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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年11月14日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第209回(3版)


見損なうなよ。


 バーバーは舌打ちした。

 リヴァが短機関銃(サブマシンガン)を構えていた。こちらに向けて。

「また、飲んでるのかい、リヴァ?」

「いや」

 嘘は言っていない。リヴァの息からは、酒臭さを感じなかった。

 漫画喫茶。そこで貸し出している、青みがかった灰色のカーペットが敷かれた、小さな部屋。電気は消されており、窓から差し込む淡い月明かりだけが頼りだった。緑色のレーザー光線のようなものが、四角になったり、円になったりして画面をゆったりと移動するスクリーンセーバーが映し出された、デスクトップのパソコンがパソコン台の上に載っている。漫画が数冊、床に積み上げられていたが、手をつけた気配はない。円形のローテーブルに置かれた、マグカップの中のコーヒーに、湯気は立っていない。

 バーバーは部屋に上がり、窓辺に行った。足下に転がっていた双眼鏡を取り上げ、窓の外を覗く。夜闇の中、街灯に照らされて浮かび上がる、<ホープ・タウン>への入り口が見えた。パイロンと、オレンジ色に塗られた鉄柵にふさがれており、人気もない。一見しただけでは、そこに人の出入りがあることは分からない。ただ、鈍重な獣のように、地下へと続く階段が、大きな口を開けているだけだ。

「俺に、見張りを付けたな」リヴァが言った。

「ああ」

「どういうつもりだ」

「どういうつもりだ? それはこっちの台詞だ。僕の命令を無視して、ここに入り浸って<ホープ・タウン>の観察をして」バーバーは部屋の隅に置いてあった、モスグリーンの大きなドラムバッグを開けた。中には、自動、手動の拳銃が数丁と予備弾倉がいくつか、オートマティックの散弾銃と、箱に隙間なく詰め込まれた装弾、形や種類がさまざまの手榴弾が入っていた。リヴァを見る。「そして、テロでも起こせるくらいの量の武器を調達した。それとなく、分かってはいるが、君の口から直接聞きたい。それも、具体的に」バーバーは言った。「どうするつもりだったんだ?」

 リヴァは銃を構えたまま、軽く肩をすくめた。

「簡単なことだ。あそこから」リヴァは首を小さく動かして、<ホープ・タウン>への入り口を示した。「<ホープ・タウン>に入って、ドラムバッグの中身を可能な限り有効活用するつもりだった」

「作戦の詳細まで、きちんと聞きたいね」

「詳細? そんなものはない。今言った以上でも、以下でもねえよ」

「見損なったな、リヴァ。そんなことをすれば、確実に君は、慶慎を助けることもできずに死ぬが、それだけじゃない。僕らが今、互いの不満を押し殺して進めてる作戦も、まったくの台無しになる。分かっていないわけじゃないだろう?」

「くそほども役に立たない作戦なんか、俺の知ったことじゃない」

「おいおい、それは本当は、俺が言いたくて常にうずうずしてる言葉だぞ」

 神田が言った。彼は、部屋の入り口の上枠に手をかけて、リヴァを眺めていた。部屋は狭い。神田が入るスペースは、もう残っていなかった。神田の向こうで、ダンクが腕組みをして様子を見守っているのが見えた。

「だったら、好きなだけ口にすりゃいい」リヴァは、神田を見ずに言った。「あんた、俺を見張ってたやつだな」

「ああ」

 バーバーは、リヴァに見張りを付けた。いずれ、慶慎を助けるために動けないことに、リヴァが耐えられなくなることは分かっていた。見張り役を見繕うように神田には言ったが、彼自身が見張り役の一人になると言うとは思わなかった。<ピザ・コパフィールド>での一件以来、神田は何かとバーバーの側に、その身を置いた。認められたわけではない。それは、自分に注がれる視線の鋭さで分かる。一挙手一投足が、吟味されている。そう思った。隙を見せれば、足をすくわれる。そんな緊張感が、常にある。

「俺の信用も落ちたもんだな」リヴァは言った。

「実際、君は僕の指示を無視した」

「そうだな」

「こんなことはやめて、僕の指示通りに動くんだ、リヴァ。一人で<ホープ・タウン>に突っ込んだって、何にもならない」

「そうかな? 目を覚ますやつがいるかもしれない。“俺は一体何だって、こんな回りくどいことをしてるんだ。難しく考えずに、あいつみたいにやればいいじゃないか”ってな」

