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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2009年01月05日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第217回(2版)


アンバーからのプレゼント.


 702。磐井が<アンバー・ワールド>に潜り込ませておいた<白金大熊猫(プラチナ・パンダ)>を通して、連中の人数を把握していた。全員にカウンターを持たせ、報告される数字の平均を出して。絶対ではないが、目だけで数えさせるよりは誤差が少ないことは確かだ。連中の数は少しずつだが増え続け、飛猫から田村リヨ殺しの真犯人を教えられた日には、700を超えたと同時にピークのその数字に達していた。それが、リヴァの命を賭けた、アンバーとのやり取りをインターネット上にアップロードすると、わずかに停滞した後、がくんと下がった。人数の波は重力に逆らおうとするかのように、時折小さな山を作りながらも、下降を続けていた。だが、それが400を切ったところで緩やかになった。波の描く、震えた手で描いたような曲線は、300台後半で安定を見せ、重力に対抗する手段を見つけたかのように、そこから低空飛行を始めた。上昇する気配さえある。

 下げ止まり。

 株を操る人間が吐くような言葉が、バーバーの脳裏に浮かぶ。リタ・オルパートかアンバーが、仲間たちにウイルスのように広がっていた不信に対抗する方法を見つけたのだ。メールも着信も来ない携帯電話のディスプレイを見つめる。<プラチナ・パンダ>から<アンバー・ワールド>の人数の定期報告がくるはずの時刻は、とっくに過ぎている。磐井を呼んだ。

「<プラチナ・パンダ>の連中が、消されたかもしれません」

「なぜ」磐井は言った。

「連絡がこない」

「<アンバー・ワールド>を弱体化させるのに協力するために、あいつらを潜り込ませておいた。お前が、アンバーが恋人である田村リヨを殺した可能性を示唆する情報を、可能な限り、インターネットを通してやつらに知らせた。不信という名の楔だ。そっちの経過はどうなっている」

「400を切った辺りで、行ったり来たり」

「やつらが、俺たちのやったことに気付いた?」

「そう思います」

「だが、だからと言って俺の後輩たちのことにも気付いたことにはならない」

「数を減らそうとしているなら、まずは数を把握する手段を講じるところから始めなきゃならない。少し考えれば、分かることです」

「もし、本当にあいつらが消されていたとしたら?」

「あまり、仮説の話はしたくありません」

「なら、なぜ俺を呼んで、その話をした?」

 電話が鳴った。相手は<プラチナ・パンダ>のメンバーを名乗ったが、違和感があった。別人。断言はできなかった。普段ならば、<アンバー・ワールド>の人数を聞くとすぐに電話を切るのだが、話題を作って引き延ばした。相手に意味のない話をさせ、磐井に電話を渡す。着信相手は堀田(ほった)という少年のはずだった。磐井にそれを告げる。表情が曇った。だが、磐井はそれを声色には出さず、バーバーのふりをして会話を続けた。そして切った。

「今の電話をしてきたのは、堀田じゃない」磐井は言った。「だが、<アンバー・ワールド>の人数を報告してきたんだよな?」

「600だと。上げ幅が200。大きすぎる」

「まだ一人だ。そうと決まったわけじゃない」

 数分置きに、報告がきた。603。602。607。605。

「誤差が小さすぎる」バーバーは言った。「いつもは最低でも30は誤差がある」

「今日はたまたま、うまく数えることができたのかもしれない」

「それと、上げ幅が200に達する日が重なった? 彼らの声に関しては、どうなんです?」

「声なんてのは、あまり人の記憶に残らないもんだ」

「でも?」バーバーは、磐井の表情を読んで言った。

「だが、聞き慣れた声が一つもなかった。そう感じた」

 バーバーは、部屋の入口に気を取られた。人が通り過ぎただけなのにも、関わらず。頭の中で、微弱な音で警報が鳴っている。通り過ぎた人数は二人。一人は知っている顔だった。だが、もう一人は?

