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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年10月29日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第203回(6版)


そうでなければ困ります。


 磐井の用意した場所は、元はストリップ小屋として使われていた建物だった。<ツガ>の所有物で、いずれ他の用途で使われる予定だったが、テナントはまだ見つかっていなかった。建物を使う許可は、磐井が蓮から取り付けた。自分のときと、対応がやけに違う。こぼすリヴァに、磐井は「築いた信頼の差だな」と笑った。

 かつて、踊り子の控え室だった部屋を使った。部屋の一辺を全て使って作られた化粧台に、パソコンを並べた。磐井の部下から、パソコンの扱いに長けた者を選び、そこに配置した。椅子は、元からあったスツールを使った。もはや白とは呼べないほどくすみ、汚れた合成皮革製のカバーに、スポンジを仕込んだものだ。ものは、必要最低限あればいい。環境の改善に費やす時間などなかったし、作るつもりもなかった。パソコンと同じ数だけ、電話を用意した。キーボードを叩きながらでも、電話に応じることはできる。磐井の部下たちは、時間帯に関わらず、全員動かし続けた。慶慎の命が、リタ・オルパートの意志一つで、失われるかもしれない状況だ。既に猶予はなかった。食事と睡眠に割く時間も与えなかった。目的が同じ方向にあれど、磐井の部下たちに対して有効な求心力が、自分にあるとは思えなかった。直接酷使すれば、折角手に入れた駒たちが離れていく可能性があった。間に磐井を置き、命令は彼に出させた。

 バーバーが陣取ったのは、ストリップ小屋のメインとして使われていたホールだった。客席の椅子は全て、ダンクに店の外へ運び出してもらった。リヴァはいない。彼は、磐井の部下たちと同じく、前線で動いていた。

「じっとしてると、悪い方にばかり、頭が働いちまうんだ」

 リヴァは、そう言っていた。ダンクも、彼と一緒に行かせた。

 ホールの中央に、鍵穴のようにせり出したステージがあった。そこに座り込んだ。入ってきた情報は全て紙に出力させ、客席があった場所に敷かせた。パソコンの小さな画面に付き合っている暇はない。視覚的なものは、視界の中にありさえすれば、全て吸収できる。マウスを操る時間、大小何であれ、体を動かす労力を、全て思考の回転に回した。小さな浪費も、積み重ねれば大きなエネルギーになる。行動を始めてから十二時間強で、床は、情報を出力した紙片で埋まった。

 構成員の一人に言われ、熱を計ると、三十八度を超えていた。額に、ジェルの詰まった冷却シートを貼り、風邪薬を服用した。栄養ドリンクも併用した。休息は取らなかった。限界が来れば、体が勝手に倒れる。食事は、パックに入ったゼリーで済ませていた。磐井に言われてからは、それを三つにした。思考にも、体力の回復にも、エネルギーは必要だった。パック三つ分のゼリーなど、普段ならば摂取しない量だが、無理矢理、胃に詰め込んだ。あとで半分は吐くことになったが。

 仲間の何人かが、警察に捕まった。相手に居留守を使われたときには、ドアを蹴破り、強引に部屋の中に入らせ、有力か、そうでないかに関わらず、相手が情報を隠していると感じた場合は、多少暴力的な手段に出てでも、話を聞き出させた。それが裏目に出た。捕まった者だけではない。警察は、街で活発的に動いている集団がいることに気付いていた。それが、ここ最近、<ツガ>から破門を言い渡された連中であることにも。

 狩内蓮から、連絡が来た。気を付けた方がいいと。分かったと答えた。

 警察が何を考えているのか、知りたかった。できるならば、抱き込みたかった。磐井に、彼あるいは彼の部下に、警察の知り合いはいないのかと訊いた。何人か名前が挙がったが、空振りだった。警察の中にも、ミカド系の組織が生まれつつあり、元であっても<ツガ>のような組織に属していた者たちに便宜を図ったことが知れれば、どうなるか分からない。協力を断った者たちは皆、それが理由で、首を縦に振らなかった。飛猫が、鶴見という刑事を知っていると言い、当たらせたが、それもだめだった。他の者同様、正義の二文字にあてられた集団に、怯えていた。

 時間はないが、事を急いて、仲間を必要以上に失うことは避けたかった。方針を少し、柔軟なものにしようと思案していたところに、仲間の一人から連絡が入った。浦口という名の刑事が、彼らを動かしている者と、話をしたがっているとのことだった。一対一で。浦口という名前に引っ掛かり、記憶をたどり、飛猫に連絡した。浦口は、鶴見の相棒の刑事だった。

 何のつもりでしょうか。電話で飛猫に尋ねた。

「さあね。彼とは、ほとんど話をしたことがないから、分からないわ」

 捕まる可能性があった。中心人物を押さえれば、集団の機能を半減できる。狙われて当然だった。だが、その危険を冒すからこそ、構築できる信頼もある。浦口の申し出を了承した。話を聞いて、ダンクがボディガード役に立候補したが、やめておいた。代役を立てることも考えたが、それもしなかった。自分がこれまでやってきたことと、思考と行動の判断基準となっていたものを、可能な限り言語化し、プリントアウトの束にして、磐井に残した。もし自分が浦口に捕まれば、ダメージは免れないだろうが、軽減することはできる。

