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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2007年01月18日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第17回(ver 2.0)

 三人。慶慎は数えた。相手の戦力になりそうな人数だ。少女のことは、除外した。
 オレンジ色の髪を先頭に、少年が二人。赤いニットキャップの少年、坊主の少年。坊主が、一番、体格が大きかった。オレンジ色の髪の少年が、バタフライナイフを取り出した。
「ま、ここなら、時間潰すのに苦労はしないけど」オレンジ色の髪は言った。「でも、どうだろうな。漫画を読むのは飽きたな」
 慶慎のことを挑発するように、少年の手のひらの上で、バタフライナイフが輝きながら転がる。
「そう? 僕は、悪くないと思うけど。日本が、世界に誇れる文化だろ?」
 出口は、一つしかなかった。慶慎たちと、アンバー・ワールドの少年たち。ちょうど、その真横。逃げるチャンスは、ある。慶慎は、安希を振り返り、視線で出口を示した。安希が、注意して見なければ分からないほどの大きさで、横に首を振る。慶慎は、視線に力を込めた。
「ケイちゃん!」
 殺気。分かっていた。慶慎はバタフライナイフを握った手を、振り向きざまに掴んだ。みぞおちに膝を入れる。オレンジ色の髪が息を呑んだ。足をかけて、床に転がす。同時に、手首を捻っていた。ナイフが床に落ちた。
 床を蹴った。赤いニットキャップ。次の瞬間には、その腹を正拳突きでえぐっていた。前蹴り。赤いニットキャップの少年が吹っ飛び、パソコンコーナーに突っ込んだ。派手な音を立てて、キーボードやマウスが床に落ちる。拳。坊主の少年だった。かわし、裏拳でその顔を打つ。一度拳を落とし、今度はその顎を打ち上げた。なおも襲いかかってこようとする坊主の少年を、ハイキックで昏倒させた。
「安希」
 安希を振り返った慶慎は、顔を歪めた。少女が、バタフライナイフを持って、安希の喉元に突きつけていた。
「女の子が、そういうことをするもんじゃない」慶慎は言った。
「あたしはあんまり、抵抗ないの。こういうことをするのに」少女はにやりと口角を上げた。「駄目よ、動いちゃ」
「ごめん、ケイちゃん」
 慶慎は首を振った。足下に、オレンジ色の髪の少年が倒れていた。足を思いきり振り上げ、その顔を踏みつけた。少女が怒りの混じった悲鳴を上げた。ナイフが、安希の喉元を離れた。
 飛んだ。少女が慶慎を視界に捉えたときには、もう遅かった。床に押し倒していた。ナイフは、既に慶慎の手の中にあった。慶慎は、ナイフを、少女の顔のすぐ横に突き立てた。少女は震えていた。
 慶慎は少女を睨みつけた。
「いいか。二度とするな」
 そう言って、慶慎は少女から離れた。安希の手を取る。そう長く、時間があるとは思えなかった。
「ケイちゃん」
「話は後にしよう」
 慶慎は安希の手を引いて、漫画喫茶を出た。
「僕の家は、ここから三十分くらいかかる。安希の所は?」
 すぐに、答えは返って来なかった。慶慎は、安希を振り返った。
「すごく……遠いよ」
「じゃあ、僕の家だ」
 まだ、雑踏の中だった。携帯電話を耳に当てる者全てが、敵に見えた。走りながら、慶慎は吸入器を使った。
「ごめんね、ほんとに」
「いいって。でも、カナジョウって、こんなに危ない街だっけ」
「まあ、時間が時間だし」
「何度も言って悪いけど、この時間の散歩はよしなよ、ほんとに」
「ごめん」
 人通りの多い道と、少ない道。どちらを行った方が安全なのか、分からなかった。慶慎は最短の道を選んで、走った。一人、肩を掴んで止めようとする者がいた。殴り飛ばして、地面に昏倒させた。
 二人。前方に立ち塞がる者がいた。止まらず、一人に突進した。顎に頭突き。白目を剥いて倒れる一人を蹴り、その反動を利用して、もう一人を蹴り飛ばした。さらに走る。また、吸入器を使った。
 大きな通り。青信号。止まっている車を横目に渡る。一台の車が、慶慎目がけて唸りを上げた。紙一重でかわせるタイミングだった。が、慶慎は足を止めた。振り返る。安希が転んでいた。車の真正面に、安希がいた。安希を突き飛ばし、慶慎は真上に飛んだ。黒いワゴン。かわしきれなかった。フロントガラスに衝突する。フロントガラスに、蜘蛛の巣が広がった。車の上に転がる。こめかみから、血が滴った。
 少年たちが、車から降りて来た。もはや、安希の方を見向きもしていない。それは、いい傾向だった。目標が自分一人だけならば、なんとかなるかもしれない。立ち上がろうとして、転んだ。後ろから伸びていた手が、足を掴んでいた。その手を蹴りながら、地面に着地する。一人。腹を蹴り、顔に拳を叩き込んだ。真横。タックル。かわしたと思った瞬間、全身を鈍い痺れが覆った。タックルをした少年は、手にスタンガンを持っていた。
 地面に崩れそうになるのを、後ろから抱えられる。周囲はとても、静かだった。数々の車に囲まれた中で行われている光景に、戸惑っているのか、誰もクラクションを鳴らさない。慶慎は、黒いワゴンの方へと引きずられた。
 悲鳴。安希だった。慶慎と同じように、羽交い絞めにされ、ワゴンの方へと運ばれようとしていた。
 慶慎は、自分の体を掴む手の指を一本、思いきり、本来曲がるのと逆方向へと曲げた。後ろで、少年が息を呑むのが分かった。羽交い絞めをほどき、後ろ蹴りを、そのみぞおちに叩き込む。飛んだ。安希の後ろ、少年の顔を蹴り飛ばす。力が入らなかった。が、顎を捉えた。踏みとどまろうとする少年のこめかみを殴る。掌底で顎。手刀で喉。安希が解放される。
 逃げろ。慶慎は言おうとした。が、自分の口がその言葉を言ったのかどうかは、分からなかった。首の後ろを殴られた。視界が暗くなった。頭、腹、背中に衝撃。殴られたのか、蹴られたのかは分からない。膝が、地面を捉えたのが分かった。次に、両の手のひらが。そして、顔。冷たいアスファルトの感触。
 自分の名前を呼ぶ声が、ずっと響いていた。安希の声。自分の体が持ち上げられ、半ば投げるような扱いを受ける。
 最後に聞こえたのが、ワゴンの扉が閉まる音だということは、慶慎にははっきりと分かった。



つづく




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posted by 城 一 at 04:35| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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