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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2008年05月23日

ブログ小説 焔-HOMURA-[integral] 第181回(3版)


ダイヤモンド。



赤色の 生命の源 その身に浴びて

闇より出づる 彼の名は焔


「本来ならば、ここに〈ツガ〉の人間を出入りさせることは、禁じられているんだがね」

 葛籠(つづら)が言った。カザギワの殺し屋が使用する銃器の整備、改造を一手に引き受けている人間だ。枯れ果てそうな体を、車椅子で引きずっている一方で、二つの瞳だけは、ぎらぎらとした生命力を湛えている。

「慶慎のCZ75を回収して、わざわざ届けてやったのを忘れたのか? 少しくらい、融通を利かせてくれたって、いいんじゃないか、じいさん?」

 リヴァは言った。

「だからこうして、入れてやってるんじゃないか、坊主」

 武器工場。葛籠の他に、人気はなかった。万が一、リヴァを工場に入れていることが誰かに知れた場合、その責任を負わなければならない人間を、自分だけにする。葛籠の、気遣いだった。それに、関わる人間が少なければ少ないほど、情報が漏れる可能性も低くなる。

「で、用件は?」

 リヴァと葛籠は、テーブルを挟んで向かい合っていた。そのテーブルの上に、葛籠が小さなアタッシェケースを置いた。それを開く。中には、修理された“スカーレット”と“マゼンタ”。一対のCZ75が収められていた。

「この“落としもの”を、持ち主に返してほしいのだ」

「俺が?」

「車椅子の年寄りに頼るかね?」

 リヴァは首を振った。開いたアタッシェケースのふたの部分にも、収まっているものがあった。大振りのナイフと、用途の分からない部品。リヴァはナイフを取り、手のひらの上で転がした。ナイフに使われた形跡はなく、エッジが光を反射して輝く。

「CZ75は、昔の〈カザギワ〉の殺し屋が残した、“お古”だったはずだ。違うか?」

「そうだ」

「だが、こいつは真新しい」

「あの坊主をいくら見てもな。俺にゃ分からなかった。どういう銃を用意してやりゃいいのか。それに、あの年頃は成長期だ。目を離した隙に、目まぐるしく変わる。体も、心も。あいつに、何を用意してやりゃいいのか、ずっと考えていた。それで思いついたのが、そいつさ」

「ナイフは、あんたの埒外だろ?」

「だから、作らせたのさ。光りものを専門にしてるやつにな」

「なるほど」

「銃剣(ピストル・バイヨネット)ってんだ。銃口の下部に装着できるようになってる」葛籠は言った。

 刃に刻まれてる文字があった。リヴァはそれを、指先で撫でた。

「こいつは?」

「そいつの名前さ」

「それが、ピストル・バイヨネットなんだろ?」

「違う。そいつは、総合的な名前だ。CZ75のことを銃って呼ぶようなもんだ」

「そうかい」リヴァは、ナイフに刻まれた言葉を反芻した。「だが、こいつの持ち主は、もういない。敵さんの手に、自ら落ちたんだ」

「戻ってこないのか?」

「さあな」

「お前さんは、どう思ってるんだ?」

「知らねえよ」

「あいつが戻ってこないと思うんなら」葛籠は言った。「置いていっていい」

 リヴァはアタッシェケースを閉じ、テーブルから取った。

「戻ってくるかもしれないし、こないかもしれない」アタッシェケースは想像した以上に、重たかった。「たとえ、あいつにもう一度会えたとしても、あいつは受け取らないかもしれない」

「だが、持っていくんだな」

「あんたが手を付けた代物だ。うまく捌けば、高く売れるかもしれないだろ?」

 葛籠は、口端を上げて、にやりと笑った。

「そういうことにしといてやるよ」葛籠はそう言うと、テーブルの下に目をやった。「もう一つ、渡すもんがある。そいつを取ってくれねえか」

 リヴァは、葛籠が視線で示したものを、テーブルの上に載せた。CZ75が入っていたものよりも大きく、横に長いアタッシェケース。色は黒。硬質プラスチック製。

「こいつは?」

「開けてみろ」

 そうした。中には、見慣れない形状をした銃が入っていた。拳銃よりは大きく、ライフルやサブマシンガンにしては、少し小さい。バナナのように下方に伸びる弾倉がないからだ。リヴァは手に取り、感触を確かめた。葛籠が言った。

「PP-19 Bizon(ビゾン)。ロシア製のサブマシンガンだ。CZ75を持ってくって言うんなら、貸してやるよ」

「くれねえんだ。けちくせえな」リヴァは、ナイフと同じように、銃身に刻まれている文字を見つけた。「“ダンデライオン”だ?」

「そいつの名前だ。貸してやるんだからな」葛籠が、下からねめつけるような視線を送ってきた。「必ず返せよ、坊主」

「他組織の人間をここに入れた上に、武器を預ける。ばれりゃあ、大問題だな」

「足下をすくわれかねないな」

 リヴァは、膝から下を失った、葛籠の下半身を見て、鼻を鳴らした。

「だが、その心配はなさそうだな」

「まあ、そうだな」

「だが、もうろくしてるんじゃないのか、じいさん? 俺が、たんぽぽって柄か?」

 葛籠は体を少しずらして深く座り、車椅子の背もたれを軋ませた。肘掛けの上で頬杖を突き、目を細める。

「違うのか?」葛籠は言った。「お前さんの髪型はちょうど、たんぽぽの花弁みたいに、ぎざぎざ尖ってるぜ」

「まあ、そうだな」リヴァは言った。

「それに、この街は栄養価の高い土に恵まれた、優良な環境だとは、世辞にも言えん。アスファルトに覆われた地面のような、劣悪な環境じゃなかったか?」

「まあ、そうだな」

「そこで、根性はおよそ真っ直ぐとは言い難いが、それなりに咲いた」

「ほう」

「似合いの名前だろう」

「かもしれないな」両手にそれぞれ、アタッシェケースを提げ、葛籠に背を向けた。「それで? どうして、俺なんだ?」

「目ってやつは、宝石みたいなもんだ」葛籠は言った。「例えば、そうだな。ダイヤモンド」

「たんぽぽが、ダイヤを二つ付けてるってか?」

「ダイヤモンドは、だが、採掘してそのままじゃ、だめだ。光の反射の具合を計算して、うまくカットしてやらなきゃならん」

「ああ」

「お前の目をダイヤとするなら、あいつの目もダイヤなのさ」

「高く売れるな」

「だが、違う点がある。お前さんのは、もうカットされてる。素人くさい、ずいぶん大雑把なカットだがな。仕上げたやつは、散々苦労したんだろうよ。試行錯誤してな」

「それで?」

「あいつのダイヤは、まだカットされていない。原石ってやつだ。どうなんだろうな? 同じ、ダイヤをカットしたやつなら、こう思うんじゃないか? 今度はもっと、うまくカットしてやれる。もっと綺麗な宝石にしてやれる」

「どうだかな」葛籠に背を向けたまま、リヴァは肩をすくめた。「カットしたやつに会ったら、聞いておいてやるよ」

「そうしてくれ」リヴァが振り向くと、今度は葛籠が背を向けていた。小さく湾曲した背中には、哀愁が滲んでいた。「坊主は、そいつを受け取るかな?」

「さあな」

「お前さんは、どう思ってるんだ?」

「外すと虚しくなる推測は、しないことにしてる」

 リヴァは、葛籠の武器工場を後にした。

つづく




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posted by 城 一 at 00:47| 長編小説 焔-HOMURA-[integral] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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