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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2009年09月15日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第225回

【鏑木鈴乃(かぶらぎ すずの)】

あーあ。


 街の風景が線になって流れる。

 タクシーの車内。曇った窓ガラスに、相合い傘を描いてみる。傘の下には、何を書けばいいのか分からなかった。

 自分の名前を書いてみる? まさか。不毛だ。

 痛む体をそっと動かして、煙草をくわえ、火をつける。運転手の男が、バックミラー越しに睨んできた。

「こいつは禁煙車なんですがね」

「お客さまは神さま。でしょ?」

「ヤニ臭いと、少々ランクが下がる」

「どの程度まで?」

「天使、かな」

「人間より偉いじゃない」

「確かにそうだ」

 運転手は静かに笑った。低音で、柔らかい声の男だった。それきり、煙草のことは言わない。

 張り合いがない。吸いたくて火をつけたはずの煙草が、味気ないものに変わる。吸い終わるまで待たなかった。半分にも満たない長さを吸ったところで、窓から投げ捨てる。

 後部座席に寝そべった状態のまま、また街を見つめる。体の姿勢についても、男は何も言わない。まあ、どこからどう見ても、絶対安静が必要なほどの怪我人なのだから、当然と言えば当然なのだが。

 既に乗り込んでから、結構な距離を走っている。

 運転手が言った。

「それで、お客さん? どこへ行きましょうか」

「どこへでも」

「予算は?」

「いくらでも」

 バックミラー越しに目を合わせる。運転手の視線に、もう棘はなかった。頭の柔らかい男だ。鈴乃は思った。短気な人間なら、あたしのことをタクシーから放り出そうとしても、不思議じゃない。それくらい、扱いづらい態度をとっている。

「なるほど」

 男は言った。彼の、仕事のための会話は、それで終わった。

 片方の耳には、無線機に繋げたイヤホンが入っている。常時、≪ホープ・タウン≫に突入した仲間たちの情報が聞こえてくる。

 いや。仲間なんかじゃない。

 彼らが戦っているときに、安穏と暖房の効いたタクシーの車内で寝そべっているあたしが、彼らの仲間のはずはない。

 逃げている。

 分かっていた。だが、どうしようもない。

 何かが折れてしまったのだ。自分の望む結果のためなら、いくらでも他者の命を刈り取ることができる。そうあるために必要な何かが、根元から。ぼきりと。

 実際に≪ホープ・タウン≫へ臨むまでは、気づかなかった。戦場となる地下街への入り口を目にして初めて気づいたのだ。

 もう、殺し屋ではない。

 殺し屋にはなれない。

 殺し屋だった自分が、霧散していた。

 殺し屋でなければ、あたしは何なのだろう。自問自答が、いとも簡単に足場を危ういものにする。

 あたしはどこに立っているのだろう。

 あたしは今、何をしようとしているのだろう。

 自分がなくなっていた。

 呆れる。たかが殺し屋でなくなってしまっただけで、自分を失ってしまうなど。風に吹かれれば容易く飛んでいってしまうほど、自分は浅薄な存在だったのだ。浅薄な、女だったのだ。

 少女の頃、他の同世代の少女たちを嘲っていた。普通に生き、普通に笑い、普通に恋をする。そんなものは、氾濫するような暴力や性とは無縁の世界で、守られているからこそできることだ。

 けど、今のあたしは?

