種類もばらばらだった。英語で書かれた新聞の切り抜きもあった。

「バラエティに富んでるな」リヴァは言った。

「ああ」

 口を閉じた。資料を読み、聞こえてくる情報に、耳を傾ける。写真から受けた年齢差は、実際にあった。かつてのリタ・オルパートから、今のリタ・オルパートまで。時間と感情の推移を、写真は如実に表していた。

 磐井は、車を走らせ続けた。世界に黒い膜を張る窓は、いつしか、雨混じりの雪に打たれていた。ゆったりと流れる夜の街は、陰鬱な表情を見せている。ラジオでは、静かなジャズが、今日と明日を繋げていた。あるいは、昨日と今日を。物悲しげなトランペットの音色。磐井の部下は、途中、セルフサービスのガソリンスタンドで車に給油をし、コンビニエンスストアで、食料を買った。リヴァは、缶コーヒーとサンドイッチをもらった。ハム、トマト、レタス。マヨネーズ。磐井は腹を満たすと、目を閉じた。眠っているのかどうかは、分からなかった。

 資料を読み終え、リヴァはこめかみを、指で揉んだ。

 リタ・オルパートの生まれは、アメリカだった。同じ土地で育ち、同じ土地にあった大学に入った。リタ・オルパートは、偽名。本名は、パメラ・ブラウン。アメリカにいる間は、その名前を使っていた。偽名などというものとは、無縁だったのだろう。表情が明るく、若々しく見えるのは、リタ・オルパートが、パメラ・ブラウンだった頃に撮られた写真だった。

 彼女の弟、デイヴィッド・ブラウンも、姉と同じ道を歩んだ。同じ土地で年を重ね、同じ大学に入った。その道から外れたのは、彼が大学三年生のとき。デイヴィッドは突然、大学構内でライフルを乱射し、手榴弾を人に投げ、ナイフを振り回した。大学の教員三人と、生徒十八人が死んだ。教員十一人と、生徒四十二人が負傷した。精神的なものも含めれば、傷付いた人間は、もっと膨大な数になるだろう。デイヴィッドが、何をもって、虐殺の終わりにしたかは分からない。だが、確かに事件は終わった。デイヴィッドが、大学の屋上で自らのこめかみを自動拳銃で撃ち、飛び下りることで。

 事件後、間もなく、リタ(パメラ)とデイヴィッドの両親は、デイヴィッドと同じように、自分のこめかみを銃で撃ち、自殺した。パメラは日本へ渡り、消息を絶った。次に姿を現したときにはもう、パメラ・ブラウンという名は捨てられ、リタ・オルパートという新しい名前と生き方が、彼女にはあった。リタは、いくつかの組織を渡り歩き、反社会的な集団――暴力団、マフィア、ギャング、暴走族、その他もろもろ――を、潰して回った。リタが個人的に恨みや怒りを抱いている可能性のある人間――あるいは集団――は、その中にはいなかった。

「何があった」

 自分の中に、問いかけるようにして、口に出した呟き。いつの間にか、目を開いていた磐井が、フロントガラスの向こう側を見たまま、言った。

「リタ・オルパートのことか?」

「そうだ」

「弟の銃乱射事件と、両親の自殺が、彼女を変えた」

「やつは、慶慎に執着している」

「らしいな」

「弟と両親の件が、関係あると思うか?」

「二つの件がやつに変化をもたらし、現在、風際慶慎に執着している」磐井は一度言葉を切り、リヴァを一瞥した。「と思われる、リタ・オルパートという人間を作り出したと考えるなら、関係はあると言える」