 廊下に走り出た。先を行く二人を呼び止める。やはり、手前にいる者は知らない顔だった。淡い緑色に染めた髪を短く刈り、坊主にした少年。目が虚ろで、頬がこけている。聞こえない声で、何かぶつぶつと呟いていた。前の一人――磐井の仲間だと分かっている、三輪(みわ)という男――が振り返った。

「すまない」

 三輪の背中には、散弾銃(ショットガン)の銃口が突きつけられていた。銃身は、少年が着ているクリーム色のロングコートの袖によって隠されていた。磐井が自動拳銃(ピストル)を抜く。

「銃を下ろせ。お前に勝ち目はない」

「勝とうとは思っていない」

 緑色の坊主の少年が振り返った。ボタンを締めていないコートの前は開いていて、その下に着ている黒いタートルネックのセーターと、モスグリーンのチノパンツが見えた。そして、その腹にベルトで固定されたダイナマイト。空いている少年の手には、そのスイッチが握られていた。バーバーも自動拳銃(ピストル)を抜いた。そして言った。

「自爆覚悟だと?」

「覚悟じゃない。自爆しに来た」

「お前は誰だ」磐井が言った。

「<ナンバーズ>。<アンバー・ワールド>の中でも、洗練された者さ。番号は66。でも、お前らを殺せば、名前を与えられる。アンバーから。『ファイト・クラブ』を知ってるかい?」

「いや」バーバーは言った。

「残念だね。デヴィッド・フィンチャーは、僕は好きだよ。『ファイト・クラブ』には小説もあるらしいけど。それを読む機会には、恵まれなかったな」

「自爆しなければ、機会を得ることができる」バーバーは言った。「アンバーなんかから名前を与えられなくても、君には既に名前があるだろう。番号なんかじゃなく」

「ないよ」

「いや、ある。それに、君は本当は、自爆を望んじゃいない。やる気なら、既にやってる。そうだろう?」

「アンバーは傷ついてる。お前らの行いに」

「真実をみんなに知らせようとしただけだ」

「お前らに語れる真実はない」

「君にだって語れる。アンバーが、自分の恋人を殺したんだと」

「黙れ!」

 66が金切り声を上げた。

「何だかうるさいな」

 バーバーの後方から、ダンクが現われた。上半身が裸で、何も身に付けていない。包帯も外しており、完治していない傷口が露呈している。黒い肌はわずかに濡れ、湯気を立てていた。筋力トレーニングをしていたのだ。ダンクは暇を持て余すと、何もない所で逆立ちをして、バランスを取りながら体重全てを両手だけで支え、腕立て伏せをしている。

「何事?」ダンクが言った。

「緊急事態」バーバーは言った。

「C・C・リヴァはどこにいる? アンバーが借りを返したがってる」

「どういうことだ」

「言う必要はない」66。

 バーバーは、磐井に頼み、リヴァを連れて来てもらった。66が、冷笑を浮かべる。

「お前がC・C・リヴァか」

 リヴァの四肢の拘束も解かせていた。リヴァは肩をすくめ、鼻を鳴らした。

「お前が呼んだんだろう。明らかなことを確認するな。馬鹿に思われる」

「そうかい」66は散弾銃(ショットガン)を持つ手を揺らした。三輪が、最小限の動きで、床に何かを放る。「アンバーからのプレゼントだ」

 写真。悪い予感がした。止めようとしたが、遅かった。リヴァは写真を拾った。

「何だ、こいつは」

 リヴァの手から写真を奪った。くそっ。悪態が口をついて出る。椅子に縛り付けられた風際慶慎を写した写真。体に大きな傷はなかったが、その目に光はない。理由は一目で分かった。椅子の脇に転がった、岸田美恵子とサニー・フゥの死体。

「ついでに報告すると、そいつの一番大事な女は、今は俺たちの慰み者となっている」

 空気に電流が走った。そう感じた。手を伸ばす。リヴァが行ってしまう。彼の手には拳銃が握られていた。66の指先がダイナマイトのスイッチに触れる。ダンクの影が爆ぜる。床板がたわんで剥がれ、リヴァとともにバーバーを抱え、廊下を跳躍していた。磐井はスイッチを持つ66の手首に銃弾を撃ち込んだ。散弾銃が吼える。磐井に撃たれた衝撃で66が引き金を引いたのだ。三輪の腹に穴が開く。66の手首がちぎれるようにして、わずかな肉を残して、腕から離れる直前の状態でぶらりと垂れ下がる。

「磐井」

 バーバーはその名を呼んだ。磐井は返事をしない。三輪の死にさらに目を尖らせて、66の体に銃弾を撃ち込んでいる。66は血を吐きながら、身を翻した。散弾銃を磐井に向けようとしたが、胸を撃たれた勢いで失敗した。66は床に倒れた。

「このくそがきが」

 肩で息をしながら、磐井は銃口を少年の額に突きつけた。

「ダメだ、磐井」バーバーは言った。「そいつから離れろ」

「許せねえんだよ」

 少年が鋭く鳴いた。腕を振って、ちぎれかけの手首ごと、スイッチを握った手のひらを床に叩きつける。赤いボタンは下を向いていた。

つづく




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ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第216回(2版)


人形.