 普通の女だ。いや、普通の女に戻りたいと望む、触れれば崩れ落ちそうな女だ。普通。そんなものには、遠く及ばない。

 積み重ねてきた、信じるべきものがない。何一つ。

 どうしようもなく脚が震え、背中に脂汗をかいた。痛みが脈打ち、視界がぐらぐらと揺れた。

 気づくと、手を挙げていた。停まったタクシーの車内に、逃げるように飛び込んでいた。車椅子が倒れるのも気にせずに。

 車椅子は畳んで、運転手がトランクに収めた。

 車椅子と一緒に持っていた松葉杖のことを、最初、運転手は訝った。実際にそれを言葉にもした。だが、答えずにいると、運転手は尋ねるのをやめた。

 優しい男なのかもしれない。

 少し、笑う。

 違う。あたしは、男が欲しいだけだ。すがるものが。そのために、誰でもいい、優しい男に仕立て上げようとしている。

「何か、悩みごとでも?」

 男が言った。

「聞いてくれるの?」

「それくらいできますよ。走る車の中だ。秘密も守りましょう」

「そう」

 悩みごと? また、嘲笑おうとする自分を見つける。そんな言葉で括れるものじゃない。あたしの人生に詰まっているものは。けれど、知ってもいる。まずは悩みごととして括ることから始めなければならないことも。

「男がね」口を開いてみる。何を言おうか、頭の中で整理がついたわけではない。でも、だから? 整理がついた言葉でなければ、外界に出ることは許されないのか?「男がみんな、いなくなっていくの」

「つまり?」

「みんな、死ぬ」

「何があったんです?」

「あたしのせい」

 そう言ったところで、涙が溢れた。

 ちょっと待ってよ、鈴乃。胸の内で、呆れたように声を上げる自分がいる。あんた、会ったばかりの男の前で泣くような、そんな女だったの?

 そんな女だったのだろう。

 声を上げて泣いていた。咽び、視界が涙で埋まり、息が詰まる。もしかすると、このまま呼吸困難で死んでしまうのではないか。そう思うほど、泣きじゃくった。

 記憶にある限り、掛け値なしで一等、無様な泣き様だった。

 タクシーは走る。

 泣いている間、運転手は何も言わなかった。

 気づくと、タクシーは大きな川のほとりで止まっていた。

 涙を拭う。それでも、視界がぼんやりとしていた。原因は煙だ。運転手の男が、煙草を吸っていた。

「禁煙車なんじゃなかったの?」

「そうですよ。こいつも、あたしもね。けど、やめました。あんたのせいですよ」

「ごめんなさい」

「へえ。あたしゃ、てっきり、謝罪の言葉なんて絶対に口にしない類の女だとばかり思ってましたよ」

「あたしも、そう思ってたわ」

「外の空気でも、吸いますか? 煙草も悪くないが、こういう、水の流れる場所の近くは、空気がうまい」

「そうね」

 運転手は頷くと、外へ出て、トランクへ回った。車椅子を取り出すと、後部座席のドアを開く。礼を言い、男の手を借りて、それに乗る。

 川の近くまで、下りていくことはしなかった。人の背ほどの草木が生い茂っている。タクシーのすぐ側で、車椅子に収まり、川が流れるのを見ていた。運転手の男も、隣でタクシーの車体に寄りかかる。相変わらず、煙草をくわえたままだ。

「煙草を吸いながら、川辺の空気を味わえるのかしら」

「確かに」

 男は言った。だが、煙草を吸うのをやめはしなかった。



「みんな、死ぬ」

 言ったのはタクシーの運転手だった。立て続けに三本、煙草を吸ったあとだった。吸殻は、男が靴底で踏み潰した。男は続けた。

「あなたはそう言った。それが、自分のせいだと。でもね、命あるものは、みんな、死ぬ」

「それは知ってる」

「誰か、大切な人間が死んだのなら、その死を背負ってやることは必要です。が、その死に対して、責任を感じる必要はない」

「何が違うの?」

「死が荷物になるか、重荷になるかの違いだ」

「分からないわ」

 男はもう満足したらしい。懐から煙草のパッケージを取り出しかけて、元の場所にしまった。

 いや。煙草を吸わない男が、煙草を持ち歩いているわけはない。男は禁煙をやめたのではない。禁煙に失敗したのだ。それも、また、だろう。何度目の≪また≫かは分からないが。

