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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年04月10日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第166回(2版)


友情だって、何だって。


 夜が明けた。

 アイザックが現われる気配はなかった。長期戦になるかもしれない。鈴乃は思った。煙草を吹かすことにも飽き、天井を仰ぎ見る。天窓があった。そこから見える空は、青い。雲一つなかった。

 磐井が組に編成させたチームは、既に到着していた。六人。少ないが、そんなものだろう。ツガ組の敵は、アイザックやリタだけではない。ミカドという文化や組織単位で、複数存在するのだ。六人は交代で、アイザックが現われるまで、二十四時間体制で待機すると言う。それだけで、上出来だった。

 もう一人の仲間は、六人が到着するのと入れ替わりで、組へ戻った。が、磐井は頑として戻るのを拒み、到着した応援とともに、アトリエの周辺で待機していた。困ったものだ。自分の存在で、周りが見えなくなっている。鈴乃は思った。長期戦になれば、持つわけがないと言うのに。

 家の中の見張りは、二つのチームに分けた。鈴乃とシド、ツガ組の新人三人組。六時間毎に交替する。アトリエからは出られなかったが、自分が見張り番でない時間は、好きに使っていい。

 最初の六時間の担当は、鈴乃たちになった。が、早くもシドは、睡魔に負けて、うとうととし始めていた。まあ、いい。鈴乃は思った。代わりに、バーバーが起きていた。リヴァとダンクは、二人で肩を寄せ合い、部屋の隅で毛布の中、眠っていた。

「眠らないの?」鈴乃は言った。

「睡眠時間は割と、少なくていい体質なんです」バーバーは言った。横目でちらりと、シドを見る。「それに。僕が寝ちゃうと、あなた一人になってしまう」

「叩き起こせばいいのよ、この馬鹿」

 バーバーは、目を細めて微笑んだ。

「二人は、長いんですか?」

「どうして?」

「それなりに、時間を積み重ねてる感じがします。付き合い始めてから、長い時間が経っているか、そうですね。短い時間でも、濃度が高ければ、親密にはなるか」

“付き合う”という言葉に、少し焦った。恋人になることを意味する使い方をしたように聞こえたのだ。思わず、不自然に強く否定してしまうところだった。

「親密? それどころか、険悪な状態なのよ、あたしたち」

「友情だって、何だって。人が育むものには、波があるものですよ。それとも」バーバーは、こちらを探るように、視線の角度を変えた。「友情という言葉は、不適切でしたか?」

 この数時間で、この少年は、自分のことを、どこまで深く観察したのだろう。鈴乃は思った。それとも、短時間で見抜けるほど、シドへの気持ちが、浅い所まで浮き上がってきてしまっているのか。何にせよ、動揺を隠すために、一拍置かなければならなかった。

「詮索好きは、敬遠されるわよ」

「ベタベタした人付き合いは、苦手なんです。それくらいで、ちょうどいいんですよ」

「口が減らないわね」

「それは、どうも」

 バーバーは椅子を立ち、窓際へ行った。カーテンの類は、全て閉めてあった。外部に、家の中にいる人の数や配置を、晒す必要はない。バーバーは、指先で少しだけ、カーテンとカーテンの間に隙間を作り、外界を見た。一定時間が経過すると、そうやって、家の中から外を、見て回っていた。神経質ではあるが、頼りになる少年だ。リタとシドニーの身柄を拘束した直後など、持参したワイヤーと手榴弾で、即席のトラップを、各出入り口や窓の周辺に仕掛けていた。お陰で、こちらも簡単には、出入りできないようになってしまったが。

「そう言えば、一つ、カザギワであるあなたに、聞いておきたいことがあるんです」

 バーバーが言った。

「何?」

「シドニーは、カザギワの情報管理部の人間三人と、関係を持っていたみたいなんです。知ってましたか?」

「悪いけど、殺し屋が得意なのは、主に銃の扱いでね。初耳だわ」

「そうですか」

「関係を持ってたって言うのは」

「もちろん、男女の関係だったってことです」バーバーは肩をすくめた。「セックスをしてたんですよ」

 シドニーが、アイザックと関係を持っていたことは、既に本人から確認済みだった。昔のことだが。今はもう、シドニーが一方的に想いを寄せ、彼に尽くしている状態らしかった。シドニーが、自らの口で、自虐的に語った。

 関係があったのは、ジェイソン・リーヴと結婚していた頃のことだという。それを聞いて、アイザックとジェイソンが衝突したことに対する見方が変わった。ジェイソンが、シドニーとアイザックの関係を、知っていた可能性がある。アイザックとジェイソンが、カザギワに入る前からの付き合いだったということは、常沢いくみから、聞いていた。妻を奪われたことに対する怒り、憎しみ。それがあると、かつての友と繰り広げた殺し合いに、俄然、信憑性が出てくる。

 シドニーは、椅子に縛り付けられたまま、眠っていた。

 安達愛は、思った通り、アイザックとの間にできた娘だった。アイザックが、リタを追いかけ、カザギワを出ていくことを知り、シドニーが望んで授けてもらったらしい。そこまでアイザックを愛している女が、他の男と寝るだろうか。安達良一郎との結婚は、生活のため。シドニーは、そう言いきった。カザギワの三人との関係にも、何か目的があると見て、間違いなさそうだった。

「どうしてなのかしら」

「本人に聞いてみるのが、早いでしょうね。起こしましょうか?」

 バーバーへの返事は、目覚まし時計の音にかき消された。鼓膜を容赦なく叩く目覚ましの音と、暢気に欠伸をしながら起きた者たちの様子に、気を削がれた。

 鈴乃は首を振った。

「そう遠くないうちに、機会があるわ」

つづく




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posted by 城 一 at 09:21| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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