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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年07月20日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第189回(2版)


生。


 辺りを満たす夜に静けさが戻るのを待ってから、鈴乃はパジャマを脱いだ。下には、何も身に付けていなかった。傷だらけの体は、わずかな動きにさえも悲鳴を上げた。ベッドに横たわるシドの体から、掛け布団とパジャマを剥いだ。磐井がもし、鈴乃の目的を正確に知っていたなら、シドと二人きりになることは許さなかったかもしれない。シドの履いていた――あるいは、履かされていた――パンツを脱がせ、ペニスを口に含む。

 人との繋がりを感じたのは、セックスを経て、羽継と兄妹になってからだ。口頭上の兄妹でしかなかったが。セックスで構築される関係は、確実だ。性欲に衝き動かされた男の前に自分しかいなければ、その男には自分しかいないことと同じだ。問題なのは、その関係が持続される時間が、男が射精するまでの間に限定されることだけ。いくつもの解決を思案し、試みたが、セックスを利用して手に入れた関係を長引かせることはできなかった。できたとしても、半年に満たない数ヶ月、あるいは数日だけ。永遠だと思っていた羽継との繋がりも、鈴乃の知らない合間に、切れてしまっていた。数多の人間に、話を聞いた。セックスで人間関係を構築することの愚かさを説かれた。いつしか、理屈だけは理解できるようになっていた。だが、頭に、そして行動に、反映されることはなかった。セックスを使わずに構築する関係を、幾度か試みた。それは失敗するか、構築されたように見えても、実感することができなかった。

 遅すぎたのだ。答えを手に入れるのが。羽継とのセックスが分岐点だった。構築した関係の結果、あるいは通過点にセックスがある人間たちとは違う道を、歩みすぎた。彼らの行動原理はもはや、鈴乃の体内では外敵として認識され、排除される所まで来てしまっていた。

 シドのペニスが勃起した。耳は、彼の傍らで規則正しい音を立てる心電図に注意を払っている。シドが帰ってくる可能性を乱してまで、この“関係”を手に入れようとは思わなかった。

 シドは、今までの男とは違った。少なくとも、そう思った。この行為を終えても、それは変わらないことを知っていた。だがそれは、シドが眠っているからかもしれない。もし起きていたのならば、彼はこの行為を許さない。

 傍らに、気配が生じかけた。目で見なくても、それが幼い頃の自分であることが分かった。“どうして彼とセックスをしたいのか、教えてあげようか”そう言いたかったのだろう。はっきりと姿を作り、声を出す前にねじ伏せた。お前の出番じゃない。気配は消えた。

 少し、焦っていた。シドのペニスはもう、準備ができているのに、自分の方がまだだった。指先でいくら愛撫しても、水分を含まない。性交を拒絶しているのだ。だが、彼と交わらなければ、先に進めない。必要なのだ。そう言い聞かせて、指を繰った。やはり濡れなかった。唾液を指に塗りたくり、無理やり開いた。

 シドの上に乗ろうとしたところで、体が硬直した。彼の顔が視界に入ったからだ。込み上げる罪悪感、そして嫌悪感を、陰核を撫でる指先で打ち消した。シドのペニスに、体を沈めた。

 声が出た。快楽よりも、わずかに痛みの方が大きい。だが、膣からくるものなのか、体中あちこちにある傷からくるものなのかは分からなかった。ゆっくりと、腰を上下させた。顎先からシドの胸に落ちる脂汗に、涙が混じった。眠っている男とのセックス。これが、自分の欲したものなのか。

 快楽が消え、苦痛が消え、嗚咽だけが残った。腰を動かし続ける。数多の男と関係を持ち、肌を赤く染め、悦び、喘ぎ、たどり着いた終着点。汗が、涙が、愛液が溢れている。だが、何もない。

「シド」

 呟いた名前が、快楽を蘇らせた。自分は、どうしようもない愚か者だ。好きな男が眠っているときにしか、好意をぶつけることができない。そしてそのためには、相手を貶めることもいとわない。

 ここには、体は二つある。だが、心は一つしかない。一方通行の感情。自分が満足するためならば、相手が眠っている隙をも利用する。

 所詮自分は、その程度の人間だったのだ。

 シド。何度も、男の名前を呼んだ。腰を動かす速度を上げた。頂が近付いている。シド。名前を呼び続けた。シド。

 射精。膣に満ちた温もりが、快楽を登りつめさせた。体をのけぞらせ、一瞬の硬直の後、大きく息を吐く。脱力するままに倒れ、シドの胸に頭を預けた。

 外気が、汗を利用して、急速に体温を奪っていく。心電図の音。冷徹な静寂が、夜に満ちていく。膣の中の温もりが、ただの精液へと変わっていく。指にすくって、舐めた。

 まずい。

 精液は、精液。誰のものでも、同じだった。

 シドに下着を履かせ、パジャマを着せた。布団を掛け、元通りにして、ベッドから下りた。

 病室を出ると、すぐ側の壁にもたれて、磐井がいた。煙草を吸っていて、辺りに甘ったるい煙を漂わせていた。彼は腕を組み、目を閉じたまま、言った。

「あんたは、ばかだ」

「これ以上ないほどに」

 鈴乃はパジャマの前のボタンを掛けながら、そう言った。

つづく




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posted by 城 一 at 20:15| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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