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最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2006年09月02日

Bathroom

 赤い点が走る。
 浴槽に張った、湯の上。打たれた点たちは、ゆるりと下降しながら、色を失い、霧散する。
 視界の外れで、甲高い金属音が奏でられた。ハナはそこで初めて、自分の右手から、果物ナイフが滑り落ちたことに気づいた。
 白い浴室。角のない、曲線と直線に囲まれた世界。白色は、石鹸のように滑らかで、擦れば泡立ちそうだった。
 湯には、何も入れていなかった。浴槽に切り取られた、丸みを帯びた直方体は、透明だ。光の届かない部分には、うっすらと灰色が滲んでいる。
 ハナは、視線を落とした。静寂の中、波立つことを忘れた湯船は、ゼリーのように見えた。
 湯船の中、沈むハナの肢体。白い。ただ、浴室の白色とは、異質のものだ。血の流れや骨の太さ、皮膚の薄さ、筋肉の密度。それらが、結合と分離を繰り返し、時に白≠フ範疇を外れながら、グラデーションを作る。青、黄、紫、赤。総じて、白。
 無駄な肉はついていない。角張った骨のラインを、柔らかくするために、残っているだけだ。中庸。バランスの取れた、中庸だった。その中で、二つの乳房だけはたわわに実り、弾力をたたえていた。
 天から与えられたものと、緻密な計算、そして努力が作り上げた体だった。
 バスタブの容器に、湯船のゼリー、それに包まれた自分の体。
 ハナはそれが、スーパーのデザートコーナーに、陳列された光景を想像して、笑った。
 男たちは、群がるだろう。だけど、その中に、タカシはいない。
 笑い声は、浴室に響かないほど小さく、喉の奥でかすれていた。自嘲するように、唇が歪んだのが、ハナは鏡を見なくても、分かった。
 湯に、赤い点は打たれ続けている。
 いつの間にか、点は、やんわりとした靄を作っていた。靄は、限りなく静止に近い速度で踊り、目には見えない水の流れを表現してみせる。
 赤い雨を降らせているのは、ハナの左手だった。手首から十数センチ、縦に深く、切り裂かれていた。いくつもの赤い筋が、肘の辺りまでを彩っている。
 時間は、計っていなかった。だが、左手の感覚を曖昧にする痺れと、自由を奪い始めた重力が、傷が生まれたばかりではないことを、明確に示していた。
 浴槽の外に投げ出していた、右手。ハナはそれを物憂げに動かして、携帯電話を取った。
 目的の電話番号。呼び出すのに、余計な手間はいらない。発信履歴は、その番号で埋まっていた。
 呼び出し音は、すぐに止まった。
「いい加減にしろよ」
 タカシの声。疲労が滲み、棘を含んでいた。無理もない。発信履歴は全て、同じ日付だった。しかも、一番古いものでも、三時間前だ。
 ハナの胸の奥が、震えた。嬉しかった。たとえ不機嫌な声でも、ハナの中で、豆電球に光を灯したような、淡い幸せを生んだ。タカシは、電話に出ないだろうと、思っていたのだ。
 それでも電話をかけ続けたのは、自分の存在を、忘れてほしくなかったからだ。電話に出なくても、呼べば、メロディが鳴る。マナーモードでも、本体が振動する。着信履歴のページが、自分の電話番号で、埋め尽くされる。
 だが、豆電球はすぐに消えた。時刻は、日付が変わる二十分前。それが意味することに、気付いたのだ。
「彼女とのセックスは、良かった?」
 ハナの頭の中で、まるで実際に見たかのように、タカシの一日が映像化された。浮気相手と街を歩き、買い物をし、映画を見る。予約していたレストランで夕食を取ったあと、女の部屋へ。その日のデートを、会話を通して反芻しつつ、ベッドへ移動する。言葉にするまでもない戯れが終わるのは、ちょうど今頃だと思った。
「わけ分かんないこと言うな。彼女は、お前だろ」
「そうだね」
 タカシは、微塵も動揺しない。ハナは、それが悲しかった。
 人間のできた、理想の彼氏。疑い深い性格の、彼女の話にも、根気よく付き合う。
 設定に沿ったセリフが、吐き出されるほどに、ハナは、タカシとの距離を痛感する。
 いっそ怒りに任せて、思いきり罵ってくれればいいのに。ハナは思った。そうすれば、恋人ではなくても、せめて、一人の人間として扱われていると、感じることができる。
「どうすれば、信じてくれるんだよ」
「帰ってきて。今、すぐに」
 溜め息。さすがにもう、タカシはこらえなかった。微細なノイズが入る、携帯電話越しの会話で、なぜかそれだけが、耳元で吐かれたかのように、ハナには鮮明に聞こえた。うんざりしたタカシの表情が、見えるようだった。
「無茶言うなよ。ここからじゃ、どんなに飛ばしても、三時間はかかる。疲れてるし、そっちに着く前に、事故っちまうよ」
「そうだよね。ごめんね」
 鈍痛が、左手で、はっきりとした形を取り始めていた。鼓動にも似たリズムを刻む。急に、重力に逆らうのが億劫になった。左手を落とす。ぱしゃり。湯船をゼリーにしていた凪が、弾け飛んだ。
「魚、釣れた?」
「いや」
「一匹も?」
「そういうときもあるさ。いいんだよ、釣れなくても。海の近くで、潮風に吹かれてるだけでも、十分楽しいんだよ。ま、釣れるのに越したことはないけど。気持ちいいよ、ここ。お前も、来ればよかったのに」
「あたしも行きたいって、言ったよ」
「そうだっけ?」
「どこなの、そこ?」
「言っても分かんないって。ハナ、地図読めないし」
 湯船は、手首に開いた口から、見る間に血を吸い込み、自らを赤く染めていく。痺れは、指先まで侵していた。皮膚と湯の境界線が、曖昧になっている。未知の感覚に、ハナは、腹の奥底に、一握の恍惚が生じるのを、感じた。
 親指の腹を、傷口に潜り込ませて、揉むように動かす。痛み。小さな電流は、左手の存在を、内側から照らす光のように、走る。ハナは思わず、喉で高く鳴いた。タカシの指が、自分の中を弄ぶときのことを、思い出した。
 なんだって?電話の向こうで、タカシが言った。なんでもない、とハナは答えた。会話が途切れる。自分の返事が、タカシに聞こえたのか、ハナには分からなかった。構わなかった。取り憑かれたように、傷口を弄ぶ。それでは足りなくなり、思いきり、爪を立てた。
 声が一オクターブ、上がる。
 死のうと思ったわけではない。かと言って、タカシに見せつけるために、手首を切ったのでもなかった。
 確かめようと思った。自分の存在を。
 理想の男を演じるタカシに、触発されたのかもしれない。いつしかハナも、理想の女を、演じるようになっていた。
 控えめな態度、媚びた上目使い、人なつこい笑顔。時々、尖らせた口と、下唇を噛む仕草で、アクセントを打つ。
 半音高い相槌、瞳の大きさを強調するための、驚いた表情。さりげなく、話し相手の体を触ることも、忘れない。
 タカシの腕に、自分の腕を絡ませながら、培ったものたち。それらは、不可視の皮膚となり、ハナを包んだ。
 第二の皮膚を獲得してからは、ハナに目を止める男の数が、倍加した。一時は、スポットライトの当たる、ステージ上にいるような気がしたくらいだった。
 ある種、アイドルのような感覚は、ハナの自尊心を満たした。色とりどりの宝石を、体の中に詰め込んでいるようだった。
 完璧だと、思っていた。
 隙間なく宝石に埋められた、体。オブラートにも似た、第二の皮膚。
 だが、あるとき、気付いた。
 男たちの注目の的である、完璧な女、津間村華の中、どこにも、ハナが一片も含まれていないことに。
 まるで、道化だ。ハナは思った。いや、道化ならば、まだいい。生きているのだから。
 ハナは、もっと自分に、ぴったりと来る言葉を思い浮かべて、恐ろしくなった。
 マネキン。無機質なその存在に、命はない。
 だから、手首を切った。熱を孕んだ命の赤が、自分の中を流れていることを、確かめるために。
 湯船の赤は、本物の血液に、近づいていた。黒ずみ、透度を失っている。浸かっている、ハナの胸から下が、見えなくなり始めていた。
 その光景を前に、ハナは安堵した。
 自分はやはり、生きている。
 ハナは、電話の向こうから、タカシが呼んでいることに、気づいた。なに?慌てて、返事をする。
「明日……正確に言えば、今日?とにかく昼過ぎには、帰るから」
「うん」
 抗し難い倦怠感が、小川のせせらぎのように流れ、全身をゆっくりと巡っていた。体を支えているのも面倒になり、浴室の壁へもたれた。
 拒絶するような冷たさが、肌を刺した。驚いて逃げようとする体を、押さえつける。一瞬。それだけ我慢すれば、壁は黙って、体を支えてくれる。肌は、その冷たさに、慣れる。
「タカシ?」
「うん?」
 ハナは、目を閉じた。
「愛してる」
 ふと、電話口から流れてくるノイズが、音量を上げた。にも関わらず、なぜかハナの耳には、タカシの声が明瞭に聞こえた。
「うん」
 雑音の向こう側で、車の通り過ぎる音がした。互いに、短い別れの言葉を口にして、電話を切った。
 前髪から頬に、滴が落ちる。冷たい。それは滑るように頬を伝い、顎に達すると、見限るようにして、ハナを離れる。
 水面にふわりと、小さな波紋が広がった。
 浴槽の中は、グレープジュースのようだった。すぼめた左手ですくい、口に運ぶ。味は、色を裏切り、ほとんど無味だった。白湯のようなものだ。ただ、鼻先をかすめるようにして、血の臭いが香る。
 空気に触れた、手首の傷は、思い出したかのように、また鮮血を溢れさせる。
 血は何度も、湯を打った。しかし、もう赤い点にはならない。ルーティンワークのごとく、控えめに波紋を作るだけだ。
 うやうやしく右手を眼前に構え、開く。携帯電話が落ちる。当たり前のように、重力に抵抗せず、電話は落下を受け入れる。たとえその先に、致命的なものがあろうとも。
 飛沫もなかった。鈍い水音と共に、赤色の中に姿を消す。
 底に近い所で、太腿にぶつかった。
「痛い」
 ハナは呟いた。
 なぜ、今になって、涙が溢れるのか、ハナには分からなかった。


(了)
posted by 城 一 at 09:00| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Bathroom あとがき

 ミニマム。それが、今回掲げたテーマだった。
 距離感を、見失っていた。小説を書く上で、欠かすことのできない、場面≠ニの距離感だ。細かく描写すれば、読者に伝わりやすい。その代わり、物語の展開は鈍重なものになる。距離感とは、つまるところ、その辺のさじ加減。
 仕方ないので、自分に可能な限り、描きたい場面に接近≠オた。物語が展開される舞台を、浴室に固定。描写を、限界まで細かくした(限界なんて言うと、ちょっと格好つけ過ぎのような気もするけど)。だから、ミニマム。
 お陰で、場面の描写には苦労した。だってほら、浴室って、小道具少ないから。浴槽内の描写がしつこくなってしまったのは、そのせいもある。あと、書いていて気づいたのだけど、自分の中で、癖になっている部分もあるのかもしれない。特に、終盤の『浴槽の中は、グレープジュース〜』の辺りは、本当は避けたかったところ。
 これからは、できるだけ、同じ場面の描写を抑制していかなければ。その辺が、今回の反省点。
 ちなみに、僕自身は、最近、湯船に浸かることがない。シャワーばかり。お風呂を用意する手間と時間が、どうも惜しくて仕方ない。
 どなたか、僕のために、お風呂、沸かしてくれないかしら。
posted by 城 一 at 09:04| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月18日

