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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2007年11月26日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第132回(2版)


似合わない。分かってる。


 桧垣に別れを告げたあと、風際秀二郎を訪ねた。面会の約束は、カナコ・ローディンを通して、既に取りつけてあった。
 ずっと、頭に引っかかっていることがあった。
「この時期に、わざわざボスの時間を取るなんて。相応のネタなんでしょうね」
 カナコが言った。真っ白なパンツスーツに、赤色の頭髪が映えている。鈴乃の、少しだけ前を歩いていた。距離は、つかず離れずと言ったところだ。松葉杖の鈴乃に合わせて、歩調を緩めていた。そうでなければ、置いていかれていることだろう。靴のヒールが、心地よいリズムで、廊下を叩いている。
 鈴乃は、返事をしなかった。
 風際秀二郎の部屋の前に、たどり着いた。カナコは、冷たい視線で、鈴乃のことを一瞥した。
「まあ、いいわ」カナコは言った。
 ドアをノックし、風際秀二郎の声を聞いてから、開けた。鈴乃が、部屋の中に入るまで、カナコはドアを支えていてくれた。
 広い部屋の中心で、殺し屋集団の長は舞っていた。手には、刀が握られていた。音はない。汗の粒と、刀の切っ先が、光となって踊っていた。老体から放たれる威圧感が、部屋を、隙間なく埋めていた。
 身長が縮み、筋肉の削げ落ちた、小柄な体。そのどこに、これだけのエネルギーがあるのか。鈴乃の疑問に、未だ答えは出ていない。
 鈴乃に背を向けたまま、風際秀二郎は、鞘に刀を収めた。そして、言った。
「鏑木か」
「お忙しいところ、申し訳ありません」
「構わん。怪我の具合は、どうだ」
「ギプスをして、松葉杖を突いてはいますが、問題はありません。たいていの仕事は、できます」
「そう言って、無理ばかりしているのだろう」風際秀二郎は、そう言いながら、自分の机についた。わずかに、口許を緩める。「いや。無理をせざるを得ない場所に、お前を置いているのは、この私か」
「いえ」
 風際秀二郎は、部屋の外へと、声を張り上げた。カナコが、パイプ椅子を持って、部屋の中に入ってきた。鈴乃の側にそれを置き、カナコは出て行った。風際秀二郎が、その椅子に座れ、と言った。鈴乃は、そのようにした。松葉杖は、床に寝かせた。
 風際秀二郎は、机の上に両肘を突き、指先を組んだ。
「人の数が、半分になった」風際秀二郎は言った。「ローディンや桧垣に、人員の確保を急がせている。主に、カナジョウにある、小規模の非合法組織を、吸収することでな。だが、なかなかうまくいっていないようだ。カザギワを名乗れば、街を敵に回さなければならない。それが、躊躇の種になっている」
「でも、それは」
「そうだ。法を越えた場所にいる者は皆、そうなる危険と隣り合わせだ。覚悟というのは、その領域に入る前にしておくべきことだ。しかし、な。言うは易し、というやつだな」
「ミカドのような存在に尻込みするような人間は、必要ありません。それで、いいんじゃないでしょうか」
「知っているか、鏑木? 我々の中にも、いるのだ。ミカドに恐れをなす者が。DEXビルの一件のあと、何人か、辞めていったよ」
「許可を、出したのですか」
「ああ。必要ないだろう? そういう人間は」
「しかし」
「心配はいらんよ。他の者に、始末させた」風際秀二郎は言った。「既に、全て完了したと、報告を受けている」
「そうですか」
「不思議なものだ。確かに私も、ミカドという、組織やメディアとなって、姿を現すとは思っていなかった。しかし、それに準ずる存在は。その誕生は。この稼業に身をやつす限り、避けられないものだと知っていた。覚悟していた。それが当たり前で、皆、同じものだと思っていた」
「はい」
「しかし、違ったようだ」
「ほとんどは、カザギワに残っています。そう、悲観することではないんじゃないかと」
 カザギワからいなくなった人間。頭の中に、浮かんだ名前があった。鈴乃は言った。
「お孫さんのことが、心配なのですか」
 風際秀二郎は、背もたれに体を預け、椅子を軋らせた。わずかに顔を天井に向け、目を閉じる。そして言った。
「余計な考えだ。鏑木」
 言葉とともに、威圧感がみぞおちを突き刺す。鈴乃は、風際慶慎のことを口にしたのを、後悔した。
「すみません」
「まさか、用はそれじゃないだろうな」
「いえ」
「なら、なんだ」
 風際慶慎のことと同じく、聞いてはいけないことなのではないか。鈴乃は思った。が、今ここで言わなければ、風際秀二郎に尋ねる機会は、二度とない。鈴乃は言った。
「なぜ、高田清一に、自ら死ぬ許可を与えたのですか」
 風際秀二郎は姿勢を戻し、目を開けた。
「死にたがっていたからだ。既に、ほとんど、生を放棄していた」風際秀二郎は言った。「それに、私に許可を乞うだけ、ましだとは思わないか?」
「時間をかければ、立ち直ったかもしれません」
「そうかもしれん。だが、誰がいた? 高田のために、時間をかけられる者が。難しい問題だ。仕事の範疇に収まるものではない」
「しかし」
「お前が支えてやれた、とでも言うのか? 高田を」
 言葉を返そうとして、思い出した。津野田さつきの死を。そして、磐井と交わした言葉を。あのときと、立場が逆になっている。
 鈴乃はうつむいた。
「いいえ」
「中途半端に、こちらに繋ぎ止めれば、魂が腐る」
「はい」
「腐った魂は、何をするか分からん。お前も、殺し屋の端くれならば、分かるだろう」
「はい」
「それに、結局。高田は殺されて死んだ」風際秀二郎は言った。「もう忘れろ、飛猫。いない者に囚われるな。こだわるな」
 風際秀二郎はただ、高田のことに関して言っている。なのに、なぜか羽継のことまでも言及されているような、そんな気が、鈴乃はした。声が強張った。
「分かりました」
 風際秀二郎が、改めて鈴乃のことを、正面から見つめた。
「それと一つ、言っておきたいことがある」風際秀二郎は言った。「鏑木。その顔を、やめろ」
「何か、不快感を感じるような」
「いや、違う。最近のお前の表情には、死相がちらついている。そういう話だ」
 椿の言っていた、“センチメンタルな顔”のことだろうか。鈴乃は思った。口に出して、風際秀二郎に確かめることはしなかった。
「以後、気をつけます」
「そうしろ」
 もう、言うことはなかった。鈴乃は立ち上がり、一礼した。風際秀二郎の部屋を出た。


つづく






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posted by 城 一 at 16:58| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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