 会合の場所に浦口が指定したのは、<夕照>という名の中華料理屋の男子トイレだった。時刻はもうすぐ深夜二時になろうとしていたが、店は開いていた。小綺麗な店内は、円テーブルにかけられた真っ赤なテーブルクロスのお陰で、派手で華やかな雰囲気だった。内装に使われた木材も、所々、テーブルクロスと同じ色で塗られていた。注文を取ろうとする従業員を無視し、ホールから廊下へ。突き当たりの左右に、男子と女子のトイレがあった。トイレの前に、男が一人いた。壁に寄りかかり、考えごとでもしているかのように、腕組みをしてうつむいている。浦口かと尋ねると、違うと男は答えた。滑らかな日本語だったが、中国人特有のなまりがわずかにあった。

「お前がバーバーか?」

 イエスと答えた。身体検査を受け、見つかった自動拳銃(ピストル)を渡した。銃器の有無を確認するための身体検査が終わると、清掃中と書いた看板が置かれた、女子トイレの方を、首を傾けて示された。

「約束した場所は、男子の方だ」

 男は何も言わなかった。言われた通り、女子トイレの方のドアを開けた。洗面台に腰掛けながら、煙草を吸っている男がいた。黒いコートの下に、焦げ茶色のスーツ、白いシャツ。縞模様の入った、派手な黄色いネクタイをしていた。

「バーバー?」

 イエスと答え、「浦口?」と尋ねた。男は小袋型の携帯灰皿の中に、煙草の灰を落としながら、そうだと頷いた。

「表の男は?」

「恩を売ってある、中国人(チャイニーズ)のちんぴらさ。店の連中共々、お前さんの審査のために配置した。もし、お前の言動や行動が、連中のアンテナに引っ掛かった場合、予定の変更なしに、男子トイレへ通されていた」

「そして?」

「待たせておいたちんぴらどもに、ぼこぼこにされてた」

「それはそれは」言いながら、浦口同様、洗面台に腰掛けた。「それで、用事は?」

「至極簡単なことだ。訊きたいことがある」浦口は、煙草の煙を輪にして吐いた。「お前たち、街で一体、何をしてる?」

「答えなかったら?」

「まず、一つ。こちらの質問に答えるつもりもないのに会合に応じた、馬鹿だと判断する。馬鹿が中心になって集めた連中だから、街でごたごたやってるやつらも、たいしたおつむは持っていないと考える。二つ。俺は侮辱されたと感じて、お前らへの風当たりを強くする。恥をかいた分、警察の権力と手錠を振り回す。三つ。俺の満足する答えが聞けるまで、多少暴力的な手段に出るかもしれない」

「ふむ」

「悪い傾向だな。俺の言葉に対して、お前の言葉は少なすぎる」

 もったいぶるつもりはなかった。質問の内容は、予想の範疇だった。説明した。リタ・オルパートとアンバーの下に集まっている、<アンバー・ワールド>のことを。彼らが、<ミカド>系組織になり始めていることを。そして、彼らの繋がりを破壊するために、アンバーの恋人を殺した犯人を捜していることを。

「素人捜査で、本気で見つかると思ってるのか?」

「見つけなきゃなりません。そして、連中に可能な限り、打撃を与えなければならない。親友の大切な人間が、連中の所で、囚われの身となっているんです」

「だが、お前たちは少々、手荒にやり過ぎた」

「捜査の速度を上げるためには、多少、手荒な手段に出る必要がありました」

「お前たちはやり過ぎた。まだ、捜査を続けたいか?」

「もちろん」

「十人、寄越してもらおう」

「寄越すとは?」

「身柄を拘束するということだ。余計なことを喋らずに、おとなしくしていれば、逮捕まではしない。いずれ、解放する」

「何のために、アンバーの恋人を殺した犯人捜しなんて言う、回りくどいことをやってると思ってるんですか。連中の繋がりを弱体化させ、数を減らし、戦力差を縮めるためだ。仲間をそっちに渡せば、戦力差は縮まるどころか、拡がることになる」

「十人くらいの身柄を拘束して、多少なりとも、俺たちが満足しなければ、お前たちへの風当たりは強いままだ。さらに強くなるかもしれない」

「けど」

「この譲歩を呑めば、警察にある情報を、お前たちに提供してやる」

「魅力的な提案ですね。そちらに引き渡す人数が、五人では?」

「桁が二つなのと、一つなのでは、かなり違う。心理的にも」

「そう」

「時間が必要か?」

「いえ。そんな時間はありません」言った。「あなたは、嘘をつきませんね?」

「どうかな。肝心なのは、お前が俺を信じるか、信じないかということだ」

 浦口の目を見た。光は強い。泳ぎはしない。

「分かりました。十人、そちらに引き渡します」

「英断だな」

「そうでなければ困ります」

つづく




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posted by 城 一 at 14:35| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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