短編小説 How much? A

 行きつけのマクドナルドは、人でごった返していた。木曜日。いつもなら、列に並ぶことなんてしなくてもいいのに。そう思って、僕は気づいた。普段訪れる時間よりも、二時間ほどずれていたのだ。午後七時を過ぎたところ。なら、仕方ないのかもしれない。僕と同じように、親と食卓を囲むのが生理的に受けつけなくなった高校生。家に帰って自分だけのためにする、自虐的とも言える料理の時間を省略すべくやって来た、若い会社員。その他、事情を推測するにはもう少し想像力を働かせなければならない程度に、個性を備えた人たち。その中に、僕は並んでいた。
 少し前までは、自分の家にいた。持て余した時間を、まどろみと、テレビから流れて来る雑音で埋めていた。本当は、列に並ぶ僕と同年代の少年たちと同じように、家族というくくりの言葉がもたらす息苦しさから逃れたかったのだけれど、そのための十分な理由も口実も思いつかなかったので、久し振りに、食卓で一家団欒という言葉を構築するのに一役買ってみた。残念ながら、心が揺れ動いてしまうほどの感動的な言葉も場面もなく、その時間は過ぎて、やはり食卓を囲むのは面倒くさいなという、今までと同じ感想で終わった。またしばらくは、一家団欒の中に加わる気にはなれないだろう。
 そういうわけだから、僕の胃袋には、空腹を覚えずに済む程度には、夕食が収まっていた。にも関わらず、たくさんの人に囲まれるという、気乗りしない状況に耐えているのは、他でもない恋人であるミキのためだった。今日は会えないだろうと思っていた彼女から、僕の携帯電話に、連絡があったのだ。開口一番、空腹を訴えた彼女のために、僕はこうして並んでいるわけだった。
 停滞した人の流れの中、持て余した空白の時間が侵食してきて、僕の思考能力を、勝手に弄ぶ。携帯電話での暇潰しにも飽きてしまった僕には、抵抗する術はない。カウンターの奥に表示されたメニュー。そして、それぞれの値段。学校が終わってから、今までの時間。なんでもないはずの数字たちが、意味を持ち始める。
 いや。ミキの放課後の時間は、いつだって意味を持っている。一分の隙もないくらいに。そんな彼女の、空白の二時間と少し。当てはめられる項目は、僕には一つしか考えられなかった。
 売春。いや、そんな表現をすれば、シリアス過ぎて彼女に笑い飛ばされるかもしれない。彼女たちの表現に合わせれば、援助交際だ。でも、僕はその言葉が好きじゃない。少しでも自らの国語能力を自負する大人が、罪悪感を薄めるために使う言葉だ、とかなんとか、そう言っているし、僕もそう思うから。でも、友達やクラスメイト、同年代の少年少女たちには、そのことは言わない。表現にこだわることは、彼らの世界からはみ出すことだから。そうなれば、コミュニケーションに支障をきたしてしまう。それでも構わない。そう言い放てるほど、僕は強くないし、売春という表現に固執する気もなかった。
 それに。僕には分からない。人は、ものじゃない。包装紙と中身、その境界線がどこにあるのか、僕は知らない。援助交際をすることが、ミキの包装紙なのか、それとも彼女の中身なのか、分からないのだ。ひょっとすると、包装紙であり、中身であるのかもしれない。人間って、そういうものだ。断定という言葉を辞書に入れておきながら、自分たちの存在は、生物学的程度にしか断定することができない。
 僕は後悔している。ミキが援助交際していることを、知ったからではない。そのことを、彼女の友達から聞いたことだ。初めてそのことを知ったとき、僕はその事実を、どう扱えばいいのか分からなかった。冗談だと笑い飛ばせば、その友達も、それに合わせて笑ってくれたのかもしれないけれど、僕にはできなかった。自分が間抜けな存在に思えてならなかった。愛。照れながらも、そう表現し始めていた感情が、うざったくて仕方なくなった。けれど、僕にはまだ、愛≠自分の都合に合わせて抑制したりすることはできなかった。援助交際しているということが、ミキへの愛を奪うことにもならなかった。だから、僕は今もミキの彼氏を続けている。
 ミキが援助交際していることを教えてくれた女の子は、僕のことが好きだったらしい。「本当にケンゴ君のことが好きなら、そんなことできないよ。わたしは絶対しないよ、エンコーなんて。だから」と、彼女は言った。彼女の理屈は分からないでもなかったけれど、肝心な僕の心が動かなかった。わざわざ、理屈を使って、ミキへの愛を、その友達へ向けようとは思わなかった。僕は、ミキの友達を振った。あんた馬鹿だね。彼女はそう捨て台詞を吐いた。その言葉を、僕は否定できない。だよね。そう苦笑いして、肩をすくめる。僕にできることと言ったら、せいぜいそれくらいだ。
 空白の時間が、思考を弄ぶのをやめたとき、自分のいた場所から推測すれば、適当に人の流れに合わせて、僕は動いていたのだろう。いつの間にやら、僕はレジカウンターの前にいて、店員が注文もしていないのに、笑顔を浮かべていた。ミキに頼まれたハンバーガーを告げる。店員は、ご一緒にポテトはいかがですか、と言った。もちろん、今日初めて聞いた文句ではない。むしろ聞き飽きたくらいの言い回しだ。けれど、僕には少し、いつもと違って聞こえた。フライドポテトを頼めば、ミキは援助交際をやめてくれますか? そう言いそうなった。お笑い種だ。もちろん、やめるはずなんかない。大体からして、そんなこと、マクドナルドの店員が知るはずもない。僕はフライドポテトを断った。僕自身は、食べ物も飲み物も必要としていなかったから、五百円でお釣りが来た。
 ミキが待ち合わせの場所に指定したカラオケの店は、ラブホテル街からそう遠くない位置にあった。僕の想像力を刺激するのに、十分近かった。ミキの言った時間よりも、僕は少し早く着いた。カラオケの店は雑居ビルの中に入っている。先に部屋を取っておこうかと思ったけれど、やめた。ビルの入口の前で、周囲の景色を眺めながら、彼女のことを待つことにした。若い者から、中年の者まで、男がひっきりなしに女子中高生に声をかけている景色を。彼らが声をかける女の子が、全てミキに見えた。もちろん、その幻覚は一瞬だけで、次の瞬間には正気と正しい視力を取り戻して、ミキではないことを認識するのだけれど。
 そのうちに、本物のミキが来た。彼女が歩いて来た方向には、やはりラブホテル街があった。僕は自嘲せざるを得なかった。想像力が豊かなのか、貧困なのか、分からなかった。ミキが歩いて来た方向から、誰か僕の知らない男とセックスしている彼女の姿を想像することに関しては、想像力が豊かと言えるかもしれないけれど。でも、そのことしか考えられないのは貧困とは言えないだろうか?
「先に入ってればよかったのに」
 遅くなったことを謝った後、ミキは言った。僕は想像力を働かせるのをやめて、そうだね、と言って、彼女と一緒にビルの中に入った。
 カラオケの部屋の中に入って、僕は鞄の中に入れておいたハンバーガーを彼女に渡した。彼女は無邪気に笑うと、いくらだったの、なんて尋ねる。ミキは、援助交際で、多いときには一日に何万円も稼いでいるはずだった。なのに、彼女の金銭感覚は少しも狂っていない。親から与えられる小遣いをやりくりしている僕の財布の中身まで、心配してくれる。
 彼女に買ったハンバーガーは、二百三十円だった。僕は、値段を言わず、ただ笑って肩をすくめた。それくらい、奢るよ。ケンゴ、やさしー。ミキは喜んでいた。なら、彼女に何万円も渡す男は、どれくらい優しいのだろう。
 僕らは歌った。僕は歌うのが苦手なので、聞いている方が多い。ミキは、流行りの曲を入れてはしゃいでいた。店内に流れるBGMの音も大きかったし、僕が曲を入れない分、ミキが歌ってくれた。会話をしないで済むのは、助かった。ふとした瞬間に、ミキに尋ねてしまわないとも限らないから。どうして援助交際するの? その質問でもし、ミキが真剣な表情と言葉をぶつけて来たとしたら、僕はそれを受け止められるかどうか、分からない。
 僕らが入ったカラオケの店は古びていた。機械も同じだった。そのせいなのか、途中で機械の調子がおかしくなって、曲のボリュームが調整できなくなった。鼓膜が叩かれているのではないか。そう感じるほど、低音が部屋中に響いた。僕は、頭が痛くて仕方なくなった。ミキが店員を呼びにいった。部屋から出ればいいものを、僕は待っている間中、中で頭を抱えていた。
 店員は何度も謝りながら、機械をあれこれ操作していたけれど、直りそうにもなかった。別の部屋を使うことと、一時間分、料金をただにしてくれるという提案を、店員はした。僕らは、一時間分の料金をただにするという方だけ受けて、そのカラオケの店を出た。
 カラオケで潰すはずの時間が、僕らの手に余った。大体からして、カラオケを終えた後の予定も決まっていなかった。その分も余っていた。街をぶらつきながら、ミキが言った。
「うちの両親、今日いないよ」
 彼女の両親は、大抵、彼女の家にいなかった。あけすけで、使い古された誘いの文句だった。けれど、だからと言って、断る気にはならない。僕だって、男で、ミキと付き合って、セックスの味を知っている。女の子の体の柔らかさを知っている。
 しかし、返事をしようとした僕の舌はもつれた。ミキの誘いの言葉を受ける。いつもの簡単な返事が、今日はできなかった。わずかな沈黙は、瞬時に手に負えないほど大きくなって、僕にのしかかってきた。繋いだ手から伝わる、ミキとの温度差が、際立って感じられた。
 僕らが歩く横には、色んなブランドの店が並んでいた。ウインドウの向こうには、僕の財布の中身では到底太刀打ちできない金額の商品が、並んでいる。付き合っている彼女の金銭的な欲求を満たすことも、援助交際を止めることもできない男子高校生を、あざ笑うかのように。
 その中に、ミキが欲しがっていた財布があった。価格は四万円だった。今の僕の手持ちのお金では買えないけれど、何回かに分ければ、買えると思った。僕は、そのお店の中に入ろうとした。ミキが止めた。
「前に、あの財布欲しいって言ってたろ」
 ミキは笑った。僕の冗談だと思ったのだ。言ったけど、ケンゴには無理だよ、気持ちだけもらっとく。彼女はそう言った。そしてまた、僕の手を引いて元の方向へ歩いて行こうとした。僕はその手を振り払った。無理じゃないよ。そう言った自分の声が、引きつっているのが分かった。ミキの表情も強張っていた。僕の異変に気づいたのだ。
 ああいうのが欲しいからやるんだろ。いつも、気持ち悪いとかくさいとか言ってる、オヤジたちと。俺、知ってるんだぜ。エンコーやってるの。君の友達から聞いたんだ。君の体の相場って、どれくらいなの。何回くらいやったの。一度言い出すと、止まらなかった。
 凍りついているのは、僕の声やミキの表情だけではなかった。周りの人たちの足も、凍りついたかのように、止まっていた。そして、その場の空気も。ミキの目が、真っ直ぐ僕の目を見つめていた。彼女の瞳の中心ですぼまった瞳孔。闇に見えるほど、黒く澄んでいる。これほど、彼女の奥まで見たことは、ないような気がした。
 もう後戻りはできない。そう思った瞬間だった、ミキはぷっと吹き出して、げらげらと笑った。
「何それ。そんなの、誰から聞いたの? たち悪い冗談」
 言葉。瞳。二つは、大きく矛盾したものを含んでいた。言葉は、嘘みたいに明るかった。実際、嘘の明るさなのだろう。瞳は、足がすくむような暗さを持っていた。僕は気づいた。託された。どちらを選ぶか。僕らの関係を、どう紡いでいくか。嘘の笑顔か、本当の暗闇か。
「ごめんごめん、さ、行こっか。ミキんちに」
 僕は、自分の言った言葉に心底、呆れていた。ミキは笑った。頭をかきむしりたくなるほど、完璧な笑顔だった。繋いだ手に力がこもることも、歩調が速くも遅くもならず、会話も驚くほど途切れることなく笑いを誘った。誰もいないミキの家で、僕らはセックスをした。
 天気予報では、午後九時頃から雪が降る予定だった。その通りに、窓の外の景色に、白い点が打たれ始めた頃、僕らはようやく力尽きた。いつにも増して激しくて、暴力的な色を含んだセックスだった。僕らは二人とも、しばらく黙って、ベッドに横たわっていた。暗闇の中で、汗が冷たさをはらんでいくのを感じた。心地好かった。ミキが先に、ベッドから出た。シャワーを浴びる、と言った。一緒に浴びる? と聞かれたけれど、僕の方はまだ起き上がる気にはなれなかった。首を振った。ミキは笑顔で頷くと、浴室へ行った。
 まだ浴室まで歩いて行く気になれなかったのは、本当だ。けれど、もう一つ考えていたことがあった。僕はミキの鞄を開けて、彼女の財布を取り出した。五万と数千円が中に入っていた。ただ、一万円札五枚だけが、他の紙幣とは違った。手の切れるような新札だった。援助交際、五万円。安っぽい邪推を、僕は振り払えなかった。そこで気づいた。僕は、ミキのことを、本当は何も知らない。そして、彼女のことを信じていない。でなければ、そんな邪推など簡単に否定できるはずなのだ。
 また勝手に、頭の中の計算機が動き出した。五万引く二百三十円。簡単な計算だった。けれど、答えを出してしまえば、後戻りのできない計算だ。止めようとした。できなかった。その向こうに待つ答えを知るという、自虐的な行為に逆らうことができなかった。
 四万九千七百七十円。それが、ミキの、僕への愛情の値段。半ば強引な計算だったけれど、一度成り立つと、もう打ち消せない。その数字が、僕の頭の中を支配した。
 だから、気づけなかった。ミキはシャワーを浴びると言っていたのに、一向に、浴室から水のはねる音が聞こえてこないことに。
 暗闇の中で四角く切り取られたように見える、浴室に繋がる廊下の光を背にして、ミキが立っていた。僕は、手にした五万円をどうすることもできずに、彼女を見た。ミキの顔に、表情はなかった。
「どうしてそんなことするの」
 愚問だ。僕は思った。付き合っている彼女が、援助交際をしているかもしれなかったら、それが本当かどうか確かめたくなるのが、道理だ。口に出しては言わなかった。上唇と下唇は、強烈な磁石でできているかのように、ぴたりと引き合わさったきり、開こうとしなかった。思考回路が、僕の頭の中でだけ、雄弁だ。
「してるんだろ」
 援助交際。かろうじて開いた唇。けれど、その言葉だけは紡ぐのを拒んだ。ミキには、それでも十分だったらしい。彼女は頷いた。
「してるよ。だから?」面倒くさそうに、ミキは首の後ろを掻いた。そして、髪の毛を手のひらで撫でつける。「そんなこと知って、どうするの」
「やめてほしいから。だから、止める」
「どうやって? あたし、ケンゴのこと好きだけど、お金も欲しいの。月に二十万。ケンゴ、そんなお金、稼げないでしょ」
「働く」
「彼氏だからって、そこまでする? あたしと付き合ってる間、そんなことできるの? それに、あたしはケンゴといっぱい遊びたい。働いてたら、それ、できないじゃん」
「我慢しろよ。俺、頑張るから」
 ミキが笑った。
「やだ、頑張るって。重いよ。別に頑張んなくていいよ。あたしだって、頑張ってるわけじゃないし。オヤジが体の上に乗って喘いでるのを、少しの間我慢してるだけ。頑張ってなんか、ないんだから。それでお金稼げるんだから、いいじゃん。ケンゴも、少しだけ我慢してよ。そうすれば、なんにも問題ないんだよ」
 こういうときに限って、思考回路は働かない。僕は必死に言葉を探した。何も、見つからなかった。涙が出た。
 ミキが大股で歩み寄って来て、僕の上に覆いかぶさった。僕の涙にキスをする。
「あたし、可愛いでしょ?」
「うん」
「あたしと、別れたい?」
「ううん」
 彼女の濡れた舌が、僕の口内をかき回した。彼女の唾液は、頭の中にまで染み込むようだった。何も考えられなくなった。体だけが、反応していた。勃起していた。もう、抵抗しない。僕はまた、ミキとセックスをした。
 シャワーを浴びて、またミキを抱いた。晩と言っていいのか、朝と言っていいのか分からない時間に、ご飯を食べた。そして、また僕たちは交わった。その辺りで、本当に僕らの体力は底を突いた。
 僕がミキの家を出たのは、翌日の昼頃だった。平日。学校はあるけれど、とても行く気にはなれなかった。太陽の光が強過ぎて、世界を全て黄色く染め上げてしまっているように、僕の目には映った。どうやっても、決して全開にはなろうとしない、目。自分の家に帰って、思う存分に眠りたかったけれど、もし家族の誰かに会ったら、そんな時間に家にいる理由を説明できなかった。僕は当てもなく、街をぶらついた。
 四回。僕らがセックスをした数だ。それで、ミキの愛情の値段を割った。一万二千四百四十二円と、余り二円。だから? そう誰かに問われれば、僕は答えに窮する。愛情の値段をセックスの回数で割ったからって、僕らの関係は変わらない。ミキは、援助交際をやめない。僕にも、やめさせる術はない。
 また、どこかの中年の男が、すれ違った若い女の子を呼び止めていた。知り合いには見えなかった。男は指を二、三本立てた。女の子は首を振った。男はさらに指を二本立てた。女の子は頷いた。二人は、人ごみの中に姿を消した。
 一万二千四百四十二円と、余り二円。なんのことはない、ただの数字。確かなのは、割り切れていないことだけだ。