「ごめんなさい」

 また、謝る。驚いた顔をした男に、説明した。

「禁煙の邪魔をしてしまったんでしょう。何日目だったの?」

「八日目」

 川を見つめる。ゆらゆらと揺れ流れる波が、光を反射している。男が前かがみになり、下から顔を覗き込んできた。

「気にせんでください。今日に始まったことじゃない。また少ししたら始めて、また少ししたら失敗する。あたしの禁煙は、そんなもんなんです。その繰り返しだ」

「嫌気が差さない? 禁煙や、自分に」

「最初はそうでした。でね。自己嫌悪に囚われていると、吸う本数も増えるんですよ。で、もっと自分が嫌になる。負のスパイラルです。だから、やめたんです」

「何を?」

「自己嫌悪を」

「どうやって」

「何のことはない。失敗したとき、自分にこう言えばいいんです。『だからどうした?』。この一言を自分に言う。それで、まるで反省の色がないみたいに、煙草を吸う。そうするとね、本数はそんなに増えない。そして、次の禁煙が始まるまで、そう長くもかからない」

「諦めないのね」

「諦めたら、禁煙はできない」

「どうして諦めないの?」

「それはね」男が真剣な表情を浮かべて、言った。「何となくです」

 思わず、笑った。

「何それ。真剣に聞いた、あたしがバカだったわ」

「一応、真剣にやってるんですけどね」

「でも、適当だわ」

「でも、諦めてない」

 稚拙な言い訳。そう切り捨てることもできた。だが、なぜだかそうしたくはない自分がいた。受け止めて、自分の中に取っておきたい。そう思った。

「あなたはいつか、禁煙に成功するわね」

「いいえ」

 男を見た。男は言った。

「成功したと思ったら、それはいずれ、失敗するということですから」

「なるほどね」少し、笑った。そうしてから、言った。「体が冷えたわ。車の中に戻りたい」

 男は頷いた。彼の助けを借りて、タクシーの車内に戻る。

 男の言葉は分かる。だが、≪ホープ・タウン≫から逃げている自分にも、同じことが言えるのだろうか。

 分からない。言うべきではない、そう思う自分がいる。だが、自信はなかった。

 シートに身を沈める。

 見えない。

 見るべきものが、見えない。

 時間を与えてもらう。そんな権利が、自分にはあるのだろうか? 与えてもらった時間の分だけ、≪ホープ・タウン≫で戦う男たちの命は、余分に失われる。

 運転手が、運転席に戻った。彼は、何も言わずに待っていた。やがて、男に言った。

「出して」

≪ホープ・タウン≫へ、とは言わなかった。

 タクシーは五分も走らなかった。川から離れないうちに、運転手がブレーキを踏む。

 前方を、水牛のようにごつごつとしたSUVが塞いでいた。車を中心にして、少年たちが奇声を上げながら、跳ね回っていた。

 タクシーとの距離は、二、三十メートルほど。道は狭く、少年たちの車両をかわすことはできなかった。同様の理由で、Uターンもできない。

 運転手は、少し待っていた。だが、少年たちがこちらに気づく様子はない。男は溜め息をつき、タクシーから下りた。

 ぶつかりそうになって初めて、少年たちは運転手の存在に気づいた。そして、その後ろにあるタクシーの存在に。騒ぎが、一時的に小さなものになる。

 檻の中の動物を見るような目つきで、少年たちは運転手のことを見つめていた。男は、身振り手振りを交えて、道を譲ってほしい旨を、彼らに伝えようとしている。声は聞こえなくとも、それは分かった。

 手持ち無沙汰になる。音声のない映像から、会話を推測する気にもなれない。煙草を取り出して、火をつけようとした。

 音を聞いた。

 空に響く、乾いた音だった。

 フロントガラスの向こう側を見ると、少年たちの前から、男は姿を消していた。いや、正確には視界の中から、だった。身を乗り出してみると、男はまだ少年たちの前にいた。ただ、足下に横たわっているので、消えたように見えただけだった。

