Gusuku LABELへようこそ!
最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年05月21日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第180回


これでもう、終わりなんだ。


「なるほど、なるほど」獲物を捕えた猛禽類のような微笑を浮かべながら、リタ・オルパート言った。「あなたは、そういう答えを出すのね」

「どういうことですか?」

 慶慎は言いながら、その体をくるりと回転させた。その顔に叩き込みたかった右ストレートが、虚しく空を切る。リヴァは、勢い余って倒れそうになるのを、踏みとどまった。拳で伝えられない感情を、視線に込める。

「涼しげな顔してるんじゃねえぞ、この野郎。てめえ、自分が何を言ってるのか、分かってんのか」

「分かってるよ、リヴァ」

「いいや、分かってねえ。分かってたら、そんな言葉は出ねえもんだ」

「出るものは、出る」

 ふざけるな! 怒声とともに振った拳は、慶慎の顔をまともに捉えた。だが、手応えは軽々しかった。拳撃にろくな力を込められないほど、体がダメージを負っているのだ。拳越しに、慶慎が虚ろな視線を送ってくる。

「K」

「もういいんだ、リヴァ。僕のために、こんな所まで来てくれて、ありがとう。でも、もうやめて。僕なんかのために、そんなこと、しないでほしい」

「自惚れるなよ、K。俺は、俺のためにやってんだ」

「もう、僕に関わった人たちが傷つくのは、嫌なんだ」

「だから、その代わりに自分の命を捧げますってか。その女が、神さまか何かだとでも思ってんのか?」リタ・オルパートが拉致した者たちのことが、頭に浮かぶ。「岸田海恵子や、市間安希、サニー・フゥのことを、さらってんだぞ、そいつは」

 慶慎はリタ・オルパートを見た。

「そうなんですか?」

 リタは、リヴァを一瞥した。勝ち誇ったような笑みで。察したのだ。今の慶慎に、リヴァの言葉が届かないことを。リタはわざとらしく、大きく肩をすくめた。

「彼が何を言ってるのか、よく分からないわ」

 くそったれが。吐き捨てるように呟いた。慶慎は、閉じていた。その全てが。心が、目が、耳が。今の慶慎には、何も届かない。伝えることができない。窓際で、アンバー・ワールドに撃ち倒されたツガ組の構成員の手から、ライフルを取った。誰も、その行動を遮ろうとしなかった。皆、分かっているのだ。その行為が、この状況にさして変化をもたらさないことを。くそっ。無反応の彼らと、言うことを聞かない体に、悪態をつく。

「坊や。あなたの条件、飲んでもいいけれど」リタが言った。リヴァを見る。「彼みたいなことをする人がいると、手を出さずにいることには、少々無理があるわ」

 やっとの思いで構えた銃口が、慶慎の手で天井へと逸らされる。

「彼女の言う通りだ、リヴァ。おとなしくしていて。そうすれば、助かるんだ」

「ふざけんな」

「言葉で解決すれば、苦労しないわよ、坊や。とりあえず、その子のことだけ、縛り上げておいてくれる? 縄は、あるわ」

 リタ・オルパートと、シドニーのことを、拘束した縄。慶慎はそれを手にして、リタを見た。

「ひとつ、言っておきます」そう言って、慶慎は、アイザックを一瞥する。「万全の状態の彼ならば、分からないけれど、今の彼は違う。満身創痍だ。一対一で戦っても、負けませんよ」

「約束は、守るわ」

 慶慎は頷いた。

「冗談じゃねえぞ」

「リヴァ、君のためなんだ」

「俺のためだ? 違うだろう。ふざけた理屈で、ごまかそうとしてるんじゃねえぞ」

 縄とともに、伸びてくる慶慎の手。抵抗し、逃れようとしたが、それができたのはわずかの間だけだった。慶慎に向けて繰り出した拳を腕ごと取られ、床に組み敷かれた。腰の後ろで両手を縛られる。ごめん。慶慎が言った。そんな言葉は、聞きたくなかった。

「後悔するぞ、慶慎」

「リヴァ。僕が一番後悔してるのは」慶慎は言った。「この世にこうして、生まれてきたことだ」

 慶慎はリヴァの手を縛り終えると、リタの元へ歩み寄った。

「いい子ね」リタが微笑む。

「彼らが無事で済むという保証が欲しい」慶慎は言った。「僕を殺すのは、もちろん構いません。でも、ここから離れてもらう。僕とともに」

「いいわ」

「ありがとう」

「おいで、慶慎」

 そう言って、両手を広げたリタの胸元に、慶慎は静かに頭を埋めた。

「本当に、僕を殺してくれますね?」

「間違いなく」

 アイザックが、散らかったログハウスの中から、表にあるフェアレディの鍵を見つけ出し、外に出ていった。エンジン音。砂利を踏む音とともに帰ってきて、玄関から顔を出す。

「行こうか」

 リタは頷き、玄関まで慶慎の手を引いていった。そして、そこでくるりと踵を返し、ログハウスの中を見渡す。微笑を浮かべ、深く頭を下げる。

「では、みなさま。ごきげんよう」

 リヴァは床を睨みつけた。

「慶慎」リヴァは言った。「いいか。必ずお前のことをもう一発、ぶん殴りにいくからな」

「無理だよ、リヴァ」慶慎は言った。「これでもう、終わりなんだ。全部」

 言い返そうとして、リヴァは顔を上げた。だがもう、玄関には誰もいなかった。

つづく




続きを読む
前回の話を読む
ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第1回から読む
ブログ小説 焔-HOMURA- scene1から読む
posted by 城 一 at 06:59| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。