Gusuku LABELへようこそ!
最近、自分がフリーメールを活用できない人間だってことに気付きました。

2006年09月03日

ブログ小説 焔-HOMURA- scene1


かつて家庭≠セと信じ、そう呼んでいたものに




●風際 慶慎(かざぎわ けいしん)

 食器のぶつかる音がテーブルの上に響いている。テレビに映っているのは、ありきたりなアクション映画。途方もない銃弾とセックス、そして暴力。
 雑音には満たされているが、会話のない、静かな食卓だった。
 いや。食卓と呼べるのかどうかさえ、分からない。慶慎は、コンビニ弁当の白飯を箸で突ついていた。弄ぶように、突つくだけ。冷えきった弁当は、慶慎の食欲を削いでいる。慶慎は、テーブルの向かい側で、テレビを楽しんでいる父、風際文永(かざぎわ ふみなが)を、そっと見た。
 父の前には、缶ビールと、つまみのピーナッツが入った皿。他に、数えきれないほどの、ビールの空き缶。父の顔は赤らんでおり、今日は既に飲み過ぎている。
 だが、慶慎は何も言わない。父が慶慎の知らない女性と、コンビニ弁当の十倍もするような値段の夕食を食べて帰って来たのを、知っている。だが、慶慎は何も言わない。
 突然、文永が慶慎のことを見た。慶慎は慌てて視線を伏せたが、遅かった。
「何を見てる」
 飲み過ぎている文永は、微妙にろれつが回らなくなっている。
「何も」
「いや。今、確かに、俺のことを見てた」
「見てない」
「じゃあ、俺の見間違いか?そうなのか?」
 慶慎は何も言わなかった。こういうときに、何を言えば、父の機嫌が良くなるのか、慶慎には分からない。文永は立ち上がると、慶慎の前から弁当を払い飛ばした。テーブルを回って来て、慶慎の襟を掴み、無理やり立たせる。
「黙ってないで、なんとか言ったらどうなんだ?」
 慶慎は父の顔を見ていた。そこには、アルコールを飲んだ分だけ、衝動的な怒りが燃え上がっている。何の意味もない感情が。
「生意気な目だ。ムカつくガキだぜ」
 文永は乱暴に、慶慎の体を突き飛ばした。慶慎は、床で強く背中を打って、息を詰まらせた。間を置かずに、腹を蹴られる。
「お前、本当に俺の子供か?」
「ごめんなさい」
 肩、腹、背中、顔、頭。文永の足は、思うがままに、慶慎の体を蹴りつける。子供の四肢だけでは、とても守りきれるものではなかった。
「ごめんなさい」
 最後に大きく、顎を蹴り上げられ、慶慎は気を失った。


つづく
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ブログ小説 焔-HOMURA- scene2

●越智 彰治(おち しょうじ)/銀雹(ぎんひょう)

 越智は、来客用の黒革張りのソファに座り、腕を組むと、うつむいたきり、動くのをやめた。重たそうな、白に近い灰色のロングコートを着て、揃いの色のつばのついた帽子をかぶっている。目は閉じていたが、つばに隠れて、部屋にいる他の者たちからは、見えなかった。
 越智の隣で、高級そうな紺のスーツに身を包んだ、高田という男が、リラックスした調子で、優雅に足を組み直した。指先で眼鏡をずらして、位置を微妙に直す。光が反射して、レンズの奥の目が、見えなくなった。
 部屋の中で、部外者なのは、越智と高田だけだった。他にいる十数人の男たちは、部外者の二人に向けて、殺気を放っている。
 越智と高田の向かい側に座っている、ルシオという男が、ソファの上でふんぞり返って、言った。
「それで?カザギワのお二人が、俺たちに何の用なんですかね」
 高田が答えた。
「先日、我々の仲間が、銃火器を輸送している途中に襲われ、全員が死亡しました。まあ、失われてしまった命を返せなんて、無理は言いませんが、輸送していた銃火器なら、すぐに返してもらうことが可能だと考えて来たのですが」
 ルシオが、仲間の一人を振り返った。
「心当たりはあるか?」
「これじゃないですか?」
 ルシオが話しかけた男が、両手にサブマシンガンを構えた。他の男たちも、それにならって、サブマシンガンやショットガンといった銃火器を手にする。銃口は全て、越智と高田に向けられていた。
 高田が微笑んだ。
「そうです、それです。返していただけますか?」
「中身だけ、な」
 ルシオの一言を合図にして、男たちの手にした銃が火を吹き、銃声が部屋の中に響き渡る。一分以上、休みなく撃ち続けた後、ルシオが片手を挙げて、それを止めた。
 見る影もなく、変形した入り口のドアが外れて、床に倒れた。煙に覆われた部屋の中で、越智と高田が座っていた黒革張りのソファが、跡形もなく消し飛んでいた。
 ルシオが言った。
「これでよかったかな?カザギワのお二人さん」


つづく
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2006年09月04日

ブログ小説 焔-HOMURA- scene3

●越智 彰治(おち しょうじ)/銀雹(ぎんひょう)

 ルシオは、ソファの上で腹を抱えて笑っていた。
「カザギワのナンバーワンとも言われてる殺し屋、銀雹の越智彰治も、大したことはなかったな。なあ?ええ?」
 ルシオが話しかけた男は、返事をすることなく、倒れた。後頭部にナイフが突き立てられていた。木の葉のような形をした、銀色の投げナイフ。
 ルシオの後ろで、高田の声がした。
「彼の評価をするのは、もう少し、待ってからにしてくれませんか?」
 ルシオが振り返ると、部屋の入り口とは全く反対側にある窓際に、越智と高田がいた。越智は、指と指との間に、投げナイフを挟んでいる。
「てめえ」
 部外者二人の姿を確認した男たちが、装備していた銃に手をかける。だが、引き金を引くことはできなかった。
 越智の着た灰色のコートが、荒々しくはためいていた。部屋の中が、銀色に染まる。部屋中を、銀色の木の葉が舞っていた。
 投げナイフを刺され、男たちが、次々に倒れていく。高田が、ソファと同じ要領で、窓枠に腰かけ、微笑んでいた。
「銀の雹が降っているようだ。誰かが、彼の投げたナイフの様子を見て、そう言ったらしいですよ。彼の手にかかるような者と言えば、裏の世界に生きる人間くらいしかいないが、なんとも詩的な人間がいたものじゃないですか」
 ルシオは、高田の言葉に頷いたきり、動かなくなった。体中に、投げナイフが突き刺さっていた。銀の木の葉が、数えきれないほど仕込まれた越智の灰色のコートが、重たくガシャリと音を立て、はためくのをやめた。
 高田は、シガレットケースから煙草を取り出しながら、喉の奥で、くっくっと笑っていた。
「全く、見る度に、目を疑いますよ。あれだけの銃相手に、投げナイフで引けを取らないんですから」
 越智は、わずかに乱れた帽子を直した。高田は、金色のライターで、くわえた煙草に火をつけた。
「さすが、殺しを芸術にまで昇華させた男ですね」
 越智は、指先に一本だけ、引っかけたナイフで、部屋の中にある、たくさんの死体を指し示した。
「これが、芸術か?」
「違うんですか?」
 越智は、コートのポケットに手を入れて、首を振った。
「少なくとも、俺の知っている芸術は、こんなものじゃない」