How much? A END
posted by 城 一 at 01:05| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月20日

短編小説 Blank

 私はどうやら、眠っていたようだった。

 体を起こすと、読みかけだった新聞が、床へ落ちた。

 とんとんとん。キッチンで、包丁を振るう夏美の後姿が見える。とんとん、ざくざく。包丁とまな板で、心地よい調べを奏でる女。小さな体を、黄色い無地のエプロンで包んでいる女。

 かわいらしい。後ろから、抱き締めたくなる。

 が、その欲求を、私は我慢する。

 彼女が、心血を注いでいると言ってもいい、料理。邪魔をすると、彼女の鋭い視線で突き刺されて、どきりとしなければならない。

 私は、眠気から逃れるように、低い唸り声を上げながら、新聞を拾った。我ながら、のっそりとした動きだった。夏美が、肩越しに、こちらを見る。

「眠っていたの?」

「どうやら、そうみたいだ」

 白いソファの上、私は座り直す。改めて、がしゃがしゃと音を立てて、新聞をめくる。

 活字に目を落とす前に、夏美と視線をぶつけ合った。気づかないうちに、口許がほころんでいた。互いに。

「君が、料理をするときに立てる音は、どうも心地よくて困るよ」

「まるで、子守唄みたい?」

「まったくだね」

 夏美が、なにを作っているのかは、尋ねなくても分かった。カレーライスだった。

 立っていって、鍋の中をのぞかなくても、飴色になった玉ねぎを、思い浮かべることができた。夏美の振るう包丁の下で、切られると言うよりも、ほどかれていく野菜たち。肉たち。形はいびつで不均等だが、私は気にしない。夏美が、野菜や肉と対話しながら、決めた大きさ、形だ。

 新聞を読み終えたあと、テレビをつけた。自由を与えられている、チャンネル権。私は好きに、ばちばちと次から次へ、チャンネルを変える。見たい番組など、ないくせに。なにか目的があって、テレビを見ているわけでも、ないくせに。

 私の左手、薬指は、ない。

 それもまた、夏美にほどくようにして、切られたもののうちの、一つだった。あるいは、切られるように、ほどかれた。

 そのことに関して、恨みはない。あるわけもない。ただ、ひたすらに、感謝するだけだ。

 五年前、妻が死んだ。がんだった。

 生前、活発だった妻の心意気を受け継いだのか、がん細胞も、止めようがないほど、活発で、強かった。

 妻の死は、どうしようもなかったことだ。

 誰もが、そう言う。

 私も実際、そう思っていた。医者も、そう言っていた。

 夏美と出会ったのは、二年前。

 恋。二度とすることはない。そう思っていたものは、あまりにもあっけなく、私に訪れた。そして、私を虜にした。

 夏美とつき合い始めてから、数ヶ月経った頃。私は、悪夢に悩まされるようになった。

 妻が、夢に出てくるのだ。背筋が凍るほど、冷たい怒りに狂った表情で。

 それは私を狂わせ、私と夏美の関係も、狂わせた。

 もう少しで、私たちの関係が破綻しそうな、そんなときのことだった。

 夏美が、私の薬指を切り落としたのは。使ったのは、いつも使っている、包丁。

 そして、夏美は、妻の死後も、夏美との交際が始まってからも、つけ続けていた結婚指輪を、私の薬指から、外した。

 それからはもう、妻の悪夢は見ない。

 たとえ夢に出てきても、妻は穏やかな表情をしている。微笑んでいる。

 テレビを見ながら、私はまた、まどろんでいたようだった。

 気づくともう、カレーライスが、テーブルの上に並んでいた。私と夏美の分、そして一枚だけ、空の皿。

 これは? 私は、夏美に尋ねた。なんのための、皿だい?

 夏美は微笑を浮かべたまま、首を振った。説明する必要は、ないはずよ。そう言った。
 私は、空っぽの皿を、見つめていた。

 そして、やがて私も頷いた。スプーンを取って、自分のカレーライスを一口、すくう。夏見の味つけはもう、私の舌に馴染んでいる。おいしかった。

「そうだな」私は言った。頷いた。「説明する必要は、ないな」

 空の皿は、輝きを放ち続けた。



(了)
posted by 城 一 at 06:09| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月18日