「そういうことではなく」

「それ以上は、推測の度合いが強すぎると、俺は思う」

「そうだな」

「風際慶慎に対して、リタ・オルパートの精神が、どう作用しているのか。調べるためには、アメリカに渡らなければならない。その時間はあるのか、俺たちに?」

「ないな」

「リタ・オルパート、アイザック・ライクン、アンバー、〈アンバー・ワールド〉、〈FOSTER〉。いずれかの居場所を見つけることよりも、優先順位が高いか?」

「いや」

「だが、まあ。俺たちが、リタ・オルパートの精神状態を判断するのに役立ちそうな情報を見つけたら」磐井は言った。「教えてやるよ」

「当たり前だ。俺たち、仲間だろう?」

「俺は、およそ五十の部下を使って、ローラー作戦を行い、連中の居場所を探している。だが、その中に、お前たちはいない」

「個人主義なんだ」

「利己主義とも言えるな」

「どうとでも言える」

「情報がもし、俺たちからお前たちへの一方通行だったら」磐井は窓の外を眺めながら、言った。「俺たちはへそを曲げる」

「大人気ないな」

「慕っていた兄貴分を失って、精神的余裕がないんだ」

「情報の一方通行は起きないよ、ハニー」

「仲間意識の芽生えを、その呼び方で表現されることを、一番恐れてたんだ」

「なら、“ハニー・バニー”にでもするか?」

「《パルプ・フィクション》だ」磐井は言った。「クエンティン・タランティーノの」

「ああ」

「俺は〈ツガ〉の白虎隊だぞ」

「“ハニー・タイガー”じゃ、語呂が悪いよ」

「そうだな」

つづく




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ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第190回


ただで済む時期は過ぎてる。


 鼻にジャブを一発。有無を言わせず叩き込んだ。身体的なダメージを与えるために打ったものではないが、笑顔で油断させてからのジャブだ。勝谷紀彦はバランスを崩し、目を白黒させながら、後ろにあったシンクに寄りかかった。

 ダンク。リヴァが言うと、オーライ、と返事をして、ダンクはすかさず、勝谷の両足を持ち上げた。ダンクが意識を取り戻したのは、数時間前だ。だが、数軒のレストランを渡り歩き、彼の望む通りに胃袋を満たしてやっただけで、いつもの調子に戻っていた。違うのは、包帯と肌の色で、まるでシマウマのような状態になっていることだけだ。真っ白いナイキのバスケットシューズ、黒いジーパン、白いダウンジャケット。ダウンの中は、何も着ていなかった。包帯を巻いていると、服を着る必要がないくらい暑いのだと言う。怪我のお陰で、彼の体が発熱しているためなのかもしれなかったが、その点については、リヴァは言及しなかった。

 シンクの中に勝谷の顔面を押し込み、蛇口を捻った。水の出所を調節し、彼の口を狙う。すぐに水は口腔から溢れ、勝谷はごぼごぼという音を漏らした。息ができないのは分かっていた。彼の鼻は、鼻血で詰まっている。

「アンバー、バンド〈FOSTER〉のメンバー、あるいは、〈アンバー・ワールド〉の中心メンバー。いずれかの居場所を教えろ。イエスなら、俺の腕を叩け。ノーなら、そのまま喉を潤してろ。水の適量摂取は、健康にいいと聞くぜ」

 リヴァは、〈スージー〉にいた。ライブハウス〈アンバランス701〉の上階にある、バーだ。ライブハウスと同様に、〈アンバー・ワールド〉の根城になっていたとも言われている。

 勝谷は水でむせながらも、首を振っていた。

 アトリエで倒した者たちは、全員、〈アンバー・ワールド〉のメンバーであることを示すバッジや、ワッペンを身に付けていた。〈アンバー・ワールド〉は、CDも発売して、表の世界で名を知られ始めているバンド〈アンダーワールド〉のメンバーの一人である、アンバーの狂信者たちで構成された、街の不良集団だ。アンバーや、彼の周囲に集まる人間を好むならば、誰でも〈アンバー・ワールド〉を名乗ることができる。その上、露天商などを中心に、そのグッズも販売されている。興味がない人間でも、ファッションのために、〈アンバー・ワールド〉に関するものを身に付けることはできた。だが、見過ごせない共通点だった。慶慎を探すときに、リタ・オルパートが〈アンバー・ワールド〉を利用したという話もある。情報を手に入れるための取っ掛かりになることは確かだった。

 ウエイトレスがバーの隅方へ、そっと逃げた。携帯電話を耳に当てたところで、バーバーが取り上げた。タンブラーを満たすシャンディ・ガフの中に携帯電話を沈め、不穏な音を立ててショートするのを見守ってから、中身を飲み干す。震えながら後ずさるウエイトレスに、バーバーは言った。

「おとなしくしていれば、危害は加えないよ。余計な人間を呼んだりして、僕らにある時間を縮めたりしなければ、その分、君たちの上司に優しくすることができる。オーケイ?」