つづく
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ブログ小説 焔-HOMURA- scene4

●風際 慶慎(かざぎわ けいしん)

ほとんど、歩くのと変わらないスピードで、慶慎は走っていた。背中がわずかに汗ばんできたのを感じる。
 昼前の街には、太陽の強い日差しが、真上から注がれている。
 慶慎は、走りながら、自分の体調を探っていた。やはり、悪い。
 昨夜、父から暴力を受けた、体のあちこちが、走るリズムに合わせて痛んだ。
 息が、いつもより苦しい。慶慎は、呼吸の一つ一つを、大きく、ゆっくりと行った。息苦しさに慌てて呼吸を乱せば、もっと苦しくなる。喘息の発作が、起きかけている。
 発作が起きていなければ、普通に呼吸ができるが、一度発作が起きると、ひどい場合には、どんなに息を吸い込もうとしても、胸の辺りが詰まったような感じがして、吸い込めなくなる。
 発作が起きる原因は、色々あった。環境や、天気。そして、精神的なものでも。
 ゆっくりと、大きく。息を吸い、吐く。
 横を、慶慎よりも幼い子供たちがじゃれ合いながら、駆け抜けていった。
 そんな、なんでもないことでも、注意を払って行わなければならない自分の体に、慶慎は、やりきれない気持ちになった。
 いや、生きているだけでも、感謝しなければならないのかもしれない。
 この街には、当たり前のように暴力と死が、転がっている。自分にだって、いつ、それが降りかかるかも分からない。
 生きたい。
 そのためには、力を得なければならない。
 一人で、生きていけるようにならなければならない。
 訓練の前のウォーミングアップ。今日は少し、長くかかりそうだった。

●C・C・リヴァ

「ヘイ、バーバー」
 そう呼ばれた、髪をソフトモヒカンにしている少年が、部屋の隅で力なく顔を上げた。腹を押さえたバーバーの顔色は、かなり悪い。足元には、昼に食べたばかりのものが、バーバーの胃から飛び出して、散乱していた。
「吐くなら、外行ってやれよ。部屋がゲロ臭くなるじゃんかよ」
「でも」
「行けよ。苦手なんだろ?でも、後でメシ、奢れよな」
「うん……」
 バーバーは小さく首を縦に振ると、うなだれながら、部屋を出て行った。
「ったくよ。いつまで経っても、慣れねえんだ。使えねぇな、バーバーの野郎」
 ひょろりと背の高い、黒人の少年が言った。両耳に、合わせて十個にもなるピアスをつけている。
「そう言うなよ、ダンク」リヴァは、背の高い黒人の少年の名前を呼ぶと、部屋の中を見ろとでも言うように、両手を大きく広げた。右手には、金色の金属バットを持っている。
「どっちかっつうと、これが平気な、俺たちの方が、おかしいのさ」
 リヴァが示した部屋の中には、十数人の死体が転がっていた。
 少年たちは、それらの一つ一つから、金になりそうな持ち物を、取っていたのだ。
 リヴァはナップサックに、煙草やライター、指輪やネックレスなどの、小物を入れていた。ダンクの方は、ドラムバッグ。財布やナイフ、ハンドガン、気に入った靴、ベルトを詰め込んでいる。
 リヴァは、死体の一つから見つけたライターに、目を奪われた。ギターを持った、骸骨の姿が彫られた、金で出来たジッポライター。リヴァは煙草を一本くわえると、そのジッポで火をつけた。ジッポはナップサックではなく、リヴァの履いていた、カーゴパンツのポケットに入れられた。
「にしても、ルシオが、こんなに簡単に殺られちゃうとはね」
 ダンクは、バスケットシューズの一つを、自分の足のサイズに合うかどうか、試しに履いていた。
「ルシオさん、だろ」
 ダンクの言葉に、リヴァは、顔をしかめる。
「逝っちまった野郎に、気ぃ使う必要なんか、ねえだろ?」
 リヴァはそう言うと、ルシオの死体を金属バットで突いた。ダンクは履き心地を確かめるように、バスケットシューズを履いた足で、床を踏み鳴らした。
「ま、そうだな。あいつ、俺らにいっつも、偉そうにしてたしな」
「でも、どうやってこんな人数を殺ったんだ?」
 ダンクが、リヴァを見て、ニヤッと笑った。
「なんだお前、知らねぇの?カザギワって組織にさ、いっぱい、スゲェヤツがいんだよ」


つづく
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2006年09月05日

ブログ小説 焔-HOMURA- scene5

●風際 慶慎(かざぎわ けいしん)

 慶慎は、コンビニにいた。おにぎりや、弁当の並ぶコーナーの前にいた。
 ウォーミングアップで、体は火照っていて、こめかみや首筋、背中に汗が滲んでいる。軽く息が、弾んでいた。慶慎は、他の客の目につかないように、できるだけそれを抑えていた。
 昨夜の夕食は結局、父の文永にめちゃくちゃにされてしまったし、朝食を食べようにも、家の冷蔵庫には缶ビールしか入っていなかった。酒のつまみが、あるにはあったが、それに手をつけると、また昨夜のようなことになる。立て続けに、あのような思いをするのは、嫌だった。
 腹が鳴る。
 昨夜、人の温もりを感じないことで、食べるのをためらっていた、コンビニ弁当。夜が明けて結局、そのコンビニ弁当を前にして、空腹を抱えている自分。
 慶慎は、皮肉だなと思って、内心、自分に向かって嘲笑していた。
 食べたい。だが、金はない。
 慶慎は長い間、コンビニ弁当の前にたたずんでいた。汗が、わずかに冷めてきていた。

●C・C・リヴァ

「カザギワ?どんな風にスゲェんだよ」
 リヴァは、ダンクを訝しげな目で見ながら、煙草を指で叩いて、灰を落とした。灰が、ルシオの死体の顔にかかっていたが、全く気にしていない。
「どんなって……とにかく、スゲーの!」
「誰に聞いたんだよ」
「誰にも聞いてねぇよ」
 リヴァは、ダンクの肩に腕を回して、言った。
「ヘイヘイ、見栄張ってんじゃねえよ、ダンク。俺の知らねぇ話が入ってるほど、おめぇの頭は、性能よかないだろ?」
「バーバーから聞いたんだよ」
「よし。じゃあ、そのカザギワだかについて、バーバーに教えてもらうか。頭の弱い相棒」
 リヴァは、ダンクと肩を組みながら、ルシオとその仲間たちが、たくさん眠っている部屋を後にした。


