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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年08月11日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第190回


ただで済む時期は過ぎてる。


 鼻にジャブを一発。有無を言わせず叩き込んだ。身体的なダメージを与えるために打ったものではないが、笑顔で油断させてからのジャブだ。勝谷紀彦はバランスを崩し、目を白黒させながら、後ろにあったシンクに寄りかかった。

 ダンク。リヴァが言うと、オーライ、と返事をして、ダンクはすかさず、勝谷の両足を持ち上げた。ダンクが意識を取り戻したのは、数時間前だ。だが、数軒のレストランを渡り歩き、彼の望む通りに胃袋を満たしてやっただけで、いつもの調子に戻っていた。違うのは、包帯と肌の色で、まるでシマウマのような状態になっていることだけだ。真っ白いナイキのバスケットシューズ、黒いジーパン、白いダウンジャケット。ダウンの中は、何も着ていなかった。包帯を巻いていると、服を着る必要がないくらい暑いのだと言う。怪我のお陰で、彼の体が発熱しているためなのかもしれなかったが、その点については、リヴァは言及しなかった。

 シンクの中に勝谷の顔面を押し込み、蛇口を捻った。水の出所を調節し、彼の口を狙う。すぐに水は口腔から溢れ、勝谷はごぼごぼという音を漏らした。息ができないのは分かっていた。彼の鼻は、鼻血で詰まっている。

「アンバー、バンド〈FOSTER〉のメンバー、あるいは、〈アンバー・ワールド〉の中心メンバー。いずれかの居場所を教えろ。イエスなら、俺の腕を叩け。ノーなら、そのまま喉を潤してろ。水の適量摂取は、健康にいいと聞くぜ」

 リヴァは、〈スージー〉にいた。ライブハウス〈アンバランス701〉の上階にある、バーだ。ライブハウスと同様に、〈アンバー・ワールド〉の根城になっていたとも言われている。

 勝谷は水でむせながらも、首を振っていた。

 アトリエで倒した者たちは、全員、〈アンバー・ワールド〉のメンバーであることを示すバッジや、ワッペンを身に付けていた。〈アンバー・ワールド〉は、CDも発売して、表の世界で名を知られ始めているバンド〈アンダーワールド〉のメンバーの一人である、アンバーの狂信者たちで構成された、街の不良集団だ。アンバーや、彼の周囲に集まる人間を好むならば、誰でも〈アンバー・ワールド〉を名乗ることができる。その上、露天商などを中心に、そのグッズも販売されている。興味がない人間でも、ファッションのために、〈アンバー・ワールド〉に関するものを身に付けることはできた。だが、見過ごせない共通点だった。慶慎を探すときに、リタ・オルパートが〈アンバー・ワールド〉を利用したという話もある。情報を手に入れるための取っ掛かりになることは確かだった。

 ウエイトレスがバーの隅方へ、そっと逃げた。携帯電話を耳に当てたところで、バーバーが取り上げた。タンブラーを満たすシャンディ・ガフの中に携帯電話を沈め、不穏な音を立ててショートするのを見守ってから、中身を飲み干す。震えながら後ずさるウエイトレスに、バーバーは言った。

「おとなしくしていれば、危害は加えないよ。余計な人間を呼んだりして、僕らにある時間を縮めたりしなければ、その分、君たちの上司に優しくすることができる。オーケイ?」

 ウエイトレスは頷いた。腰がくだけており、尻餅を突きそうになる。バーバーは彼女の腰が落ちる場所に、椅子を滑り込ませた。

 リヴァは言った。

「バーバー。そいつは、警察じゃなく、〈アンバー・ワールド〉を呼ぼうとしてたのかもしれない」

「110の番号は確認済みだよ、リヴァ。それに、〈アンバー・ワールド〉の人間の番号なら、その人の携帯の方が入ってるはずだよ」

「それもそうだ」

 リヴァは勝谷の履いているジーパンの尻を探り、携帯電話を取った。開かずに、そのまま着ているダウンジャケットのポケットに突っ込む。電話帳に登録されている番号を調べるのは、後回しでいい。