How much? C

 千六百八十円。あたしはそれで、暗闇を買う。それが高いか安いかは、人それぞれ。あたしは、安いと思う。見たくないものを、見なくて済むんだから。それだけのお金があれば、そう、アナスイのマニキュアが一つ買える。モザイクの入ったような、金色のやつが欲しいんだっけ。そう言えば。でも、それがどうだと言うのだろう。暗闇を買うだけのお金があれば、アナスイのマニキュアが一つ買えるというだけで、暗闇を買ったから、アナスイのマニキュアをもう、買えないというわけじゃないんだから。
 お金はいくらあっても、足りない。けど、あたしの所にはたくさんある。そして、これからもたくさん入ってくる。援助交際をやめない限り。好きでもない男とセックスするのをやめない限り。
 ということは? とりあえず、しばらくは心配ないということだ。お金に関する問題は。あたしはまだ、しばらく高校生でいられる。中学生よりは、価値は低いとか言われるけど。けど、そんなの。若いだけでしょ。ときどき、言いたくなる。盲目のもぐらみたいに、人ごみかき分けて、何が欲しいのかと思ったら、ただ若さ。声をかけたと思ったら、君、何歳? だって。馬鹿みたい。お望みなら、十三歳とでも言ってあげましょうか、くそったれ。そんな風に言いたくなったことが、少なからずある。中学校の制服を着ているかどうかで判断する。得意気に、言い放った男が、いた。あたしはそれを聞いたとき、笑いをこらえるのに苦労した。だってその男は、あたしが中学校に通っていたときの制服を着て、中学生だと言ったあたしの言葉を鵜呑みにして、十分にも満たない時間をベッドの上で過ごしただけで、射精し、満足げな表情を浮かべていたからだ。
 結局のところ、何が欲しいのか。聞いてみたくなる。パッケージだって、売り文句だって。いくらでも変えられるのに。それに固執するなんて、愚の骨頂。顔や体が気に入ったから、という方が、よっぽど頷ける。
 まあ。実際にそれを口に出すつもりはないのだけれど。お金をもらってる立場だもの。セックスの最中には、たとえ“感じて”いなくても“感じて”いる振りをして声を上げるし、聞かれない限り、彼氏がいることを教えたりはしない。聞かれても、教えることは少ないけれど。たいてい、彼氏はいない振りをするのだけれど。積極的に、せっかくお金をくれる人間の夢を、壊す気にはなれないから。そんなことをして、相手を怒らせて、お金をもらえなかったら。そう考えると、できない。夢はできるだけ、守ってあげる。
 遠回しな言い方になってしまったけれど、あたしの言っている“暗闇”というのは、つまるところ、アイマスクのこと。セックスの最中に使うのだ。女の子に好かれるような顔の男が、セックスのために法を侵したり、お金を出したりするはずがない。見るに耐えない容姿の男もたくさんいて、そういう男に限って、明かりをつけたまま、セックスをしたがる。
 醜悪な顔が、すぐ目の前で快楽を貪って歪んでいたりする光景ほど、耐えられないものはない。一度、それであそこが濡れなくなって、気持ちよくないどころか、セックスが痛くなったことがあった。アイマスクがある今は、そんなことはない。声を聞かずには済まないけど、でも、見たくないものは見ずに済む。
 黒地に、赤系統の色を集めたタータンチェックが入った、アイマスク。ラメの入ったピンク色の生地で周りが縁取られている。あたしはこれを、学校で昼寝をするときにも使ったりする。クラスメイトからは、かわいいと言われ、評判はいい。けど、みんな、知らない。このアイマスクが、男女のいかがわしい時間にも使われているなんて。あたしが、不謹慎な使い方をしてるなんて。
 そして、アイマスクの値段を聞いて、眉間に皺を寄せるのだ。たかーい、なんて言って。もちろん、半分は場の空気に合わせてのことなんだけど。あたしも少しは、みんなに合わせて笑う。そうかなあ、なんて。でも、心の中ではこう言ってる。
 はした金じゃん。なんて。結構冷たいトーンで、言い放ってる。
posted by 城 一 at 00:15| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月09日

短編集 はなうた

口ずさむように 歌うように

浮かんだ映像 音 言葉

崩さぬように 伝わるように

contents
posted by 城 一 at 00:56| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月10日

短編小説 How much? B(ver 4.0)