つづく
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ブログ小説 焔-HOMURA- scene6

●C・C・リヴァ

「カザギワは、まだ少人数で形成されてる組織だけど、精鋭揃いなんだ」
 リヴァとダンク、バーバーの三人は、今日の収穫の入ったナップサックと、ドラムバッグを持って、並んで歩いていた。
 バーバーは、もう吐き気が収まったらしく、話すのも、特別辛くはなさそうだった。
「規模と構成員の数なら、今の街の六割強を掌握してるって言うツガ組には、全く敵わないけどね。数年先には、張るくらいには、確実になってると思うよ」
 ダンクは自分が最初、その話を始めたくせに、興味なさそうに、耳のピアスをいじっていた。
 リヴァは言った。
「ふーん。じゃあ、ツガの方で決まりだな。そんな、何年も待ってらんねぇよ」
「カザギワの方が、質が高くていいと思うんだけどな」
「ちっこくて、質の高い組織なんかに、俺らみたいなのが簡単に入れるかよ。デカい方が、多少腐ってて、入りやすいのさ。なあ、ダンク?」
 ダンクは、ピアスをいじるのに忙しそうだった。
 リヴァは地面で、金属バットの先端を擦っていた。両方の手の甲には、入れ墨でアルファベットの「C」が刻まれている。
「おい、ダンク。今な、一応、これから俺らが行く方向の話、してんだからな。ちゃんと、話聞いとけよな」
「聞いてるっつの」
 ダンクが横目でリヴァのことを見た。バーバーが言った。
「もちろん、他にも街を代表する組織はあるけど」
「他ん所で、他の組織と比べて、これが一番!ってのが、あるのは、あんのか?」
「ややこしい日本語使うね。うーん、ないかな。後にどうなるか分かんないけど、ツガとカザギワが、今のところ協力し合う関係にあるから、この二つの組織が街を占めるのは、まず間違いないと思うよ」
「へえ。そりゃ、いい知らせだな。な、ダンク」
「なあ、それより腹減らねぇか」
 ダンクが言った。リヴァは溜め息をついた。
「お前、これから自分が入る組織より、自分の腹が大事なのかよ」
「そう。俺には、俺たちが、これから入るコンビニの方が、大事なんだよ」
 リヴァは、すぐ近くにあったコンビニを指差すと、かったるそうな口調で言った。
「したら、あそこでいいんじゃね?」

 時刻は十二時をとっくに過ぎていたので、確かにリヴァも腹が減っていた。
 コンビニに入り、弁当コーナーに行くと、黒いジャージの上下に身を包んだ少年がいた。年齢は、自分と同じか、もしくは、少しだけ下。
 少年のこめかみや額には汗が光り、肩がわずかに、荒い呼吸で上下していた。


つづく
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2006年09月06日

ブログ小説 焔-HOMURA- scene7

●C・C・リヴァ

 バーバーとダンクは、すぐに自分の好みの弁当を見つけて、レジへと持って行った。
 リヴァは黒いジャージの上下を着た少年のことが気になり、弁当コーナーの前で、弁当を選ぶ振りをしながら、少年を観察していた。
 きれいな顔立ちをした少年だ。黒髪を、長めに伸ばしている。前髪で目が見えにくいくらいだった。
 リヴァと少年の目が、一瞬だけ合った。少年は、すぐに視線を逸らした。
 リヴァは、監視カメラの位置を確認した。少年の体は、ほとんどリヴァの陰になっている。
 リヴァは、いい加減、弁当コーナーの前で黙って立っているのにも気が引けてきた。少年は自分よりも、もっと、長い時間をそうやっていたようだったが。
 リヴァがカツカレー弁当を手に取ったときだった。
 カサッという音がした。リヴァの立てた音ではない。隣にいた少年は、両手をポケットに突っ込んで、弁当コーナーを離れていく。
 なるほどねぇ。リヴァは思った。可愛い顔して、万引きか。
 何も知らない者が、膨らんだポケットを見ても、少年が両手を入れているからだと思うのだろうが、確実に、おにぎりが一つずつ収まっている。
 しかも、相当手慣れている。リヴァも、ギリギリで目で追えたというくらいだった。たぶん、バーバーやダンクでは、全く気づかなかっただろう。
 少年は、次は飲み物が並ぶコーナーへと向かっていく。
「ふぅん」
 リヴァも、時折、万引きをするが、今は普通に金がある。それに、この街にはまだ、来たばかりだ。必要のない万引きはしない。
 果たして、カツカレー弁当だけで、腹がいっぱいになるだろうか、とリヴァが思案していると、コンビニの店内に銃声が轟いた。
 オートマティックの銃を持った二人組み。プロレスラーの覆面で、顔を隠している。赤い覆面をした男が、店員に銃を突きつけ、レジの下にあったショットガンを取り上げた。
 レジに並んでいたダンクが、赤い覆面に飛びかかろうとしたが、後ろから青い覆面に銃底で殴られて気絶した。バーバーは、そういった抵抗とは、縁がない。
 黒いサングラスをした中年の男が、杖を振り回しながら「どうしたんだ?」と叫んでいた。目が不自由なのだろう。青い覆面に銃口でこめかみを小突かれて、ようやく状況を理解すると、おとなしくなった。
 他に、老人が一人。
 黒いジャージの少年は、微塵も抵抗の気配を見せずに、両手を挙げた。
 リヴァは商品が並ぶ棚の陰に身を潜めると、「仕方ねぇ。やるか」と呟いて、金属バットを両手できつく握り締めた。


つづく
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ブログ小説 焔-HOMURA- scene8

●C・C・リヴァ

 リヴァは、頭に引っかけていた、オレンジ色のサングラスをかけた。
 赤と白の、長袖のボーダーシャツの裾をめくり上げる。カーゴパンツの前に挟んでいたS&Wのリボルバーを、右手に持った。左手にはバットがある。
 商品が並ぶ棚の陰に、身を潜めるリヴァに、近づいてくる青い覆面男の、靴音が聞こえていた。
 リヴァは、男の顔が出てくるだろう場所に、銃口を構えた。左手では、バットが棚の陰から出ないように、振り上げる。
 覆面男が姿を現した。視界に現れた青い覆面の中心に、リヴァが銃口の向きを修正した後に、男は自分の足元にリヴァがいることに気づいた。二人とも銃を持っていたが、敵に銃口を突きつけることができたのは、リヴァの方だけだった。
 男は誰もいない空間に向かって、真っ直ぐ銃を持った腕を突き出したまま、動きを止めた。
 リヴァは、笑顔で軽く首を傾げた。
「ハロー」
 バットを振り下ろした。男の頭がガクンと揺れ、白目に変わる。手に持っていた銃が、天井に向けて発砲した。
自分の方へと倒れてくる男の頭にバットを、もうひと振りし、向こう側に突き飛ばした。
赤い覆面と、リヴァの目が合った。
「このクソガキ」赤い覆面が走ってくる。
「慌てんなよ、ブラザー」
 リヴァはそう呟くと、また棚の陰に隠れ、カーゴパンツのポケットにあった、サイダーの入ったペットボトルを、思いきり振った。
 赤い覆面の男の吐いた靴が、床と擦れて高い音を立てた。
 銃を構えた男の目に映ったのは、蓋の開けられたペットボトル。吹き出すサイダー。目を覆った男の腹に、リヴァがバットを打ち込む。
 リヴァは頭の中でカウントした。ワン、ツー、スリー。
 男の体が、くの字に折れ曲がった。さらに、男の頭にバットを振った。男は、気絶して床に倒れた。
「俺の前で、はしゃぎ過ぎなんだよ」
 リヴァは店内を見回した。黒いジャージの少年の姿が、消えていた。
「野郎、逃げやがったな」
 よく見ると、サングラスの、目の見えない男の姿もない。
 カチャリ。
 リヴァの後頭部に、銃口が突きつけられた。
「あり?」
「武器を捨てて、こっちを向け。ゆっくりだ」
 リヴァは、言われた通りにした。銃を構えていたのは、サングラスの男だった。目が見えないはずの男。
「あれは、演技だったんだ」リヴァは言った。
「そう」
「趣味悪ぃ」
「趣味は悪い。だが、頭がいい」
 男は、ニヤリと笑った。


