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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2006年09月07日

ブログ小説 焔-HOMURA- scene18

●奈々恵(ななえ)

 馬鹿な男だ。
 奈々恵は、汗を拭いながら、カードに見入っている蓮を見た。
 既に、勝負はついているようなものだった。
 奈々恵は、チャイナドレスのスリットの部分の乱れを直す振りをしながら、手札を、スリットの奥、下着の脇に挟めたカードを取り替えて、自在にポーカーの役を作っていた。
 ハートの、ロイヤル・ストレート・フラッシュ。
 この男は、イカサマを疑う頭もないのだろうか。奈々恵は思った。
 蓮が、あまりにも彼女のことを疑わないので、役の調節もせず、奈々恵はずっと、同じロイヤル・ストレート・フラッシュの役を揃えていた。
 狩内蓮。二十代前半。ツガ組の幹部の中では、最年少だ。もう少し、骨のある男だと思っていたのに。
 案外、ツガ組も、長い年月のうちに、腐ってしまったのかもしれない。
 蓮は目つきを変えて、奈々恵を見た。
「いいの?」
「ああ」
 くだらない勝負も、もう終わりだ。いや。最初から勝敗が分かっているのだから、勝負とも言えないのかもしれない。
 蓮は、奈々恵がテーブルの上に並べた、ハートのロイヤル・ストレート・フラッシュを見て、低く唸った。
「ゲーム・オーバーね、狩内蓮」

●狩内 蓮(かりうち れん)

 駄目だ。蓮は思った。
 テーブルの上、奈々恵のロイヤル・ストレート・フラッシュと並ぶ、自分のスリー・カードという、手役にではない。
 マスターの手が、カウンターの下に隠れて、動いていることだ。カウンターの下には、マスターが護身用に備えて置いた拳銃があった。
 自分のことを助けようとしているのだ。しかし、そのマスターの動きに、奈々恵が呼び寄せた男たちの一人もまた、気づいていた。
 奈々恵も、だ。
 拳銃一丁で、八人を倒せるわけがないのだ。
 どうなるのか、楽しそうな表情を浮かべながら、彼女は言った。
「ゲーム・オーバーね、蓮」
 奈々恵の言葉と同時だった。銃声が、酒場の中に響いた。ウエイトレスの悲鳴。
 奈々恵の後ろにいる男たちは、一人も欠けず、ニヤニヤしながら、無事に立っていた。
 マスターの姿は、カウンターの後ろに消えて、もう見えない。
「てめえ」
 奈々恵は、楽しそうに、首を傾げて、蓮を見る。
「もっと、やってあげましょうか?」
「やめろ」
 奈々恵が、片手を挙げた。銃声が、酒場を揺らした。


つづく
posted by 城 一 at 18:00| 長編小説 焔-HOMURA- | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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