 勝谷は顔面蒼白で、静かになっていた。水を止め、頬を叩く。

「寝てもらっちゃ困る」

 勝谷は深呼吸した。曖昧になっていた目の焦点が定まる。

「こんなことをして、ただで済むと思ってるのか?」

 口から溢れた水で、鼻血はほとんど洗い流されていた。冷やされたお陰もあるだろう。出血は収まりかけていた。ノックするように勝谷の鼻を叩く。再び、鼻血が噴き出す。

「見て分からないのか?」リヴァは、ギプスをした左手を、勝谷の目に見えるように示した。「既に、ただで済む時期は過ぎてるんだ」

「街を汚す、ごみ虫どもが」

 蛇口を捻った。水が、勝谷の口を塞ぐ。

「否定はしないが、お前はどうなんだ? 人を一方的に非難できるほど、綺麗な体なのか、ええ? お前、そしてお前がひいきにしてる〈FOSTER〉、〈アンバー・ワールド〉の連中は、綺麗なやつらなのか?」

 シンクの横には、大型の拳銃が置いてあった。勝谷から取り上げたものだった。その銃口を勝谷に向けた。彼は今までよりも一層大きく、首を振った。狙いを勝谷から外し、拳銃で窓を撃った。
「俺が持っていようが、お前が持っていようが、銃は銃だ。人殺しの道具だ。違うか?」

 勝谷は顔を横に向け、水から逃れた。

「お前ら〈ツガ〉や、〈カザギワ〉が持てば、そうなる」

「お前たちが持てば?」

「人殺しの道具にはならないし、しない」

 この言い回し。リヴァは確信した。

「お前、〈ミカド〉だな」

 勝谷は口許を歪め、微笑した。リヴァは銃口で、勝谷の右目を突いた。

「リタ・オルパートはどこにいる」

「リヴァ」

 バーバーが言った。無視した。

「俺の気は、かなり短くなってるんだ。場合によっては、殺すだけじゃ済まさねえぞ」

 勝谷は微笑を浮かべたまま、何も言わなかった。拳銃のグリップで、鼻を殴った。勝谷はシンクの中で頭を前後左右に暴れさせながら、低い呻き声を上げた。二度目。振り下ろそうとした腕を、バーバーがカウンター越しに摑んでいた。

「ずいぶん、甘やかすじゃねえか」

「僕らは、他にもたくさんの人間と話をしなきゃならないんだ。それに、いずれアイザックたちとの戦争にもなる。初っ端から、はりきりすぎると、警察に目を付けられて、本番前に身動きできなくなるよ」バーバーは言った。「そうなると、Kを助けられる可能性は、俄然低くなってしまう」

 バーバーを見た。

「冷静になるんだ、リヴァ」

 拳銃を振り下ろした。悲鳴を上げる勝谷から、リヴァは離れた。ダンクにも、そうするように言った。勝谷はシンクから顔を出し、床にひざまずくようにして、呻いていた。残っている弾を全て抜き、拳銃を投げ捨てた。

「リタ・オルパートが手に入れたかったのは、慶慎だ。あいつを痛めつけるための手札(カード)も、用意できてる」

「岸田海恵子、サニー・フゥ、市間安希」バーバーが言った。

「やつが欲しかったものは、全部揃っちまったんだ。事を始めるタイミングは、やつ次第。時間がないんだ。やつが具体的に、何をするつもりなのかは分からん。が、何にせよ、慶慎を痛めつけるのは確かだ。そして、全てが終わったら、慶慎を殺すことも。そうなっちまったら、俺は」

「分かってるよ、リヴァ。だからこそ、冷静になることが必要なんじゃないか」

「分かってる」

 携帯電話が鳴った。自分のものだ。出ると、相手は磐井だった。

「蓮さんから、リタ・オルパートに関する資料をもらった。いるか?」

「もちろんだ」

 リヴァは言った。

つづく




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posted by 城 一 at 06:30| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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