つづく
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ブログ小説 焔-HOMURA- scene9

●C・C・リヴァ

 リヴァは、銃底で殴られてバランスを崩し、床に手を突いた。
「立て」
 真っ黒い、大きなサングラスの男が、無表情のままで、そう言った。
「一応、仲間もやられたしな。お仕置きしとかなきゃな」
 言われた通りに立ち上がったリヴァは、またすぐに殴られて、床に尻餅を突いた。
 ツいてねぇな。リヴァはまた、サングラスの男に言われて立ち上がる。やっぱり、トラブルは見て見ぬ振りが一番だ。
 何度殴られ、何度立ち上がったのか。数えるのが面倒くさい。リヴァが、そう思ったときだった。
 リヴァは、思わず声を上げそうになった。
 サングラスの男の後ろに、逃げたと思っていた、黒いジャージの少年がいた。
 いつの間に、そこに現れたのか。リヴァには、全く分からなかった。音も、気配もなかった。だが、確かに、少年はいる。
 男は、数十センチと離れていない少年に、気づいていなかった。
 少年は、眠たそうな目で、リヴァのことを見ていた。
 男がまた、銃でリヴァを殴ろうとして、手を振り上げたときだった。
 少年の体が、音もなく軽やかに、宙に舞った。男の腕に、自らの体を絡みつける。
 腕ひしぎ逆十字。一瞬で決まった。
 男が少年に気づくのと、男の腕がゴキンと音を立てたのが、同時だった。銃が、少年の手に渡る。
「このガキ!返せ!!」
 男が伸ばした手を、少年は柔らかい身のこなしで、バック転をしてかわす。少年の体は非常に柔軟で、体操選手のようだった。
 男から離れた少年は、銃からマガジンを抜き出し、さらに銃身に入っていた一発の銃弾を、中から弾き出した。
「くっ」
 男が歯軋りをする。
 リヴァは、散々殴られた頭を撫でながら、床からバットと、殴られたせいで落ちていたサングラスを拾った。
 バットの先を肩に乗せると、サングラスをかけ直す。オレンジ色のレンズに、ひびが走っていた。
「お気に入りだったのによ。こりゃ、お仕置きしとかなきゃだな。ええ?」
 リヴァは大きな笑顔を浮かべてそう言うと、少しだけ血の混じった唾を、床に吐いた。


つづく
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ブログ小説 焔-HOMURA- scene10

●C・C・リヴァ

 意識を取り戻したダンクが、殴られた分を、何十倍にもして、コンビニ強盗に返していた。
 リヴァは、ダンクがコンビニ強盗を殺してしまわないように見張ってろと告げて、バーバーをダンクの側に残した。
 リヴァは、コンビニの外に出た。
 コンビニの前で、黒いジャージの少年が、万引きしたおにぎりを食べていた。リヴァは、少年に缶ジュースを投げ渡した。
「店長が、助けてくれた礼だとよ。ショボい礼だぜ」
 少年は肩をすくめると、缶ジュースを開けて飲み始めた。
「俺からも、礼を言うよ」
 リヴァは、手を差し出して、少年と握手した。
「C・C・リヴァだ」
「風際慶慎」
「風際?お前、もしかして……」
「ボスの、風際秀二郎の孫だよ。一応」
「へえ。随分、いいご身分なんじゃねえか」
「そうでもないよ」
「俺らはまだ、この街に来たばっかでさ」リヴァは、煙草をくわえながら言った。骸骨が彫られたジッポで火をつける。「どっかの組織に拾ってもらおうと思ってる。これも何かの縁だ。お前のじいちゃんに、俺たちを紹介してくれよ」
「そんなの無理だよ」
「可愛い孫のお願いなら、何とかなるだろ。ケイ……なんだっけ?」
 慶慎は、リヴァの吐いた煙に、顔をしかめた。
「慶慎。僕は、可愛い孫なんかじゃ、ないよ」
「ちっ、なんだよ。ケチくせぇな。にしても、覚えづらい名前だ。言われないか?お前、あだ名とかないのかよ」
 慶慎は、煙草の煙を吸って、咳き込んだ。リヴァは、笑った。
「煙草が苦手かい」
「喘息なんだ」
「何だよ、それ?病気か?」
「知らないなら、いい」
「スモーカーにしようぜ」
「何が」
「お前の名前さ。俺は人の名前を覚えるのが苦手でさ。何か、こじつけないと、頭に入らねぇんだ。仲間のダンクはバスケがうまいし、バーバーは床屋の息子だ」
「煙草は苦手だ」
「お前はスモーカー。これ決定」
 慶慎は、おにぎりを頬張った。
「C・C・リヴァも、何かにこじつけた名前なのかい?」
「C・Cは、こいつだ」
 リヴァは、両手の甲に刻まれた、アルファベットの「C」の入れ墨を、慶慎に見せた。
 ダンクとバーバーが、コンビニの入り口に立っていた。それを見て、リヴァも立ち上がった。
 慶慎が言った。
「リヴァは?」
「俺は、川で生まれたのさ。じゃあな、スモーカー。俺らは行く」
「またね、C・C・リヴァ」
 慶慎は、手を振った。


つづく
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ブログ小説 焔-HOMURA- scene11

●高田 清一(たかだ せいいち)

