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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2007年01月12日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第11回

 カナジョウ市は広い。それに、ツガ組の所有しているビルは、主に組員が使用しているものだけでも、ツガ組の組長が所有するもの、そして青龍、白虎、朱雀、玄武と呼ばれる幹部が管理するものがあった。カナコに教えられたのは白虎と呼ばれるツガ組幹部、狩内蓮のビルだった。移動手段に迷った末、慶慎はひたすら歩いた。目的地に着く頃には、日が暮れていた。
 なんてことはない建物だった。周囲を囲む雑居ビルに、いとも簡単に紛れてしまうほど、年季の入ったビルだった。壁にはひびが入り、塗装の剥げている場所も目についた。エレベーターも古めかしいものだった。一つ一つの挙動に、大げさに音を立てる。慶慎は不安になりながらも、そのエレベーターで最上階まで上がった。
 白虎。言ってみれば、コードネームのようなものだった。そして、白虎である狩内蓮の部下たちは白虎隊と呼ばれていた。比較的、組の中でも若い者たちで構成された部隊だった。その長である狩内蓮も、幹部の中では最も若い。なんとなく、慶慎の中では、越智彰治の若い頃を想像していた。
 狩内蓮の部屋を開けたとき、想像していたものは全て壊れた。部屋の中央、奥にある机に、若い男が腰かけていた。手にはリモコンを持っている。ラジコンのリモコンだった。男の手元で、ぴょんぴょんとアンテナが跳ねていた。慶慎の足に、ラジコンがぶつかった。男は、かぶっていた麦わら帽子のつばを指先で軽く上げて、慶慎を見た。口許が笑みに歪んでいる。
「ああ、君が?」
「カザギワから来た、焔です。遅くなってすいません」
 慶慎の足下で、ラジコンがUターンする。男が肩をすくめた。
「いやいや、気にしないでくれ」
「狩内蓮さんは、どこにいるんですか?」
「いるじゃないか、君の目の前に」
 慶慎は、顔をしかめそうになるのを必死でこらえた。目の前の男を見つめる。冬を目前に控えた季節に平然と麦わら帽子をかぶり、ラジコンを操る男。それが、ツガ組の幹部である白虎であるとは、にわかには信じがたかった。
「信じられないかい?」
 蓮が言った。慶慎は頷くのをこらえて、男をじっと見つめた。部屋の隅で、別の声がした。
「だから言っているんだ、蓮。もっと威厳のある格好をしろとな」
 部屋の隅に、もう一人男がいた。椅子に座っている。かなり恰幅のいい男で、座っているお陰で、つかえるほど、腹が前にせり出していた。NBAのチームのレプリカユニフォームを着ていた。黄色地に紫の線。蓮が言った。
「こいつが、俺なりの威厳なんだが」
「馬鹿言え」
「白虎のビルの最上階で、麦わらにラジコンだぜ? 下の奴らがそんなことしたらぶっ飛ばされる」
「それはそうだが」男は言いながら、慶慎を見た。「ポール。俺はポール・ミラーマンだ」
「焔です」
 蓮は相変わらず、ラジコンを操りながら、上目遣いに慶慎を見た。
「言葉を返すようだが」蓮は言った。「君が焔だということは、俺たちはどうやって信じればいい?」
「ミス・ローディンから連絡が入っているはずですが」
「どうだったかな。記憶にないな。すまないね、風際慶慎君」
「焔です」
 ラジコンが、また慶慎の足に当たった。踏み潰したい衝動を、すんでのところでこらえた。ラジコンがまた全速力でUターンし、今度は蓮の足に当たった。蓮の方は、衝動をこらえはしなかった。ラジコンを足で踏みつけた。ブラスチックのボディが大きく割れた。
「まだ仕事を一度も成功させたことのない奴を、うちじゃ一人前扱いしないんだよ、小僧」
 反転したようにして、蓮の目に凶暴な光が宿る。慶慎は唾を飲んだ。
「僕は」
「言い訳でもするかい?」蓮は微笑を浮かべながら言った。
「いえ」慶慎は言った。「しかし、それでは僕はどうすれば」
 蓮の視線が、わずかにずれた。慶慎の後ろ。慶慎の背中に緊張が走る。殺気を含んだ、気配。振り返った。黒人の男がいた。いや、若い。少年と言った方がぴたりとくる。慶慎と同年代くらいの少年だ。鉢巻で目隠しをしている。気づいたときには、既に慶慎の心臓を、男の拳が捉えていた。息がつまる。
「俺は心が広いんだよ、慶慎君。生きてりゃ認めるよ。お前が焔だと」同じ部屋の中にいるはずなのにも関わらず、蓮の声が遥か遠くに聞こえた。「簡単だろ?」
 慶慎の視界の中で、部屋が回転した。



つづく




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posted by 城 一 at 02:11| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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