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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2009年04月21日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第223回(2版)


わざわざ言わせるな。


 バーバーから、連絡が入った。

 警察を引きつけることに、成功した。無線機の向こう側で、バーバーはそう言っていた。

 餌に食いついたのは、浦口という刑事と、その息がかかった仲間たち。多く見積もっても、三十人くらいだろうか。バーバーはそいつらを金魚の糞のように引き連れて、街の中を走り回る。

 バーバーを追う浦口たちは、カナジョウ市警の全てではない。あくまでも、一部に過ぎない。だが、小さくない一部だった。市警の戦力を削り取ったことに、変わりはなかった。

 それに、警察組織も、一枚岩ではない。《ミカド》に与する者も、少なからずいると言う。その上、バーバーだけを追いかけていればいいというわけではないのだ。犯罪に手を染める者は、大なり小なり、他にもたくさんいる。市民の安全を守るためには、偏向することなく、犯罪に立ち向かわなければならないのだ。

 おまわりさんも、楽じゃない。

 バーバーからの無線連絡は、陽動の成功を報告したあと、すぐに切れていた。

 街を舞台にして、法の番人たちを相手に、カーチェイスを繰り広げなければならないのだ。余計な話をしている暇はないのだろう。

 リヴァは、瓶から直接、ウイスキーを舐めた。

 酔いを求めたのではない。尖りすぎた神経を鎮めたかっただけだ。放っておけば、《ホープ・タウン》に突入する前に、神経が折れる。
そう思ったのだ。

 リヴァは、車の中にいた。助手席にはダンク。

 ダンクは、脇目もふらずに、買ってきたばかりの牛丼弁当をかき込んでいた。もう、何杯目になるのか、分からない。最初の一杯でないことだけは、確かだった。ダンクの膝元には、空になったプラスチック製の丼が、積み重なっていた。

「食いすぎるなよ。動けなくなる」

「エネルギー切れで動けなくなる方が、心配でね」ダンクは言った。

「そっちこそ、飲みすぎるなよ」

「言わずもがな」

 リヴァたちの乗った車は、潰れたガソリンスタンドの中に、止まっていた。

 封鎖するために張り巡らされていた鎖は、切断した。誰かに見咎められたときのための言い訳は、用意してある。だが、必要はなさそうだった。スタンドの周辺に、人通りがない。

 スタンドにいるのは、リヴァたちだけだった。他の仲間たちは、それぞれ、街中に散っている。

 バーバーが警察を《釣る》のに失敗したときのためにかけておいた、保険だった。一ヶ所に集まっていなければ、一網打尽にされることはない。

 リヴァはまた、ウイスキーを舐めた。

「すまん」

 自然に出た言葉だった。ダンクの視線を感じた。視線を感じる方へ、顔を向けないよう、注意した。目を合わせれば、思考を読まれる。そう思ったのだ。自分でも今、どう動いているのか分からない思考を。やはり、酔っているのかもしれなかった。

 ダンクが言った。

「今、謝ったのは、お前か、リヴァ?」

 ダンクの口調には、少しだけ、からかうような響きがあった。それはそうだろう。リヴァは思った。リヴァは、滅多に、謝罪の言葉を口にはしない。

 リヴァは頷いた。

「そうだ」

「何に対して謝ってるのか、分からないな」

「今回、俺は、散々わがままを言った」

「ふむ」

「ひどいことを言った」

「特に、バーバーに」

「冷たい態度をとった」

「爆弾の爆発から、身を挺してお前を守った俺に、お前は何の言葉も
かけなかった」

「すまん」

 視線を落とした。汚れた靴先が目に入った。

「なあ、リヴァ」ダンクは言った。「謝るってことは、どういうことだ? 相手に、自分の考えていることに対する理解を求めることだ。違うか?」

「違う、俺は」

 視界が揺れ、一瞬、暗くなった。ダンクに殴られたのだ。鋼鉄製の手甲をはめて作った拳で。力の加減などなかった。

「違わない。いいか、リヴァ。俺やバーバーは、お前の考えを理解して、あるいは理解するために、行動をともにしてるわけじゃないんだぜ?」

「じゃあ」

「俺たちはただ、お前のわがままを受け止めただけだ。理解なんかしちゃいないし、するつもりもない」

「なら、どうして何も言わずに、俺に協力してくれる」

「分からないか?」

「だから訊いてる」

「なるほど」

 拳が来る。予感があった。だが、かわさなかった。文字通りの鉄拳が、頬をえぐる。

 ダンクが言った。

「ダチだからだ。わざわざ言わせるな、馬鹿」

「すまん」

 自分で吐き出した謝罪の言葉が、涙を連れてこようとした。頬が熱い。やはり、酔っているのだ。

「吐いた唾は、飲むなってやつさ」ダンクは言った。「お前は、わがままを言った。俺たちは、そいつを受け止めた。お前は俺たちに、借りを作ったんだ」

「どうすれば返せる?」

「簡単だ。引き返すことも、振り向くこともせずに、ただひたすら、自分が吐いたわがままを貫けばいい」

 リヴァは、自分の口許が、わずかに緩むのを感じた。ダンクがこれほど多弁になるのは、珍しいことだった。ほとんどないと言っていい。特に、真面目な内容の話に関しては。

 兄弟と呼べる仲でも、まだ知らない一面はある。そういうことだった。

「泣けるね、まったく」

 リヴァは言った。

「その割には、目の縁に涙が溜まる兆候は見えないな」

「比喩的表現さ」

「比喩的表現なら、いくらでも聞こえのいい表現ができる」

 リヴァは、ダンクを見た。

「お前、結局、俺のわがままを根に持ってるんだろ」

 ダンクはにやりと笑った。

「どうかな」

「感動して損した」

 リヴァはウイスキーを舐めた。ダンクが、俺にもと言った。瓶を渡してやる。

 時計を見た。バーバーの連絡があってから経った時間を、計算する。

 頃合だった。

 ダンクからウイスキーの瓶を返してもらい、グローブボックスの中にしまう。ギアを入れ、アクセルを踏み込む。

 戦場に臨む。そのことがもたらす刃のような緊張感は、いくらか丸くなっていた。酒のせいではない。助手席に座る、無二の親友のお陰だった。

 いや。リヴァは思った。同等の存在は、もう一人いる。無二の親友という表現は、的確ではないのかもしれない。

 リヴァはひとり、喉をくっくっと鳴らして笑った。ダンクに、気持ち悪いと言われた。気にせず、少しの間、笑い続けた。

 笑いが収まったあとで、リヴァは言った。

「ありがとな、兄弟」

「いいってことよ」

つづく




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posted by 城 一 at 10:41| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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