 高田は、静かに唾を飲んだ。彼の前に立つと、やはり緊張感は抑えきれない。
 風際秀二郎は、体にぴったりとした、オーダーメイドのダークスーツを着ていた。部屋に煙草のにおいは、全くしなかった。風際秀二郎は、煙草を吸わない。彼は、ただ静かに、重々しい木で作られた机を、指でゆっくりと叩いていた。
 風際秀二郎の隣で、彼の右腕とされている、秘書のような存在。カナコ・ローディンが、高田と越智の二人が、ルシオから取り返してきた銃火器の数と、種類をチェックしていた。
 カナコは、赤毛を男の子のように短いショートヘアにしていて、スラッとした体つきをしている。タイトなスカートから覗く脚は長く、引き締まっている。身長は、百八十センチ近くもあった。高田よりも、十センチ近く高い。
 カナコが顔を上げて、風際秀二郎を見た。両耳から長くぶら下がっている、ターコイズをあしらったピアスが揺れた。
「全て、あります」
「ご苦労だったな、高田」
「いえ」
「ルシオ一派に対しては、どういった対応をしたのですか?」
 カナコが言った。
「向こうに合わせたよ」
「合わせた、とは?」
「少々、暴力的な解決法さ、カナコ」
「ミス・ローディン。いつも、そう呼んでほしいと、お願いしているはずですが?」
「失礼、ミス・ローディン。先方に合わせて、少々暴力的な手段を用いて、解決いたしました」
 風際秀二郎が言った。
「越智がやったんだな」
「そうです。そこに積まれている銃火器を相手に、いつものように投げナイフだけで。彼の力には、いつも驚かされるばかりです」
「その本人は、どうした」
「たぶん、今頃、女でも抱いているんでしょう。殺しをやった後は、いつもそうだ。古いタイプの男です」
「分かっている」
 風際秀二郎が、重々しく頷いた。カナコが、咳払いをした。
「ミスタ・高田。今の言葉を撤回してください」
 高田は、眉を寄せて、カナコを見た。
「どの言葉でしょう」
「女でも、と言ったことです。女性が、物のような言い方だわ」
「失礼、ミス・ローディン。そんなつもりはなかった」
 高田はもっと、カナコに挑発的な態度を取って、口喧嘩を挑んでもよかったが、やめた。風際秀二郎は、それを好まない。
 高田は喉をさすりながら、軽い咳払いをして、声を整えた。風際秀二郎が言った。
「ところで、私の孫はどうしてる」


つづく
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2006年09月07日

ブログ小説 焔-HOMURA- scene12

●高田 清一(たかだ せいいち)

「私の孫は、どうしてる」
「風際慶慎のことですね」
「それ以外に、誰がいる?」
「すみません。越智から話を聞く限り、訓練は順調に進んでいるようですが」
「そうか」
 風際秀二郎の言葉が途切れた後、少し、重苦しい沈黙が訪れた。高田は、また少し緊張しながら、口を開いた。
「それにしても、運がよかった、とでも言うのでしょうか。サーカスから拾って来た子供が、ボスのお孫さんだったとは」
「私も正直なところ、まだ信じられんのだ。現実味があるのは、息子の文永くらいまでのものだ」
「しかも、お孫さんには、どうやら素質がある」
「たとえ孫でも、力のない者は、カザギワには必要ない」
「冷たい方だ、あなたは」
「今は、余計な人員を引き入れている余裕などない。少数精鋭。それが、カザギワに必要なことだ」
「はい」
「それにしても、越智から慶慎についての報告が、なかなか聞くことができないな」
「はい」
「もしもお前が、越智に会う機会があれば、言っておいてくれ。孫の教育は、どうなっているのか、と」
「分かりました」
 風際秀二郎は、机の上に両肘を突いて、掌を組み、その上に顎を乗せた。また、ニヤリと口元を緩める。
「楽しみでは、あるのだ」風際秀二郎は言った。「芸術家とまで呼ばれる越智に、才能を見出された子供だ。それに、もし使えるようになれば、カザギワ最年少の殺し屋になる」
 高田は、風際秀二郎の言葉に、大きく頷きながら言った。
「もしかすると、銀雹を超える芸術家が、生まれるかもしれませんよ」
「それは言い過ぎだよ、高田」風際秀二郎は言った。「越智はな、人間であって、人間ではない。あれを超える人間が、この世にいるようには、思えない」


つづく
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ブログ小説 焔-HOMURA- scene13

●越智 彰治(おち しょうじ)/銀雹(ぎんひょう)

 越智は裸で、ベッドに横たわっていた。胸には、汗が浮かんでいる。呼吸が荒い。
 越智の隣には、サラが、彼と同じように裸で、座っていた。彼女の体も汗で光ってはいるが、呼吸は静かだ。
 サラはすぼめた厚ぼったい唇から、煙草の煙を吐き出しながら、越智を見下ろした。
「ヘバるのが早いわ」
 そう言って、サラはふふんと笑う。
「これでも、かなり頑張った方だ」越智は言った。
「あなたって、確か、芸術家なんて呼ばれてるんじゃなかったっけ?」
「一部の人間には」
 越智の言葉を聞いて、サラは肩をすくめる。
「オーケー。とにかく、わたしから見て、あなたはイマジネーションが足りないと思うわ」
「君は娼婦として、客への配慮が足りないと思う」
「あら、失礼。長年、相手をしたげてるのに、全く上達する気配がないものだから、つい本音が出てしまったの」
「ひどいな」
「一つ、聞いてもいい?」
「どうして上達しないか?」
「それも気になるけど。そうじゃなくて、どうして人を殺した後に、セックスしたくなるのかってこと」
 サラが、視線だけを動かして、灰皿を探した。越智はベッドのすぐ側にあったテーブルの上から、サラに灰皿を取ってやった。
「ね、どうして?」
 越智は肩をすくめた。
「たぶん、懺悔のようなものだ」
「個室で、神父相手に告白するヤツ?」
「そうだ。それで、罪を許してもらう」
「主は汝を許したもうた?」
「そうだ」
「わたしたちが言うのは、満足した?∞よかった?∞お金ちょうだい∞延長するなら、あといくら必要よ≠ニか、それくらいだわ」
「言葉の問題じゃないんだと思う」
「それに、確かに罪を……どんな人間を殺したのか、とか告白する場合もあるけど、しない場合も多い」
「だから、言葉の問題じゃないんだ」
 サラは、浮世絵のようなイラストの描かれた箱から取り出したマッチで、新しい煙草に火をつけていた。
「人を殺して来たのにも関わらず、何も言わずに受け入れてくれるだけで、全てが許された気になるんだ」
「受け入れる?」
「ああ」
「股を開く?」
「少々、直接的過ぎるような気がするが、そうだ」
「たとえ、それが幻でも」
「そうだ」
「驚いたわね。誰にでも股を広げる売女が、神父か神様ってわけ?」
「体の中で、命を作ることができるのは、君たちだけさ」
「そして、その命を、男たちが破壊する。バン、バン、バン」
「考えてみれば、ひどい世界だ」
「議論の余地もなく、この世はくそったれよ」
「あんまり、汚い言葉を使うべきじゃないよ」
「例の男の子も、命を破壊する側に回るの?」
「そうだ」越智は言った。「そうならなければ、彼が壊される」


つづく
posted by 城 一 at 03:00| 長編小説 焔-HOMURA- | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブログ小説 焔-HOMURA- scene14

●越智 彰治(おち しょうじ)/銀雹(ぎんひょう)

