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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2006年09月03日

ブログ小説 焔-HOMURA- scene1


かつて家庭≠セと信じ、そう呼んでいたものに




●風際 慶慎(かざぎわ けいしん)

 食器のぶつかる音がテーブルの上に響いている。テレビに映っているのは、ありきたりなアクション映画。途方もない銃弾とセックス、そして暴力。
 雑音には満たされているが、会話のない、静かな食卓だった。
 いや。食卓と呼べるのかどうかさえ、分からない。慶慎は、コンビニ弁当の白飯を箸で突ついていた。弄ぶように、突つくだけ。冷えきった弁当は、慶慎の食欲を削いでいる。慶慎は、テーブルの向かい側で、テレビを楽しんでいる父、風際文永(かざぎわ ふみなが)を、そっと見た。
 父の前には、缶ビールと、つまみのピーナッツが入った皿。他に、数えきれないほどの、ビールの空き缶。父の顔は赤らんでおり、今日は既に飲み過ぎている。
 だが、慶慎は何も言わない。父が慶慎の知らない女性と、コンビニ弁当の十倍もするような値段の夕食を食べて帰って来たのを、知っている。だが、慶慎は何も言わない。
 突然、文永が慶慎のことを見た。慶慎は慌てて視線を伏せたが、遅かった。
「何を見てる」
 飲み過ぎている文永は、微妙にろれつが回らなくなっている。
「何も」
「いや。今、確かに、俺のことを見てた」
「見てない」
「じゃあ、俺の見間違いか?そうなのか?」
 慶慎は何も言わなかった。こういうときに、何を言えば、父の機嫌が良くなるのか、慶慎には分からない。文永は立ち上がると、慶慎の前から弁当を払い飛ばした。テーブルを回って来て、慶慎の襟を掴み、無理やり立たせる。
「黙ってないで、なんとか言ったらどうなんだ?」
 慶慎は父の顔を見ていた。そこには、アルコールを飲んだ分だけ、衝動的な怒りが燃え上がっている。何の意味もない感情が。
「生意気な目だ。ムカつくガキだぜ」
 文永は乱暴に、慶慎の体を突き飛ばした。慶慎は、床で強く背中を打って、息を詰まらせた。間を置かずに、腹を蹴られる。
「お前、本当に俺の子供か?」
「ごめんなさい」
 肩、腹、背中、顔、頭。文永の足は、思うがままに、慶慎の体を蹴りつける。子供の四肢だけでは、とても守りきれるものではなかった。
「ごめんなさい」
 最後に大きく、顎を蹴り上げられ、慶慎は気を失った。


つづく
posted by 城 一 at 00:00| 長編小説 焔-HOMURA- | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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