Gusuku LABELへようこそ!
最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年08月11日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第191回(2版)


俺たち、仲間だろう?


 リヴァは、車に乗り込んだ。全ての窓に、フルスモークを施した、黒いセダン。後部座席には既に、磐井が座っていた。ドアを閉めると、運転席にいた磐井の部下が、車を発進させた。

 磐井が、リヴァの出てきた建物を、一瞥した。

「〈アンバランス701〉か。〈アンバー・ワールド〉及び、アンバー率いるバンドグループ〈FOSTER〉の根城だ」磐井が言った。

「ああ」

「収穫は?」

「ライブハウスの上にあるバー〈スージー〉のマスターは、〈ミカド〉に関わっている」

「それで?」

「それだけだ」リヴァは言った。「今のところ」

「今のところ」

 言葉を吟味するかのように、磐井は呟いた。

「途中で抜けてきた。続きは、バーバーとダンクがやってる」

「なるほど」

「リタ・オルパートに関する資料は?」

「こいつだ」

 磐井から、膨らんだマニラ封筒を受け取った。口を開け、中身を取り出す。

 写真が数枚。全て、リタ・オルパートを写したものだった。表情や仕草、服装から、多少、リタの年齢に差があることが分かる。若く見える頃の方が、明るく見えた。あるいは、明るい雰囲気が、彼女を若く見せているのか。写真の他に、紙と文字による資料。縦書き、横書き。紙の質と種類もばらばらだった。英語で書かれた新聞の切り抜きもあった。

「バラエティに富んでるな」リヴァは言った。

「ああ」

 口を閉じた。資料を読み、聞こえてくる情報に、耳を傾ける。写真から受けた年齢差は、実際にあった。かつてのリタ・オルパートから、今のリタ・オルパートまで。時間と感情の推移を、写真は如実に表していた。

 磐井は、車を走らせ続けた。世界に黒い膜を張る窓は、いつしか、雨混じりの雪に打たれていた。ゆったりと流れる夜の街は、陰鬱な表情を見せている。ラジオでは、静かなジャズが、今日と明日を繋げていた。あるいは、昨日と今日を。物悲しげなトランペットの音色。磐井の部下は、途中、セルフサービスのガソリンスタンドで車に給油をし、コンビニエンスストアで、食料を買った。リヴァは、缶コーヒーとサンドイッチをもらった。ハム、トマト、レタス。マヨネーズ。磐井は腹を満たすと、目を閉じた。眠っているのかどうかは、分からなかった。

 資料を読み終え、リヴァはこめかみを、指で揉んだ。

 リタ・オルパートの生まれは、アメリカだった。同じ土地で育ち、同じ土地にあった大学に入った。リタ・オルパートは、偽名。本名は、パメラ・ブラウン。アメリカにいる間は、その名前を使っていた。偽名などというものとは、無縁だったのだろう。表情が明るく、若々しく見えるのは、リタ・オルパートが、パメラ・ブラウンだった頃に撮られた写真だった。

 彼女の弟、デイヴィッド・ブラウンも、姉と同じ道を歩んだ。同じ土地で年を重ね、同じ大学に入った。その道から外れたのは、彼が大学三年生のとき。デイヴィッドは突然、大学構内でライフルを乱射し、手榴弾を人に投げ、ナイフを振り回した。大学の教員三人と、生徒十八人が死んだ。教員十一人と、生徒四十二人が負傷した。精神的なものも含めれば、傷付いた人間は、もっと膨大な数になるだろう。デイヴィッドが、何をもって、虐殺の終わりにしたかは分からない。だが、確かに事件は終わった。デイヴィッドが、大学の屋上で自らのこめかみを自動拳銃で撃ち、飛び下りることで。

 事件後、間もなく、リタ(パメラ)とデイヴィッドの両親は、デイヴィッドと同じように、自分のこめかみを銃で撃ち、自殺した。パメラは日本へ渡り、消息を絶った。次に姿を現したときにはもう、パメラ・ブラウンという名は捨てられ、リタ・オルパートという新しい名前と生き方が、彼女にはあった。リタは、いくつかの組織を渡り歩き、反社会的な集団――暴力団、マフィア、ギャング、暴走族、その他もろもろ――を、潰して回った。リタが個人的に恨みや怒りを抱いている可能性のある人間――あるいは集団――は、その中にはいなかった。

「何があった」

 自分の中に、問いかけるようにして、口に出した呟き。いつの間にか、目を開いていた磐井が、フロントガラスの向こう側を見たまま、言った。

「リタ・オルパートのことか?」

「そうだ」

「弟の銃乱射事件と、両親の自殺が、彼女を変えた」

「やつは、慶慎に執着している」

「らしいな」

「弟と両親の件が、関係あると思うか?」

「二つの件がやつに変化をもたらし、現在、風際慶慎に執着している」磐井は一度言葉を切り、リヴァを一瞥した。「と思われる、リタ・オルパートという人間を作り出したと考えるなら、関係はあると言える」

「そういうことではなく」

「それ以上は、推測の度合いが強すぎると、俺は思う」

「そうだな」

「風際慶慎に対して、リタ・オルパートの精神が、どう作用しているのか。調べるためには、アメリカに渡らなければならない。その時間はあるのか、俺たちに?」

「ないな」

「リタ・オルパート、アイザック・ライクン、アンバー、〈アンバー・ワールド〉、〈FOSTER〉。いずれかの居場所を見つけることよりも、優先順位が高いか?」

「いや」

「だが、まあ。俺たちが、リタ・オルパートの精神状態を判断するのに役立ちそうな情報を見つけたら」磐井は言った。「教えてやるよ」

「当たり前だ。俺たち、仲間だろう?」

「俺は、およそ五十の部下を使って、ローラー作戦を行い、連中の居場所を探している。だが、その中に、お前たちはいない」

「個人主義なんだ」

「利己主義とも言えるな」

「どうとでも言える」

「情報がもし、俺たちからお前たちへの一方通行だったら」磐井は窓の外を眺めながら、言った。「俺たちはへそを曲げる」

「大人気ないな」

「慕っていた兄貴分を失って、精神的余裕がないんだ」

「情報の一方通行は起きないよ、ハニー」

「仲間意識の芽生えを、その呼び方で表現されることを、一番恐れてたんだ」

「なら、“ハニー・バニー”にでもするか?」

「《パルプ・フィクション》だ」磐井は言った。「クエンティン・タランティーノの」

「ああ」

「俺は〈ツガ〉の白虎隊だぞ」

「“ハニー・タイガー”じゃ、語呂が悪いよ」

「そうだな」

つづく




続きを読む
前回の話を読む
ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第1回から読む
ブログ小説 焔-HOMURA- scene1から読む
posted by 城 一 at 06:40| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。