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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年11月10日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第207回(4版)


バイバイ。


 ふざけるな。

 慶慎は全身に力を込めた。四肢を縛る縄が張り詰める。だが、それだけだった。切れたりはしなかった。体を揺らす。肘掛けを破壊した、あのときのように。だが、スチール製のアームチェアは、きしきしと音を立てただけだった。縄の上から巻かれた鎖が、衣擦れのように柔らかい金属音を奏でた。それだけだった。状況は、何も変わらなかった。

 安希が拘束を解かれた。すぐさま彼女は逃げ出そうとしたが、誰かに足を引っ掛けられて、転んだ。人垣に包み込まれる。無数の手が、彼女に向かって伸びる。安希の衣服が破れ、剥がすようにして奪われる。抱き締めるようにして、自らの体に両腕を巻きつけた、下着姿の安希を、誰かが笑った。慶慎は吼えた。縄が体に食い込んだだけだった。紙切れのように、安希の白い下着が剥ぎ取られた。彼女の華奢な裸体がさらされる。

 やめろ。

 慶慎は叫んだ。誰も、振り向きさえしなかった。

「やめさせてよ」慶慎は、リタに言った。「お願いだ。僕は、どうなってもいいから」

「そういう言葉は、相手の手中に収まっていない人間が言うことよ。自由を奪われ、月並みな表現だけれど、相手の煮るなり焼くなり好きにできる状態にある人間が言っても、何の意味もないわ。つまり、あなたに交渉に使えるカードはない。あなたはそこで、指をくわえて見ていることしかできないのよ。あなたにとって、最も優先順位の高い彼女が犯されるさまをね。もっとも、今のあなたには指をくわえることもできないわけだけれど」

 安希が悲鳴を上げた。握り潰そうとするかのように、誰かの手が、彼女の乳房に伸びていた。彼女の股間に伸びた手も同じだった。およそ愛撫とはかけ離れた荒々しさで、安希を弄ぶ。痛いと安希が叫んだ。誰も手を止めなかった。

 慶慎は強引に両腕を動かした。縄で皮膚が擦り切れ、血が流れた。構わなかった。腕を動かし続けた。縄が肉に食い込み、肘掛けが血で染まった。状況は何も変わらなかった。椅子に縛り付けられたまま、安希が犯されるさまを見ていることしかできなかった。

「もう嫌だ」慶慎は言った。頬を伝う涙とともに。「こんなのないよ」

『だから言ったのに。外は怖いって』誰かが言った。

 安希が体をのけぞらせた。少年の一人に、ペニスで貫かれていた。悲鳴をほとばしらせる安希の口にも、他の少年がペニスを突き入れる。誰かが彼女の肛門を試そうとし、実行に移した。安希の周囲を取り囲む者たちの何人かは、自分で自分のペニスをしごいていた。安希を犯していた少年が、腰を震わせた。彼が離れると、安希の膣から精液がこぼれた。すぐに、他のペニスによってふさがれた。

 もう嫌だ。

 慶慎は安希から目を逸らした。瞼を閉じた。だが、安希が犯される映像からは、逃れることができなかった。目の前で起きている光景は瞼の裏まで潜り込み、頭を侵した。涙がいくら膜を張ろうとも、無駄だった。

 もう嫌だ。

 どうしてこんなこと。誰に向けているのかも分からないまま、慶慎は叫んだ。

 リタが、慶慎の耳元に唇を寄せて、囁いた。

「昔々、あるところに、パメラ・ブラウンという女がいました。どこにでもいる大学生だった彼女は、ありふれているけれど、でもかけがえのない幸せな日々を送っていました。妻子のある教授と不倫していたけれど、いずれ妻と別れるという彼の言葉を信じていたし、少し罪悪感で胸は痛んでいたけれど、満たされていました。ところが、そんな幸せな日々がある日、音を立てて壊れました。同じ大学に通っていた彼女の弟が、大学で銃の乱射事件を起こしたのです」

 見知らぬ少女が、慶慎の傍らにいた。いや。慶慎は思った。彼女には、見覚えがある。だが、思い出すことができなかった。リタは、少女の存在に気づいていないようだった。少女は、安希の様子を眺めながら言った。

