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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2009年03月03日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第221回(2版)


ダンスへの誘いは、少々強引なくらいが良い。


 磐井の煙草は、吸わなくなった。甘い煙はやはり、性に合わなかった。煙草の収まったパッケージはおそらく、懐の中でくしゃくしゃになっている。それでいい。吸うことではなく、そこにあることが大事だった。

《ホープ・タウン》への突入のための準備は終わった。全員、所定の配置についていた。あとは、時間を待って、合図をするだけだ。

 バーバーは車の中にいた。場所は、使われなくなった倉庫。運転席には、神田がいた。目の前にある警察用の無線機を、じっと見つめている。無線機は少し前から、何の情報も流さなくなった。電源を入れても、淡い砂嵐のような音しか発しない。神田は無線機を叩いた。

「壊れたわけじゃありませんよ」

「だが、何かがおかしい」

 神田と目が合った。神田は片方の眉をぴくりと動かした。何かを感じ取ったのだ。

「何か、あるのか?」

「これから、《ホープ・タウン》への突入がある」

「それ以外に何かあるって顔だ」

「頭の切れはいまいちだが、勘の方はそうでもないらしい」

「てめえ」

 従業員用の出入り口が、軋むような音を発しながら、開いた。使われなくなってからの長い年月が錆になり、扉の開閉を妨げていた。扉から入ってきたのは、浦口だった。浦口は勝ち誇り、それを味わうかのように、一歩一歩、ゆっくりと歩いた。神田が言った。

「どうしてあいつが」

 浦口は倉庫の中央に立ち、丹田の前で手を組んだ。口許には、笑みを浮かべている。

「エンジンは切らずに。いつでも発進できるようにしておいてください」神田に言い、車を降り、浦口の正面で車のボンネットに腰掛ける。「こんばんは、浦口。どうしたんですか? あなたがここに来るなんていう脚本を書いた覚えはないが?」

 浦口は言った。

「お前たちを、逮捕する」

「その台詞は少し、脚本から離れすぎちゃいませんかね、浦口?」

「なに、こいつは俺の脚本通りの台詞さ。お前の脚本に書かれていなかっただけだ」

「誰かが連絡を怠ったようだ」

「いや。誰も怠っちゃいない。書くのを忘れたんじゃなく、書かなかったのさ」

「つまり?」

「つまり、お前の陽動(ダンス)に付き合うつもりは全くないということだ」

「最初から、そのつもりだった」

「そうだ」

「これはこれは。警察は常に、嘘つきを相手にしなきゃならないと聞きますが、朱に交われば赤くなるというやつですかね」

「毒を持って、毒を制す。犯罪者は、自分の身を守るためなら、どんな嘘でもつくからな。自然と、対抗手段が講じられるわけさ」

「毒を持って、毒を制す、ね。僕も全く同意見ですよ、浦口」

「残念だったな」

「それで? 《ホープ・タウン》の中で、蛆のようにわいている《アンバー・ワールド》の連中はどうするんです? 僕らを逮捕すれば、あそこを掃除する人間がいなくなる」

「《ホープ・タウン》は、放っておく」

「ほう? 連中は今や、軽く警察を凌ぐ銃器を手に入れているというのに?」

「所詮は、頭の軽い連中さ。だからこそ、簡単に集まる。だが、イージー・カム・イージー・ゴーというやつさ。簡単に集まったものは、簡単に消失する。お前らの手を借りる必要はない。やつらはいずれそのうち、勝手に共食いを始める」

