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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年11月02日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第205回(5版)


きっと、あなたと同じね。


 リタは、新しい煙草の箱を開けた。カートンで二つ買っていたものが、いつの間にか最後の一箱となっていた。慎重に火をつけ、吸い込んだ。

 カナジョウ市地下街<ホープ・タウン>の最奥にあった、おそらく服屋になる予定であったのだろう場所――店頭のショウウインドウに、裸のマネキンが置いてあった――に引きこもっていた。慶慎の監禁部屋に仕掛けた監視カメラ。それに対応した数だけテレビを用意して、店の中に積み上げた。眠るつもりだったのだが、いつしか画面の向こう側にいる慶慎の表情に心奪われ、見入ってしまっていた。慶慎の表情は死に始めていた。そしてさらに顕著なのが、彼の目から失われていく光の量だ。同じ過程をたどっていく目をかつて、鏡の中に見たことがある。完全に光を失った目は、どんなに空で太陽が強く照りつけていても、輝かなくなる。

 休息を取ったあとで、一度心配してやって来たアイザックは、眠らずに慶慎を見ていたことに怒っていた。少しだけ。たぶん、彼への嫉妬も混じっているのだろう。これほど強い関心を、アイザックに寄せたことは今までにない。アイザックは言った。

「まだ続けるのかい?」

「もちろんよ。なぜ?」

「彼はもう、限界のように見える」

 アイザックの口から、そのような言葉が出たのは意外だった。慶慎への拷問を続けるのは、当然のことと思っていた。慶慎はもはや光の届かない闇の中にいるが、それでもまだ底に着いていないことが分かっていた。アイザックには、それが分からないらしい。他の者もそのようだった。<ナンバーズ>たちも、そろそろ慶慎のことを殺してやったらどうかなどと言っていた。論外だと彼らの言葉を一蹴した。考えてみると、自分の計画(プラン)の中には、慶慎の死は組み込まれていないのかもしれないとも思った。少なくとも、こちらから与える死は。どういう手段を取るにせよ、慶慎が自ら死を選び、実行に移す未来を思い描いた。悪くはない。そう思った。だが、やはり落ち着かない自分がいる。

「わたしは、何を求めてるのかしら」

 そう独り言ちた。誰も答えなかった――店の中には誰もいなかったのだから、当然のことだが。辺りに満ちた静寂は答えを知っていそうだったが、聞き出す方法が分からなかった。

 医者に、サニー・フゥと市間安希の治療をやらせた。爪を剥がし、指を何本か切断したのだ。細心の注意を払って、治療にあたらせた。慶慎を、闇のより深い場所へ引きずり込むために、彼女たちにはまだ役立ってもらわねばならない。彼女たちの管理は、慶慎に対するそれよりも慎重に行った。曲がりなりにも、一度は<カザギワ>に殺し屋として雇われた少年だ。慶慎は頑丈(タフ)だった。だから、見張り役の者に痛めつけられていても、度が過ぎるまでは放っておいた。

<ホープ・タウン>には、催事のために舞台(ステージ)と広場が用意された場所があった。アンバーは仲間とともに機材を持ち込み、そこでライヴをやっていた。アンバーを通じて、<ホープ・タウン>に集まる者たちにはドラッグを配っていた。既に、モラルがほとんど残っていない連中だったが、そこからさらに正常な思考を奪う。依存という名の鎖が、彼らを問答無用で繋げておくことを可能にする。連帯感を与えるために、<カザギワ>に対する正義という言葉を使ったが、長い時間を連中とともに過ごすつもりはなかった。どんな結末になるにせよ、慶慎を手元に置いておく間だけ持てばいい。

<アンバー・ワールド>の少年を一人呼び、誘惑した。所詮、子どもだ。踏み止まる理由も知恵も、規律(ルール)も持ち合わせていない。容易に堕ちた。若さ故の激しさしかない腰の動きに膣を突かれながら、画面の中の慶慎を見ていた。慶慎とのセックスを想像した。それが引き金になり、達した。悪くはないかもしれないと思った。間もなく、少年も達し、射精した。誘惑するのに交わした言葉が初めてだったのにも関わらず、少年は何を思ったか、愛の言葉を囁いていた。返事はしなかった。少年が脱いだ服を再び身に付けているところに後ろから忍び寄り、銃で頭を撃ち抜いた。<ナンバーズ>を呼びつけて、死体の処理をさせた。

<ナンバーズ>が死体の処理を終え、いなくなるのを待ってから、慶慎の監視に戻った。つい先ほどまで突き上げられていた下腹部に手のひらをあてた。熱を持ってはいるが、そこにはもう松戸孝信はいない。ならば、誰がいるのだろう? 分からなかった。

「きっと、あなたと同じね、坊や」

 画面の中の慶慎に向かって言った。慶慎は何も言わなかった。

つづく




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posted by 城 一 at 22:12| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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