Gusuku LABELへようこそ!
最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年04月10日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第164回


何なの、あなたたち。


 砂利の敷かれた駐車スペースに、トヨタの青いistが停まっていた。その隣には、鈍い銀色のフェアレディZ。

 シドはその二台を横目で見ながら、言った。

「俺は正面から行く。お前は、裏に回れ」

 シドは明かりのともる正面玄関を睨みつけた。ショットガンの筒型弾倉をスライドさせて、銃身に散弾を送り込む。

 相手がシドニーだけならば、そんなことをする必要はなかった。結局口には出さなかったが、目の前のログハウスの中にいるのがシドニーだけではない可能性が、シドの頭にもあるのだ。アイザック・ライクンがいる可能性が。

 その方が、説明がつくのだ。シドニーの娘である安達愛の髪の色が、金色であることの理由に。ジェイソン・リーヴや安達良一郎の髪は黒色だ。シドニーの髪が赤毛であることを考慮すると、ふたりのどちらかが愛の父親であると考えるのは難しかった。

 もちろん、安達愛の父親がアイザック・ライクンなどではなく、まったくの第三者という可能性もある。シドニーが今夜やって来た、この家にいるのは、アイザック・ライクンでもなく、ましてや安達愛の父親でもない可能性もある。

 だが、アイザック・ライクンがいるかもしれない可能性が、たとえひと握りでもある場所に、丸腰で乗り込んで、抵抗する間もなく殺されるよりも、武装して乗り込んで、不審者扱いされる方がマシだった。

「分かったわ」

 シドにそう言って頷き、家の裏側に回った。

 裏口のドアには、錠が掛かっていた。ドアに耳をつけて、中の様子を探ったあと、減音器(サプレッサー)を装着したマカロフで、ドアノブを破壊した。

 表の方で、呼び鈴の鳴る音が聞こえた。シドだ。床に足音が響き、正面玄関へ向かうのが分かった。足音の数は、ひとつ。

 裏口を入ってすぐの所には明かりがついておらず、足下が見えなかった。自分の足音を殺しつつ、足下を確かめるようにして、そっと歩を進める。

 視界の中で、わずかに光が反射していた。シンクだ。裏口はどうやら、台所に通じていたようだった。

 女の声が、何ごとか囁きあっているのが聞こえた。声は二種類。

 また、呼び鈴が鳴った。シドはまだ、ドアを開けてもらえていないのだ。

 光が近づいてきた。そして、人の気配。察知が遅れた。正面玄関付近にある、シドニーの方に気を取られていた。気付いたときには、その気配はすぐ横にあった。そして、わずかな殺気。

 撃鉄の上がる音がした。

「この家は、土足禁止よ。悪い子ね、ベイビ。両手を挙げて、プロフィールを教えてちょうだい」

 銃口に促されて、光の下に移動した。居間。銃を構えているのは、リタ・オルパートだった。正面玄関の方から戻ってきたシドニーが、目を丸くしていた。

「あなた」

「いい夜ね」シドニーをリラックスさせるように、優しく言った。「せっかく女しかいないことだし、ガールズトークに花を咲かせない?」

 銃声がして、シドニーの後ろからシドが現われた。正面玄関を破壊したのだ。銃を構えるリタ・オルパートを見て、おや、と眉を上下させる。構えていたショットガンの銃口を、リタに向ける。すり足で居間まで来たものの、シドニーを追い越すことはしなかった。そんなことをすれば、彼女に背を向けることになる。シドニーは今のところ、状況判断に追われて、間抜けに口を開閉することしかできていないが、銃を隠し持っていないとは言いきれない。

「さて、淑女たち。誰か、状況説明をしてくれるかな?」

 シドの言葉に、リタが言った。

「この女の命が惜しければ、銃を捨てなさい」

「簡潔かつ、明快な状況説明だな」シドは言った。「だが、ダメだな。こういう場合、銃を捨てると、状況は悪化するんだ。テレビで見た」

 注意がそれていたリタの手を蹴り、その手から銃を吹っ飛ばした。サプレッサー付きのマカロフを、彼女に突きつける。蹴られて赤くなった手を押さえ、悔しそうに銃を見るリタに言った。

「それに、このように、状況はすぐに改善するから」

「アイザック・ライクンはどこにいる?」シドは言った。

「自分で、探してみたらどうかしら」リタは肩をすくめた。

 そのようにした。リタ・オルパートの体を背もたれ付きの椅子に縄で拘束し、シドとともに、銃口と視線で家の中を探索した。慎重に。もしアイザックがいれば、一瞬の油断が命取りになる。が、十数分ほど探索した結果、シドニーとリタの他には、家の中には誰もいないという結論にたどり着いた。

