Gusuku LABELへようこそ!
最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2009年01月08日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第218回(3版)


確認事項.


 白煙に曇った世界。何が起きたのか把握するまでに、数秒を要した。66番を名乗る<ナンバーズ>の少年が自爆したのだ。大きすぎた爆音に鼓膜が痛んでいる。自分の上に、人が倒れていた。ダンクだ。名前を呼んだが、返事をしない。そっとダンクの体の下から抜け出す。背中には大きな火傷と、爆風で飛んできた建物の破片が刺さり、出血してただれていた。もう一度、ダンクを呼んだ。返事はない。仰向けにして、左胸に耳をあてた。心臓は動いている。

 立ち上がり、右手で壁を見つける。手のひらの感触を頼りに、廊下だった場所を歩く。見通しはまだ利かず、状況が掴めない。不意に支えをなくして転んだ。壁が途切れていた。床板も歪み、剥がれている。小さな爆発の爆心地。広がった血の赤色と、炭化して黒く染まったわずかな肉片を見つける。かつて66という数字を与えられていたもの。命を失ってしまえば、名前を与えられるという喜びも味わえないというのに。

「なあ」

 呼びかけられ、視線を巡らせる。磐井。爆発で黒く焦げ付いた顔。皮膚と肉を剥がされた体が、叫ぶように血を流している。体の左腹から下が失われていた。

「磐井」

 駆け寄る。床から、磐井を抱き起こす。触れた途端に思い知らされる。磐井の体はもう、ありとあらゆる場所から、命をこぼしている。

「煙草、吸いたいんだよ」

 磐井が言った。震える手が、何とかして懐に潜り込もうとしている。バーバーは、焼け付いた磐井のスーツの内ポケットに手を入れた。磐井の愛用する煙草は、パッケージの中で潰れていた。そのことを告げ、「僕のがある」と言った。磐井は首を振った。

「甘いのじゃなきゃ、ダメなんだよ」

「分かった。買って来ます」

「どこにでも売ってるもんじゃない。俺の馴染みの店があるんだよ。煙草屋だ」ただ短く息を吐くような、弱々しい咳。「いまどき、ちっちゃな、背中の曲がったばあちゃんが売ってるのさ。煙草を。笑えるだろ?」

「ええ」

「かわいいばあちゃんなんだよ。行ったら、きっとお前も気に入る」

「店の名前は?」

「お前のことは、ずっと気に入らないままだった。敬語を使って、俺のことを尊重してるように振る舞ってるが、目は常に冷たい色をしたままだ。全て、一人でやれる気になってる。いいか、くそがき。そいつは傲慢ってやつだ」

「磐井、煙草の店の名前は何て言うんですか?」

「もっと人に頼れ。お前は余計なことを言わないが、人を見下した感じが滲み出てる。探せば、必ずいるんだ。お前にも頼れる人間がな」

「磐井」

「山の中で、飛猫とキスをしたんだよ。いい味だった。甘美ってヤツだ」

「あなたのことが好きなんですね」

「いや、違うさ。あいつは」

「磐井」

 焦点の合わない目が、バーバーを見た。

「じゃあな」

 両手で抱いた体の中から、磐井が消えるのが分かった。

 目の奥から込み上げる涙を押し止める。人の気配。殺意とともに、囲まれていた。<ナンバーズ>。視認せずとも相手は分かる。銃を探した。先の爆発の衝撃で、どこかへ失っていた。磐井の側に、彼が握っていたものを見つける。拾い、構える。黒い影、五つ。

「そいつはダメだ」

 青いベースボールキャップをかぶり、淡いグリーンのフライトジャケットを着た一人が言った。その手の中で、自動小銃(ライフル)が、未だ倒れたままのダンクの頭に突きつけられていた。角張った形の黄色いレンズのサングラスをかけた少年が、バーバーの構える自動拳銃に、そっと手をかけた。

「下ろせ。そっと」

 抵抗すれば、即座にダンクを殺される。サングラスの少年に従った。銃口に囲まれる。右の眉尻にピアスをした少年が、舌を出した。舌の中央にも、ピアス。

「チェック、だな。意外と」

 言葉が止まる。ピアスの少年は頭をがくがくと上下に揺らし、血飛沫を撒き散らしながら、その場に膝を突いた。リヴァ。ピアスの少年の頭頂部から、サブマシンガン“ダンデライオン”の銃口を外す。前方へ体を傾けて脱力。そこからゆったりと体を起こし、天井を向く。獣のように歯を剥いた口の中で、慶慎の写真がくしゃくしゃになっていた。

「おい」青いベースボールキャップが、銃口でダンクを示して言う。「こいつがどうなってもいいのか?」

「確認だ」リヴァは写真に歯を立てて言った。「慶慎は生きてるのか?」

「俺の話を」

 青いベースボールキャップの左目が赤く陥没した。リヴァが引き金を引いていた。ダンクを撃つことなく、倒れて絶命する。

「確認だ」リヴァは言った。「慶慎は生きてるんだよな?」

<ナンバーズ>は何も言わずに引き金に指をかけた。リヴァは逃げない。三人の間に滑り込み、ステップを踏む。一人が判断ミスをした。踊るリヴァをすり抜けた銃弾が、正面の仲間に当たる。着弾は額。動揺。誤射した一人の腹がリヴァの銃で蜂の巣になる。最後の一人。サングラスの少年は尻餅を突いた。銃が戦意とともに、彼の手を離れる。高い鼻の上で、サングラスがずれていた。リヴァはしゃがみ、少年の顔を覗き込んだ。

「慶慎は?」

「生きてる。けど」

「けど?」

「もう、壊れちまってる。人形みたいに」

 少年の体がサングラスとともに爆ぜた。リヴァは弾倉が空になるまで、短機関銃を撃った。

「そんなことは聞いちゃいない」

「リヴァ」

 リヴァの手元で、銃口がこちらを向く。

「ヤツらの数を減らす作戦がどこまで進んだかは知らないが、<ホープ・タウン>にはいつ突入するんだ?」

<アンバー・ワールド>の数は下げ止まった。磐井が死んだ。もたつけば、<ツガ>組から来た連中の足並みも乱れる。リタ・オルパートあるいはアンバーが信頼を立て直し、<アンバー・ワールド>の数が回復する可能性もある。それに。

「俺はもう、我慢の限界だ」

 リヴァが言った。分かっていた。リヴァは続けた。

「お前がこれまで、どんな思いで行動してきたかは、少なからず分かってるつもりだ。だが、限界だ。俺は今夜、行く。お前が邪魔をすれば、お前を真っ先にたたっ殺す」

「ああ」

「決行を今夜にするのなら、微調整はしてやる」

 リヴァの目を真っ直ぐと見る。逸らすことはできない。

「分かった。今夜、<ホープ・タウン>への突入を決行する。だから、少し待ってもらう」

「よし」

 リヴァは去って行った。騒ぎを聞きつけた神田がやって来て、磐井の死体を見つけた。車を呼び、仲間に運ばせる。もぐりの医者を用意しろと叫んでいた。磐井の死を受け入れられないのだ。好きにさせた。神田は仲間に指示をしながら、目に涙を溜めていた。

つづく




続きを読む
前回の話を読む
ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第1回から読む
ブログ小説 焔-HOMURA- scene1から読む
posted by 城 一 at 09:25| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。