 少年の一人が、黒光りするものを持っていた。

 銃。

 音声と映像が繋がる。先ほど聞いたのは、銃声だ。

 少年たちは、別段、興味もなさそうな様子で、男を見下ろしていた。男は動かない。彼の頭の下を中心に、夜に黒く沈んだ路面が、その黒さを増すのが見えた。頭部を撃たれたのだ。

 責任を感じる必要はない。

 分かっている。だいたい、この状況でどうやって、責任を感じろと言うのだ? 自分に問いかける。が、その一方で分かっていた。また、胸の奥が重たくなったことを。

 責任を感じる必要はない。

 目を細めて、運転手だったものを見つめる。死を感じる。死を感じ、味わって、それがただの死であると思えるまで溶かしてしまおうと思った。食べたものを、胃液で溶かすように。

 笑う。

 それができれば、苦労はしない。

 煙草に火をつけた。シートに身を沈める。少年たちは、タクシーに興味が湧いたらしい。弾むような足取りで近づいてくる。

 車内を覗き込んだ一人と、目が合った。

 金属バット。躊躇はない。派手な音がして、車の窓が割れる。ひとしきり、ガラスの破片をバットの先端でこそぐと、少年は車内に顔を突っ込んだ。

「こんばんは、お姉さん」

 二つの瞳の奥に、性欲を見る。安い性欲だ。

 瞬く間に、タクシーは少年たちに囲まれた。どの瞳にも、性欲が浮かんでいた。煙草を吸い続ける。彼らのからかうような会話に、適当に応じる。意味のない会話だ。聞き取り、咀嚼する必要などない。

 少年の一人が、コートの上から乳房を掴んだ。煙草を吸い続けた。少年の顔に笑みが広がる。許可。少年はそう受け取った。服を脱がされる。抵抗はしなかったが、協力もしなかった。そのことに関しては、少年は何も言わなかった。セックスのことしか頭になくなった少年は、乱暴ではあるが、同時に従順でもあった。性欲を満たす行為に必要なことしかしない。

 車内を漁っていた少年の一人が、≪目薬≫を見つけた。少年の目が輝く。知っているらしい。彼は言った。

「お姉さん、これって」

「≪シンデレラ≫。あるいは、≪ガラスの靴≫よ」

 カモネギってやつだぜ。と言った少年がいた。言わせておいた。

「あたしね、≪ガラスの靴≫を履くと、普通にするよりも、もっと気持ちよくなれるの。履かせてくれる?」

 少年は頷いた。茶色いレンズのサングラスで、前髪を留めた少年だった。頭の中にはもう、セックスのことしかない。仲間から目薬と、それと一緒に見つかった注射器を受け取る。

 扱いには、慣れているようだった。躊躇もない。

 注射針が、肌に穴を開ける感触。体の中に、わずかな痛みとともに、何かが侵入するのを感じる。侵入したものは熱に変わり、血流に乗って腕を伝う。

 深く、呼吸した。

 服が脱がされる。包帯だらけの体と、下着姿になる。サングラスをカチューシャ代わりに使った少年の表情が、微かに曇った。

「DVとか?」

「痛いのが好きなのよ」

 サングラスの少年は、上半身裸になっていた。腰に、黒色の回転拳銃を差している。タクシーの運転手を撃った張本人だった。少年は舌なめずりをした。

「俺も好きさ」

「痛いのが?」

「痛くするのが」

「気が合うわね」言う。「でも、包帯とかは取らないでね」

 少年は頷いた。下着だけが剥ぎ取られる。包帯やガーゼがあてられている以外は、体を隠すものがなくなる。冷気が、より身近に感じられる。

 薬がもたらした熱が、体内を一周した。ひんやりとした空気が遠くなる。代わりに、熱だけがあった。

 手を伸ばす。

 少年が、醜い呻き声を漏らす。

 喉仏ごと、少年の首を鷲掴みにしていた。

 責任を感じる必要はない。

 運転手の言葉を思い出す。

 それはもう、ただの言葉だった。

 体が浮き上がっている。そんな感じがした。体が、解き放たれている。辺りにあるのは夜なのに、外界を包むのは相変わらず黒い色なのにも関わらず、光を感じる。明るい。なぜだか分からないが、明るい。

