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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年11月21日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第214回(3版)


劇場2.


 アンバーが後ろに従えている少年たちは皆、同じ格好をしていた。茶系の迷彩柄のミリタリールック。まるで、軍隊みたいだ。リヴァは思った。

 アンバーは無言のままリヴァに歩み寄り、その額に短機関銃(サブマシンガン)の銃口を突きつけた。同様に無言のまま、ダンクが異議を唱えるようにして、パイプベッドから立ち上がった。アンバーが連れて来た<アンバー・ワールド>の少年たちの短機関銃が、ダンクに向けられる。ダンクは微塵もたじろがず、六つの銃口を睨んだが、リヴァに一瞥されると、おどけて両手を挙げた。リヴァは、ガラステーブルの上から、ジップロックに入った拳銃を取り、ダンクと同じように両手を挙げてみせた。

「何やら、誤解が生じていると俺は推測するね」リヴァは言った。「俺はただ、あんたに、昔あんたが所有していた拳銃が、俺の手元にあると、人づてに伝えただけだ。こいつは、そんなに大事なもんなのか? 戦争をおっ始められそうなくらい、武装して来るほど?」

 アンバーは、黒のダウンジャケットに、深いブルーのジーパン、黒いミリタリーブーツを履いていた。そして、黒いベースボールキャップ。帽子の鍔の下で、両の瞳が殺気で燃えている。アンバーは、リヴァの手にある拳銃を睨んだ。

「そいつを寄越せ」

 アンバーが手を伸ばす。リヴァはそれから逃れるようにして、拳銃とともに身を翻した。

「ヘイ、ヘイ。そいつはないんじゃないか、アンバーさんよ。誰がいつ、“ご自由にお持ちください”って言った? 普通、こいつを手に入れるには、街を歩き回って銃の密売人を見つけて、万単位の金を用意しなきゃならないんだぜ? 最新のゲーム機を一つ、もしかすると、二つ三つ買えるくらいの金をな」

「いくら欲しいんだ?」

「三十万」

「最新のゲーム機が二つ三つじゃ、済まない値段だ」

「そう!」リヴァは両の手のひらを、大きな音を立てて合わせた。「なぜならば、こいつはただのS&W M629ショーティじゃないからだ。あんたが喉から手が出るほど欲しがってるという、付加価値が付いている」

「なるほど」

「それに、知ってるぜ? あんた、街で人気のバンド<アンダーワールド>のメンバーじゃないか。CDの売れ行きは好調なんだろ? それくらい、楽に出せるんじゃないのか?」

 アンバーは、リヴァに向かって、一歩踏み出した。間合いが詰まる。

「この銃口から弾を出す方が、俺にとっては楽だな」

「あまり怖いこと言うなよ、ベイビ。俺は小心者なんだ。小便ちびっちまうよ」リヴァは言った。「オーケイ。二十万だ」

 アンバーは、ダウンジャケットの内ポケットから、細長い封筒を取り出し、ガラステーブルの上に放った。

「十万ある。前金だ。残りの十万は、あとでやる」

 リヴァは口許を緩め、両手の人差し指でアンバーを指した。

「憎いね。金を要求されることは、想定内だったわけだ」

「まあな。さあ、そいつを寄越せ」

「全額即金じゃない分、時間をもらおうかな」リヴァは踊るようにしてアンバーの手から逃れ、くるくると回る。耳に詰めている無線機は、さりげなく掲げた拳銃で隠す。「どうして、そんなにこいつが欲しいんだ? ただ、S&W M629ショーティが欲しいだけなら、街を少しばかり歩き回りゃいい。下手をやらなきゃ、値段も二分の一以下で済む。なのに、あんたはこいつに固執する。この、ジップロックに入ってる拳銃に。なぜだ? どうして、こいつじゃなきゃいけない?」

「黙って、そいつを寄越せ。二十万が手に入る機会(チャンス)を、ふいにしたいのか?」

「時に、好奇心は金銭を上回る」

 アンバーが短機関銃(サブマシンガン)の引き金を引いた。ダンクが跳躍しようとした。リヴァは目でそれを制した。銃弾はリヴァの体には当たらず、すぐ近くの床を穿っただけだった。

「お前は、自分の命もふいにしたいのか?」

 リヴァは肩をすくめた。

「オーケイ、オーケイ。分かったよ」

 アンバーに、ジップロックに入った拳銃を放る。アンバーは満足そうな表情を浮かべたが、それは一瞬だけだった。目の色がさっと変わる。

「こいつは違う」アンバーは言った。「どういうことだ」

「何の話かな?」リヴァはガラステーブルに腰掛け、封筒の中身を確認していた。「うむ。確かに、十万円、いただきました」

 アンバーの手元で短機関銃が吼えた。ガラステーブルのガラスの部分が砕け散る。リヴァは座る部分を失って、もんどりうって床に転がり、尻餅を突いた。

「説明しろ。さもなくば、殺すぞ」アンバーが言った。

「説明も何も。あんたが、そいつが欲しいと言った。俺は金を要求した。商談が成立した。俺は十万を受け取った。あんたはその銃を受け取った」

「俺が言っているのは、そういうことじゃない」

「商談は至ってシンプルだった。落ち度があるとすれば、あんたの方だと俺は考えるね」

「これ以上、俺をおちょくるなら、今度は本当に、お前の体に弾をぶち込むぞ」

 リヴァは、履いていたカーゴパンツに付いた埃を、手で払った。深呼吸して、アンバーを見る。そして、間合いを詰めた。一息で。銃口が腹に食い込むのも構わず、鼻息が届きそうな所まで顔を近付ける。