「彼の……慶慎の父親は、誰が見てもくそ野郎だ」
 越智の呼吸は、今では落ち着いていた。サラは、長く伸ばしたプラチナブロンドの髪の毛先を、煙草を持っていない方の指先に絡めて、弄んでいた。
「カザギワの、ボスの息子でしょう?そんな暴言、吐いていいの?」
「告げ口でも、するかい?」
「まさか。でも、そのくそ野郎の元に、彼がやって来る理由を作ったのは、あなたなんでしょう?あなたが、彼をサーカスで見つけた。それで……命を破壊する才能?ってのを、見出した」
「そういうことになってる」
「違うの?」
「風際文永が、突然息子を見つけたと言って、俺をサーカスに連れて行った。そして、金を積んで、強引に慶慎を引き取って来た」
「あくまでも、風際文永が」
「そうだ。慶慎は、サーカスでナイフ投げをやっていた。だから、ナイフさばきが良かったが、カザギワで殺し屋を名乗れるほどの才能は、感じなかった」
「普通の子だったのね。ただ、ナイフが上手な」
「だが、文永は慶慎を連れ帰ると、すぐに虐待を始めた。しかも、かなりひどく。彼は前にも……そのときは実の子ではなかったが、虐待をしてる。そして、度が過ぎて、その子を殺してしまっている。内臓破裂で」
「ということは、何?あなた、その子を助けるために、嘘をついたの?」
「仮にも、カザギワにいる殺し屋の中でトップと言われてる俺が、才能があると言えば、風際秀二郎は慶慎のことを無視できなくなる。彼の力を見てみたくなる。慶慎のことは、文永だけの問題ではなくなる。そうなれば、文永の虐待に、ある程度ブレーキをかけられる。そう思ったんだ」
「それは、成功したの?」
「ある程度」
「あなたが才能があると言ったお陰で、その子は望む望まないに関わらず、人を殺さなければならない」
「彼自身が死ぬよりは、マシだと思ったんだ」
「それは、彼が決めることだわ」
「何にせよ、文永に捕まった時点で、彼の自由は、ほとんど奪われてしまったようなものだ。風際文永は、慶慎に、一人で生きる方法を教えたり、力を与えたりはしない。慶慎は、いつまで経っても、自立できない。風際文永の側に留まるしかない。結果、どうなると思う?遅かれ早かれ、彼は風際文永の下で、命を失う」
「でも、あなたの下で殺し屋としての力をつけることで、自立することができる?」
「そうだ」
「どうして急に、そんな気まぐれを起こしたの?」
 サラは、新しい煙草に火をつけようと、またマッチを取り出した。
「俺たちの子が生きていれば、今頃、ちょうど彼くらいの年だと思った」
 サラはマッチを擦るのに失敗し、折ってしまった。悪態をついて、折れたマッチを灰皿に捨てた。
「随分と、感傷的な殺し屋なのね、あなた」
「否定はしないよ」


つづく
posted by 城 一 at 06:00| 長編小説 焔-HOMURA- | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブログ小説 焔-HOMURA- scene15

●狩内 蓮(かりうち れん)

 西部劇に出てくるような、古びた酒場。昼間から、酒で顔を赤らめた男たち。酒場の中に、いくつもある円テーブルの一つに、人だかりができていた。ジョッキに注いだビールを手にした男たちが、罵声や歓声を上げている。
 中年の男が、カードを放った。
「フラッシュ」
 若い男が、軽く折れ曲がった煙草を、噛むようにしてくわえたまま、掌で額を叩いた。
「フラッシュだと!この、くそったれめ!」
 中年の男が、自らの勝利を確信して、ガハハッと笑った。
「調子に乗り過ぎなんだよ、蓮。思い知ったか、馬鹿」
 蓮が、額を叩いた掌の下で、ニヤリと微笑んだ。
「馬鹿?どっちがだ、ボブ?」
 カードがテーブルの上を滑る。蓮は、両手でテーブルを思いきり叩いた。
「ストレート・フラッシュだよ、馬鹿野郎!俺の総取りだな」
 蓮は素早い手つきで、手元にあったビールを取り、テーブルの中央にあった、くしゃくしゃの札束の山を取った。
「くそったれ!」
 ボブは、テーブルを持ち上げて、引っくり返してしまった。
 さらに、周囲から罵声が飛ぶ。
「イカサマやってんだろうが、蓮!」
「てめぇ、勝ち過ぎなんだよ!少しは自重しやがれ!!」
 蓮は、全く気にせずに、ビールを一気に飲み干した。
「そう思うんだったら、証拠でも提出してくださいな」
 蓮は、ウエイトレスを呼ぶと、彼女の尻を撫でた。彼女が睨むのも気にせず、お代わりを注文する。
「冗談じゃねぇや。今度は俺と……」
 蓮の相手に名乗りを上げようとした男を押しのけて、女が現れた。
「ちょっと、待ってくれないかしら」
 スラリとした体の女は、綺麗な刺繍の入った、赤いチャイナドレスを着ている。薄汚れた酒場の中で、彼女だけが、明らかに浮いていた。女を見て、男たちの間から、声が上がる。
「いい女だ、見ない顔だな。チャイニーズかい?」蓮は言った。
「日本人よ。奈々恵と呼んで」
「チャイナドレスが似合う。中国女みたいだ」
 蓮は、ボブが先ほど引っくり返したテーブルを、元に戻しながら、そう言った。
「わたし、ポーカーをやりたいの」
「いいぜ、お嬢さん。座りな」
 言われた通りに、奈々恵は椅子に座った。脚を組む。下着が、見えそうで見えない。蓮は、口笛を吹いて、言った。
「やあやあ、こいつは目に毒だな」
「でも、お金がないの」奈々恵が言った。
「そいつは困ったことだな」
「わたしの体は、賭けに見合うと思う?」
 蓮は、奈々恵の言葉を聞いて、片眉を上げた。
「どういうことかな、お嬢さん。俺にはあんたが……」
「負けたら、服を脱ぐ。それで、賭け金に見合うかしら」
 蓮は舌なめずりをして、ニヤリと微笑むと、カードを取った。
「上等だ、ベイビ」蓮は言った。「賭け金に見合うよ。釣りが出るくらいだ」


つづく
posted by 城 一 at 09:00| 長編小説 焔-HOMURA- | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブログ小説 焔-HOMURA- scene16

●C・C・リヴァ

 バーバーが、古びた酒場のカウンターで、バーテンに話しかけた。
「すいません、この辺で狩内蓮って人を探してるんですけど」
「蓮なら、あそこにいる」
 バーテンの指差した先には、人だかりがあった。
「外野が邪魔で見えないだろうが、あそこの真ん中で、チャイナドレスの女と、ポーカーをやってる」
 礼を言うと、バーバーは、ダンク、リヴァの二人と共に、野次馬をかき分けて、テーブルが見える所まで行った。バーテンの言った通り、チャイナドレスの若い女と、男がポーカーをやっていた。
 蓮は、スポーツ刈りに近いくらいの短い髪の頭を掻きむしり、煙草をテーブルに押しつけて火を消した。自分の手元のカードを、食い入るように見つめている。
 チャイナドレスの女は、手に持ったカードで、余裕たっぷりな様子で、蓮のことを眺めていた。
 蓮は、野次の中、自分のカードを見て、歯を食いしばっていた。
 リヴァが言った。
「バーバー。ほんとにあいつが、ツガ組の幹部なのか?」
「だって、バーテンが言ってたもん」
 蓮はくしゃみをした。
 それもそのはず。蓮は今や半裸で、身につけているものと言えば、白とピンクの水玉模様のボクサーパンツだけだった。
 リヴァは蓮を見て言った。
「あいつ、パンツ一枚だけど」
「そうだね」
「そうだね、じゃねえよ。ちょっと、あいつ本気でツガ組なの?」
「だって顔とか、聞いた通りだし」
「すっげぇいい女だな」
 ダンクが、チャイナドレスの女を見て言った。リヴァがダンクを睨んだ。
「黙ってろ、ダンク。俺、あんなヤツの下で働くの、マジで嫌なんだけど」
「そんなこと言われても」バーバーは、ぽりぽりと頬を掻いた。
 蓮が、カードを放った。
「フルハウス」
 女がフッと笑ってカードを置き、テーブルの上で広げる。
「ロイヤル・ストレート・フラッシュ」
 蓮は、テーブルやら椅子やらを、全て引っくり返した。
 ダンクが言った。
「あの女、イカサマやってんのか、リヴァ?」
「やってる。じゃなきゃ、ロイヤル・ストレート・フラッシュなんて、出るかよ。手癖の悪い女だぜ。蓮もやってるけど、食われてるな」
 ひとしきり暴れ終わると、蓮は笑って言った。
「負けたよ、奈々恵。金も俺の持ち物も、全部あんたのもんだ」
 宙に、水玉のパンツが、ひらりと舞った。全裸になった蓮が、仁王立ちしていた。
「俺、頭痛くなってきた」
 リヴァが、言った。


