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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2007年01月22日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第20回(ver 2.0)

 ひびが走った。窓ガラス。
 慶慎が、少年の一人の頭を蹴り、叩きつけたのだ。少年の頭は小さく弾み、落ちそうになる。すくい上げるようにして、蹴った。右、左、右。一息に。
 喘息の発作が起きていたが、構わなかった。怒りが、息苦しさをかき消している。
 カズ。持っていたCZ75の銃口を、慶慎に向けようとしていた。慶慎は、気絶した少年の体を引っ掴み、その前に投げた。カズは躊躇した。銃ごと、その手を掴み、下に向けて捻った。ぴんと張った肘を蹴りつけ、折った。カズは大口を開けていたが、悲鳴は聞こえなかった。BGMにかき消されていた。取り上げた銃を手の中で回し、掴む。カズの脇腹を蹴り上げ、こめかみを銃底で殴った。白目を剥いて倒れる顎を蹴った。跳ね上がった顔の中心に、拳を叩き込んだ。
 放電の音がした。スタンガン。反射的に後退した。パンプだった。スタンガンを追うようにして蹴りが来た。慶慎はそれを受け流し、懐に踏み込んだ。スタンガンを持った腕に銃口を突きつける。迷いはなかった。引き金を引いた。痛みに歪んだパンプの顎を掌底で殴る。みぞおちをつま先で蹴り上げる。胃のものを戻すまで、蹴り続けた。ごぼごぼ、という音を聞きながら、慶慎は車のドアを開けた。
 運転手が、ワゴンを止めようとした。運転席の後ろからシートベルトを掴み、その首に巻きつけるようにして引っ張った。
「止めるな」
 弾くようにして、助手席のドアが開いた。走行中にも関わらず、助手席の少年は、車外に飛び出した。道路の上を転がる、少年の体を、慶慎は黙って見送った。
 銃を運転席のシートに向けたまま、後部スペースの者たちの排除に取りかかった。名も知らない少年、パンプ。躊躇せず、車外へ放り出した。
 カズ。気絶しているところを、抱え、体の半分を車外に出した。足の甲を踏み、履いているズボンのベルトを掴み、落ちる寸前で止める。カズの右耳を、撃った。やはり、悲鳴は聞こえない。慶慎は、運転席に向かって、ボリュームを下げろ、と怒鳴った。うるさいBGMの中、慶慎は二、三度繰り返さなければならなかった。ようやく、音の戻って来た世界で、慶慎は口を開いた。
「こっちを見ろ」
 カズは、車の下を猛スピードで駆け抜けて行くように見える、アスファルトの道路を、恐怖に彩られた目で、見ていた。慶慎は、台詞をもう一度繰り返した。カズが、慶慎を見た。パニックに陥っていて、体が安定できる場所を求めて、ゆらゆらと動いていた。
「あまり動くな。僕はそれほど、力持ちじゃないんだ」
 銃口を向けたまま、慶慎は言った。
「何言ってるんだ。お前は力持ちだよ。大丈夫だよ。だから、離さないでくれよ」
 銃を持った手で、慶慎は、カズのズボンのポケットを探った。財布が出て来た。市内の高校の学生証が入っていた。慶慎はそれごと、財布を自分のズボンのポケットに入れた。
「返してくれよ」
「駄目だ」慶慎は言った。「あんたは、このグループの中では、偉いのか?」
「何?」
「あんたの言うことを、他の連中は聞くのか?」
「ある程度」
「曖昧な答えだね。別に構わないけど。でも、他の連中が、あんたの言うことを聞かなければ、ひどい目に遭うのはあんただ」
「どういうことだよ」
「僕の記憶は、あんまりいい方じゃない。あんたの住所を覚えるので精一杯だ。だから、もし今後、リタ・オルパートのかけた賞金目当てで、アンバー・ワールドが僕のことを探してる、ということになったら、僕はあんたの家に行って、不平不満を言う」
「不平不満」
「場合によっては、言葉だけでは済まないかもしれない。あんたたちに日本語が通じないとなると、別のコミュニケーションの方法を考えなければならないかもしれない。こいつに、通訳を頼まなければならないかもしれない」慶慎は、カズによく見えるようにして、銃を軽く振った。「どうだろう。意味は、通じたかな」
「十分だ」
「よかった」
 慶慎はにっこりと笑うと、掴んでいたベルトを離した。カズの悲鳴は、一瞬で遠のいた。ドアを閉めた。運転手に銃を突きつけ、車を止めさせた。車から降ろし、一刻も早く、車から離れるように言った。
「この車は、親のなんだ」
「偉いな。親孝行のために、命を捨てる覚悟があるんだね」
 慶慎がそう言うと、運転手は短く悲鳴を上げ、全速力で走って、車から離れていった。
 慶慎は、後部スペースにいる安希の所に行った。安希は眠るようにして目を閉じ、額に脂汗をかいていた。撃たれたのは、左の肩口だった。銃創を中心にして、服が赤く染まっていた。苦しそうに、胸が上下していた。
 慶慎は、海恵子を携帯で呼び出した。
「知り合いが、撃たれたんだ」
 海恵子は、銃創の治療は自分にはできない、と言って、この時間でも活動している、もぐりの医者の居場所を教えてくれた。慶慎は礼を言って、電話を切った。
 安希の頬を軽く叩いて、起こした。虚ろながらも、目が開く。かすれた声で、安希が言った。
「ケイちゃん、大丈夫?」
「僕は大丈夫」慶慎の言葉を聞いて、安希は再び目を閉じようとする。懸命に、呼び止めた。「安希、寝ないで。これを傷口に当てて」
 車内には、誰かの脱ぎ捨てたTシャツが落ちていた。慶慎はそれを拾って、彼女に渡した。安希は半ば目を閉じながら、Tシャツを受け取り、傷に当てた。痛みに顔が歪む。
「これから病院へ連れて行くから。だから、寝ないで」
 慶慎は言うと、運転席に座った。車の運転は、知っていた。免許は持っていないが。フロントガラスの蜘蛛の巣を見る。警察に見つかるわけにはいかなかった。
 大通りを避けて、慶慎は車を走らせた。
 幸い、警察に見つかることなく、慶慎は、海恵子に教えられたもぐりの医者の所に、たどり着いた。



つづく




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posted by 城 一 at 00:49| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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