Gusuku LABELへようこそ!
最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年11月17日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第212回(3版)


プラン.


 ストリップ小屋には、上客をもてなすためのVIPルームがあった。メインホールからは隔絶された個室で、客は周囲の喧騒を気にすることなく、目の前で腰をくねらせるストリッパーの裸体と踊りを楽しむことができる。リヴァはそこに監禁されていた。

 円形の空間。壁に沿って、半円状に設置された、真っ赤な本革張りのソファ。部屋の中央には、小さな円形のステージとポール。ステージと天井を貫くスチール製のポールは、リヴァを拘束するための、格好の道具だった。リヴァはポール越しに、両手を手錠で繋がれていた。

 拘束する。バーバーはそう言った。長年付き合ってきた仲間にも、容赦しない。だからこそ頼りになるのだが、今回ばかりは、その容赦のなさを、リヴァは恨めしく思っていた。ステージの上で、何とか拘束から逃れようと、ポールに繋がれたまま動き回っていると、客を喜ばせるために踊っているストリッパーになった気分になる。

 ポールが折れるか、ステージか天井から外れるかしないかどうか、力ずくで揺らそうと試していると、ドアが開いた。バーバー。

「田村リヨを殺した犯人が分かった。犯人は、他でもない。アンバーだった」

 バーバーは言った。銀色に染めた髪は、長い間ほったらかしになっているらしく、根元が段々と、地毛の色――黒に近いブラウン――になってきている。今は、付け毛もしていなかった。整髪料も使わずに、ただ髪を下ろしている。

 事の経過だけは、律儀に報告しにやって来る。リヴァを拘束していることに対する、せめてもの償いのように。リヴァは黙ってステージに腰掛け、話の続きを待った。

「証拠は、かつてアンバーが田村リヨとよく行っていた、<quilt>という店の店主が飛猫に渡した、S&W M629ショーティ。それが、田村リヨを殺した時に使った凶器らしい。裏付けは浦口を通して取った。使われた銃弾、射撃特性。共に、問題はなかった。田村リヨ殺しに関して、陽性だ」

「それはそれは」リヴァは言った。「恋人を<カザギワ>に殺されたと言っていたアンバーの言葉が、180度引っくり返るスキャンダルだな」

「そう。それを含めて、田村リヨの死に関して集めた情報を、<アンバー・ワールド>のサイトをクラックして、そこで発表する」

「それで崩壊とまではいかなくとも、連中にかなりの打撃を与える事ができる」

「そういうこと」

 リヴァは、バーバーを見た。

「ただし」リヴァは言った。「その情報を、やつらが信じればの話だな」

「それは」

「やつらは信じないよ、バーバー。なぜなら、そんな情報を流すのは、<アンバー・ワールド>と敵対する人間、組織だからだ。連中は推測する。こんなことをするのは、<カザギワ>以外に考えられないと。それに、射撃特性やら何やら。警察方面から仕入れた情報を使っていいっていう許可は下りてるのか?」

 バーバーは俯いた。力なく、首を振る。

「そりゃそうだ。浦口がお前に協力するのは、あくまでも非公式なんだから。なあ、バーバー。賭けてもいい。今、お前の手の中にある情報をそのままネットで流したって、効果は微々たるものだ」

「けど、他に手は」

「証拠を使って、本人をおびき寄せる。アンバーを。情報の真偽に、連中の結束力の要となっている人物を混ぜれば、どうだ?」リヴァは、手錠に繋がれた状態で、小さく手のひらを広げた。「信頼性は大幅にアップするんじゃないのか?」

「それはダメだ、リヴァ」

「お前はきっと、このプランを考えたんだ。だが、それを実行できるくらいの、微妙な匙加減、度胸、動機がある人間を、一人しか思いつくことができなかった」

「そんなことはない」

「インターネットと接続した、無線式のカメラを無数に設置して、死角のない劇場を作る」

「リヴァ」

「リアルタイムで、カメラで撮った映像をインターネット上で流す。ステージに上がるのは、ホストとゲスト。ゲストはもちろん、アンバーだ。ホストは、唯一無二の証拠品を使って、ネットを通して見てる、無数の観客の前で、アンバーから、アンバーの言葉で、情報を引き出す」

 バーバーは、リヴァを見つめたまま、何も言わなかった。驚きも、リヴァの話に言葉を挟むこともしない。やはり一度、彼の頭の中に浮かんだ考えなのだろう。

「ホストには、俺がなる。アンバーから、どんな類の情報を引き出せばいいのかは、分かってる。度胸じゃ、誰にも負けない。慶慎を助ける。動機もある」

「ホストには、やらなきゃならないことがある」バーバーは言った。「いや、やらないでいるべきことと言った方が正しいのかな」

「ああ。ホストは抵抗しない。武器を持たない。丸腰で、証拠品一つを手に、やつと対面する」

「アンバーにとって、恋人を殺したという過去は、地雷なんだ。踏めば、どうなるか分からない。君を殺そうとするかもしれない」

「結構なことじゃねえか。無抵抗の俺が殺されれば、証拠品である拳銃の価値が跳ね上がる。もし、アンバーにとって、何の価値もないものなんなら、俺を殺したり、ましてや強引にその証拠品を手に入れようとなんかしないはずだからな」

「アンバーは僕らの考えを読んで、何もせずに帰るかもしれない。もっと言えば、彼が僕らの誘いに乗ってくるかも分からないんだ」

「誘いに乗ってこなかった場合、俺たちが損するものはない。もしも誘いに乗ってきた場合、俺たちはこれ以上ないほどの、アンバーが恋人を殺したという情報の信頼性を手に入れる。やらないに越したことはないプランだ」

「けど」

「保険として」リヴァは言った。「丸腰では行くが、代わりにダンクを連れていく。あいつは丸腰でも、そこいらの銃の百倍役に立つ」

「ああ、そうだね」バーバーは頷いた。「そうした方がいい」

「決定だな」

「どうせ、止めてもやるんだろ?」

「さすが、長い付き合いなだけはある。俺のことを理解してるな」

「だから、あんまり僕を悲しませないように」

「心掛ける」リヴァは言った。

つづく




続きを読む
前回の話を読む
ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第1回から読む
ブログ小説 焔-HOMURA- scene1から読む
posted by 城 一 at 08:43| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。