つづく
posted by 城 一 at 12:00| 長編小説 焔-HOMURA- | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブログ小説 焔-HOMURA- scene17

●狩内 蓮(かりうち れん)

 周囲にいた男たちが、テーブルや椅子を元に戻していた。奈々恵も、床に散ったカードを拾っている。
 蓮は、彼女に取り上げられたジーパンに、手をかけた。奈々恵が蓮を見た。蓮は、気にすることなく、ジーパンを履く。
「借りるだけだ。俺が全裸で外を歩いて、おまわりに捕まっていいのか?それとも、俺のモノを、もっと鑑賞していたい?」
 奈々恵は肩をすくめると、蓮を見つめたまま、集め終わったカードでテーブルを、コツンと叩いた。
「最後にもう一度、勝負しない?」
 蓮が、大袈裟に、両手を広げた。
「もう賭けるものがない」
 奈々恵は、蓮を見つめたままだ。蓮は素足にジーパン、上半身は全く裸の状態で、参った、と言うように、両手を挙げた。
「これ以上、何にも取りようがないだろ」
 奈々恵がカードを一枚取って、蓮のいる方向へ滑らせて、言った。
「それを賭けて」
 蓮は、カードを取り上げて、見た。
「ハートのエース」
「そう」
 蓮は、首を傾げた。
「つまり?」
「ハートは、心臓」奈々恵は蓮を見ながら、ゆっくりと唇を動かして、続けた。甘く、囁くように。「つまり、あなたの命を賭けてほしいの」
 奈々恵の言葉を合図に、店の中に、十人近い男たちが、突然入って来た。全員、それぞれに銃火器を持っている。銃口は全て、蓮へと向けられていた。
 蓮は、奈々恵を見たまま、自分がいつも持ち歩いている、銃を探した。奈々恵の手元を見て、その所在を思い出した。
 奈々恵の持っている銃、それこそが、蓮の探し物だった。奈々恵は、それで、蓮の左胸に狙いを定めていた。
 ポーカーを観戦していた野次馬たちは、店に突然入って来た男たちに尻込みして、後ずさりしている。三人の少年たちだけが、蓮と奈々恵の側から、離れようとしない。
 蓮は、奈々恵から視線を外さずに、言った。
「がき共、どうやらお遊びの時間は終わりみたいだ」
 金属バットを持った少年が、言った。
「分かってる」
 奈々恵が言った。
「知り合い?」
「いや。ただの、暇なませがき共だ」
「そう」奈々恵は言った。「で、どうするの」
「煙草、くれないか」
 奈々恵は、蓮を見た。そして、蓮から取り上げた煙草を取り出し、中に武器の類が仕掛けられていないかどうか、確かめてから、蓮に投げ渡した。蓮が煙草をくわえると、奈々恵が、自分のライターで火をつける。
 一服して、蓮は言った。
「やろう」
 蓮はテーブルの上、奈々恵に向けて、音もなくハートのエースを滑らせた。


つづく
posted by 城 一 at 15:00| 長編小説 焔-HOMURA- | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブログ小説 焔-HOMURA- scene18

●奈々恵(ななえ)

 馬鹿な男だ。
 奈々恵は、汗を拭いながら、カードに見入っている蓮を見た。
 既に、勝負はついているようなものだった。
 奈々恵は、チャイナドレスのスリットの部分の乱れを直す振りをしながら、手札を、スリットの奥、下着の脇に挟めたカードを取り替えて、自在にポーカーの役を作っていた。
 ハートの、ロイヤル・ストレート・フラッシュ。
 この男は、イカサマを疑う頭もないのだろうか。奈々恵は思った。
 蓮が、あまりにも彼女のことを疑わないので、役の調節もせず、奈々恵はずっと、同じロイヤル・ストレート・フラッシュの役を揃えていた。
 狩内蓮。二十代前半。ツガ組の幹部の中では、最年少だ。もう少し、骨のある男だと思っていたのに。
 案外、ツガ組も、長い年月のうちに、腐ってしまったのかもしれない。
 蓮は目つきを変えて、奈々恵を見た。
「いいの?」
「ああ」
 くだらない勝負も、もう終わりだ。いや。最初から勝敗が分かっているのだから、勝負とも言えないのかもしれない。
 蓮は、奈々恵がテーブルの上に並べた、ハートのロイヤル・ストレート・フラッシュを見て、低く唸った。
「ゲーム・オーバーね、狩内蓮」

●狩内 蓮(かりうち れん)

 駄目だ。蓮は思った。
 テーブルの上、奈々恵のロイヤル・ストレート・フラッシュと並ぶ、自分のスリー・カードという、手役にではない。
 マスターの手が、カウンターの下に隠れて、動いていることだ。カウンターの下には、マスターが護身用に備えて置いた拳銃があった。
 自分のことを助けようとしているのだ。しかし、そのマスターの動きに、奈々恵が呼び寄せた男たちの一人もまた、気づいていた。
 奈々恵も、だ。
 拳銃一丁で、八人を倒せるわけがないのだ。
 どうなるのか、楽しそうな表情を浮かべながら、彼女は言った。
「ゲーム・オーバーね、蓮」
 奈々恵の言葉と同時だった。銃声が、酒場の中に響いた。ウエイトレスの悲鳴。
 奈々恵の後ろにいる男たちは、一人も欠けず、ニヤニヤしながら、無事に立っていた。
 マスターの姿は、カウンターの後ろに消えて、もう見えない。
「てめえ」
 奈々恵は、楽しそうに、首を傾げて、蓮を見る。
「もっと、やってあげましょうか?」
「やめろ」
 奈々恵が、片手を挙げた。銃声が、酒場を揺らした。


つづく
posted by 城 一 at 18:00| 長編小説 焔-HOMURA- | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブログ小説 焔-HOMURA- scene19