 ウエイトレスは頷いた。腰がくだけており、尻餅を突きそうになる。バーバーは彼女の腰が落ちる場所に、椅子を滑り込ませた。

 リヴァは言った。

「バーバー。そいつは、警察じゃなく、〈アンバー・ワールド〉を呼ぼうとしてたのかもしれない」

「110の番号は確認済みだよ、リヴァ。それに、〈アンバー・ワールド〉の人間の番号なら、その人の携帯の方が入ってるはずだよ」

「それもそうだ」

 リヴァは勝谷の履いているジーパンの尻を探り、携帯電話を取った。開かずに、そのまま着ているダウンジャケットのポケットに突っ込む。電話帳に登録されている番号を調べるのは、後回しでいい。

 勝谷は顔面蒼白で、静かになっていた。水を止め、頬を叩く。

「寝てもらっちゃ困る」

 勝谷は深呼吸した。曖昧になっていた目の焦点が定まる。

「こんなことをして、ただで済むと思ってるのか?」

 口から溢れた水で、鼻血はほとんど洗い流されていた。冷やされたお陰もあるだろう。出血は収まりかけていた。ノックするように勝谷の鼻を叩く。再び、鼻血が噴き出す。

「見て分からないのか?」リヴァは、ギプスをした左手を、勝谷の目に見えるように示した。「既に、ただで済む時期は過ぎてるんだ」

「街を汚す、ごみ虫どもが」

 蛇口を捻った。水が、勝谷の口を塞ぐ。

「否定はしないが、お前はどうなんだ? 人を一方的に非難できるほど、綺麗な体なのか、ええ? お前、そしてお前がひいきにしてる〈FOSTER〉、〈アンバー・ワールド〉の連中は、綺麗なやつらなのか?」

 シンクの横には、大型の拳銃が置いてあった。勝谷から取り上げたものだった。その銃口を勝谷に向けた。彼は今までよりも一層大きく、首を振った。狙いを勝谷から外し、拳銃で窓を撃った。
「俺が持っていようが、お前が持っていようが、銃は銃だ。人殺しの道具だ。違うか?」

 勝谷は顔を横に向け、水から逃れた。

「お前ら〈ツガ〉や、〈カザギワ〉が持てば、そうなる」

「お前たちが持てば?」

「人殺しの道具にはならないし、しない」

 この言い回し。リヴァは確信した。

「お前、〈ミカド〉だな」

 勝谷は口許を歪め、微笑した。リヴァは銃口で、勝谷の右目を突いた。

「リタ・オルパートはどこにいる」

「リヴァ」

 バーバーが言った。無視した。

「俺の気は、かなり短くなってるんだ。場合によっては、殺すだけじゃ済まさねえぞ」

 勝谷は微笑を浮かべたまま、何も言わなかった。拳銃のグリップで、鼻を殴った。勝谷はシンクの中で頭を前後左右に暴れさせながら、低い呻き声を上げた。二度目。振り下ろそうとした腕を、バーバーがカウンター越しに摑んでいた。

「ずいぶん、甘やかすじゃねえか」

「僕らは、他にもたくさんの人間と話をしなきゃならないんだ。それに、いずれアイザックたちとの戦争にもなる。初っ端から、はりきりすぎると、警察に目を付けられて、本番前に身動きできなくなるよ」バーバーは言った。「そうなると、Kを助けられる可能性は、俄然低くなってしまう」

 バーバーを見た。

「冷静になるんだ、リヴァ」

 拳銃を振り下ろした。悲鳴を上げる勝谷から、リヴァは離れた。ダンクにも、そうするように言った。勝谷はシンクから顔を出し、床にひざまずくようにして、呻いていた。残っている弾を全て抜き、拳銃を投げ捨てた。

「リタ・オルパートが手に入れたかったのは、慶慎だ。あいつを痛めつけるための手札(カード)も、用意できてる」

「岸田海恵子、サニー・フゥ、市間安希」バーバーが言った。

「やつが欲しかったものは、全部揃っちまったんだ。事を始めるタイミングは、やつ次第。時間がないんだ。やつが具体的に、何をするつもりなのかは分からん。が、何にせよ、慶慎を痛めつけるのは確かだ。そして、全てが終わったら、慶慎を殺すことも。そうなっちまったら、俺は」

「分かってるよ、リヴァ。だからこそ、冷静になることが必要なんじゃないか」

「分かってる」

 携帯電話が鳴った。自分のものだ。出ると、相手は磐井だった。

「蓮さんから、リタ・オルパートに関する資料をもらった。いるか?」

「もちろんだ」

 リヴァは言った。

つづく




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posted by 城 一 at 06:30| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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