「それでどうなる。ただ、死ぬだけだ」

「お前が主導してる作戦に従えば、そうはならない?」

「何も考えずに、敵の本拠地に突っ込むよりは、ずっとましだ」

「だが、慶慎が死ぬ」

「慶慎が死ぬ可能性は、あるいは既に死んでいる可能性は、どうやったってゼロにはならない」

「だがお前は、その可能性を悪戯に高くしてる」

「そんなことはない」

「いいや、してる。なぜだか、説明してやる。慶慎が死ねば、急いで<ホープ・タウン>に攻め入る必要がなくなるからだ。慶慎が死ねば、じっくり時間をかけて、やつらを相手にできる。そうなれば、くそったれな勝率とやらは高くなる」

「見損なうなよ、リヴァ」

「俺の望みが」リヴァは言った。「慶慎を助けたいって望みが面倒なら、そうはっきり口に出せばいい。なのに、そうしない。がちがちに固めた理屈で真意を隠して、誰からも正しいとされる位置に自分を置く。お前は卑怯だよ、バーバー」

「だったら」バーバーは銃口を掴んだ。引き寄せて、自分の胸に押し付ける。「さっさと、その引き金を引けばいい。卑怯者の命なんか、君にも僕にも必要ない」

「バーバー」ダンクが部屋の外から言った。

「君は黙っていろ、ダンク」

 リヴァの呼吸が荒くなる。聞こえるほど、音が大きくなり、微かに上下するリヴァの肩の動きが、短機関銃(サブマシンガン)を通してバーバーにも伝わった。

「くそっ」

 リヴァが短機関銃(サブマシンガン)を床に叩き付けた。神田が素早くその懐に踏み込み、背負い投げた。リヴァの体が部屋の外に転がる。神田はそれを追いかけ、リヴァを立たせ、みぞおちを蹴った。店の客や、店員が目を丸くして、突然始まった荒事に言葉を失っていた。

「いいのか、バーバー?」ダンクが言った。

 バーバーは、溜め息を隠さなかった。

「構わない。それよりも、客や店員の動きを見張っていてくれ」

 バーバーは、リヴァが投げ捨てた短機関銃(サブマシンガン)を拾い、ドラムバッグの中に入れた。持ち上げると、重量がドラムバッグを構成する生地の硬度を遥かに上回っているらしく、ひどく変形した。もしかすると、運んでいる最中に底が破れてしまうかもしれない。部屋の外では、派手な音とともに、家具が倒れ、本棚に並ぶ漫画が床に散乱していっていた。リヴァは抵抗しなかった。まるで、自分を罰するように。

「がきが」

 最後に軽く一蹴りして、神田の気は済んだようだった。バーバーは、床で力なく倒れるリヴァに言った。

「君を拘束する、リヴァ」

「好きにしろ」リヴァは言った。

「不満も、憤怒もあるだろう。けどそれは、本番のときのために取っておくといい」

「そうだな」

 店の中には、神田の部下が二人いた。神田とともに、リヴァの見張りにあたった者たちだ。神田が目で合図すると、彼らはリヴァの体を引きずり、店の外へと連れて行った。神田が言った。

「少し前の自分を見てるようで、ひどくいらついた」

「そう」

「やつとは、長い付き合いなんだろう?」

「ええ」

「なかなか、こたえたんじゃないのか?」

「どうでしょうね」

 神田は鼻で笑うと、リヴァを連れて行った部下のあとを追った。ダンクが側に来た。

「バーバー」

「大丈夫。肉体的にはそうでもないけど、精神的には、かなり頑丈にできてるんだ、僕は」

「けど、それは、傷一つ付かないということじゃない」

「まあね」

「精神的な傷に効果的な絆創膏があれば、用意してやるんだけどな」

「残念ながら、そんなものはない」

「腹は?」

「減ってる」バーバーは言った。「珍しく」

「うまい中華を食わせてくれる店を知ってる。そこに行こう」

「そこに絆創膏はないのかい?」

「中華を出す店としては一流だが、残念ながら回鍋肉(ホイコーロー)しかない」

「そして、残念ながらその洒落は三流だ」

「手厳しいな」ダンクは言った。

つづく




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posted by 城 一 at 01:42| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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