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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年11月20日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第213回(3版)


劇場.


 リヴァは、四角いガラステーブルの上に、ジップロックに入ったままの拳銃を置いた。S&W M629ショーティ。人の命を奪えて、せいぜい六つのはずの武器。それが<アンバー・ワールド>に与えられるかもしれないダメージを計る。引き金を引かずに、敵の数を減らすことができる。それが少し、不思議だった。

 リヴァは、膨らんだ風船状に骨が伸び、湾曲した背もたれを持つ、木製の椅子に座っていた。かつてはクッションがあったのだろうが、接着剤の跡を残して、なくなっていた。お世辞にも、座り心地は良いとは言えない。

 ダンクは、マットレスのないパイプベッドに寝転がり、漫画を読んでいる。

 廃墟となって久しい、小さなビルに、リヴァたちはいた。何もない場所だ。地元の不良少年やホームレス、その他、乞食根性たくましい者たちに、あったものは全て運び去られていた。ドアや窓さえ、取り外されている場所がある。ホームレスの溜まり場ともなっていたが、銃口を振り回して、追い出した。

 地上六階建て。入り口から始まり、各階層、階段、そしてリヴァたちがいる最上階に至るまで、全ての場所に無線式のカメラを仕掛けた。死角はない。ビルの全てが、バーバーの手によって掌握されている。バーバーは既に、<アンバー・ワールド>のホームページをクラッキングし、ビルの映像を流す準備を済ませていた。誘いに乗ってアンバーが現われれば、いつでもビル内の映像をホームページ上で流すことができる。

 アンバーには、<アンバー・ワールド>に潜伏させている、磐井の後輩たち――暴走族、<白金大熊猫(プラチナ・パンダ)>を通じて、リヴァの手中に、彼がリヨを殺したときに使った拳銃があるという情報を流した。リヴァたちがいる場所も。目当ては金。そう伝えさせた。金さえ渡せば、どうにでもなる相手だと考えてもらっていた方が、警戒心は低くて済む。

『体調が悪くなったりしたら、すぐに言ってくれ。代わりの人間を行かせる』

 耳栓のように、片方の耳に詰めた無線で、バーバーが言った。色は肌色に塗ってある。万が一、無線を付けている方の耳を見られても、すぐには分からないように。無線の存在を相手に悟られないように、アンバーが現われたら、ダンクに、無線を付けている側に立つように言ってもある。マイクは、服の下にテープで貼り付けていた。この場所が、リヴァたちが用意した“劇場”であることを知れば、アンバーはすぐに逃げてしまう。

「俺の代わりを務められるやつなんか、いやしないよ」リヴァは言った。

 ダンクが漫画を読み終え、ベッドの上で欠伸をし、間もなく寝息を立て始めた。起きると、読み終わったはずの漫画を取り上げ、二週目に入った。三週目を終えたところで、ダンクは、持ち運びが可能なタイプのバスケットボールのゴールを持って来ればよかったと愚痴った。そうだな。リヴァは言った。慶慎が今どうなっているのか。アンバーが来たら、何と言うか。相手はどんな対応をするか。頭の中で、何度もシミュレーションを繰り返していた。ダンクほどには、暇を持て余さなかった。ダンクが、あまりにも暇であることと、空腹を訴え始めたところで、リヴァは、持って来ていたバックパックの中から、買い込んだおにぎりと、ペットボトル入りのミネラルウォーターを取り出し、ダンクに与えた。おにぎりを五つ平らげたダンクは言った。

「先に言ってくれてれば、俺だってこんなに文句は言わなかったのに。そこまで信用がないのかい、俺って?」

 リヴァは言った。

「もし、先に言ってれば、お前の限界は数時間前に訪れてただろうよ」

 リヴァは何も食わず、水分だけを摂取した。ビルには、かつてトイレとして使われていた場所があった。便座はなかったが。そこで用は済ました。椅子に座り過ぎて、血液の流れが停滞しているのを感じると、ビルの最上階をぐるぐると歩き回った。そしてまた、椅子に座った。いつの間にか、リヴァは眠っていた。無線から聞こえた、バーバーの声で、リヴァは目を覚ました。

『来た』バーバーはそう言った直後、派手に悪態をついた。『くそっ』

「何だ」

『仲間を連れてる。六人。全員、短機関銃(サブマシンガン)装備』

 リヴァは頭の後ろで手を組み、椅子の背もたれを軋らせた。

「上等だ。こっちが劣勢であればあるほど、信頼性は上がるってもんだ」

『リヴァ』

「こっちには、お前がいる。たとえ俺がやられても、それを犬死ににはしない。そうだろ?」

『死なせるために、君をそこにやったんじゃない』

「分かってる。分かってるさ」

 リヴァは言った。そして、胸の内で呟く。

 さて、幕開けだ。一触即発の即興劇。足の運びを間違えば即死亡の綱渡り。

 ドアのない最上階の入り口に、アンバーが仲間を従えて立っていた。リヴァは言った。

「ハロー、エヴリワン。何か、探しものかな?」

つづく




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posted by 城 一 at 23:15| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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