 教室の窓から差す夕日は、合成着色料をふんだんに使ったオレンジジュースのように、けばけばしく、赤い。電気はつけていない。だから、教室の中は薄暗い。影に侵食されて、身を縮ませているかのようにも見える。鋭いまでに現われる、夕日と影のコントラスト。なんだか僕には、官能的な色合いに見える。
 フウコはそんな中、クラスメイトの机の一つに座り、両脚をぶらぶらとさせている。口ずさむ鼻歌に合わせるようにして。僕の知らない歌だった。彼女が、即興で作って歌っているだけなのかもしれない。僕は思った。節が、でたらめだ。紺色のソックスを履いた、フウコの脚に合わせて、その影も、机と椅子、床の間で踊っていた。
 知ってる? フウコがおもむろに、口を開いた。僕は、何が、と聞き返した。倉本君ってね、新垣結衣マニアなんだって。そう言って、フウコはふふふ、と笑った。軽く飛ぶようにして、床に着地すると、その、クラスメイトの倉本の机まで行き、中から一冊の雑誌を取り出した。新垣結衣が表紙になっているものだった。ふうん、と僕は言いながら、その雑誌を受け取り、ページをめくった。芸能人の新垣結衣。顔は知っていた。かわいいとも思っていた。けど、その彼女が表紙になっている雑誌を、わざわざ買うほどでもなかった。フウコはさらに、机の中を探った。さらに数冊、新垣結衣が表紙の雑誌が出てきた。最後に出てきたのは、ファイルだった。フウコは中を開いて、僕に示した。新垣結衣の写真が掲載されている、雑誌の切り抜きが、ぎっしりと収められていた。うわ。僕は思わず、口に出して、言ってしまった。
「好きなのは、分かるけどさ」フウコは、倉本の机の上に腰を下ろした。膝にファイルを乗せて、めくる。「度が過ぎると、ね。若干、引くよね」
「俺は、かなり」
 僕は言った。確かに、テレビに出ている芸能人は皆、かわいい。けど、彼女たちを見たいがために、雑誌やDVDやその他もろもろのメディアに金を出すことに関しては、理解できなかった。
「えー。じゃあ、ケンちゃん、あたしがKAT-TUNの亀梨が好きだって言ったら、どん引き?」
「程度によるな」
「部屋にポスターが二枚。うちわに、下敷きに、ブロマイド。その他、いっぱい」
「超どん引き」
 僕は言った。フウコが、声を上げて笑った。やだー、なんて言っていた。
「じゃあ、ケンちゃんは、特別好きな芸能人って、いないんだ」
 いないね。僕は言った。
 フウコの言葉、笑顔。どれも、普通の女友だちのものと、変わらない。後ろめたさとか、悩みの影なんか、微塵もない。僕はときどき、忘れそうになる。過去に、フウコを振っていることを。
 その頃、既に、僕にはミキがいた。彼女が援助交際をしていることは知らなかったけれど。でも、隠しごとがあるからと言って、ミキの魅力に影が差したりすることはなくて。僕らはとてもうまくいっていた。今とは、比べものにならないくらい。
 フウコに告白されたのは、そんなときだった。
 もちろん、僕は取り合わなかった。むげに断ったわけじゃないけど、フウコの告白の言葉を聞き終えた次の瞬間には、もう、どうやって断れば、フウコが傷つくのを最小限にとどめられるか、ということを考えていた。結局僕は、ただシンプルな言葉で、フウコの告白を断った。今、つき合ってるやつがいるから、と。それを知った上での、フウコの告白だった。が、僕はただ、ミキという恋人がいる、ということを繰り返して、少々強引な感じで、フウコの告白を断った。
 今、もしも同じ状況になったとしたら。僕はどう答えるか、分からない。ミキが、好きなものを身につけるために、援助交際を繰り返して、お金を稼いでいることを、今は、知っている。僕が、告白を断ったとき、フウコは言葉をつけ足した。いつまでも待ってるから、と。あたしは、彼女がいても気にしない、と。改めて思い返すと、あまりにも魅力的な言葉だった。
 いや。もちろん、本当にフウコが僕のことを、今でも待っているのかは、分からない。人の気持ちはときどき、いとも簡単に移ろう。フウコに彼氏はいないが、彼女の愛情の対象が変わってしまっていても、僕は驚かない。彼女に、再び同じように告白されたら、なんて。仮定に仮定を重ねた話に過ぎない。唾棄すべき、戯言。それ以外の、何ものでもない。
 そして現実のフウコは、何もなかったかのように、僕の前で笑顔を振りまいていて、クラスメイトのことを、隠れてからかっていた。倉本はどう言うか分からないけれど、僕は、フウコのことが大好きだった。あくまでも、女友だちとして、だけど。
 けど。フウコは十二分に、女の子としての魅力を備えていた。一緒にいると、ふとした瞬間に、彼女が女の子であることを意識させられることがある。そんなとき、少し怖くなる。彼女への好意が、性別を越えたものではなくなるんじゃないかと。
 フウコは倉本の机の中身を戻すと、また別のクラスメイトの机の中身を覗きだした。本来なら、入っているとしても、教科書の類だけのはずのスペースに、個人的なものを見つけるのが、楽しくなったらしい。フウコはまた、原曲の分からない鼻歌を歌っていた。
 携帯電話が鳴ったのは、そんなときだった。
 フウコは机の前にかがんで、僕に丸めた背中を見せながら、鼻歌のボリュームを、さりげなく、小さくした。僕は心の中で、フウコに礼を言いながら、携帯電話の通話ボタンを押した。別に、声に出して、ありがとう、と言ってもいいんだけど。それだと、なんだか、おおげさな気がする。
 着信の相手は、ユウジだった。僕の、一番の親友。自然と、声のトーンが上がる。
 けれど、僕はすぐに、声の調子を下げなければならなかった。電話の向こう側にいるはずの、ユウジの声が、よく聞こえなかった。いつも、少し迷惑なくらいに大きな声で喋るのに、今日は全然違った。ぼそぼそと、独り言でも呟くかのように、何ごとか、言っている。僕は何度も、ユウジの言葉を、聞き返さなければならなかった。電波の具合が悪いせいもあった。ただでさえ小さいユウジの声が、ノイズにことごとく切り分けられる。
 僕は、電話を当てていない方の耳の穴に指を突っ込み、しばらく、辛抱強く、ユウジの声に耳を傾け続けた。そのうちに、電波が回復し、ユウジも、僕に聞こえやすいように、声のボリュームを上げてくれた。それでも、いつも通りと言うには、ほど遠かったけれど。
「お前さ」ユウジは言った。「その。嫌な思いさせるつもりはないんだけどさ。聞いておきたいんだ。お前、まだ、ミキとつき合ってるよな?」
 なぜか僕は、内心、どきりとした。理由は分からないが、そういうときが、よくある。誰かの口から、ミキの名前が出ると、僕の中で何かが揺れるのだ。少なからず、ミキが援助交際をやっていることと関係があるのは、分かっていた。けど、それ以上は分からない。ただ、恋人の名前が、僕の体の中で、内臓を震わせる爆弾のスイッチのようなものになっているのは確かだった。愛情を注いでいる対象のはずの、女の子の名前が、だ。変な話だ。自分でも、そう思う。けど、その、小さな爆弾を解除するための方法を、僕は知らない。
「つき合ってるよ。別れたら、言うに決まってるじゃんか。お前には、一番にさ。そうだろ、親友」
 僕は、軽く冗談めかして、そう言った。ユウジには、伝わっていないようだった。笑い声の欠片も、携帯電話の向こう側からは、聞こえなかった。
「そっか」
 僕は、机に腰かけて、脚を組んだ。何かがおかしい。そう思った。ユウジが、僕とミキの関係を改める理由が分からない。フウコが、物色していた机の中身を全て、間違って、床に空けてしまった。ばさばさと音を立てて、教科書やノートが積み重なる。フウコが、僕を振り返り、ぺろりと舌を出した。本当は、声を立てて笑いたかった。が、できなかった。何かが、僕の体を真綿で締めつけるようにして、硬直させていた。僕はかろうじて、フウコに向かって、口許に笑みを浮かべた。
「どうしたんだよ、ユウジ。体の調子でも悪いなら、あとでかけ直せよ」僕は言った。
「そういうわけにもいかないんだよ。ケンゴ。すまんけど。時間、くれ。考え、まとめたいんだ。電話はそのままで」
 僕は、分かったよ、と答えた。窓の外を見る。地平線に沈み、消える瞬間を目前に、太陽はその身をますます、赤く燃やしていた。目に痛いくらいに。
 思えば、ユウジの口から、ミキの名前を聞くのは、久しぶりだった。僕らの間では、禁句にも似たものになっていた。文章にしてしまえば、理由はさほど、難しいものじゃない。僕がミキとつき合い始めてすぐ、いつ、親友であるユウジにそのことを告げようか思案しているところに、ユウジが僕に相談を持ちかけてきたのだ。好きな女の子がいる、と。その相手というのが、ミキだった。
 今でも、どうするのが、正しかったのか。分からない。僕は、いつになく真剣な表情で、ミキへの想いを語るユウジに、相槌を打つことしかできなかった。親友が欲しているものは、彼の知らないところで、既に僕の手にあった。それがなんだか、申し訳ないことのように思えて仕方なかった。
 ミキとつき合い始めたきっかけは、彼女からの告白だった。僕がいつも一緒に遊びにいく仲間たちの中に、ミキはいて。会う回数を重ねるごとに、仲間たちと一緒にいる中でも、二人でくっついていることが多くなった。恋愛感情とか、そんなものは、意識していなかった。ただ、楽しくて、うまが合って。僕はミキの側にいた。はたから見ていれば、自然な流れで生まれた、ミキからの告白で。僕の方には断る理由がなかった。遊んでいるときにも、彼女が女の子であることを意識させられる瞬間は、散りばめられていた。僕はそんなひとときに、なんの後ろめたさもなく、考えていた。彼女とキスすること。彼女を抱き締めること。彼女とセックスをすること。悪くない。そう思っていた。彼女と、男と女としてつき合うのも。そして、そのチャンスがやってきて。僕はただ頷き、俺も好き、と言うだけで、そのチャンスを手にすることができた。
 つまり、ミキを手に入れるのに、僕ななんの苦労もなかったわけで。それがそのとき、どうしようもない後ろめたさになって、僕を襲った。それは、ユウジに今すぐしなければならない告白の言葉を重たいものにして、僕の腹の中から飛び出ないようにしてしまった。何かにすがるような気持ちで、僕は祈ったものだ。この状況が、改善するようにと。誰も、傷つくことなく。
 僕は、中身のない、空っぽな言葉を、吐き続けた。“そうか? あの女、そんなにかわいいか?”、“もっといい女、いっぱいいるじゃん”、“やめとけよ。あの女、結構遊んでそうだぜ”。浅い言葉だ。表面的。そんなものが、本気でミキに恋をしているユウジに届くわけもなかった。
 今なら、もしかすると、ユウジの中にうごめく恋の熱を、一気に冷ますかもしれない言葉が、僕の中にある。それをあのときに既に知っていたなら、誰も傷つかずに済んだんじゃないだろうか。もしかすると、僕も。“あいつ、援交してるぜ”。あのとき必死に、僕にミキへの恋心の相談をしていたユウジに、この言葉を、僕はぶつけたくて仕方ない。それでも、ユウジの想いが方向転換するかどうかと言えば。それは分からないのだけれども。
「やっぱり、うまくまとまらねえな。すまん。俺、あんまし頭よくねえからな。だから、そのまま言うわ」
 ユウジの言葉が、また少し、明瞭さを増して聞こえた。まとまらないとは言っていても、彼の中にある迷いは払拭されつつあるのかもしれない。そう思った。僕は、オーケイ、と言った。
「俺、童貞じゃん。いや、“だった”じゃん」
 だった。その表現が引っかかった。僕は口を開こうとした。けど、できなかった。ユウジは話し続けた。僕の言葉が入る余地がなかった。
「それ、やべーなって思っててさ。だって、周りのみんな、彼女がいて、もう経験済みでさ。会ったら必ず女とのセックスの話が出て。うまく話を合わせるんだけど、やっぱり、な。あったわけさ。俺の中に。なんか違うなってのが。いや。いいんだ。お前が、そんなことないって言ってくれるのは嬉しいよ。けど、思っちまうのは思っちまうんだ。どうにもならないのさ。でさ、そんなこと言ってたらさ、フジマ先輩いるじゃん。あの人がさ、言うんだ。お前、金あるかって。最初、先輩が何言ってるのか分かんなかったんだけど、俺、とにかく、いくらですかって聞いて。三から五万って言われて、ありますって言ったんだ。そしたらさ、先輩。なら、童貞卒業させてやるって言って」
 振り返ったフウコが、顔をしかめた。相手、誰? 僕が携帯電話で話していることを気遣って、囁くように、彼女は言った。僕は答えなかった。答えたくなかった。誰と話しているのか、彼女に言えば、次に来る質問は分かっている。何を話しているの。尋ねてほしくないことだった。フウコは、僕が答えないのを察して、また言った。
「大丈夫?」
「何が」僕は、携帯電話の通話口を手で軽くふさいで、言った。
「ケンちゃん、顔色悪いよ」
「そんなことない。大丈夫だよ」
 僕は言った。目は、どうしてもフウコと合わせられなかった。ユウジの声が聞こえた。僕は携帯電話を再び、耳に押し当てた。
「俺、よく分かんなかったけど、先輩にお金やったんだ。五万。そしたら、ここで待ってろって言われて。その場所が、ラブホの部屋だった。そのとき初めて、先輩の言ってる意味が分かり始めた。先輩は、五万で俺に女を調達するんだなって。気づいて、後悔した。確かに童貞は捨てたかったけど、そういう風に捨てるのも、さ。でも、気づいたときにはもう、先輩とは別れてて。どう断ったらいいかも分かんなくて。で、先輩に言われた部屋に行けば、童貞捨てれるって、すごいさ。俺には、こう、魅力的だったんだよ。やっぱり。よくないと思う反面さ、そういう気持ちもあったんだ。で、俺、先輩の指定したラブホに行った。言われた時間に。そしたら、俺と同じくらいの女が来た」
 電話を切りたかった。でも、できなかった。携帯電話と僕の耳は、強力な磁力でくっついたかのように離れない。電話を握る手が汗ばんでいた。僕は机を下りた。窓の方へ歩く。途中で、足が、机の脚に引っかかった。思わず、軽く蹴った。がたん。静かな教室には、たいしたことのない音でも、おおげさに響く。フウコが表情を硬くしたのが分かった。何か、言ってやりたかった。それもできなかった。僕は窓に、電話を持っていない方の手のひらをつけた。冷たい。体の火照りを少しでも鎮めてくれる窓ガラスが、今、どうしようもなく愛おしいものに思えた。
「女は私服で、化粧もしてて、すげえ大人っぽく見えた。でも、同年代だなってのは分かった。どうしてかは分かんねえけど。で、少しして、思った。“あれ?”って。でも、そのこと、怖くて口に出せなかった。出す気にもなれなかった。女の方もさ、俺のことを見て、表情変えないから、俺の思い違いだと思ったんだ」
 ユウジは、何度も僕にミキのことを相談したくせに、肝心なときに、僕を呼ばなかった。彼は陰で、一人で告白することを決心した。そして、それを実行した。それを知ったのは、ユウジがミキに告白した数日後のことだった。その間、ユウジは学校を休んでいた。久し振りに学校に来たユウジは、その日の放課後、僕を連れて、近くのファミリーレストランへ行った。そして、ミキに告白したことを、僕に告げた。そのときの、ユウジの表情を、僕は忘れられない。
 寂しさ。それが溢れるほど、ユウジの顔いっぱいに満ちていた。視線の、唇の動き。一つ一つが哀愁を帯びていて、僕はそれを見ただけで泣きそうになった。本人の方が、その何倍も泣きたかっただろうに。けど、ユウジは泣かなくて。そのお陰で、僕も泣くことを避けられた。なんで言ってくれなかったんだよ。ユウジの言葉に、僕はひたすら、謝り続けることしかできなかった。
「その女とさ、やったよ。でも、童貞を卒業できたとか、そんな喜びとかなかった。気になってた。その女のこと。でも、聞けなくて。終わったあとも、勇気が出なかった。女は、“お金はもうもらってるから”って言って、部屋を出て行こうとした。俺さ。どうしても確かめたくて、電話鳴らしたんだ。ミキの番号。そしたら」
「もういい」
 僕は言った。強張る唇が、勝手に言葉を紡いでいた。けど、ユウジはやめなかった。
「鳴ったんだ。ケイタイ。ミキのケイタイが、すぐそこで。着メロが聞こえた。女は何も言わずに、逃げるみたいに走って部屋を出てった。なあ、ケンゴ。俺、お前に謝らなきゃならない」
「ユウジ。その話は今度に」
「そんなの、できるわけねえじゃんか。なあ。すまん、ケンゴ。俺、ミキと」
 携帯電話は、教室の壁で鈍い音を立てた。磁力なんか、くそくらえ。僕は電話を投げ飛ばしていた。肩が外れるほど、全力で。床に落ちた携帯電話。どこかの部品が、壊れたのか、本体から離れていた。知ったことか。近くにあった机を蹴った。机は引っくり返って、中身をぶちまけた。教科書、ノート。中に混じっていたらしい、包装されたコンドームが転がった。笑える。視界が滲んだ。涙。ちくしょう。僕は思った。フウコの前で、醜態をさらしたくない。せめて、こぼれるな。そう念じた。
 フウコが何か言っていた。聞こえなかった。聞きたくなかった。慰めの言葉で、何が消える? ユウジとミキがセックスしたことが、どうやって僕の記憶の中で消化される? 逃げ出したかった。とりあえずは、フウコから。願わくば、全てから。夕日の赤が、血の色に見える。そうしたのは、きっと僕の体のどこか。ぱっくりと開いた傷口から、命に関わるほどの血が流れ出しているに違いない。
 僕は走った。一度、転んだ。膝が焼けるように痛んだ。制服のズボンの下で、すりむいたのだろう。構わなかった。涙が止まらない。何か、拭くものが欲しかった。けど、そんなもの、僕の手元にはない。
 体からこぼれ続ける水分を拭うものを探し、考えているうちに、悠長な僕の思考回路は勝手に回転速度を落とした。そんな場合じゃないのに、冷静さを得た僕の頭は、思考の方向を変えていた。
 そして僕は、考えていた。教室の壁で破損した携帯電話。その修理には、いくらくらいかかるのか、なんて。ははは。笑える。とても笑える。これほどおかしい話は、他には、ない。あり得ない。



How much? B END
posted by 城 一 at 06:57| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月26日

短編小説 LADY×LADY

「別れよう?」

 マナミが言った。そんなことを言われるような気はしていた。彼女と付き合い始めてから、もうすぐ二年が経とうという頃だ。何を考えているのかくらいは、それとなく分かる。

 サエは、自分で作ったカシス・ソーダの入ったグラスの縁を、指先で撫でた。縁はわずかに濡れていて、指の腹の下で、ひゅいん、という音が鳴る。

「何があったの?」
「何も」マナミは言った。

 嘘だ。サエは思った。嘘をつくとき、マナミは耳たぶを触る癖がある。紫色に塗った爪の下で、揃いの色の石がぶら下がったピアスが揺れる。付き合ってひと月が経った記念日に、プレゼントしたものだ。まだ彼女の好みが分かっていなかったので、一緒にデパートに行き、彼女に選んでもらった。

「もう、疲れたの。女同士なんて、やっぱ変だよ。ベッドの中だって、電車に一緒に乗るときだって。映画館の席とか、クリスマスの夜とか、大晦日の新しい年を迎える瞬間とか、誕生日とか。そういうときに、隣にいるのはやっぱり、男の人がいいの」

 最初に会ったときと、真逆のことを言っていた。初めて会ったときのマナミは、サエと共通の友人だったレズビアンのノリコに手を引かれ、雪の積もった黒髪の下で瞳を潤ませ、言ったものだ。もう、男の人は嫌だと。

 マナミは、大学時代から付き合っていたキョウジという男に、売春をさせられていた。キョウジが毎夜のように連れてくる友人を相手にセックスをして、金をもらっていたのだ。

 金は全て、キョウジに取り上げられていた。キョウジはギャンブルにはまっていた。そのくせ運や才能はなく、借金だけが膨らんでいた。その返済に、マナミが体を売って稼いだ金は消えた。