「たとえ共食いを始めるのだとしても、それまでに被害者が出るかもしれない。実際、あそこに監禁されて、レイプされている女の子だっているんだ。虐待されている者も」

 壊れてしまった慶慎を写した写真が、頭に浮かんだ。

「多少の痛みは覚悟している。仕方ないさ」

「他人事だから、そう言える。それに、やつらが共食いを始めるとは、僕には到底思えない」

「見解の相違だな」浦口は周囲を見回した。「さて、他の連中はどこに隠れてる?」

「なぜ、仲間たちが全員、ここにいると?」

「お前が少し前に、そう言ったからさ」

「確かに僕はそう言ったが、あなたの前でじゃない」

「そう。つまり」

「つまり、盗聴器を仕掛けたのさ。お前にやった警察用の無線機にな、ですか?」

 浦口の表情が引き締まった。確信していたものが、自分が思っていたほど、信頼に足りるものではなかったと気付いたのだ。

「お前」

 浦口に向かって、無線機に仕掛けられていた盗聴器を放り投げた。浦口はそれを受け取ろうとしなかった。無線機は浦口の胸で弾み、地面に落ちた。

「毒を持って、毒を制す。僕も全く同意見だと、さっき言いましたよ」バーバーは言った。「あなたから無線機をもらって、まず最初にしたのが、分解だった。僕も大嘘つきなものでね。疑いを一つずつ消していくことでしか、人を信じられないんですよ。それで、今回もそうした。もし僕があなたの立場なら、無線機に何らかの仕掛けを施すと考えた。それを確認することから始めた。そしたらもう、すぐさまアウトですよ。甘いものだ」

「お前」

「その台詞は二度目ですよ、浦口。あまり繰り返し、同じ言葉を言うものじゃない。語彙の貧しさを疑われる。あなたは最初に、仲間を差し出せと言った。僕はすぐに、それに応じた。勘違いしましたか? こいつは従順さとかしこさを履き違えていると?」

「ここにはもう、包囲されている。何を企もうと無駄だ。全員、とっ捕まるのさ」

「ここには、僕と神田しかいない。二人というのは少々、《全員》と称するには少人数過ぎる気がするが?」

「ここに全員集合するようにと指示したのは」

「僕ですよ。だが、浦口。盗聴器の存在を知った上でのことだ。頭の回転が足りてないぞ、おまわり。もう少し、糖分を摂取した方がいいんじゃないか?」

 胸が潰れた。そう感じた。踏みとどまることができず、ボンネットに倒れる。浦口が、懐から回転拳銃(リボルバー)を取り出し、撃ったのだ。

 胸に痛みはあったが、銃弾は体に達していなかった。防弾チョッキを着ていた。咳が出、その度に胸が痛んだ。骨は折れていない。コートの胸に空いた穴を指で触れる。視線を上げると、浦口がいた。目の前には銃。銃口は、額に向けられていた。

「防弾チョッキを着ていたか。結構なことだ。まだ、お前を痛めつける余地が多分にあるということだからな。携帯電話を出せ」

 言われた通りにした。

「動くと撃つぞ」浦口の口から出たその言葉は、車内へ向けられたものだった。神田が助けに出ようとでもしたのだろう。浦口はこちらに視線を戻し、言った。「仲間を呼べ。なに、手順は増えたが、結果に変わりはない。全員、逮捕させてもらうさ。ただし、お前だけは特別待遇だ」

「何がもらえるのかな?」

「死んだ方がましだって思えるほどの苦痛さ」

 浦口と携帯電話のディスプレイを交互に見ながら、電話帳を呼び出し、一つの電話番号を呼び出した。受話器が描かれたボタンを押し、電話をかける。すぐに、呼び出し音が聞こえ始める。

「近頃の世の中の流れは早いですよね。そうは思いませんか、浦口?」

「何の話だ」

「日進月歩が当たり前のこととされている。世にあるものは全て、進化して当然だとね。中でも進化の速度が群を抜いて早いのが、携帯電話だ。最初は電話をできるだけだったものが、Eメールができるようになり、写真を撮れるようになった。ラジオを聞けるようになり、音楽を聴けるようになり、テレビを観られるようになった。インターネットもできる、ゲームもできる」

「それに、お前に仲間を呼び出させて、そいつらにもれなく手錠をくれてやることができる。そうだな、そいつには無限の可能性が詰まっている」

「そう。万能のコミュニケーション・ツールだ。最近じゃ、こんな使い方もされるようになった。知ってますか?」

「何だ?」

 呼び出し音が途切れる。電話が繋がったのだ。バーバーは言った。

「起爆装置」

 倉庫が揺れた。

つづく




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posted by 城 一 at 11:21| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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