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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2007年03月18日

How much? C

 千六百八十円。あたしはそれで、暗闇を買う。それが高いか安いかは、人それぞれ。あたしは、安いと思う。見たくないものを、見なくて済むんだから。それだけのお金があれば、そう、アナスイのマニキュアが一つ買える。モザイクの入ったような、金色のやつが欲しいんだっけ。そう言えば。でも、それがどうだと言うのだろう。暗闇を買うだけのお金があれば、アナスイのマニキュアが一つ買えるというだけで、暗闇を買ったから、アナスイのマニキュアをもう、買えないというわけじゃないんだから。
 お金はいくらあっても、足りない。けど、あたしの所にはたくさんある。そして、これからもたくさん入ってくる。援助交際をやめない限り。好きでもない男とセックスするのをやめない限り。
 ということは? とりあえず、しばらくは心配ないということだ。お金に関する問題は。あたしはまだ、しばらく高校生でいられる。中学生よりは、価値は低いとか言われるけど。けど、そんなの。若いだけでしょ。ときどき、言いたくなる。盲目のもぐらみたいに、人ごみかき分けて、何が欲しいのかと思ったら、ただ若さ。声をかけたと思ったら、君、何歳? だって。馬鹿みたい。お望みなら、十三歳とでも言ってあげましょうか、くそったれ。そんな風に言いたくなったことが、少なからずある。中学校の制服を着ているかどうかで判断する。得意気に、言い放った男が、いた。あたしはそれを聞いたとき、笑いをこらえるのに苦労した。だってその男は、あたしが中学校に通っていたときの制服を着て、中学生だと言ったあたしの言葉を鵜呑みにして、十分にも満たない時間をベッドの上で過ごしただけで、射精し、満足げな表情を浮かべていたからだ。
 結局のところ、何が欲しいのか。聞いてみたくなる。パッケージだって、売り文句だって。いくらでも変えられるのに。それに固執するなんて、愚の骨頂。顔や体が気に入ったから、という方が、よっぽど頷ける。
 まあ。実際にそれを口に出すつもりはないのだけれど。お金をもらってる立場だもの。セックスの最中には、たとえ“感じて”いなくても“感じて”いる振りをして声を上げるし、聞かれない限り、彼氏がいることを教えたりはしない。聞かれても、教えることは少ないけれど。たいてい、彼氏はいない振りをするのだけれど。積極的に、せっかくお金をくれる人間の夢を、壊す気にはなれないから。そんなことをして、相手を怒らせて、お金をもらえなかったら。そう考えると、できない。夢はできるだけ、守ってあげる。
 遠回しな言い方になってしまったけれど、あたしの言っている“暗闇”というのは、つまるところ、アイマスクのこと。セックスの最中に使うのだ。女の子に好かれるような顔の男が、セックスのために法を侵したり、お金を出したりするはずがない。見るに耐えない容姿の男もたくさんいて、そういう男に限って、明かりをつけたまま、セックスをしたがる。
 醜悪な顔が、すぐ目の前で快楽を貪って歪んでいたりする光景ほど、耐えられないものはない。一度、それであそこが濡れなくなって、気持ちよくないどころか、セックスが痛くなったことがあった。アイマスクがある今は、そんなことはない。声を聞かずには済まないけど、でも、見たくないものは見ずに済む。
 黒地に、赤系統の色を集めたタータンチェックが入った、アイマスク。ラメの入ったピンク色の生地で周りが縁取られている。あたしはこれを、学校で昼寝をするときにも使ったりする。クラスメイトからは、かわいいと言われ、評判はいい。けど、みんな、知らない。このアイマスクが、男女のいかがわしい時間にも使われているなんて。あたしが、不謹慎な使い方をしてるなんて。
 そして、アイマスクの値段を聞いて、眉間に皺を寄せるのだ。たかーい、なんて言って。もちろん、半分は場の空気に合わせてのことなんだけど。あたしも少しは、みんなに合わせて笑う。そうかなあ、なんて。でも、心の中ではこう言ってる。
 はした金じゃん。なんて。結構冷たいトーンで、言い放ってる。
posted by 城 一 at 00:15| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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