Gusuku LABELへようこそ!
最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2009年04月15日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第222回(4版)


釣り.


 倉庫が揺れた。

 あらかじめ仕掛けておいた爆弾が、爆発したのだ。

 動揺し、バランスを崩した浦口の手を捻り、回転拳銃を奪う。顎に肘打ち、膝に蹴り。下がった浦口のこめかみに、銃把を叩き込む。大した力はいらなかった。波に乗るようにして、浦口の体の中を移動していく重心に打撃を打ち込む。必要なのは、それだけだった。浦口の体は、いとも簡単に地面に転がった。

 浦口の額に銃口を突きつけた。

「撃つ、のか?」

「どうかな」

 浦口の体を探る。スラックスの下、足首の部分に、小型の自動拳銃があった。手のひらの中に、すっぽり収まるサイズ。取り上げ、懐に入れる。そして、言った。

「どんな気分だ、浦口?」

「ここは包囲されてる。さっき、そう言ったぜ」

 倉庫正面のシャッターが開いた。シャッターの向こうには、数えきれないほどの警察官とパトカーが並んでいた。無数の銃口と、視界を惑わせる赤色灯。従業員用の出入り口からも、警察官がなだれ込んでくる。

 瞬く間に、警察官たちが作った半円に囲まれていた。浦口を見る。

「みなまで言わせるなよ」

 浦口は言った。

 バーバーは両手を挙げた。銃口を下げ、引き金の部分を指先に引っ掛けるようにして、ぶら下げる。浦口は、仲間を制するようにして、彼らに手のひらを突きつけながら、立ち上がった。そして、手のひらを拳にして、右フック。殴られた衝撃で回転拳銃を取り落としてしまったが、倒れなかった。体重の乗っていない一発。打ち倒そうとしたのではない。挑発が目的だった。それでも、唇が切れたらしい。口の中、舌先に、血の味を感じた。浦口は回転拳銃を拾い、まるで握手でも求めるかのように、片手で構えた。

「安心しろ。お前が終わったらすぐに、お仲間たちの方も始末してやる」

「まいったな。浦口、僕はまだ終わるつもりはないんだ」

 携帯電話を操作した。また、起爆装置を作動させたのだ。爆弾が爆発し、倉庫が揺れる。我慢できなくなった警察官たちが、銃を撃ち始める。が、彼らの手は動揺していた。銃弾はバーバーの体にかすることなく、明後日の方向へと飛んでいく。バーバーは踊るようにして、神田が待つ車内へと戻った。

「出せ。バックだ」

 神田は眉間に皺を寄せた。

「後ろには壁がある」

「電話でアポをとるから、問題ない」

 携帯電話を操り、起爆装置を作動させた。倉庫の壁が吹っ飛ぶ。できたての退路の先に、邪魔者はいない。タイヤを軋ませながら、倉庫を抜け出す。フロントガラスの向こう側が、砂埃で見えなくなった。少しして、それが晴れる。

 無線機が音を発した。浦口の声が聞こえてくる。

『止まれ。でなければ、《ホープ・タウン》を封鎖する。お前の仲間は、《アンバー・ワールド》とやり合うことができなくなる』

 マイクをとった。無線機の向こうにいる浦口の表情を想像する。自然と少し、口許が歪む。

「ほう? それでは、浦口。あなたたち警察が、《アンバー・ワールド》を制圧してくれるということかな? 銃で武装した数百の、あなたが言うには――僕も同意見ではあるが――《頭の軽い》連中を?」

『そういうことではない』

「なら、どういうことかな? 彼らと接触することなく、《ホープ・タウン》を封鎖することは不可能だろう? 対話による平和的解決を試みるつもりかな? 会談の場を持つことすら困難なように、僕には思えるが。そちらには何か、勝算がある? それとも、警察と《アンバー・ワールド》の間には、何かつながりが」

『そういうことではない』

「なら、浦口。どういうことなのかな?」

 浦口は何も言わなかった。沈黙が馴染むのを待ってから、わざと大声を出して笑った。運転席で、驚いた神田がぎょっとした表情を作る。

「浦口、あなたって人は。今のは冗談だったんですね? まったく。こんな状況で、そんな冗談を言うなんて。肝が据わっているというか、思考回路がぶっ飛んでいるというか」

『違う』

 口許が歪む。バックミラーの中で、自分の目が、得物を捕えた猛禽類のような光を放っているのが見えた。マイクに向かって言った。

「浦口。まさかとは思うが、あなたほどの人が、感情に任せてものを言ったのではないでしょうね?」

『そうではない!』

 無線機の向こうから、怒声が返ってくる。バーバーは助手席にふんぞり返って、脚を組んだ。浦口の声に含まれた熱量は、全く不快ではなかった。むしろ、心地良くさえ感じた。何しろ、相手の感情が、こちらの手のひらの中にすっぽりと収まったのだ。

「では、どういうことなのかな、浦口」

『黙れ』

「浦口。それでは分からない」

『殺してやる。お前は、必ず。俺の手で』

「こわーい」

 無線が切れた。銃声が聞こえ、弾痕が車のボンネットの上を走る。浦口が運転する車が先頭なり、警察車両の集団が追いかけてきていた。けたたましいサイレンの音、そして光とともに。

「釣れた、釣れた」バーバーは言った。

 神田はハンドルを回し、バックしていた車を、百八十度回転させた。車の鼻先を進行方向へと向けて、アクセルを踏み込む。

「長い釣りだったな」

「まだ終わっていませんがね」

「連中が疲れ果てるまで、泳がせなきゃならない」

「あるいは、踊らせなきゃならない」

「忙しい夜になりそうだな」

「それは、保証しますよ」

 バーバーは神田と入れ替わり、運転席に座り、ハンドルを握った。

 リヴァのことが、頭に浮かんだ。

 お膳立てはした。あとは、親友の武運というやつに託すだけだった。

つづく




続きを読む
前回の話を読む
ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第1回から読む
ブログ小説 焔-HOMURA- scene1から読む
posted by 城 一 at 09:27| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。