 リタは、風際慶慎の監禁部屋を訪れた。<ナンバーズ>の少年たちが、慶慎に暴行を加えていた。慶慎は拘束されておらず、意志さえあれば四肢を動かせる状態だったが、そうしない。ただ、殴られ、踏まれ、蹴られるままにされている。ただ、うわごとのように、「彼女を笑うな」と何度も呪文のように唱えている。彼女。市間安希のことだった。彼女は度重なるレイプの影響で、艶やかな漆黒だった髪の色が抜け、白髪になってしまっていた。テレビの画面の向こうで、それが<アンバー・ワールド>や<ナンバーズ>から、笑いものにされている。

 部屋にリタが入って来たことに気付くと、見張り役を任せていた<ナンバーズ>の少年たちは怯えた表情を見せた。慶慎への暴力を許可した覚えはない。リタが一言、アイザックに言えば、彼らはたやすく死体になる。それを分かっているのだ。リタは言った。

「アイザックを呼んだりなんか、しないわ。けど、自重しなさい。それは、わたしの玩具なの。わたしの知らないところで、壊されてしまってはたまらないわ」

 既にもう、壊れてしまっているのかもしれないが。リタは思った。<ナンバーズ>たちを部屋から出て行かせて、床に転がった慶慎を見下ろす。もはや、人形と呼んでも差し支えない。

 不快な臭いがして、リタは慶慎の下半身を見た。慶慎は、小便を漏らしていた。リタは、慶慎の体から衣服を全て脱がせ、濡らしたタオルを用意して、それで慶慎の体を拭いた。知る限りでは慶慎に暴力を振るっていない<ナンバーズ>を呼びつけて、慶慎に新しい服を用意させる。黒いTシャツ、暗赤色のフリース。膝が白くなった、ごく薄い色のジーパン。最後に、丈が足下まである黒のダウンジャケットを着せる。点滴のことを考える必要はなかった。医者がもう大丈夫だと言ったので、もう輸血はしていない。

 慶慎の体を抱え上げ、椅子に座らせる。首ががくんと前方に倒れる。リタはその頬を両手で支えた。キスをしてみる。慶慎は何も言わなかった。目の焦点も合っていない。笑うな。力なく、そう言った。「分かったわ」とリタは答えた。慶慎にその言葉が届いたのかは、分からない。

 ノックのあとで、部屋にアイザックが入って来た。三人の少年を従えている。<ナンバーズ>の中に、アンバーやリタよりも、アイザックに同調する者が現われたのだ。アイザックは彼らを“兄弟”と呼び、左の袖だけ鮮やかな赤色をした、白いキルティングジャケットを与えた。その他の格好は、統一していない。黒いワッチキャップをかぶったのが、バラッド。長く伸ばした長髪を金色に染め、後ろで縛ってポニーテールにしたのが、ジャズ。黒髪に、目の覚めるような青い瞳を持ったのが、ブルース。アイザックがキルティングジャケットとともに、彼らに与えた暗号名(コード・ネーム)だった。

「少しの間、ここを離れなくちゃならない。職人と直接会って、新しい義手の最終調整をしなくちゃならない」アイザックは言った。

「大丈夫よ。わたしには、新しい騎士(ナイト)がいる」

「ヨシトのことか。そうだね。あの子なら、君のことを十分に守ってくれる」アイザックは、慶慎を見た。「少し、その子のことが羨ましいよ。君の、そんな目を見たのは、初めてだ」

「どんな目?」

「今にも泣き出しそうな。それでいて、たくさんの人が乗った船をいくらでも、平然と飲み込む、嵐で荒れた海のような目さ」

「そう」

 では。そう言って、アイザックは“兄弟”を連れて出て行った。リタは、もう一度慶慎にキスをした。慶慎は何の反応も示さなかった。

つづく




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posted by 城 一 at 00:18| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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