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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2009年02月13日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第219回(2版)


今宵はわたくしと。


 涙は一度堪えるとかれるらしい。

《アンバー・ワールド》を退けたあとで、磐井のために泣くことはできなかった。

 構いはしない。磐井のために泣く者は、他にもいた。

 泣かなかったのは、飛猫も同じだった。

 磐井の死を告げても、短く「そう」と呟いたきり、何の反応も見せなかった。悲哀という感情を持っていないのかもしれない。あるいは、どこかで失ってしまったのか。

 浮き足立った元《ツガ》の者たちは、神田がまとめた。

 即座に行動を起こしたいと神田は考えているようだったが、どうにか抑えた。空いた時間を、銃器や車両の手配に使うように指示した。最低限必要な数は揃っていたが、多いに越したことはない。

 携帯電話が鳴った。

 浦口からだった。顔を見て話をする時間を作ってほしいと、頼んでおいたのだ。

 待ち合わせ場所に指定されていたコーヒーショップから出るように言われ、従う。バーバーは、電話越しの浦口の指示通りに、ビルとビルの間にある薄暗い裏路地に入った。

 最新の型のトヨタ・カローラ。

 銀色の車の後部座席に浦口を見つけて、乗り込む。

 浦口よりも年配の男が、ハンドルを握っていた。顔は資料で見たことがあった。浦口の上司である刑事、鶴見。

 鶴見は何も言わずにカローラを発進させた。まるで浦口専用の運転手のようだった。

 浦口に、鶴見のことを尋ねた。

「彼は、とあるホテルで、何度も婦女暴行を繰り返し行っていた。同時に恐喝も。懲戒免職になるか、俺の手札になるか。どちらかを選べと言った。彼は後者を選んだ。だから」浦口は運転席を顎で示した。「そこにいるのさ」

 鶴見は何も言わなかった。ただ、顔色はわずかに赤みを帯びていた。眉間にも皺が寄りかけている。浦口が言った。

「それがお前の話したかったことか?」

「もちろん違います」バーバーは言った。「僕たちは今夜、《ホープ・タウン》に突入します。その際、あなたたちの邪魔が入らないようにしたい」

「見逃せと?」

「それがベストではありますが、できるんですか?」

「いや。犯罪を見逃すなんてのは、およそ俺の手に収まる範疇を超えてる」

「そうでしょう。が、僕らと踊るのは?」

「踊る」

「故意に、僕が仕掛ける陽動(ダンス)に付き合う」

「具体的に」

「ある車が、パトロール中のパトカーと接触事故を起こし、制止を振り切って逃走。パトカーはその車を追跡する。ナンバーを照会すると、その車が盗難車であることが分かる。車はどうしても捕まらない。応援を呼ぶ。カナジョウ市警のほとんどの署員がパトカーで出動し、他には手が回らなくなる。誰かが《ホープ・タウン》で怪しい動きを見たり感じたりし、銃声を聞いたとしても、そちらに回す人員はないという状況になる」

「思考回路を止めて、道化を演じろということか。なるほど」

「それは、承諾と取っていいんですか?」

「追跡時に手加減をすることはできない。見れば、分かるやつには分かってしまうからな。誰がその盗難車を運転するのかは知らないが――」

「僕です」バーバーは言った。

 浦口は頷いた。

「お前の運転技術次第だ。お前がミスをすれば、俺は遠慮なく逮捕する」

「厳しいとは思いませんよ。あなたはあくまでも警察の人間なんだ」

「そうだ。通常の警察が取る行動から逸脱すれば、俺が警察という組織から排除される。だが、そうだな。俺たちが使ってる無線機を一つやろう。それで俺たちの通信を盗聴すれば、逃走が容易になるだろうよ」

「素晴らしい」

「だが、条件がある。一般市民を巻き込むな。逃走時に、もし一般市民を轢いて殺してしまうようなことがあれば、手段は選ばない。証拠を捏造してでも、お前を逮捕する」

「分かりました」

「ところで」浦口は、窓の外を流れる街の景色を眺めながら、言った。「お前たちのグループの規模やメンバー、潜伏している場所について、教えてくれないか。お前の陽動(ダンス)に付き合うにしても、どんな内容のダンスを自分が踊っているのかくらいは知っておきたい」

 バーバーは浦口を見た。

 浦口は、窓の外を見つめたままだった。こちらを見ようとしない。窓にうっすらと、冷たい浦口の表情が映っていた。

 小さく深呼吸して、言った。

「いいでしょう」

つづく




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posted by 城 一 at 04:41| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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