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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年02月22日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第153回


やっかいっ!


 ふんふんふふふん。そんな調子で、このみは鼻歌を歌っていた。常沢このみ。カザギワの情報管理部の人間である、常沢いくみの娘だ。買ってもらったばかりの、双眼鏡越しに夜の街を眺めている。時刻は午後十一時を回っているが、一向に眠気に襲われる気配はない。水色のストローが差し込まれた、パック入りのコーヒー牛乳をすする。
「この子がすっかり、夜型になっていることに関しては、もう何も言わないわ。けど、この場にいて、もしかすると、双眼鏡で修羅場を覗き見ることになるかもしれないことに関しては、かなり問題だと思うんだけれど。それは、あたしだけ?」
 鈴乃は言った。日付が変わる時刻を目の前にしても、眠らない問題児の母親である、常沢いくみは、肩をすくめた。
「もちろん、あなただけじゃないと思うわ」
「なら、どうして連れてきたのよ」
 鈴乃たちは、道端に停めた、銀色のトヨタのSUVの中にいた。<カザギワ>と<ツガ>が共同で計画した、<デイライト>掃討作戦に、後方支援として参加するためだ。開始時刻は、十一時の予定だった。少し、遅れている。グローヴ・ボックスの上に設置された無線装置からは、依然として、作戦内容の確認と状況報告をする声が流れている。
「ねえ、ベイビ。どうして家で、おとなしく寝てなかったの?」
 いくみがこのみに尋ねると、幼女は「寂しいから!」と答えた。その瞳には、一片の曇りもない。後部座席にどすんと腰を下ろすと、唇を尖らせる。
「このみのこと、邪魔なの?」
「ママが? まさか!」
 いくみが声を上げると、このみの潤んだ瞳の標的は、鈴乃に移る。
「じゃあ、お姉ちゃんは?」このみは言った。「このみのこと、邪魔?」
 鈴乃はため息混じりにバックミラーでこのみを見て、言った。
「このみちゃん。あなたの体は、まだ発展途上なの。将来も、健康な体を持っているためには、今の時期はとても大切なの。朝は早く起きて、夜は早く寝る。規則正しい生活をして、一日三食、栄養のバランスが取れたものを食べて、常沢このみという花に、きちんと水と肥料をあげて、大切に育ててあげなきゃ」
「分かんない」
 そう言われることは、「まだ発展途上なの」辺りから分かっていた。このみはその時点で既に、頬を膨らませ、つまらなさそうに両足をぷらぷらさせていたからだ。鈴乃は、いくみを見た。彼女は、声を潜めて言った。「子どもには、直球じゃなきゃ」。鈴乃は頷いた。
「このみちゃん。あたしたちは、仕事中なの。とても、邪魔よ」
 ふえーん。車内が、泣き声で溢れるまで、一分もかからなかった。爪を立てて額を掻く鈴乃に、意地の悪い笑みを浮かべたいくみが言う。
「泣かせた責任は、きちんと取ってね」
「分かってて、仕向けたわね」
「所詮、仕事は後方支援だもの。暇潰しが必要よ」いくみは言った。「ぴったりじゃない? 子どもの扱いにてんやわんやの、女殺し屋。サクッとつまめるエンターテイメントよね」
 鈴乃は助手席から後部座席に回り、このみを膝の上に乗せた。ごめんね、邪魔なんかじゃないよ。頭を撫でながらそう言うと、このみはすぐに泣き止んだ。まるで、先ほどまで彼女の頬を濡らしていた涙が、通り雨だったかのように。呆れた。鈴乃がそう呟くと、いくみは笑った。
「子どもなんて、そういうものよ」
 無線装置から流れてくる声が、少し増えていた。何かあったのか、情報の交換を急いでいる。
 鈴乃たちの乗る車を含め、十数台に及ぶ多種多様の車が、ひとつのビルを取り囲んでいた。<ミタライ・ビル>。<デイライト>のトップである新巻和義(あらまき かずよし)という男が経営する、あん摩マッサージの店が入っている、テナントビルだ。その影響なのか、ビルには少し前から、<デイライト>のメンバーが各階にテナントとして入っていた。永倉帝明から手に入れた情報だ。<ミタライ・ビル>に、<デイライト>の者たちが集まっている所を、潰す。それが今日だった。たいした時間もかからず、終わるはずだった。ビルを囲んだ車の中にいる人員だけで、既に<デイライト>を構成する人間の数を、はるかに超えているのだ。しかしそれは、SUVを襲った軽い揺れとともに、崩れ去った。
「ママ! あのおっきな建物がね、ボンッってなったよ!」
 鈴乃は、このみの頭を撫でながら、フロントガラスの向こうを見ていた。
「こういうときはね、“厄介なことになったわね”って言うと、格好いい!って褒められるわよ」
 このみは嬉しそうに、目を大きく丸く、見開いた。
「やっかいっ!」
 鈴乃は、このみから双眼鏡を借りて、改めて、目の前に広がる光景を見た。
<ミタライ・ビル>の一階が、爆煙にまみれていた。まだ、<カザギワ>と<ツガ>が突入していないのにも関わらず。

つづく




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posted by 城 一 at 15:26| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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