「キョウジ」

 試すようにサエが投げかけた言葉に、マナミの視線が泳いだ。溜め息は、持ち上げたグラスの中に溶かし、カシス・ソーダとともに飲み込んだ。舌に、アルコールはあまり感じなかった。ソーダの分量を、多くしすぎたのかもしれない。

 二年。マナミとともに過ごした月日を、閉じた瞼の裏に再生してみる。かつての男のされた、ひどい仕打ちを忘れるのには、十分な時間なのかもしれない。それに。異性愛と同性愛の狭間でバランスを取り続けるのは、想像以上に難しいものだ。

 だが、言った。

「あの男にされたこと、忘れたの?」
「もう、あの頃のキョウちゃんとは違うもん! キョウちゃんのこと、何も知らないくせに、知った風な言い方しないで」

 ガラステーブルの上から、カシスの壜を取った。やはり、アルコール分が少し足りない。

「知ってるよ。あんたの大好きなキョウちゃんは、恋人だったはずのあんたに、平気で友だちとセックスをさせて、金を取ってた。そして、それを借金の返済にあててた」
「今はもう、真面目に働いてるもん。キョウちゃんは」

「あの頃も、真面目な大学生だったんじゃないの? キョウちゃんは」

 言いすぎた。いや、確信犯だった。マナミの瞳が歪む。怒りでカーペットを敷いた床を鈍い音で踏み鳴らしてこちらに来て、置いたばかりのグラスを、テーブルの上から弾き飛ばした。

 グラスはカーペットの上に転がり、ゴトンという音を立てて、中身をこぼした。マナミが、この部屋で一緒に住むことを決めてすぐに、ふたりで初めて選んだインテリア。象牙色のカーペットは、カシス・ソーダを吸い込んで、明るい赤色に染まった。

「そうやって、人の悪いところをあげつらって、自分のところに引き止めようとしちゃって。それがレズビアンのやり方なの?」
「違うよ、マナミ。そんな言い方はするもんじゃない。これは、レズビアンだとか、そういうのは関係ない。単純に、わたしのやり方なのさ」

「最低」
「そうだね。最低だね」

 こめかみを指で揉んだ。やはり、アルコールが足りない。カシスを壜から、直接飲んだ。ソーダで割らなければ飲めたものではないが、この際、味など関係ない。

「わたしのことは、もう好きじゃない?」
「最初から、好きじゃなかったもの」

 自分の唇が、自嘲的に歪むのが分かった。どんな言葉が返ってくるのか。分かっていて、尋ねた。気付かないうちに、自分も別れの準備を始めているのかもしれない。

 マナミと初めて体を重ねたときから、薄々気付いていたことだった。いくら彼女の体を愛撫して、彼女の声と快楽を吊り上げても、その瞳の奥まで、自分の姿は染み込まなかった。それは、何度体を重ねても変わらなかった。表面には映るものの、それ以上、彼女の中へと踏み込むことはできなかった。

 いつ終わっても、不思議ではない関係。そう思っていた。二年は、持った方なのかもしれない。

 マナミはクローゼットから、袖口や襟元に、青く染めた毛皮の付いた、黒いコートを取り出した。

「無理しなくていいよ。マナミが嫌なら、わたしはソファで寝るから。出て行くのは、眠ってからにしなよ。外は、雪が降ってる。電車もないよ。この時間じゃ」
「大丈夫。キョウちゃんが、車で迎えに来てくれてるの」

「そうかい」
「荷物は、あとで取りに来るから」

 リビングから出る途中で、マナミが振り返って言った。
「サエちゃんだって、あたしのこと、好きじゃなかったんでしょ。あたしなら、泣くもの。好きな人と、別れるときは」

「あんたが言うかね」
「そうだね。ごめん」

 マナミは部屋を出て行った。バックルがふたつ付いた、ワインレッドのブーツを履いていったのだろう。そんなことを考えていた。デートのとき、彼女はいつも、そのブーツを選ぶ。

 カーペットに落ちていたグラスを拾い、水で洗った。もう一度、カシス・ソーダを作る。今度は最初から、カシスを多めに入れた。飲むと、ようやく、喉に熱さを感じた。酔えそうだった。

 泣かなかったのは、マナミを愛していなかったからではない。むしろ、逆だ。彼女のためだった。彼女は、優しい。泣いている者を、冷たく突き放すことはできない性格だ。

 同情で彼女を繋ぎ止め、場当たり的に、関係を長引かせるようなことはしたくなかった。

 携帯電話で、ノリコに電話をかけた。たった今、マナミと別れたことを告げた。

「あら、残念なことね。でも、長く持った方じゃない? また女の子、紹介しようか?」
「いや、いいよ。しばらくは、ひとりでおとなしくしてるよ」

 カシス・ソーダを、ひと口飲んだ。思い当たったことがあり、ノリコに言った。
「もしマナミがまた、彼氏に売春させられたら。そして、それが分かったら。わたしに連絡してね」
「あんたも、人がいいね。そのときになったら、またあの子を助けてやるのかい?」

 軽く笑って、言った。
「違うよ。あの子の、客になるんだよ。あたしが、ね」

言葉とともに、ようやく溢れた涙が、グラスの中に落ちた。また、アルコールが薄くなった。そう思って、カシスを足した。

posted by 城 一 at 08:01| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月15日

短編小説 ちゃんと、覗いてますから。(2版)



 彼女の瞳に映っているのは、僕ではなく、絶望だった。その色と深さに、こめかみがズキズキとした。

 父親に買ってもらった、天体望遠鏡で覗きをしていた。向かいにあるマンションの一室。カーテンを閉める習慣を持たず、無防備に日々を過ごす彼女を。

 彼女の着替えを、風呂上りのバスタオル一枚の姿を、そしてセックスする姿を見ながら、オナニーに励むことが、いつしか僕の生活の一部になっていた。

 その彼女が、いつまで経っても、レンズの向こうに現われなかった。

 彼女がいなければ、僕の夜は空虚なものになる。持て余した時間に、別の人間を探した。好奇心か、性欲を満たしてくれそうな、マンションの住人を。

 望遠鏡を、屋上に向けたのは、偶然だ。彼女を見つけたのも。

 いつも夜を満たしてくれる彼女は、十数階もあるマンションの屋上の、フェンスの外側で、風に吹かれていた。

 止めなければ。そう思った。部屋から飛び出て、僕は久しぶりに全力疾走をした。何年かぶりに吸う外の空気は、乱暴なほど新鮮だった。肺が悲鳴を上げるように激しく動いているのが、何だか心地よかった。

 そのかいもあってか、間に合った。彼女はまだ、フェンスの外側で髪をなびかせていた。

「あなた、誰?」彼女は言った。

「ケン。小宮ケン。あなたの名前は?」

「倉橋トモヨ」そう言って、彼女はふふ、と笑った。「どうして、ここに?」

「覗いてました」

 僕は言った。自分で、自分が信じられなかった。

 覗き。責められこそすれ、胸を張ることなど、できない行為だ。犯罪だ。なのに、自分が彼女に対してしていたことを告白した。僕の声は、清々しいほどに透き通っていた。後ろめたさなど、微塵もなかった。

「そうなの。あたし、覗かれてたんだ」

「ごめんなさい。でも、あなたは、とても素敵で」

「ありがとう」

 倉橋トモヨは、なびく髪を手で押さえた。少し茶色く染め、パーマのかかった、長い髪だ。

 前は、黒のストレートだった。そちらの方が好きだったけれど、今の髪型も好きだ。彼女に似合っている。

「あたしね」倉橋トモヨは言った。「これから、死ぬのよ」

「どうして」

「何だ。あたしのこと、覗いてくれてたんじゃなかったの」

 彼女は、寂しそうに笑った。

「いえ、ちゃんと覗いてました!」

 自分でも笑ってしまいそうなセリフを、大声で叫んでいた。そうでなければ、屋上で吹き荒れる風を、突き抜けられない気がした。

 倉橋トモヨが死ぬ理由。心当たりなら、あった。一週間前の、恋人らしき男との喧嘩だ。

 それからと言うもの、彼女はひとりで部屋にいるときは、携帯電話を見つめてばかりだった。悲しそうに。

「彼氏と、別れたからですか」

「そうだよ」

「喧嘩の原因は、何だったんですか?」

「何てことないの。街でデートをしてたら、彼ね、すれ違ったかわいい女の子のことを見ててね。だから、ちょっと言ってやったの。“他の女の子のことばかり見て、やらしい人ね”って。意地悪を言ってやっただけのつもりだったんだけどね。彼、もうキレちゃって。“お前にはうんざりだ!”って」

「そんな」

「結婚の約束だって、してたのにね。あたしったら、馬鹿みたい」

「そんなことありません」僕は言った。「あなたは綺麗で、優しい目をしてて」

 中学一年生の頃だった。小学校からの付き合いだった親友と、些細なことから口論になった。

 もう、三年以上も前のことだ。理由は覚えていない。記憶するほどの価値もなかった理由だ。それだけは、覚えている。

 僕は、親友のことを無視するようになった。それが、始まりだった。

 クラスの中で、僕と言葉を交わしてくれる人間が、一人、また一人と減っていった。一学期が終わる頃には、クラスメイト全員が、僕を無視するようになった。

 首謀者は、親友だった。

 二学期が始まり、三学期が始まっても、それは終わらなかった。

 僕は音を上げた。学校へ行き、クラスメイトたちと、友情を育むことを、諦めた。

 家で、ただひたすらに、部屋に引きこもり続ける生活に、変化を与えてくれたのが、望遠鏡と、倉橋トモヨだった。倉橋トモヨがいなければ、僕はここにはいなかったかもしれない。

「あなたのことが、好きなんです。倉橋トモヨ」

「ありがとう、ケン君。嘘でも」

「嘘じゃありません。冗談でもない。僕は、あなたが好きです」

「じゃあ、一緒に死んでくれる?」

 耳を疑った。

 倉橋トモヨは、顔をほころばせた。

「ごめん。意地悪言っちゃったね。嘘だよ。冗談。でもね、お願いがあるの。邪魔だけはしないで。あたしがここから飛び下りるのを」

「いいですよ」僕は言った。

「え?」

 倉橋トモヨは花だ。殺伐とした僕の日常に咲いた、一輪の花。

 今それが、自ら散ろうとしている。一緒に散るのも、悪くはない。そう思った。

 僕はフェンスに手をかけた。弾みをつけて、登る。身長よりも、三十センチほど高いフェンスは、登るのに少し、時間がかかった。

「馬鹿だね」

「ええ、馬鹿ですよ」

 フェンスを越えた。倉橋トモヨに助けを借りて、向こう側へと下りる。

 景色は、ガラリと変わっていた。暗さを増したように感じる夜がどこまでも広がっていて、足下、はるか下を行き交う車の明かりに、眩暈がした。

「大丈夫?」倉橋トモヨが、僕の手を握った。

「大丈夫ですよ」

 僕は言った。嘘でも、強がりでもなかった。

 彼女の手のぬくもりがあれば、どこへでも行ける。そう思った。たとえ、死の世界でも。

 倉橋トモヨが言った。

「キス、したことある?」

 なかった。女の子と、付き合ったこともない。僕は、思いきり首を振った。

「初めて、もらってもいい?」

「いいですよ」

「じゃあ、目を閉じて」

 倉橋トモヨが言った。僕は、言われた通りにした。着ていたダッフルコートの袖で、自分の唇を、ごしごしとこする。

 だが、彼女の唇は、いつまで待ってもやって来なかった。何か、彼女の気に障ることでもあったのだろうか。僕は思った。

 いくら考えても、キスが訪れない理由は分からなかった。

「すいません、ちょっと、目を開けてもいいですか?」

 僕は言った。倉橋トモヨは、何も言わなかった。

 もう一度、同じ言葉を繰り返してから、僕は目を開けた。

 倉橋トモヨはいなかった。

 足下を見た。車の明かりが、乱れているのが分かった。人だかりができ始めていることも。その中心に、倉橋トモヨがいることも。

 手のひらをこすって、彼女のぬくもりを探した。強い風に吹かれて冷たくなっており、見つけることはできなかった。

 置いていかれた。そう思った。

 勇気のある者ならば、彼女を追って、ここからジャンプするのだろう。足下を見つめながら、そう思った。

 僕には、無理だった。

「ずるいや」

 そう、小さく呟くことしかできなかった。



posted by 城 一 at 01:53| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月06日

短編小説 R&B


 違うとは分かっていながらも、強烈な風は俺たちのことを咎めるために吹いているという考えを、頭から追い出すことができなかった。腹這いになっている俺たちの上で、雲に埋まり、穏やかじゃない白色に染まった空。いつ降り出してもおかしくない雨を押し止めているのは、お前たちのためなのだとでも言うように、恩着せがましく輝いている。