●C・C・リヴァ

 あらら。リヴァは心の中で呟いた。
 バーの中で生き残っているのは、リヴァ、ダンク、バーバーの三人。それに蓮、ウエイトレスに、運良く物陰にいたことで助かった、床で頭を抱えている男、一人だけだった。他は全員、死んだ。
 床で頭を抱えている男は、大きく腹が出ていて、どこかのNBAのチームの、黄色いユニフォームを着ている。奈々恵とかいう女の仲間たちに怯えているのは、演技だ。リヴァには、雰囲気で分かった。
 リヴァには、怯えどころか、殺気さえ、その男から感じた。
 蓮が、かすれた声で言った。
「殺す」
「丸腰で?」
 奈々恵が笑った。
「ジョーカーを出せ」蓮が言った。
 奈々恵はもはや、呆れた顔で言った。
「わたしたち、ジョーカーは入れていないでしょう?」
「ジョーカーを出せっつってんだ。聞こえねえのか!」
 蓮が怒鳴った。リヴァの視界の端で、NBAの男が動いた。
 蓮の言うジョーカーが、宙を舞った。手榴弾。ピンは既に、外されていた。
 この狭い酒場の中で、手榴弾を使うなんて、正気の沙汰じゃねえ。リヴァは声を張り上げた。
「ダンク!」
 リヴァと一緒に、ダンクがバーバーの袖を鷲摑みにして引き寄せながら、後ろに飛んだ。バーバーのフォローをするのは、大抵、ダンクの役目だった。三人で体当たりして、側にあった窓を割る。外へ。
「嘘」
 奈々恵の呟き。
 コツン。ジョーカーが、テーブルをノックした。
 爆音。
 外へ転がり出したリヴァたちの上に、たくさんの木とガラスの破片が、降り注いだ。

●狩内 蓮(かりうち れん)

 蓮は深く、ゆっくりと、息を吐いた。
 痛む額に手をやると、ぬるっという感触がした。血だ。体中を駆け巡る激痛に耐えながら、蓮は床を這った。まだ、はっきりとは分からないが、肋骨の辺りが何本か折れているだろう。
 床に当てた手に、何かが触れた。奈々恵に取り上げられた、蓮の銃だった。手に取ろうとしたが、銃声がして、それは弾き飛ばされてしまった。
 少し離れた所にあった、手榴弾の爆発によって死亡した者たちの山の下から、生き残った男二人が現れた。その間から、奈々恵。爆発で、チャイナドレスが所々、破れていた。左腕が出血で真紅に染まり、ぶらりと垂れ下がっている。奈々恵の表情は怒りに満ちていた。
「イカサマひとつ見抜けないくせに、やってくれたわね」
 蓮は、軽く笑った。奈々恵が銃底で、蓮の頭を殴った。蓮は、床に突っ伏した。
「しかし、ツガ組の幹部、白虎の狩内蓮も、そうなっては、無様なだけね」
「そうかい。俺から見りゃ、自分のパンティの脇にカード挟めてる方が、無様に見えるがね。ベッドで彼氏に笑われるぜ。いるかは知らないが」
 奈々恵は、ぴたりと動くのをやめて、蓮を見た。蓮は、くっくっと喉の奥で笑っていた。
「他に五人、部下を隠してるのを、まだ俺に気づかれてないと思ってるのもな」
「お前」
「生き残った男、右は白石、左は木元だったかな?合ってるかい、三浦奈々恵」
 奈々恵は、愕然とした表情で、蓮のことを見ていた。
「驚いた?俺が、何で飯食ってると思ってる、ビッチ」蓮は、自分のこめかみを指で突いた。「ここだよ、このくそあま」
 奈々恵は、何かを払うようにして、手を胸の前で振った。
「殺れ」
 命令に従おうとした白石と木元は、銃声の後に、倒れた。ポールは、銃口を、今度は奈々恵に向ける。蓮は言った。
「てめえらの縄張りで、おとなしくやってりゃいいものを、ちょっと調子こいちまったなあ、ミカドの下っ端が」
 奈々恵はニヤリとしながら、首を振った。
「あなたが言ったことよ。わたしには、まだ、部下がいること」
「そうだ。で、俺が言ったってことは、どういうことだ?」
 二人は同時に片手を天井へ向けて、掲げた。
 部下が現れたのは、蓮の後ろだけだった。
「詰みだ。お嬢さん」


つづく
posted by 城 一 at 21:00| 長編小説 焔-HOMURA- | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年09月08日

ブログ小説 焔-HOMURA- scene20

●狩内 蓮(かりうち れん)/白虎(びゃっこ)

奈々恵の手から、銃が床に落ちた。蓮の部下たちから銃を突きつけられ、観念したのだ。両手を挙げる。
「前言撤回。さすが、ツガ組幹部、白虎と言ったところね」
 蓮は奈々恵の落とした銃を拾い、その銃口を彼女の額に突きつけた。奈々恵の表情が一変する。
「何を驚いてる。俺たちはおまわりじゃないんだぜ。黙秘権うんぬんを口ずさんだりはしねえ」
「くっ」
 奈々恵は唇を噛んだ。
「それとも、狩内蓮は女好き。だから、自分は殺されない。そう思ったか?」
「当てが外れたようね」
「そんなことはないさ」
 蓮は、銃口を奈々恵の額から外し、天井に向けた。大きく息をつく奈々恵。だが、蓮の手元で銃はくるりと方向を変え、奈々恵の方へと回った。
 乾いた音がして、奈々恵の体が揺れた。小さな穴が、奈々恵の左胸に空いていた。
「だが、平気な顔で、何もしていない一般人を巻き込んで殺すような女は、例外だ」
 奈々恵の体が、ゆっくりと床に倒れる。
「残念なことだな、いい女」
 奈々恵の死体を見下ろす蓮の肩に、部下の一人、佐々岡が、真っ白いジャケットを掛けた。ジャケットの黒い裏地には、派手な白い虎の刺繍が入っていた。
 それが、ツガ組幹部である狩内蓮、通称白虎≠フ証だった。
 だが、不機嫌そうに蓮はそれを振り払った。
「蓮さん……」
 蓮は、口を開きかけた佐々岡を、振り向きざまに殴り飛ばした。他の部下のことも、次々と殴っていく。
 ポールだけは殴られることなく、ただ黙って立ちながら、その様子を眺めていた。
 部下全員を殴り終わり、少しだけ息を切らしながら、蓮は怒鳴った。
「てめえらがちんたらやってたせいで、関係ない連中がたくさん死んだ!」
 部下たちは背筋を伸ばし、真っ直ぐに姿勢を正した後、頭を下げた。
「すいませんでした!」
「ミカドの下っ端のくず共を片づけるのに、なぜこんなに手間取った!」
「予想していたよりも、数が多く……」
「言い訳してんじゃねえぞ、ぼけ!」
 蓮は、また佐々岡を殴った。蓮自身、八つ当たりの感情が混じっているのは、分かっていた。しかし、関係のない者たちを巻き込んでしまったことは、自分も含めて、許せなかった。
 誰か、俺を殴れ。蓮は思った。
 部下である彼らが、自分のことを殴るのは、命令しても、あり得ない。それは分かっていた。蓮はひたすら、拳を握った。爪がその内側に食い込み、血を滲ませていた。


つづく
posted by 城 一 at 00:00| 長編小説 焔-HOMURA- | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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