「なら、第二幕に移ろう」リヴァは言った。「第一幕じゃあ、道化役は俺だったが、今度は違う。第二幕の道化役はお前だ」

「何を言ってる」

 アンバーが怖気付き、一歩後退する。丸腰なのにも関わらず、リヴァは口許に微笑を浮かべながら、一歩踏み込み、アンバーを追いかける。アンバーの手にある、ジップロック入りの拳銃を指差す。

「お前は勘違いした。それが、お前が知っていて、他人に持っていてほしくない拳銃だと。だが、違った。レプリカみたいなもんさ。種類は全く同じだがね。“本物”は、別の場所にある。お前が殺気立って、今まさにそうしてるように、銃を持って乗り込んで来るのは目に見えていたからな」

「お前が何を言ってるのか、俺にはさっぱり分からない」

「そうかな? ヘイ、そこの<アンバー・ワールド>」

 リヴァは、アンバーが連れて来た少年の一人を指差して、言った。少年は言った。

「<ナンバーズ>だ。俺たちは、<アンバー・ワールド>の中でも、特別な存在なんだ」

「オーケイ、<ナンバーズ>の一人。名前の通りに、番号があるのか? それとも、コード・ネームか何かが?」

「22」少年は答えた。

 リヴァは頷いた。

「よし、22。昔、アンバーの恋人が死んだ。<SKUNK>と<ロメオ>の抗争の中で。知ってるか?」

「もちろんだ」

「どうして死んだ?」

「アンバーが所属していた<SKUNK>の敵側、<ロメオ>が雇った、<カザギワ>という殺し屋集団の殺し屋が殺したからだ」

「そう。そういうことになっているな」

「黙れ」アンバーが、かすれた声で言った。「殺すぞ」

「俺は別の説を知ってる。知りたいか、22?」

「こいつの言葉を鵜呑みにするな。騙されるな」アンバーが言った。

「ヘイ」リヴァは言った。「俺は別に、ミスタ・22を騙そうとなんかしない。ただ、別の説があることを知らせるだけだ。恋人、田村リヨを殺したのは、他でもないアンバーだという説を。そして、そのときこいつが使ったのが、S&W M629ショーティだったという説を」

「黙れ!」

 銃声。アンバーはリヴァの腹に食い込ませた短機関銃の引き金を引いた。だが、無数の銃弾が撃ち込まれたのはリヴァの腹ではなく、天井だった。地を蹴ったダンクが一瞬で間合いを詰め、短機関銃の銃口を逸らしていた。アンバーは肩を上下させて、荒々しく呼吸しながら、リヴァを睨んでいた。リヴァは小首を傾げた。ビルの中は、静まり返っている。

「さて、問題だ。アンバーは今、なぜ引き金を引いた?」

「奴を殺せ、<ナンバーズ>」

 アンバーが言った。だが、誰も従わなかった。

「たとえばもし、俺が今言った別の説が、まったくのでたらめならば、アンバーはどうして引き金を引いた? どうしてこんなに取り乱してる?」リヴァは言った。「田村リヨを殺したのが、本当はあいつだからじゃないのか?」

「殺してやる」憎しみに歪んでいた表情が、わずかに冷静さを取り戻す。アンバーの視線は、リヴァの耳に向けられていた。「おい、その耳に入ってるのは、無線機じゃないのか? お前、俺をはめたな。<カザギワ>だな、お前」

<ナンバーズ>の顔色が変わる。彼らの手元で、短機関銃が明確な殺意を持って、再びリヴァたちに向けられる。

「潮時だ、ダンク」

 ダンクが、鷲掴みにしていた短機関銃ごとアンバーの体を振り回し、<ナンバーズ>を牽制した。そのままアンバーを投げ飛ばし、リヴァの体を抱えて、ビルの窓へ。跳躍。

「次に会うときを、楽しみにしてるぜ、アンバー」リヴァは、ダンクに抱えられた状態で言った。「虚構と自己保身で作ったお前の<アンバー・ワールド>ってお城を、根元から粉々に破壊してやる」

 銃声が追って来たが、ダンクに追いつくことはできなかった。リヴァはマイク越し、バーバーに言った。

「いい画は撮れたか?」

『これ以上ないほど』バーバーが言った。

つづく




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posted by 城 一 at 10:12| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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