 携帯電話に、クラスメイトの大倉ミチヨからEメールが届いた。頼んでもいないのに彼女は、俺のために購買でメロンパンを買い、それを口実に、昼休みを俺と一緒に過ごそうとしているようだった。彼女が俺に、他の男子以上の好意を寄せていることは知っていた。その好意の分だけ、仕草や言動に上乗せされた温もりが、ふとした瞬間に、彼女の気持ちを俺に知らせたのだ。悪い気はしなかった。だからと言って、彼女の想いを汲み、自分から動こうというところまではいかなかったが、他の女子以上に彼女への好意も、俺の中にはあった。彼女を傷つけることは、できる限り避けたいとも思っていた。だが、今の俺には、彼女を気遣う余裕がなかった。俺は携帯電話を閉じた。

「誰から?」

 ブルースが言った。彼は、四分の一、中国人の血が入ってはいるものの、本当の名前は、誰が聞いても違和感がなく、縦書きの方が似合うものだ。ブルースは、事を始める前に二人で決めた暗号名(コード・ネーム)だった。俺は、リズム。深い意味はない。その名前が、俺たちが日常からかけ離れたところにいることを、教えてくれさえすればいい。それに、意味など微塵も込めなくとも、既にこの名前は、重たすぎるものになっている。俺は肩をすくめ、Eメールの送り主と、その内容をブルースに教えた。

「ミチヨ、傷つくと思うなあ。彼女が君を好いてること、知ってるんだろ?」

「ああ」

「好意の分だけ、敏感になるものさ、人って」

「分かってる」

 ブルースは、その続きを待った。俺はそれ以上、言葉を継ぐつもりはなかったが、彼の期待に答えるために、頭を働かせた。その時間を稼ぐために、母が握ったおにぎりを頬張った。口いっぱいに。具は、焼いた鮭だった。魔法瓶から、冷たい麦茶を飲む。結局、言葉の続きを思いつくことはできなかった。俺は話の矛先をブルースに向けた。

「お前にだって、いるんだろ? そういうやつが」

 強風にはためく、長すぎる前髪の下で、ブルースは目を細めた。ミチヨの話題を避けたことを、察したのだろう。彼はコッペパンを一口だけかじり、口許を緩めた。

「不特定多数」ブルースは言った。「けど、今のところ、その五文字で一括りになる枠組みから抜け出す人はいないね」

「残念なことだな」

「その方がいいさ。よそ見や寄り道は絶対にしないとは言わないけど、女の子との色恋沙汰は、その度合いが強すぎる。今は、そんな余裕ないよ」

 ブルースの言葉は、耳にしてみると、先の彼の沈黙に対して、俺が返すべき答えだったことが分かった。俺は胸の中で、舌打ちをした。答えを知っていたくせに、わざわざ沈黙で俺の思考を毛羽立たせ、問いを投げかけた。たぶん、俺が答えに窮することも分かっていたのだろう。

「嫌なやつだな、お前」

「なぜ?」

 仕返しのために、俺はわざと黙った。ブルースは小首を傾げ、昼食の続きに取りかかった。

 昼休みの屋上には、誰もいなかった。強風と微細な砂粒が舞うこの場所は、昼食にも、男女の逢引にも不向きな上に、非常時以外、使用することを禁止されている。にも関わらず、俺たちがここにいるのは、目的があるからだし、それが前述の二つには当てはまらないからだ。

 先に昼食を終えたブルースは、あぐらをかいて、ノートパソコンを開いた。少し彼の指が踊っただけで、画面は俺の理解の範疇を超えたプログラムを呼び出し、酔ってしまいそうなほどの数と難解さの数式を並べた。俺はその数々の数式が弾き出す答えを理解はしていない。だが、答えが導く場所にたどり着くことはできた。逆にブルースは、計算はできても、たどり着くことができなかった。それが、俺たちがコンビを組んでいる理由でもある。

「いつも不思議に思ってるんだけどな、ブルース」俺は言った。「それだけの数式を操れるやつが、どうしてもっと、数学でいい成績を取れないんだ?」

「学校の数学は非実用的だから」ブルースは言った。「それに、“好きこそものの上手なれ”って言うけど、憤怒と命を賭けることは、対象を好くこと以上の効果を発揮するからさ。きっとね」

 携帯電話に、またミチヨからEメールが来た。自分がメロンパンを買ったことを、好意の押しつけだったとして反省し、謝罪の言葉を連ねていた。それが誤解であることを、俺は彼女に教えたかったが、どうしてもそういう気分になれなかった。ブルースが横目で俺のことを見た。言ってもいないのに彼はメールがミチヨからのものであることを察知し、頷いた。

「彼女には悪いけど、たぶん、それが正解さ」

「さっきと言ってることが違うな」

「さっきのは単純に、意地悪をしただけさ」

「ああ」俺は頷いた。「だから、嫌なやつと言ったんだ」

 俺は大型のドラムバッグを開けた。中には、大量の衣類に守られて、黒い強化プラスチック製のアタッシェケースが入っていた。ダイアル式の錠を外し、蓋を開ける。中から分解したスナイパーライフルのパーツを全て取り出し、地面に並べ、一つ残らずあることを確認してから、組み立て作業に取りかかる。既に何度も繰り返された作業だ。本番と、リハーサル、そして練習で。五分で作業を終え、ライフルの先端に減音器(サプレッサー)を取り付けた。三脚を調整し、その上に銃身を載せる。

「時間通りだ」

 そう言ったブルースは、ノートパソコンの操作を終え、双眼鏡を覗き込んでいた。彼の空いている、もう片方の手の中で、イチゴ・オレの入ったパックがへこんで華奢になり、中身がもう残っていないことを告げている。俺は頷き、スコープを使い、ブルースと同じ方を見た。

 真っ白なスーツに、ネクタイを締めず、ボタンを三つほど開けて、青いシャツを着た男が、それぞれの機器で望遠効果が施された俺たちの視界の向こう側で、笑っていた。開いた胸元には金鎖。左手には金のロレックス。指のほとんどが、金の指輪で飾られている。ジェルで前髪を全て後ろへと追いやった頭。相手に歯を見せてはいるが、その瞳に隙はない。信頼に値しないものを前にしたときの、獣のような目をしている。

「忠村治夫(ただむらはるお)」

 俺は、男の名前を呟いた。口にすることで、相手を仕留める確率が上がるような気がした。そうしてから心配になった怒りの感情の噴出は、なかった。もしそんなことになれば、狙撃の精度が著しく低くなってしまう。俺は安堵の溜め息を吐いた。代わりに、もう長いこと、胸の奥で静かに燃え続けている感情を確認する。その存在は、狙撃の精度を低くはしない。俺の意志と行動を、より強固なものにするだけだ。慢性的な怒りというのは、そういうものだ。

 忠村治夫は、射精産業がメインコンテンツとなっている、六階建てのビルの最上階にある一室にいた。その場所だけは他とは違い、いかがわしい雰囲気はなく、磨かれた床の上に、大きな机と応接セットが並んでいる。ただし、ビルが長い年月を過ごすうちにまとった、無数の傷や古さ同様、安っぽさだけは抜けていない。忠村治夫は、ビルと同じく安っぽい服装に身を包んだ男と向かい合っており、何度目かの笑みとともに、間に挟んだ木のテーブルの上で、アルミ製のアタッシェケースを交換した。忠村治夫が受け取った方には、札束。相手の男の方には、ちょうどレンガと同じ形状をした、白いブロックが敷き詰められていた。

「あれは?」

「麻薬(ドラッグ)さ」ブルースは、双眼鏡を覗いたまま、言った。「粉を圧縮して、ブロック状にしたんだ」

「それじゃあ、家は建てられないな」

「家が建つ金額にはなる」

 ブルースが、このお膳立てをした。情報を集め、狙撃に適した場所を探し、天気図とにらめっこをして、天候を計算した。晴天時の強烈な光も、雨天時の弱々しい光も、狙撃には最適とは言えなかった。今日のような、白い空の下が一番いい。少なくとも、俺には。俺は引き金に、そっと人差し指を置いた。いずれ、そう遠くないうちに、俺はその人差し指に力を込める。だがそれは、正義なんて言う、口にした途端に酸化し、まやかしに変わる、移ろいやすい感情、あるいは思想からではない。もっと単純(シンプル)で、確かなものから。俺たちはそのために、ここにいる。

 俺の注意は、指輪でうるさいくらいに飾り立てられた、忠村治夫の指に向いていた。

「やつは、ホリーに向かって引き金を引いたと思うか?」

「間接的には、確実に」

「直接的に」

「それを確かめるには、狙撃って言う手段は不向きだよ」

「分かってる」俺は言った。「訊いただけだ」

 ホリーは死んだ。体中に銃弾を撃ち込まれて。イメージチェンジのためにショートカットにした彼女の髪はもう、俺の好みの長さまで伸びることはない。涙を流すように、その体に汗が滲むことも、愛を囁くだけで、俺の体を芯まで震えさせることはない。たまには料理をしないと腕が鈍ると言ってエプロンもせずに台所に立ち、ブルースを怯えさせることはない。もういない両親の代わりに叱責し、ブルースに愛情を教えることもない。俺たちに等しく、笑顔をくれることはない。

「何度も言うようだけど」ブルースが言った。「僕たちのしていることは、正義なんかじゃない。姉貴はいつか、そしていつでも、殺されておかしくない場所にいた」

「分かってる」

 ホリーは、俺の恋人であり、ブルースの姉だった。そして、街一帯を牛耳る暴力団、馳英会に飼われた殺し屋だった。カラスと言う暗号名(コード・ネーム)を使い、黒いコートに身を包み、敵対する組織の人間を何人も殺した。今、俺の手の中にある、オートマティックのスナイパーライフルで。ホリーの死は、殺し屋という因果な商売に身を浸していることを、他ならぬ彼女自身から告白されたときから、覚悟していたものだった。だが、味方であるはずの仲間から殺される理由はない。ブルースがかき集めた情報はそのことを示していて、俺はそれを信じた。半年。俺とブルースが、悲しみにからめ取られ、身動きができなかった時間だ。そして、悲哀と無気力感が発酵し、慢性的な怒りに変異するのに要した時間でもある。

 俺は舌で舐めて唇に水分を与え、もう一度言った。

「分かってるさ、ブルース」

 ホリーが最後に殺すはずだった相手と、忠村治夫に繋がりがあったことを、ブルースは調べ出していた。忠村治夫は、馳英会と敵対する組織と、繋がっていたのだ。金の流れもあった。この情報を馳英会の人間に流し、忠村治夫が裏切った連中に、やつを裁かせるという手もあった。だが、俺たちはその方法を選ばなかった。間接的な手段で怒りを鎮められるほど、大人ではなかった。