『こんな世界に、何の意味があるの? ここには、苦痛しかない。留まる意味なんか、一つもない。これが現実? だからどうしたって言うの? なぜ、死よりも辛い思いをしてまで、現実に生きなきゃならないの?』

「パメラは、弟がどうしてそんなことをしたのか、分かりませんでした。警察に、いくら事情を訊かれても、答えることができませんでした。心ない刑事が言いました。“お前にも、同じ血が流れてるんだ。あの正真正銘の、くそったれの血がな。いいか? もし魔が差しても、今度は大学での銃の乱射は省略するんだぜ? お前が、やつみたいに自殺するのはいたって構わないからな”。そう、パメラの弟は大学でたくさんの人を殺したあと、自殺したのでした。パメラの恋人である教授は、パメラの弟が殺した人たちの中の一人でした。両親は、息子が犯した罪の重さに耐え切れず、間もなく揃って自殺しました。パメラは、どうすればいいのか分かりませんでした。悲しみたいのに、悲しむ場所がありませんでした。彼女の気持ちに共感してくれる人はいませんでした」

『君はもう、十分頑張ったよ。他の人の何倍も、苦しみに耐えた。辛いことに耐えた。何倍も涙を流した。これ以上、ひどいことをする現実なんかに、向き合う価値なんかない』

「弟が起こした事件からしばらくして、パメラは知らない人たちに拉致され、監禁されました。彼らは、パメラの弟のせいで片目の視力を失った人の友だちでした。彼らはパメラに贖罪を求めました。パメラは何度も謝りました。けれど、彼らは許してくれませんでした。パメラに暴力を振るい、そして犯しました。何日もの間、けだもののように。パメラは、何かが壊れる音を聞きました。心が壊れたのだと、彼女は思いました」

 安希の声が聞こえなくなった。彼女は失神していた。だがそれでも、少年たちは安希を犯し続けた。取り憑かれたように腰を振り、射精した。力なく、ただ彼らの思うように操られる安希は、まるで人形のようだった。だらしなく開いた彼女の口からは、誰かが放った精液が滴っていた。

「自分が犯されることで、傷ついた人の気が済むのなら仕方ない。そう思っていたパメラでしたが、あるときふと気づきました。彼女を犯す者たちの中には、彼女の弟が起こした事件で実際に傷ついた人はいなかったのです。彼らは好きなだけ彼女のことを犯したあと、事の始末をどうするか考えました。そして出した答えが、彼女を殺すことでした。“ふざけるな!”。パメラは思いました。どうにか彼らの下から逃げ延びたパメラは、地元のギャングを誘惑しました。自分の体を、ギャングたちの好きなようにさせました。もう、犯されることには慣れてしまっていました。愛してもいない人に犯されて、傷つくこともありませんでした。パメラはギャングたちに好きなようにさせた代わりに、復讐と偽って彼女を拉致、監禁し、痛めつけ、犯した者たちを皆殺しにさせました。そしてそのあとで、ギャングたちを自分の手で皆殺しにしました。パメラにはもう、怖いものは何もありませんでした。心が壊れた自分は、もう二度と傷つくことはないのだから。パメラは新しい自分に名前を付けました。リタ・オルパートと」

 少女が、慶慎の前に立った。安希が見えなくなる。

『あんなの、見る必要ないよ』

 リタが、慶慎の目を覗き込んで言った。

「心は死んだと思っていた。だが、お前が現われた。そして、松戸孝信を殺した。男を殺されることには、もう慣れていたはずだった。そんなことになっても、何も感じないはずだった。だが違った。死んでいたはずの心がまた、活動を始めるのが分かった。わたしに、苦痛を与えるために。お前には、この落とし前をつけてもらわなければならないのだ、風際慶慎」

 慶慎は何も言わなかった。少女が、手を差し伸べる。

『ほら、行こう。現実なんかには、お別れして』

 慶慎は、少女の手を取った。本当は、そんなことできないはずなのに。四肢は縄と鎖で縛り付けられているはずなのに。

「そうだね」慶慎は言った。視線はリタの顔を捉えていたが、本当の意味で見てはいなかった。「バイバイ」

つづく




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posted by 城 一 at 03:06| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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