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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年01月18日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第144回(2版)


満ちるは器ばかりなり。


 鈴乃は、窓の外を見ながら、アンバーの魔法瓶に残った、ホット・レモネードを飲んでいた。汗の滲む体に、バスローブが心地いい。
「あんた、イかなかっただろ」
 アンバーが言った。全裸のまま、ベッドの上でポテトチップスの袋を開けていた。ホテルに行く途中に寄ったコンビニで、買ったものだった。口を動かしながらアンバーは、気だるそうに、テレビの画面を眺めている。興味を引く番組がないらしく、落ち着きなく、チャンネルを変えていた。深夜三時になろうという時刻だ。仕方ないことだった。アンバーは、アダルトチャンネルを入れて、リモコンを置いた。
 アンバーの言った通りだった。鈴乃は、アンバーに合わせて、達したふりをした。別に、珍しいことではなかった。貞淑な女が聞けば、顔をしかめ、軽蔑するくらい、体を安売りしてきた。相手だけが満足してセックスが終わり、孤独を感じていたのも、もう昔の話だ。体を介して、男とひとつになる。そんなのは、幻想だ。羽継を失って、鈴乃はそう諦めをつけた。今では、オーガズムに達しない方が、安心するときさえある。
 鈴乃は振り向かずに、窓に映る、ベッドの上のアンバーに言った。
「気になる?」
「多少、自尊心は傷つくな」
「今度から、気をつけるわ」
「そうしてくれ。他の、世の男のためにも」
 半透明な部屋の景色の向こうには、ラブホテルと隣接する、テナントビルの窓と壁が見える。情緒など、微塵もなかった。テナントビルの二階では、アダルトビデオを扱っているらしい。ビデオを作るメーカーか、それを売るショップか。ビルの窓から、その向こう側は見えなかった。AV女優のポスターで、窓ガラスは隙間なく埋まっていた。思わせぶりに両手で乳房を隠した、女優のひとりが、挑発的な視線を鈴乃に送っていた。
「欲求不満にならないのか?」アンバーが言った。「別に、俺はいいんだぜ。まだ、二、三ラウンドはいける」
 鈴乃は首を振った。
「イッたからって、満たされるわけでもないから」
「そうかい」
「聞いてもいい?」
「ああ」
「マリとは、長いの?」
「マリ?」
「この前のパーティに、あたしと一緒にいた女よ」
「ああ、あの女。あんたの連れじゃないか。知らないのか?」
「知らないから、聞いてるんじゃない」
 アンバーはポテトチップスを頬張った。先ほどから、欠片がベッドの上に落ちているが、気にしていない。
「三年くらいかな。俺が、<アンダーワールド>を始めて、すぐからだから。正直言って、あんまり好きじゃないんだ、あいつのこと。面倒な類のファンでな」
「どうして?」
「気を悪くしたかい?」
「いえ」
「ほとんど、ストーカーみたいなもんなんだ、あいつ。教えてないのに、俺の携帯の電話番号とメアド、家の住所まで知ってやがる」
「調べたの?」
「俺の周りにいるヤツらに、聞き回ったらしいぜ。金を握らせたって話もある。趣味は、俺の出したゴミを持っていくこと」
「それを、ほったらかし?」
「言っても、やめねえんだ。もう諦めたよ。ま、見た目は悪くないからさ。気が向いたら、部屋に呼んでファックする。その点は、いい思いさせてもらってるわけさ。ギブ・アンド・テイクってやつだ」
「それは、リヨがいたときから?」
「いや」アンバーは言った。「ああ、ストーカー行為は、その頃からあった。リヨがいたときは、一度ぶっ飛ばしたけどな。あいつが俺の周りにまとわりつくんで、リヨに誤解されかけたんだ」
「マリに、男がいるのは」
「知ってるよ。強いし、金持ってるし、仕事で忙しいし。文句のない男だってよ」
「そう」
「ああいう女とは、つき合いたくないな」
「でしょうね」
 アンバーはベッドから下りて、備えつけの冷蔵庫の所へ行った。扉を開け、中を物色する。
「悪いな。あんたの連れだってことは、分かってるんだけど」
「別に。そんなに、仲がいいわけじゃないから」
「そうなのか?」
「最近、知り合ったばかりなのよ」
「そうかい」アンバーは言った。「なあ、本当にもう一回やらなくていいのか?」
「いいわ」
「なら、ビール飲むぜ」
「お好きにどうぞ」
 プルタブを開ける音がした。鈴乃は、ホット・レモネードを注ぎ足すために、カップに向けて、魔法瓶を傾けた。が、ホット・レモネードは出てこなかった。もう、空だった。

つづく




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posted by 城 一 at 14:58| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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