 シドニーは唇の前で手のひらを組み合わせて、微かに震えていた。

「何なの、あなたたち」

「前にあなたの愛の巣を訪ねたときに、言わなかったかしら? <カザギワ>の怖い怖い殺し屋と、ツガ組のヤクザよ」

「怖い怖いヤクザ」シドは言った。

 リタの見張りはシドに任せて、シドニーに言った。

「で? どうして、あなたがここにいるのかしら?」

 シドニーは明るい色をした木製のテーブルに寄りかかりながら、目を閉じ、額に手のひらをあてた。顔色が悪い。

「ごめんなさい。とても、気分が悪いの。ちょっと、トイレに行かせてもらえないかしら」

 シドを見た。彼はおどけるようにして、肩をすくめた。

「いいわ」
 そう言って、シドニーにトイレへ行かせた。マカロフを構えたまま、彼女に後ろから付き添う。逃げる可能性は、十二分にあった。シドニーがトイレに入るのを見送り、そのドアの前で待った。

 トイレがあったのは、狭い廊下だ。向かい側の壁に、背を預ける。

 シドニーの吐瀉物が、トイレの溜水をぽちゃぽちゃと叩く音が聞こえた。顔色が悪かったのは、演技ではなかったようだった。そして、水を流す音。

 トイレのドアの向こうに、音で彼女の存在を感じることができたのは、そこまでだった。水が流れ終わったあとも、シドニーが出てくる気配はなかった。トイレと廊下を、静寂が支配する。悪いイメージが頭に浮かび、ドアを叩いた。

「ヘイ、まだなの? 逃げようとしても」

 銃が返事をした。ドアを貫いた銃弾が太腿をかすめた。体を捻ってトイレの前から逃れる。銃弾が連なった。二、三。ドアが開く。その上端に手をかけて飛んだ。判断は間違っていなかった。さらに銃声が連なった。ドアに開いた穴は、飛んでいなければ確実に、致命傷を負っていたことを証明していた。廊下は、ドアを開けると、人の通れるスペースがなかった。トイレの向かい側の壁と、数センチ隙間が残るだけだ。元いた場所に着地した。ドアと壁の隙間から向こう側に手を伸ばし、シドニーの服を掴んだ。思いきりその手を引く。ドアに彼女の体がぶつかるのと同時に、ドアを蹴りで貫いた。シドニーが床に転がる音を聞き、ドアを閉める。視界に映ったシドニーの手の中で、銃口がこちらを狙っていた。バック転をし、体をねじり、後方に逃れる。銃声。肩口の肉が削げた。が、それで最後だった。シドニーが持っていた小型のリボルバーは銃弾を撃ち尽くし、カチンと音を立てた。好機。そう思い床を蹴ろうとした先で、裏口が開いた。神経が張り詰める。シドニーを視界から外し、数ミリずつ広がっていく裏口の間隙に、マカロフの銃口を向ける。この状況で現われるのは、アイザック・ライクンの他に思いつかなかった。

 裏口が開ききった。

 外の人影を見たシドニーが悲鳴を上げた。既に銃弾がないことが分かっているはずなのにも関わらず、リボルバーを人影に向ける。が、小さなリボルバーは人影によって、いとも簡単に床に払い落とされた。武器を失い、最後の手段として逃げることを選んだシドニーを、「おっと」と呟きながら、人影が捕まえた。

 裏口から現われた人影は、黒人の少年だった。マカロフの銃口に気付き、空いている片手だけを挙げる。

「困ったな。誰なんだ、あんた」少年は言った。「無闇に吹っ飛ばしたら、きっとリヴァに怒られるよな。えーと、あんたはこの女と敵対する立場なのか、そうじゃないのか。教えてくれないか?」

「大丈夫だ、ダンク。その女は、俺たちの味方だ。なんせ、<カザギワ>の殺し屋さんなんだからな。そうだよな、えー、コードネームは確か、飛猫だったかな?」

 振り返ると、金髪の小柄な少年がいた。<DEXビル>の一件の報告を仲間から聞いたときに、その少年の名前は知っていた。口に出して、その名前を呼んだ。

「C・C・リヴァ」

つづく




続きを読む
前回の話を読む
ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第1回から読む
ブログ小説 焔-HOMURA- scene1から読む
posted by 城 一 at 05:50| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。