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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年10月09日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第197回(9版)


諦めろ。


 磐井に、<オリーヴ>という名のクラブに呼び出された。むせるような熱気と、鼓膜が痛みそうな騒音の中で、若者たちが体をぶつけ合う箱。メインとなるダンスホールでは、外界を満たす凍てつくほどの寒気を無視して、客たちが汗だくになって踊っていた。ホールの中心には、まるでドーナッツのように穴ができていて、ダンスの技術に長けた猛者たちが、互いのテクニックを披露して、暴力を使わずに戦闘(バトル)していた。ヘルメットをかぶったそのうちの一人が、まるでスプリンクラーのように、頭だけで体を支え、くるくると回っていた。

 ホールを通って奥に行くと、鈍い緑色に塗られた、分厚い木製の扉があった。それを開けると螺旋階段があり、ダンスホールが見渡せる、二階にある個室へと繋がっている。高額な使用料を要求される場所。金を持っている者は、ホールで直接、誰かと体をぶつけ合ったりはしない。

 VIPルームの中央には、ウォルナット材を使った円形のテーブルが置いてあった。それに沿う形で、半円状の、赤い革のソファ。磐井と飛猫は、既に着いていた。飛猫は車椅子で、ソファを使わずにテーブルについている。車椅子の後ろ側に、刀を背負うようにして、体を支えると言うよりは、鈍器と言った方がぴったりとくる、黒く塗った鉄製の松葉杖を取り付けていた。二人とも、酒の入ったグラスを前にしていたが、一口も飲んだ様子はなかった。磐井の前、ガラス製の灰皿の中で、煙草が甘ったるい香りを放ちながら、煙を立てていた。バーバーは、リヴァとともに、ソファの左端に座った。ダンクは、壁の一部にはめ込まれたガラス越しに、ダンスホールを興味深そうに見下ろしていた。

「いい知らせと悪い知らせがある」磐井が言った。

「物事はたいていそうなってる。イカサマをしない限り、裏だけのコインなんかないんだ。逆もまた、しかり」

 リヴァはソファの背に沿って両腕を伸ばし、脚を組んで、そう言った。

 バーバーたちを案内したウエイトレスが、「お飲み物は」と言った。リヴァが口を開きかけたが、バーバーが先に「いらない」と答えた。

「いい知らせ」磐井は言った。「アイザック・ライクンとリタ・オルパートの居場所が分かった。数年前、治安悪化を理由に工事が頓挫し、以来、放置されているカナジョウ市の地下街<ホープ・タウン>だ」

「それで?」リヴァは言った。

「悪い知らせは、二人がアンバーとともに、<アンバー・ワールド>の連中を引き連れてるってことだ。俺は<ツガ>に入る前は<白金大熊猫(プラチナ・パンダ)>って暴走族にいたんだが、そこの後輩が音楽好きでね。<アンダーワールド>にはまったついでに、<アンバー・ワールド>の方にも興味を持って、<ホープ・タウン>にいた」

「なるほど。あんたはアイザックと、その」リヴァは磐井をからかうように、下唇を突き出した。「<白金大熊猫(プラチナ・パンダ)>の板挟みってわけだ。同輩のよしみでもあるわけだし、笹の葉で懐柔するわけにはいかないのか?」

 磐井はリヴァのことを、横目で睨んだ。

「後輩たちは、興味本位で連中の活動に加わっただけだ」

「連中の活動?」バーバーは言った。

「<ホープ・タウン>でアンバーが、自身が中心になってやってるバンド<FOSTER>のライヴを通して、銃を持って鉛玉ぶち込んで、街のダニどもをぶっ潰せと啓蒙する活動だ」

「街のダニどもとは」

「<ツガ>や<カザギワ>。その他、法の垣根を越えた世界で活動する者たちのことだ」

「ははあ!」

 リヴァが両手を天井に向けて、声を上げた。バーバーは言った。

「<ミカド>化だ」

「そう。俺の後輩は、それについては賛同しなかった。動向を探らせるために、少しだけ残したままにしてあるが、俺が言えば全員、<アンバー・ワールド>からは抜ける」

「なら、悪い知らせは?」

「<ホープ・タウン>にいる<アンバー・ワールド>の数は、およそ六百強。しかも、発展途上で天井は見えない。<ホープ・タウン>にいないってだけの予備軍は、街中に転がってる」

 バーバーは、指先で作った尖塔の陰に表情を隠した。無理だ。五十人で勝算が成り立つ数ではない。しかも。

「それに加え、向こうにはアイザック・ライクンがいる」バーバーは言った。

 飛猫が言った。

「アイザック・ライクンは、あたしが殺る。あなたたちは、純粋に<アンバー・ワールド>の数を相手にすることだけを考えていればいい」

「車椅子と松葉杖がなければ外出できないほど満身創痍のあなたが、どうすればアイザック・ライクンを殺せるんです?」

 飛猫は答えなかった。磐井は彼女を一瞥してから、独り言を呟くように言った。

「彼女は殺る」

「それで?」リヴァの声には棘が含まれていた。先ほどまでのおどけた雰囲気は、緊張した空気の中に霧散した。「話の要点は何だ?」

「六百を相手に勝算が成立する打開策はあるか?」磐井が言った。

「ある」リヴァは即答した。

「聞かせてもらおう」

「<ホープ・タウン>に、ありったけの武器を持って殴り込む。連中を皆殺しにする」テーブルの上で握り締めたリヴァの拳が、白くなっていた。「簡単なことだ」

「それは打開策とは言わない」

「だったら何だ? とっとと言いたいことを言え」

「俺たちの目的は、あくまでもアイザック・ライクンだ。だからと言って、お前たちの目的を軽視はしないが、六百人を相手に真っ向から勝負を挑んだりもしない。俺たちは機をうかがう。勝算が成り立つほどの状況になれば、お前たちに協力してやらないこともないが」磐井は言った。「だが、そうなる可能性はゼロに近い」

「だから?」

「風際慶慎のことは諦めろ」

 磐井は言った。

つづく




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posted by 城 一 at 15:57| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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