 少年の顔面が赤黒く染まる。手に、さらに力をこめた。少年の手が動く。腰に差した回転拳銃を目指していた。

 先手を取り、回転拳銃を奪う。

 少年の額に、銃口を突きつける。

 ばいばい、鈴乃。引き金を引く。

 普通の女? そんなもの、まっぴらごめんだ。あたしは飛猫。殺し屋だ。人を殺してなんぼの女だ。

 血が散る。

 当然だ。あたしは吸血鬼。牙を持たない吸血鬼。銃で、ナイフで、人の命を奪い、それを啜って生きてきた。

 車内に、抵抗を試みる者はいなかった。皆、逃げ出すか、タクシーの車内で壁にひっつき、震えていた。どうやら、銃を持っていたのはサングラスの少年だけだったらしい。

 笑える。

 愚か者どもめ。

 責任を感じる必要はない。

 当然だ。

 少年たちの頭、胸、背中に狙いをつけ、引き金を引いていった。弾はすぐに尽きた。サングラスの少年は、予備の弾を持ってはいなかった。タクシーから降り、トランクを開ける。松葉杖を取り出す。

 あたしは、飛猫。

 夜空に向かって鳴いてみた。猫だから。

 夜風を受けて、他よりも冷気を感じる部分を、頬に見つけた。細く、筋のようになっている。手の甲でそこを撫でる。水が付いた。涙だ。

 誰が流した涙だろう。

 分からなかった。

 少なくとも、あたしのではない。

 跳躍。走って逃げていた少年の一人。その背中に着地する。散弾銃の引き金を引く。命が爆ぜる。

 あーあ。

 誰かが言った。誰でもよかった。



 首の骨を折った。それが、最後の一人だった。

 川原には、死体が散らばっていた。死臭は、あまりしない。時間が経てば、状況は変わるだろうが。

 体が軽かった。軽すぎるほどだ。

 月にいる気分。自分だけ、課せられる重力が割り引かれているような感覚。

 タクシーに火を放つ。少し待つと、炎は二メートルほどの高さにまで燃え上がった。死体を集め、炎の中へと放っていく。最後に、タクシーの運転手だった男を引きずった。

 身分証明書を見ればよかったな。ふと、思った。助手席の前面にあるはずのやつだ。それを見れば、彼の名前が分かった。

 財布を探せばいい。そう気づいたが、そのときにはもう、男の名はどうでもよくなっていた。

 男の死体も、炎の中へ放った。

 責任を感じる必要はない。

 分かっている。

 麻薬の入った鞄や衣服は回収していた。服は元通りに身に付け、鞄は、松葉杖とともに、少年たちが乗っていた黒いSUVに乗り込みながら、助手席に放った。

 いつの間にやら、無線から聞こえてくる音声が騒がしくなっていた。逼迫した声が、アイザック・ライクンの名を叫んでいる。

 車の向きを変え、アクセルを踏む。進行方向に、燃え盛るタクシーがあったが、そのまま進路を取った。突っ込み、無理矢理に障害物をよける。タクシーは道路から外れ、草木の生い茂る斜面を滑り、川岸へ転がった。

 アクセルを踏んだ。

 気分が良い。とてつもなく。

 ガラスの靴は手に入れた。あとは、王子さまを見つけるだけね。

 ラジオをつけ、音量を最大にした。流れてくる音楽に合わせて口笛を吹く。

 また、男が死んだ。

 でも、だから?

 あたしは殺し屋。死と隣り合わせ。そういう世界に生きる女。いまさら誰かが死んだからと言って、嘆く必要はない。

 アクセルを踏む。

 車は、走るためのものだ。ブレーキなんて踏んで、どうすると言うのだろう?

 バックミラーを見た。女が笑っている。

 知らない女だった。

つづく


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posted by 城 一 at 15:36| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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