「そろそろ決めないと、まずいよ」ブルースが言った。

「ああ」

 返事をしたものの、引き金に添えた指が重たくて仕方がなかった。いや。思い返せば、指が軽かったことなど、一度もなかった。忠村治夫に与していた人間を、これまでに何人も葬ってきたが、指と、それが引くべきライフルの引き金は、この世に生を受けた者に、等しくある命の分だけ、重たかった。当然のことだ。ただ、俺の中にある慢性的な怒りが、その重さをわずかに上回っているだけに過ぎない。俺は目を閉じ、忠村治夫が、麻薬を売りつけた相手に見せている笑みを浮かべながら、ホリーに向かって銃を撃っている光景を想像した。短く息を吐き、目を開けた。引き金を引いた。オートマティックのスナイパーライフルは、俺が引き金を引いている間、一切の文句も言わずに、忠村治夫の体に向かって、銃弾を送り続けた。最初に当たったのは、忠村治夫の肩だった。次は、喉。撃たれた衝撃で忠村治夫の体は回転し、銃口の先に、その胴体をさらけ出した。腹、胸。銃弾を撃ち込んだという実感は、命に対して、あまりにも軽すぎるライフルの引き金と、忠村治夫の体から小さく噴き出す、血の赤色からしか、感じることができなかった。スコープの向こう側が、実はフィクションの世界だと知らされても、俺は驚かなかっただろう。忠村治夫の顔面に二発、弾が当たったことを確認したところで、俺は撃つのをやめた。

 即座に俺たちは後退し、可能な限り身を低くして、ブルースはノートパソコンと双眼鏡を、俺はスナイパーライフルを片付けた。忠村治夫が死んだ方からは、死角になる側から屋上を後にし、学校の中に戻った。閉じたノートパソコンを小脇に抱えたブルースは、ストローを口にくわえて音を立て、まだパックの中で、イチゴ・オレを探していた。

 昼休みは、まだ三分の一ほど残っていた。校内にいる者のほとんどは、最初の三分の二で昼食を終えており、その分、騒がしかった。持参した、あるいは購買で買った昼飯だけでは、口を動かし足りないとでも言うかのように。俺たちは足並みを揃えて教室へ戻り、荷物を置いた。スナイパーライフルがドラムバッグの中に入っているが、錠がかけてあるし、アタッシェケースはそう簡単には破壊できない。俺たちはトイレへ行き、手と顔を洗った。水をしこたま飲み、鏡を見つめた。

「これで終わりだ」ブルースが言った。「姉貴の死に関わった連中は、みんな、いなくなった」

「ああ」

「僕たち、元の場所に戻れると思う?」

「少なくとも、そのために最大限の努力をする」

 ブルースは頷いた。

「うん、そうだね」

 俺たちは教室に戻った。自分の机で、五分ほど静かにしていた。スコープと引き金越しとは言え、人を殺したという感覚が、血とともに全身を巡って、蝕んでいた。わずかばかりの余裕を取り戻して教室の中を見回すと、こちらを見ないようにしながらも、注意を一心に俺に向けている、大倉ミチヨがいた。彼女はいつも一緒にいる女子連中とくっつけた机で、談笑に興じていた。もしくは、そのふりを。俺は机を立ち、彼女の所に行った。メールを返さなかったことを謝り、返せなかった事情をその場で捏造し、彼女に聞かせた。彼女はそれを信じた。俺がメールを返さなかったことが、彼女を煙たがっていたからではないと知ったミチヨの表情からは、硬さが消えた。俺は、精一杯の笑顔を作り、彼女に言った。

「メロンパン、まだあるかな?」

 彼女は、首が壊れるのではないかと思うほど大きく頷き、うんと言った。その声が大きすぎて教室中に響き渡り、クラスメイトの視線とくすくす笑いを集めた。ミチヨは顔を真っ赤にし、束の間うつむいてから、両手のひらを合わせた上にメロンパンを載せて、俺にくれた。

 俺は笑った。



posted by 城 一 at 08:51| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月26日

短編小説 クリスマス・キャロル 1


1


 古傷が疼いていた。私は煙草に火をつけて、何とか、傷のある左脇腹から意識を逸らそうとした。試みは成功しない。だが、いつものことだった。

 十二月。最初の週の金曜日だった。温暖化のせいで不安定になった季節は、いまだに腰を落ち着けようとしていない。昨日は、この時期ではあり得ないほどの暖気が、街を覆っていた雪をすっかり溶かしてしまった。冬の格好で外に出ると、背中にじっとりと汗をかくほどだった。今日は打って変わって、街の住人たちの背中がそっくり丸くなってしまうほど冷え込んでいる。息を吸い込むと、鼻孔が凍ってしまいそうだった。この分だと、雪化粧が再び街を白く染めるのも時間の問題だろう。街がそわそわしているのは、クリスマスを目前に控えているからということだけではない。

 私は牧場にいた。経営者のピーター・ディオロウは、ねずみのように動きが素早く、落ち着かない小男で、常に嘲笑に似た表情を浮かべている。彼は《協会》から派遣されてきたトナカイたちがいる場所に私を案内すると、即座に姿を消した。今は、《協会》との連絡役を務める、アリッサ・ボウエンと仕事の内容について確認をしているところだった。クリスマス前のルーティン・ワークで、話の内容には特に目新しいこともなかったし、私は古傷の疼きから意識を逸らすのに忙しかった。アリッサが言った。

「話を聞いてるの、クレイグ?」

「もちろんだ」

 アリッサは小首を傾げ、両手を広げ、目を大きく開いて、私に話の復唱を促した。私は携帯用の灰皿に吸殻を捨て、新しい煙草に火をつけた。アリッサは溜め息を隠さなかった。

「大が付くほどの不況の中だ。今年はいつもよりも、俺たちを狙った強盗が多発する可能性があるから、気を付けろって話だよ、坊主」

 ジャック・B・ドレスデンが言った。《協会》から派遣される、飛行能力を有するトナカイは皆、人語を解する。彼は自分の年が、人のそれに換算すると八十歳になることを知って以来、周囲の人間を、軒並み子ども扱いすることを覚えた。そうなってから数年が経っているから、今では九十か百歳に及ぶところにまで来ているのかもしれない。老齢のトナカイの頭部に生える左側の角は折れていた。傷つくことなく残っている方の角も、年のせいなのか、冬の落葉樹のように弱々しく、どこか寂しげだった。《協会》のトナカイは、雄も雌も、角の生え変わりがない。残念ながら、ジャックの角が双方ともに揃うことはもうない。ジャックは、折れずに残っている方の角で、私の左脇腹を突こうとした。軽くステップを踏んで後退し、私はそれをかわした。視線で、アリッサがそのことに気付いたのが分かった。私は胸の内で舌打ちをした。この老いぼれたトナカイは近頃、長い月日の積み重ねが、時折、人にもたらす類の、意地の悪さを身に付け始めている。アリッサは鹿革の手袋を脱いで、ジャックの口許に触れた。視線は意識的に、私から逸らされていた。

「これは、ボランティアでやってもらっていることよ。誰も強要しない。あなたはいつでも辞めることができる。今からでも」

「分かった上で、ここに来ている。君らがすべきなのは、配達人たちを、彼らが傷付けられる危険性から守る措置を講じることだ」

「わたしたちは常に、そのように努めているわ。毎年、最新の防弾、防刃加工の施された服をあなたたちに貸し出している。今年も例外ではないわ。金属板が埋め込んであるから、包丁の刃も通さない」

「あるいはジャックナイフから」ジャックが言った。

「お喋りが過ぎるな、じいさん。残っている方の角は、俺が折ってやろうか」

 ジャックは目を細めた。このトナカイは、年を重ねるほどに、人間のように笑顔を浮かべることがうまくなってきている。

「お前さんがたの着る服が、どうして赤い色をしてるのか、教えてやろうか」ジャックが言った。「たとえ暴漢のナイフや銃弾が、最新の防弾、防刃技術をすり抜けて、お前さんがたを傷付けても、血を流していることを他の連中に知られないためさ」

「血は、真っ先に人の笑顔を奪うからな」

「分かってるじゃないか、坊主」

「あなたたちは長年連れ添ったコンビでしょう。もう少し上手な距離の取り方があるんじゃない?」アリッサが言った。

「傷の舐め合いをしろとでも言うのかい、お嬢ちゃん。あんたとなら大歓迎だが」

「トナカイが、人間の雌を相手に欲情するなんて、知らなかったわ」

「欲情なんてしないさ。セクハラの仕方を知っているだけでね」

「意地の悪いトナカイね」

「同意見だな」私は言った。

「ハ、ハ、ハ」

 老いぼれのトナカイは、人の笑い声を真似た。



 牧場を出る頃には、日は暮れていた。私は古い型のトヨタ・カムリを操って家路についた。傷の疼きは断続的だった。気付くと、道中見つけた酒屋の駐車場に車を入れていた。少しの間、エンジンをかけたままにして、考えにふけった。何台かの車が駐車場に入り、買いものを済ませて出て行った。燃料の無駄になる。そう理由を付けてエンジンを切り、酒屋に入ってスコッチを買った。それからは寄り道もせずに家に帰った。カーテンが開けっ放しになっていた窓から、蛍光灯のような満月の光が差し込んでいた。月光は強かった。私は明かりをつけずに、居間のソファに座った。スコッチを開け、グラスに注いだ。そして、それを見つめていた。

 世間からサンタクロースと呼ばれるものを務めるようになってから、十数年が経とうとしている。数年前、プレゼントを届けに入った家で、空き巣と鉢合わせした。私には彼と事を構えようという気はなかったが、相手はパニックに陥っていた。なだめる間もなく、私は空き巣が持っていたジャックナイフで左脇腹を刺された。血が全て、着ていた服に吸い込まれたのは、不幸中の幸いだった。血痕とともに届けられたプレゼントを、誰が喜べるだろう? それに、空き巣の男が私と鉢合わせしたのは、仕事に取り掛かる前だった。その家は何も失うことなく、クリスマスを過ごした。

 だが私は、その日流した血とともに、何かを失っていた。以前よりも、酒に対する欲求が強くなった。実際に手を出したとしても自分を失うことはなく、刺された傷の疼きを抑えることもできたが、その代わりに酒は、悪夢を連れてきた。刺されたときの感覚を、記憶に残っているものよりも鮮明な形で蘇らせるのだ。酒を飲んだあとの眠りは、決まって私に後悔をもたらした。禁酒を誓っては破ることを繰り返していた。今日も、そんな日のうちの一日のようだった。何度もスコッチのにおいを嗅いでは、グラスをテーブルの上に戻した。

 ジャックの角を折ったのは、リョウジ・オダという少年だった。長身で肉付きがよく、十歳という年にしては、かなりがっしりとした体格をしていた。リョウジは、よくいるサンタクロースの正体を暴きたがる少年の一人だった。そしてその試みに成功し、私たちを捕まえ、ふざけてジャックに乗り、彼を無理矢理、操ろうとした。子どもは動物を操ろうとするとき、手綱などには目もくれない。リョウジはジャックの角をレバーに見立てて、力を込めて前後に揺らした。まるで、戦闘機を操るつもりであるかのように。ジャックの角が折れたのは、その結果だった。リョウジには悪意はなく、折れてしまった角を見て、泣き出してしまったほどだった。ジャックはリョウジのことを責めなかった。だが、考えてみると、ジャックの底意地が悪くなり始めたのは、角が折れてからかもしれなかった。

 時計を見ると、早朝と呼んだ方が似つかわしい時刻になっていた。私はグラスを取って、スコッチをシンクに捨てた。壜の中身もそうした。コートを脱ぎ、シャワーを浴びた。そしてベッドに入った。眠りはすぐに訪れた。



クリスマス・キャロル(仮題)ブログ用 1

プロトタイプ 1版
posted by 城 一 at 05:19| 短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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